ゼウスとヘラの最後の眷属がダンジョンに舞い戻るのは間違っているだろうか


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作:ヒーラー
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3 襲撃


 僕が冒険者になって10日も経っていない。だというのに僕の所属するファミリアでは大規模作戦を執り行うという。しかもその作戦の中核に僕も組み込まれていた。

 何でも相手は僕達の主神であるフレイヤ様と同じ美の女神様で、フレイヤ様に嫉妬して闇派閥と繋がって資金援助などをしているらしい。だから倒さないと闇派閥がずっと活動を続けて民衆が苦しむと聞いている。そのために僕達は歓楽街へ攻め込む。

 僕が配属された部隊は相手の主戦力たるアマゾネス達を撹乱することらしい。僕はまだレベル1だからそこまで戦えないだろうけど、歓楽街にはお客として来ている人と、無理矢理働かされている人もいるからその人達を助けることが僕の役目だ。

 何人かと一緒に部隊を組んで、別々に歓楽街へ入っていく。本隊は決定的な証拠を奪いに行って、その証拠が見付かったら花火を上げるらしい。それまでに僕達はお客さんとして遊びに来たと思わせないといけない。男の神様も多く、冒険者みたいな人も多い。

 そして接客というか客引きをしている人達の露出が多くて目のやり場に困る。

 もっと()()()()()を知っているから目を惹かれたりはしないけど、正直恥ずかしいという気持ちがある。歓楽街なんて来たくなかったなぁ。フィリオさん達はダンジョンでやることがあるって言ってダンジョンに潜っていったし。

 どうやって時間を潰そうか。同じファミリアの人がお店の中に入ることはないだろうし。

 

「ん。騒がしくなってきたな」

「え?何か聞こえました?」

「アマゾネス達の姿が減り始めた。潜入部隊の存在がバレたんだろう。動くぞ、ベル」

「了解です」

 

 獣人の先輩の後を追う。するとファミリアのホームと思われる宮殿の方から火の手が上がる。本格的に侵攻作戦が始まったんだ。花火は上げられなかったんだろうけど、ここまでくれば変わらない。他の場所でも鎮圧行動が起きる。関係ない客達は一斉に逃げていく。

 一部の神様や冒険者は僕達に見覚えがあったのか、この行動を起こしたのが誰か察したようだ。

 

「あれ、フレイヤ・ファミリアだろ⁉︎とうとう自分以外の美の女神の存在が気に食わなかったか⁉︎」

「逆ならわかるけど、何でフレイヤ側が攻めてんの⁉︎イシュタルが何かやらかしたか⁉︎」

「とにかくギルドに報告しろ!宣告のない戦争遊戯みたいなもんだぞ!」

「ああ〜!俺の女の子の城ガァ⁉︎」

「アンタのもんじゃないだろ!とにかくズラかるぞ!」

 

 一般人に被害を出すつもりがないからこそ、自主的に逃げてくれる存在には僕達は何も言わない。中心地に近くて逃げないような人を助けるのが僕達の仕事だ。

 それは早速つまづきそうだ。僕達の前にアマゾネスが三人、現れる。

 

「フレイヤ・ファミリアぁ……!よくもあたしらの顔に泥を塗ってくれたねえ⁉︎」

「泥まみれのくせに何言ってんだ。退けよ、雑魚」

 

 先輩、雑魚って言ってますけどほとんどのアマゾネスはレベル3って言ってませんでしたか⁉︎先輩もレベル3なんでしょうけど僕達は二人、あっちは三人なのに!

 僕はレベル1だってわかってますか⁉︎そもそも戦う部隊じゃないって言ってたのに!

 

「いくぞ、ベル!こいつらを蹴散らす!」

「わかりましたよぉ!やるだけやります!」

 

 僕は剣を取り出す。先輩は槍を取り出す。向こうは太刀やらナックルを装備し始める。アマゾネスは近接系ばかりとは聞いていたけど、本当にそういう人しかいないのだろうか。

 僕は足手纏いにならないように一歩引いて状況を俯瞰する。先輩は三対一という状況も気にせず突っ込んでいった。フレイヤ・ファミリアでの団員同士による訓練では当たり前のことらしく、対等に渡り合っていた。

 三対一でどうにもできないからか、焦りで大振りが増えている。ここだと、僕は駆け出した。

 一人の背後に近寄って、背中へ剣を振るう。僕の存在を無視していたのか、ないものとして扱わなければならなかったのか、その一人はあっさりと僕の剣で斬れた。

 その不意打ちは想定していなかったのか、アマゾネスの人は驚愕の表情を浮かべながら鮮血を撒き散らす。

 

「てめえ、この!」

「バカが。目線を切るとか所詮はレベルだけか」

 

 先輩の槍が胸に突き刺さる。胸を一撃だ。槍が抜けるのと同時にそのアマゾネスはピクリとも動かなくなった。

 僕が殺したわけじゃない。

 でも、僕の一撃が要因になった。まだ、人を斬った感触が手に残っている。

 

「ベル。まだ戦いは続いてるぞ。こいつらは闇派閥だ。フレイヤ様に楯突く悪だ。今はそれで納得しろ。あのお方の納得する戦場以外で死ぬな」

「……はいっ!」

 

 先輩のその言葉に、剣を握り直す。

 そうだ、この人達は悪い人なんだ。この人達が稼いだお金が、いつか誰かを傷付ける。

 なら、そうなる前に倒さないと。

 そうして僕はあくまでサポートに徹して人を斬る。

 必要なことだと自分の心を殺し。

 誰も殺さず、けど傷付けて。

 何人のアマゾネスを斬ったことか。

 

 ──フレイヤ様。これは正しいこと、なんですよね?

 

 

 戦況はフレイヤ・ファミリアに大きく傾いていた。奇襲ということもあるが、最低限の守りを除いて団員のほぼ全てが投入されている。しかもいつも実戦を繰り返している彼らは同格に負けることはほぼない。

 例外があるとしたら、格上だけ。

 イシュタル・ファミリアには一人だけいるのだ。レベル5が。

 ぶくぶくに太り、ガマガエルのような容姿をしたとても人に見えないような女が。

 フリュネという【男殺し】の二つ名で呼ばれる、醜悪な団長が。

 

「ゲッヘッヘ。何だ、雑魚しかいないじゃないか!こんな時でもなければあたしの部屋に連れ込むんだけどねえ」

「「「お断りだ、このガマガエル!」」」

 

 フレイヤに信を置いている彼らからすればフリュネは害悪でしかない。一瞬でも視界に収めたくないが、倒すためには見なければならないという苦行。

 レベルが低いことはわかっているのでレベル4と3の数人でフリュネを抑える。一番の目的である闇派閥との癒着の証拠は既に回収してフレイヤとギルドに渡している。ギルドの沙汰が下る前に、他のファミリアの介入が来る前にイシュタル・ファミリアを壊滅するのが今回のミッションだ。

 大方の主力は倒し、残りはこのフリュネだけとなったところで膠着状態になる。

 その様子を一つの建物の屋根から、アーニャが見ていた。

 彼女は現在『豊穣の女主人』で働いているが、元フレイヤ・ファミリアだ。神の恩恵を封印されているわけでもなく、レベル4としての力を存分に揮える。だが彼女はあくまで元団員。積極的に動くつもりはなかった。

 彼女が頼まれたのは、ベルの護衛だ。

 一応完全武装で現役時代の防具を着て槍も持っている。いざという時に介入できるように俯瞰していた。

 

「にゃーんでフィリオはあの白髪頭を気にするんだニャア?レベル1なんて今回の作戦に加えなければよかったのに」

 

 アーニャはそう呟く。おそらくレベル3に突っ込み、何とか不意打ちを成功させたことは凄いと思うが、無謀でもあると思っていた。レベルが1違うとステータスに差がありすぎてほとんどの場合勝てない。アイテムを使うとか魔剣を用いるなどの方法でジャイアントキリングをする方法はあるものの、その方法はかなり少ない。

 そんな手段をベルが持っているかと言われたら、()()()()()()

 その存在をアーニャは知っていた。

 

「シルもシルだニャ。あの白髪頭に貴重な魔導書なんて与えて……。あれ、本当に客の忘れ物だったのかにゃ?」

 

 ベルとフィリオがダンジョンに一週間潜っていた後、彼らは『豊穣の女主人』に直行してきた。そしてご飯を食べている時にシルがベルへ魔導書を与えたのだ。せっかくだからと読んでみたらベルは魔導書の効果で気絶。その間にフィリオがアーニャへ依頼をしてきたのだ。

 彼女は兄共々、助けられてオラリオまで連れてきてもらったこともあってフィリオの頼みを断れない。ミアからも休んでいいと言われたので此れ幸いと依頼を受けたのだ。

 護衛対象のベルは今の所問題なし。格上との戦いを経験しているのは財産になる。そして怪我をする前にアーニャは介入しろと言われているし、もし怪我をしたとしてもフィリオから貰ったフィリオ特製の万能薬もある。

 過保護すぎると思うものの、口には出さずベルのことを見ていた。

 

「で?にゃにしてるにゃ、リュー」

「気付かれましたか。あんな物騒な話を聞いて私が見過ごせるとでも?」

「おみゃーも大変にゃ。元正義の味方なんて肩書きでこんな遊びの場に顔を出すにゃんて。ミアかーちゃんがよく許してくれたにゃ?」

「いえ、許可を取ってません。サボりました」

「……マジ?今日はシルもいないから大変だって言ってたのに。絶対ゲンコツにゃ」

 

 緑のローブで変装をしている同僚であり同じくレベル4のエルフ、リューが仕事をサボってきたことにほとほと呆れるアーニャ。ミアのゲンコツを一番受けているのは伊達ではないのだ。

 

「それよりもアーニャ。遊びの場とは何のことです?」

「兄様も含めて主力がいない。いくら数がいようと、幹部の誰かがいれば一瞬で決着がつく戦場なのに誰もいないのにゃ。つまりこれはレベルが低い団員を鍛えるための訓練場。しかも殺してもいいとなったらただのランクアップのための餌場にゃ。気にしなくちゃいけないのは場違いなほど弱い白髪頭だけ。それ以外は多分勝てる目算があるのにゃ」

「……それがフレイヤ・ファミリアですか」

「でもらしくないのも事実にゃ。正直フレイヤ様って神イシュタルなんて眼中になかったはず。潰す価値もないって考えてるかと思ったにゃ」

「ですが現実としてかのファミリアを攻めている」

 

 リューも『豊穣の女主人』にいたので歓楽街でベルを守ってくれという依頼を聞いている。歓楽街ということはイシュタル・ファミリアと戦うということだ。

 歓楽街という性質上後ろめたいことがありそうで、しかも多額の金銭が動く場所。

 怪しいことはあっても、踏み込む確固たる理由がないためにリューは昔攻め込むことができなかった。

 

「多分フィリオにゃ」

「彼が?元ゼウス・ファミリアとは聞きましたが、レベル3でしょう?」

「ハァ〜ア。リューってバカにゃ」

「あなたには言われたくない」

「そんな肩書きだけでフレイヤ様が重宝するわけないのにゃ。そもそも兄様が邪険にしていない時点でレベル7以上。回復術師だから確実には言えにゃいけど、間違いなく世界最強格の一人にゃ」

「あの人物が?」

 

 リューがフィリオを見たのは二度だけ。どちらも職場へ食事に来た時だけだ。ベルを連れてきてフレイヤ・ファミリアに入った人物。ベルのことを気にかけているが、それ以外に特徴のない人物だった。

 そんな男がレベル7以上。都市最強と目されると言われてもわからなかった。

 

「なぜレベルを偽っている?ギルドの公表ではレベル3だったはずだ。それにこの行動はあの人物が引き起こしたと?」

「さあ?知らないにゃ。ただ一つだけ、あの人は家族想いにゃ。五年前、最後の家族を失ったと知ったフィリオは大抗争の後にオラリオに来た時はそれはもう落ち込んでいた。ミアかーちゃんから詳しい話を聞いて、オラリオが変わるならってどうにか飲み込んで。またあたしのような存在を拾ってはフレイヤ様に預けて。そんでようやく帰ってきたと思ったらこの騒ぎにゃ。しかも方針もフレイヤ様っぽくない。となるとフィリオがフレイヤ様を焚きつけたのにゃ」

「家族……」

 

 リューも三年前、大事な家族を亡くした。主神だけは守れたがそれだけ。末っ子の自分だけが生き残り、ブラックリスト入りしたのに見逃されている。

 彼も同じなのだろうかと、リューが想いを馳せていると下で事態が動いていた。

 

「あの白髪頭!何をやろうとしているのにゃ⁉︎」

「『雷霆よ!それは天を指し示す一つの慟哭。天へ返すたった一つの道導。愛を受け、恋を知り、想いを告げよう。ちっぽけな火だろうと、ここに証明となせ!僕が灯となろう(僕はここにいる)!』──【雷帝が創りし歪な剣(ウェヌス・アルゴニスタ)】‼︎」

 

 魔法。エルフ特有の力かと思われていたが、神の恩恵が流布されてからどの種族でも才能があれば使うことができるようになった強大な力。

 ベルの詠唱の後、それはフリュネをも超える大剣となった。べルは無我夢中でそれを振り落とす。ベルを敵性戦力として認識していなかったフリュネは直撃を許す。

 だがフリュネはレベル5。ベルはレベル1で魔力のステータスも最低値。

 少しの間、体を痺れさせたがそれくらいしか影響はない一撃だった。見た目は凄かったが攻撃力が見た目と釣り合っていない。

 だが、その少しの時間があれば援軍が着くのは問題なかった。

 

「こんのバカタレ!レベル差をフィリオに教わらなかったのかにゃ⁉︎」

「あなたのそれは無謀と言ってもいい。だがその勇気を忘れないでほしい。それはいつかあなたの仲間を救うことでしょう」

 

 アーニャとリューというレベル4でも最上位の実力を持つ二人の参戦。いくらレベル5とは言えレベル4複数に囲まれて増援もなければジリ貧になっていく。

 他のファミリアの介入を避けるためにフレイヤ・ファミリアは短期決戦にしようとして焦りも出てしまい怪我人を出してしまったがイシュタル・ファミリアの壊滅に成功。

 ギルドに提出された情報に加えて、調べればまだまだ出てくる黒い証拠にはギルドとしてすぐにロキ・ファミリアへ調査依頼を出して闇派閥の掃討に向かわせた。この一斉検挙によって人工迷宮の存在の発覚、グレーなソーマ・ファミリアのような闇派閥へ肩入れをしていた存在の大量捕縛。

 実際にロキ・ファミリアとガネーシャ・ファミリアの連合で人工迷宮を調査したら頑丈そうな扉が全て開いていたために隠れ潜んでいた闇派閥を全て倒し切ることができた。ダンジョンに繋がっていた人工迷宮の方は既に壊滅状態になっていて通路もぐちゃぐちゃになっており使用することは不可能になっていた。

 そんなゴタゴタが地上で起きている時、フレイヤ・ファミリアの幹部達はセーフゾーンである50階層で休憩をしていた。

 

「フィリオ。あの気色悪い目玉のついた扉をお前は魔法か何かで開けてたが、あれはなんだ?」

「あの目玉が鍵だったわけだが。その目玉と全く同じものを魔法で複製してしまえばそれは鍵を持っていることと同義。全ての扉を開けて、使用不可能なように全部こじ開けた」

「やってることがめちゃくちゃだぞ……」

「私はそういう存在だ。受け入れろ、アレン」

「全く。()()ってのはそんなに理不尽か。いや、倒してきた精霊もどきも力だけなら凄かったな」

「神と似て非なる存在だ。ただの人間よりはよっぽど色々なことができるさ。最も私はそんなに高尚な存在ではなく、あのもどきよりも下等な存在かもしれんがな」

 

 フィリオの言葉をどう受け止めたか。さっきまで戦っていたもどきと目の前の存在を比べる。

 これからはダンジョンから登るだけ。その間にフィリオの存在について改めて考えた。

 彼らが考えることはフレイヤにとって有用かどうかだけ。フィリオがどんな存在かはエルフ二人を除いて気にする者もいなかった。

 

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