ACT7 斬り、走り、狙って撃つ 【フルカラー挿絵有】

 俺はすでに閉ざされているバイザー越しに敵を睨む。このボディにフルメット式バイザーはほとんどどこぞのマスクライダーだが(俺はジープに乗ってるけど助手席で相槌を打つくらいしかしてない)、まさか幼稚園児の頃に憧れていたあのバイクのライダーヒーローに、数十万年後越しになるとは夢にも思うまい。

【挿絵(フルカラー)】https://kakuyomu.jp/users/Yutaro-Isozaki/news/16818622170663846636


 獣太刀——〈隠神刃衛イヌガミジンエ〉を構えた俺は、迫る男に素早く刺突を繰り出した。

 相手が握るのは斧。ハチェット、と言えるものだ。片手で握れるサイズの、万能性のある斧である。先端が赤く塗装されているあたり、ファイアーアックスかもしれない。消防時に、建物に侵入するときに障害物をぶっ壊す斧だ。


 俺は頭上から迫る斧を獣太刀の鎬で受け止めて瞬時に円運動を加えて右に払い、相手の体を横に踊らせると、すかさず首を斬り払い、駆け出す。

 サブマシンガンの銃弾が足元を抉る中、目の前のマチェットを握る二人に狙いを定める。

 手前にいる男がマチェットを振り落ろすと同時に右斜前方へダッキング、そしてすかさず刃を首に走らせ、左足でコンクリの地面を砕きつつ右奥の男を斬り、銃弾を跳躍して回避。

【挿絵】https://kakuyomu.jp/users/Yutaro-Isozaki/news/16818622170663880606


 そこへ、ドガン、と凄まじい銃声が轟く。窓ガラスを粉砕し、銃弾が飛来。サブマシンガンを握っていた女の体を熟れたトマトのように粉砕して転がし、俺は自分にとって最大の脅威と言える、リニアライフルを構える男に向かって投げナイフを投擲した。

 敵の喉に深くナイフが食い込み、リニアライフルを取り落とした男がゴボゴボと血の泡を吹き、喉を掻きむしって絶命。


 人間とアンスロ半々の構成の山賊だが、いずれも素人に毛が生えたレベルの素人集団である。

 元プロの兵隊で戦闘学習をVRで行えるサイボーグや、歴戦の屑浚いであるベルナの精密狙撃を前に次々数を減らし、残った数人がスモークを炸裂させ、逃げた。


「待て!」


 俺は怒鳴り、〈隠神刃衛イヌガミジンエ〉を納刀。背中に回していたコイルガンを構えてコーパルエナジーを発電モードに移行。ギュゥンと電力がコイルに流れ、磁界が生まれる。

 装弾数はマガジン一つで二十発。さっき一発撃っているので、残りは十九発。


〔ベルナ、赤外線が機能しない!〕

〔赤燐チャフスモークです! こっちからも捕捉が——あ、やつら車で逃げます、追いますよ!〕

〔ええいくそ、次はカーチェイスか!〕


 俺はコイルガンを抱えつつ窓から飛び出した。すでに、敵方のジープは発車している。俺は苦し紛れに三発コイルガンを放ったが、撹乱されている視界がまともに狙いをつけることを拒絶する。

 弾を無駄にした——高いんだぞ、コイルガンの弾って。


 だめだ、バイザーは今は使えない。

 俺の顔を覆っていたメットが左右と上に分かれ、バイザーは耳のあたりへ、頭部を覆っていたメットは分解されて義体に格納される。

 コートの袖で左目を擦って、走り出した。右目のアイパッチ型義眼は幸いにも可視光モードがあるので、それで普通に狙いをつけることはできる。


 隠してあるジープまで向かうと、すでにベルナが運転席に座ってエンジンを回していた。


「急いでください!」

「わかってる、追ってくれ。俺がどうにか仕留める」


 すぐさま俺がジープに乗り込むなり、発進。サンルーフを開け、俺はジープの天井から身を乗り出しコイルガンを構えた。

 前方九四四メートル。風速や気圧、温度、湿度をソフトウェアが計算する。俺自身がバリスティック・カリキュレーターのそれ。

 算出した必中の方程式——だが、俺は狙撃に関してはとんと疎い。ただの普通科、ライフルマンだった男だ。選抜射手でも狙撃手でもない。


 ——やれ、言い訳なんか誰も聞いていないぞ。

 己に喝を入れ、トリガー。

 バウッと音を立て、超音速の金属弾頭が飛翔。

 弾着点は、タイヤの右に、わずかに逸れていた。


「くそ」

「ゼロ、捕まって!」


 次の瞬間、俺は外に放り出されかけた。どうにかふちに捕まり、サンルーフから放り出されるのを耐える。

 前方からランチャーが飛んできて、その砲弾が俺たちのジープすれすれで炸裂した。化学榴弾が紅蓮の炎を巻き上げ、周囲から粉塵を吸い上げ爆炎を空に吹き上げる。

 あんなのを食らえばいくら俺たちでも無事ではいられない。脳を守る、超アダマン合金は無事だろうが、さすがに酒呑童子ではないから、俺たちが首だけになったら、その首だけで相手に噛み付くのはさすがに無理だ。


 チャンスは限られている。

 ——そうだ。


「ベルナ、賭けに乗ってくれるか」

「……いいですよ」


 俺は思いついた危険な策を彼女に伝える。ベルナは「確実な手段ではありますね、やりましょう」と応じた。

 そうと決まれば、早速実行だ。気取られる前に、決める。


 車間距離、六〇〇。

 敵がランチャー砲を構えていた。再装填を終えたらしい。

 俺はコイルガンを構え、狙いをつける。その狙いはタイヤではなく、ランチャーを握る男。

 依然、俺には可視光しか使えない視界状況。加えてこの暗闇。しかし、コイルガン備え付けのスコープが、暗視補正をかけてくれていた。自分にその機能があるからと、相棒について知ろうとしなかった俺を恥じる。

 応えてくれ、お前は、俺の相棒なんだ。


 ——ここだ。


「二度も三度も、——外しはしない」


 撃発。

 コイルガンの金属弾が、敵のドタマをぶち抜き、粉砕。そして、真下を向いたランチャーが暴発し、山賊のジープが夜の山道で爆散した。

 俺はベルナに片手でガッツポーズ。ベルナも、片手で応じた。


×


 燃え上がる車両からは生体反応はない。ジープから降りたベルナが、燃える残骸の奥から何か引っ張り出す。


「なんだそれ……義手?」

「の中に隠してあるものに、値段がつくかも」

「……そういえば、俺らは左腕にホログラフィックメモリが入ってて、いろんなデータを保存してんだっけか」

「ええ。何か違法な取引の情報があれば、企業はそれを買い取ります」


 なるほど、そういう儲け方もあるのか。


「まずは先生に解析してもらいましょう。うまくいけば、手術費返済にあてられます」

「そりゃありがたい」


 俺はそう言って、ジープの残骸を睨んだ。


 ——人を喰い、人身売買をよしとする連中が普通にいる。

 どうやら相当に、ハードな時代なようだ。

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【挿絵イラスト有】ミライセカイのカミノカグラ — 冷凍睡眠から目覚めたら数十万年が経ち、腐った体をサイボーグ化したら竿付きで女体化していた俺の未来世界戦記 — 磯崎雄太郎 @Yutaro-Isozaki

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