ACT6 ステルス 【挿絵あり】

 大掛かりな整備場と、小さな店舗——恐らくは車両に積む芳香剤やらタイヤ、ホイール、グリスやらオイル、もしくはカーナビなんかを取り揃えていた店舗だろう。俺が潜入したのはその店舗だった。

 電気は落ち、俺は視界を光量増幅式夜間モードに切り替える。ネコやフクロウやオオカミのような、夜目を機械的に再現した暗視能力だ。それとサーモを併用しつつ俺は進む。


〔接敵はなし。敵影は見られない〕体内に内蔵された暗号通信無線でベルナに告げた。

〔こちらからも敵の動きは観測できません。指向性マイクが拾ったところによれば、奴らは殺した女性を輪姦してお楽しみなようです〕

〔殺すことに躊躇いが完全に無くなる情報をありがとう。底抜けのカスなら良心の呵責もない〕


 俺は店舗を進む。大整備場に続く廊下に、一人廃材で作ったジャンクライフルを握る男がいた。

 俺はコイルガンを構えた。またのなをマスドライバー・ガン。直列に配置したコイルを順々に活性していき、金属弾を射出するものだ。ライフリングがなく、銃弾はコイルが巻いてある砲身と摩擦しない——簡単に言えば、滑腔銃身スムーズ・ボアというやつだ。

 西暦二〇四三年段階でコイルガンは、マスドライバーとして実用化されていた。軌道エレベーターへの物資射出、宇宙進出の第一歩として太平洋沿いの海岸線に、日本は合計十三基のマスドライバーを所有していた。


 威力は、過去のそれであれば、九キロのライフル銃サイズでせいぜい高速ライフル弾レベル。なら従来の自動小銃のほうが勝手がいいと、ほとんど実用化されなかったものだ。

 だがこの時代のコイルガンは、コーパルという新エネルギー式のバッテリーと新金属部品により、威力も射程も段違いだ。


 俺は方膝立ちニーリングの姿勢でコイルガンを構えた。射出速度を一定まで落としたのは、消音フィールドを銃身に形成する都合上だ。

 サプレッサーがなくとも、バリアシールド技術を応用した消音フィールドユニットを取り付けた銃なら、剥き出しの銃身でさえ、ある程度は音を誤魔化せる。


〔コンタクト。暗殺する〕

〔了解です〕


 俺は構えていたコイルガンを撃った。大型ホチキスを撃ったような、バズンッというくぐもった低い音がして、亜音速の金属弾が見張りの山賊の頭を吹っ飛ばす。

【挿絵】https://kakuyomu.jp/users/Yutaro-Isozaki/news/16818622170663723456

 何が起きたかわからない胴体が数歩進んで、壁にぶち当たり、血を噴き上げ昏倒。


〔目標を撃破。侵襲する〕

〔なるべく手早くお願いします。定時連絡を取り合っていたとすれば、連絡が途絶えたことで警戒されるかもしれません〕

「わかった」


 俺はさっさと立ち上がって移動。

 履いている磁場足袋じばたびは、靴底に磁素を練り込んで足音を減殺する効果を持たせた隠密用の装備だ。

 俺は自分のボディの特性が、侵入白兵型——いわゆる「ニンジャ・アンド・サムライモデル」と言われるものだと先生から言われいたので、そのように装備を整えていた。


 ちなみにコイルガンの値段はなんと四五〇〇働貨。……四十五万円。ベルナも「え?」という顔をしていた。でも欲しかったんだ。俺はSF系ガジェットに弱い。

 諸々の軍資金だけで、俺はベルナに対し、八八〇〇働貨=八十八万円の借金をしている。晴れて俺の返済総額は百万八八〇〇働貨。完済まで何年かかるんだろう。


 ちなみに、ナノマシンで構築されている今の俺の脳には寿命が、事実上存在しない。こいつらはグリア細胞のような効果を自前で持ち、常に自らで自らを、相互にメンテナンスする。ボディさえ手入れすれば、俺やベルナ——フルサイボーグにアンドロイドは、不老というわけだ。


 奥に進むと、山賊が二人いて、何か駄弁っている。その奥は大整備場だ。


 俺はコイルガンを構えつつ、その会話内容を聞いて、吐き気を感じた。

 詳細は省くが、こいつらは「人間を食べている」らしい。


 見張りは二人ともアンスロで、一人は爬虫類系、もう一人はトラのような獣人。アンスロだからといって人肉食ではないと聞いていたので、こいつらがイカれているだけだろう。


「今日の“狩り”はうまくいった」、「“客”も喜んでたな」、「あの腰抜けども、銃を向けたら“子供と女を捨ててたぜ”、くっくっく」


 底を踏み抜いて、そのまま一周して天井をぶち抜いて目の前に現れたクズ。

 躊躇いなど、ない。


 俺は腰から手榴弾を取り出す。ピンと安全レバーを抜いて転がすと、二人はそれに気づき「おいっ、くそ!」と叫んだ次の瞬間、濃縮されたコーパル爆薬が炸裂。弾殻と破片、爆風で、二人の体がバラバラに爆散した。


〔あ、こら気づかれましたよ!〕

〔腹が立って手が滑った。すまん〕

〔もう!〕


 俺はコイルガンをスリングで固定、獣太刀を抜いて大整備場のドアを思い切り蹴破った。

 金属製の扉が派手な音と共に向こう側へ滑り、鈍い音を立てて倒れる。


 山賊どもが怒りと驚き、妙にぎらつく興奮の眼差しで睨みつけてきた。


「なんだクソアマ、何もんだ、コラ!」

「屑浚いに来た。だが、お前らみたいなクズにも劣る生ゴミは、……殺す」


 くさいセリフだ、と思った。だけどやはり、言ってみたかったし、言わざるを得ない、怒りの感情が俺にはあった。

 山賊のボスらしき男が怒鳴った。


「やっちまえゴラァ!」


 そうして、俺たちと山賊の全面抗争が始まるのだった。

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