ACT4 企業都市、そして装備を揃えて
サテライトポリス・オオタキ AM 一〇:三四
後日、俺は今が
この土地はカグラ地方と呼ばれており、国家組織よりも企業の方が力を持っていることと、それぞれの企業がその企業政府を中枢とした
都市の中では経済活動に貢献することが市民権を得て、維持する条件である。
穀潰しは外周部の危険なスラムへ追いやられ、外部装甲壁が突破されたり、どこかしらから入り込んだ幻獣の「弾除け」に使われるという苛烈な社会。
弾除けに価値はない、というのが徹底した各地に通底する企業理念であり、最悪、スラムごと幻獣を「焼却」するため壁の上からナパームを落とすことも辞さないらしい。
とんでもない話だ。
「あの遠くに見える壁が、外部装甲壁?」
「そうです。半径二キロの中に約二万人が暮らしているこの
「オオタキってのも企業? ベルナは確か、キリシマ工業のアンドロイドだよな。オオタキ……自動車メーカーとか?」
「当たらずも遠からず、ですかね。あげるとしたら部分点です。
板金、金属加工、塗装、その他の金属加工企業ですね。オオタキ・メタリック社といいます。作られたものは主に
サイボーグやアンドロイドはもちろん、やっぱり、軍用車両にも使われますね」
「ふぅん」
俺は色々知らない企業の名前が出てきて上の空という失礼な状態だったが、オオタキといいキリシマといい、日系企業っぽい名前に、やはり日本の延長線上にこの土地はあるんだと実感した。
俺がいた場所が地殻変動で流されたにしろ、おそらくここは東京郊外だった場所だ。
……あの二年の地獄の総力戦は決して無駄ではなかったということか。すくなくとも、命を繋ぐ、その一助にはなれた。
今日はよく晴れていた。俺は目覚めてから数日の間——三日くらいか——は徹底的に座学とリハビリを、先生のラボで行った。
サイボーグは安全性が確保されていないと市民権を得られず、俺は自分の安全性を証明するためにそのテストを受ける必要があった。
そして今日、まさにテストを終えてその場で結果をもらい、頭脳労働と肉体労働を示す判定において俺はブルー判定——生産・肉体労働系と認定された。
まあこのカラー判定は指標のようなものなので絶対ではないと、係員のアンドロイドは言っていたが。
この世界にはアンドロイドだけじゃなく、
企業にとっては人工知能だろうが、異形の人外種族だろうが「企業に貢献できなければ価値はない」と切り捨てる。逆に言えば、経済に寄与できれば、そこにあらゆる種族の、性別、年齢の違いなどないのだ。
それは究極に公正な基準であり、そして残酷なまでに平等な地獄のシステムだった。
「まずは武器を揃えましょうか。軍資金は私が建て替えますから、それで揃えましょう」
「何から何まで助かるよ。正直、一人じゃどうにもならなかった」
「私もです。……ずっと前にある人に、死にかけていたところを先生のところで治してもらって、まあその方は仕事の手伝いが欲しいと言ってましたが、善意なのは目に見えてましたから、……だから……」
その人はどうなったんだろう。
気になったが、俺は黙っていた。数秒の沈黙の中に、答えは滲んでいた。
「だからゼロを助けるのは、私がそういう、うつくしい心を忘れずにいたいというエゴでもあるんです。機械がエゴ、というのもどうかと思いますが」
「いや、別に……いいんじゃないか。俺は変だとは思わない」
ベルナは嬉しそうにメタルスキンの鉄色の顔に笑みを浮かべた。
俺は屑浚い、という仕事をするという申請を企業役所に行った。そのあたりはほとんど自動化されたツールがあるらしく、あっけないくらいすぐ申請は通り、ライセンスが発行された。
「ゼロ・ノウゼン SCAVENGER RANK CODE:Ⅰ」とあり、このRANK CODEというのは屑浚いのランクを示すらしい。最大ランクは
新入りに金を持たせても人材として育つ前に堕落する、というのが企業の考えらしく、それは都市国家間の共通した認識であるらしい。
工房通りに来ると、活気あふれるそこはさながら天下一武道会の会場のようだった。
それを生業とする者たちは皆思い思い得意の武器で武装し、外に駆り出す。
装備の統一が絶対条件である近代戦の時代ではまず見ない、不揃いで無秩序な戦士の数々。
大きな狙撃ライフルを背負ったベルナに始まり、銃把の上下に銃身があるデュアルサブマシンガンという俺の時代にはまず見ない銃、明らかに重機関銃弾を吐き出すだろうという馬鹿でかい重突撃銃を担いだ、鬼のような角の生えたデカい女が闊歩している。
銃だけに飽き足らず大剣を背負った男、機械仕掛けのハンマーを担いだ女。ニンジャ、サムライ——だめだ、酔う。もう人間観察の時間は休憩しよう。
人間、アンスロ族、男女、年齢もバラバラだ。
その中ではたかが
実際先生も、「トランス性の奴など普通にいる。人口激減時代に、遺伝子改造でそれが定着していた土地もあったんだ」と言っていた。
それどころか認可が通ればアンドロイドさせ万能細胞で、元のサンプリングされた遺伝子情報をもとに子宮と卵巣を生産し、移植して妊娠できる時代だ。ベルナがまさにそのモデルで、性行為自体はできても生殖できるアンドロイドはレアなんですよ、と自慢していた。
実際問題、コロニーや月面に逃げ込めた人類は、その総数がせいぜい一億五千万である。よしんばその全てが地上に帰還したとて、生き延びる上で、繁殖する上ではいろいろな障害があっただろうし、何万年という間に倫理観だって変わったに違いない。
実際、今だって殺し合い一歩手前の殴り合いをする男が二人おり、すぐに企業警ら隊の、紺色の詰襟制服のアンドロイドが駆けつけ、「どけ、オオタキ警ら隊だ!」と野次馬を押しのけて殴り合う二人を縛り上げて文字通り引きずっている。
「ゼロ、この店が一番いいです」
ベルナは喧嘩など見向きもせず、「キザワ装具店」と書かれた店で止まった。文字は、しっかり日本語だが、ここではカグラ語という。そこを間違えた場合の言い訳としては、「考古学に興味がある」で誤魔化せると俺は発見し、先生やベルナに言ったら、「まあ言い訳としてはな」と返された。
だがなるべくなら間違えないほうがいい、と散々釘を刺された。刺され過ぎて、多分俺は剣山のようになっている自信がある。
「いらっしゃい。……別嬪さんに彼氏か? 眩しいねえ……」
店主は禿頭に義手、ゴーグル型義眼の男だった。
体には頑丈そうな略装鎧を着込み、何やら部品をいじっていた。
「適当に見ていきな。惹かれる武器があったら、言ってくれ」
少し無愛想だが、原宿の古着屋とかでしつこいくらい太鼓持ちしてくる店員よりはずっと好感が持てる俺は、あの時代の人間は向いていなかったのだろうか。
それはさておき俺は並んでいる武具を見て回った。
防具に関してはこの体が最強の鎧である、とベルナが言っていた。
アダマン装甲——アダマンチウムから生成されたこの装甲は、俺が知る世界のチタン合金とセラミックの複合装甲よりずっと頑丈で、軽い。
地殻変動、そしておそらくはバケモノの血肉などが土中で時間をかけて、このような特殊な金属を生成するに至ったと、多くの学者は考えているらしい。
なるほど、ならばそのバケモノと——リム、というらしいあの連中と戦った俺の意見は貴重だろう。軟禁して拷問してでも聞き出したいに違いない。なんせ、莫大な利益になるのだから。
そうした特殊な金属の他、
そのコーパルは、大勢の命の結晶ともいえ、霊魂とも呼べる霊的なエネルギーがどうのこうのとか、「それってオカルトとかファンタジーだろ」という分野に片足を突っ込む者らしく、俺にはもう意味がわからなかった。
とにかく「凄い資源がいっぱいあって、それは金になる」と分かればいい、と言われた。
屑浚いはそうした資源のルート確保の上で必要な小競り合いにも駆り出される傭兵でもあるらしい。
言っておくが、流石に俺はこの後に及んで自衛隊的な感情は引きずる気はない。
なんせ、過去の俺はもう死んだのだ。経験値は引き継ぐ——いわゆる、強くてニューゲーム状態なのは認めるが、この世界に関しては未知であり、多分、「殺人」が「手段」として選択されることが普通なくらいには、人命の値打ちは低いと思われた。
じゃなきゃ公然と、武器を売るものか。こんなアフガニスタンの山奥のような武器商店が、かつての日本にあるわけがない。
それだけで、この数十万二五三四年の過酷さが見て取れる。
俺は一振りの刀を掴んだ。
錆止めコーティングの電磁鋼の鞘に、銃把のような柄。鍔はなく、何かの毛がナックルガードと滑り止めを兼ねている。抜くと、肉厚幅広の刀身が覗いた。
広義に見るなら日本刀だ。だが、こんな無骨な刀は俺の記憶には、フィクション表現の中にしか存在しない。
「ベルナ、これは」
「
「いいな、これ。かっこいい」
「かっこいい……まあ、武器との出会いは一期一会ですから」
俺はその獣太刀を矯めつ眇めつしつつ、値段を見た。
七五〇働貨。つまり、七万五〇〇〇円。現実でも模擬刀である居合刀が数万円であることを考えると、武器が一般に流通していることも踏まえ、適正価格に思えた。
まあそれは、俺がまだこの世界の物価に詳しくないだけで、実際はよくわからないのだが……。
「それにしますか?」
「ああ、これがいい」
「ではそれと、あとはサブウェポンに何か揃えましょう。他にもコートや、
ベルナはそう言って、まるで自分の買い物のようにあれこれ提案してきた。
俺はなんというか、世話焼きな姉ができた気分になって、少し嬉しかった。
傍目には、機械の姉妹と見えているんだろうか? まあ、俺は正直自分の美醜に興味がなかったので、正直女になっても「胸ってのはいざつけられると邪魔なもんだな」と呆れるくらいだった。
本当につまんない感性だな、と、自分で呆れたが、ただ男どもの視線が、自分と同性であるということもありひどく腹立たしく感じられた。いつも以上に。
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