先進国で最低レベルといわれる日本の男女格差でも、最も見えにくいのが教育の格差。だが、東京大学の学生比率では歴然とした違いがある。政財界のリーダーを輩出する大学の女子学生の少なさは、日本の後進性を象徴するよう。自らの「もやもや」を追究した東大生たちの調査では、地方の女子生徒を阻む二重のハードルがくっきりみえてきた。(福岡範行)
◆「兄弟」とは別の期待をかけられて
「これだけ私たちは体感している問題なのに、注目されていなかった」
大学進学の男女格差を調査している団体「#YourChoiceProject」代表で、東京大法学部4年、川崎莉音さん(23)は言う。
2023年に進学意欲が高い全国の高校2年生の意識調査を実施。3716人の回答を分析すると、首都圏(1都3県)以外では「偏差値の高い大学に行くことは自分の目指す将来にとって有利」と思わない女子生徒が多い傾向があった。地方の女子生徒の進路選択が狭められている実態を浮き彫りにした調査は、想像以上の反響があったという。「もどかしい思いをしていた地方の女性がすごく多かったんだろうな」と振り返る。
兵庫県宝塚市出身で、小中高一貫ののびのびした校風の名門女子校で学んだ。東大を志望したが、気づくと同級生の多くは地元に残ることを選んでいた。最初は「それぞれの選択を尊重できた結果」だと思っていたが、同級生の兄弟が東大や京都大を目指していると知り、違和感が募った。「できるだけ実家に近い大学に行く。親も安心するから」と語る同級生もいた。「兄弟とは別の期待をかけられている」ような気がした。
◆「地方の女子生徒は地元にいた方が幸せ」とまで言われ
新型コロナウイルス禍だった2021年6月、「ジェンダー論」のオンライン授業を受け、同じ学生寮の江森百花さん(24)と授業後の「感想戦」で盛り上がった。人ごととは思えないデータがあった。中京圏のある高校では、浪人して進学した女子生徒は、男子の5分の1。静岡県出身の江森さんと「女子が浪人しない風潮はあった」と体験談を語り合った。
その年の11月、2人が設立したのが「#YourChoiceProject」。手探りだった最初の学内アンケートでも、地方の女子生徒は実力より低めの大学を志望しがちという傾向が出たが「全然伝わらなかった」。
首都圏出身の同級生の男子学生は「自分たちの周りだけを見ているんじゃないか。統計的に有意じゃない」と結果を疑問視した。「地方の女子生徒は地元にいた方が幸せなんじゃないか」とも言ってきた。
◆「声だけで伝える以上の力がデータにはある」
会員制サイト(SNS)などで地方女子向けの情報を発信しても鳴かず飛ばず。打開策を出せない「4時間ぐらいの無駄な会議」ばかりを繰り返す迷走期間が1年弱、続いた。「自分たち自身も、課題の本質は何かを理解できていないなって痛感しました」
だからこそ、データでの立証を目指した。授業で浪人の男女差の数字を見た経験から、「声だけで伝える以上の力がデータにはある」と実感していた。
団体は2023年から地方の女子生徒の進学支援事業も始め、昨年3月にはNPO法人化。現在、男女30人の学生らがジェンダー格差の解消を目指す取り組みを続けている。
◆「地方女子あるある」がデータではっきり
世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数では2024年版で日本は118位。政治113位、経済120位が足を引っ張っており、72位の教育分野の格差は目立たない。
だが、川崎さんたちの調査は、指標の盲点を突く。地方の女子生徒たちには「男女格差」と「地方格差」の二重のハードルがそびえていた。
2023年の意識調査では、地方女子は偏差値よりも資格取得を重視する割合が28.5%で、1〜2割だった首都圏の男女や地方男子に大差をつけた。地方女子は結婚による離職などを念頭に資格を取りたい人が多いのではないか、という仮説を補強する結果だった。
保護者から実家に近い大学を期待される傾向は、地方女子は地方男子より明らかに強めだった。浪人を避ける傾向は、地方女子だけではなく首都圏の女子も強めで、全国的な傾向である可能性が浮かんだ。
川崎さんは「『地方女子あるある』を持ち寄って立てた仮説が、きれいに立証された」と感じている。
◆女性を地元に縛る空気は「地域の良い特徴になり得ない」
さらなる議論の土台にしてもらおうと今年2月、「大学進学におけるジェンダーギャップ白書」を公表。
高校生の意識調査に加え、追加で保護者にアンケートした結果、保護者が子どもに期待する将来の年収が男子で平均772万円、女子が634万円と差があるデータも載せた。東大入学者の女子比率が2割から伸び悩んでいることや、女子の大学進学率がほぼ全ての都道府県で男子より低いという文部科学省のまとめも加えた。
川崎さんたちの元には高校生から「地元から出たいのに親が反対」などの悩みの声が届く一方、「地方蔑視だ」との批判もある。
都市部への人口集中は課題だ。川崎さんは若い女性が「帰りたくなる」地域づくりを提案する。一人一人の選択が尊重される社会と地方創生の両立に向けて、女性を地元に縛る空気の解消を願う。「ジェンダーステレオタイプがひどいことは、地域の良い特徴になり得ない」と語った。
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◆「高度な学力は必要ない」という差別
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