第1回「性的同意」分かれる司法の判断 無罪のケースも

伊木緑 大貫聡子
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 性暴力を適切に処罰してほしいとの被害者の声を受け、強姦(ごうかん)罪から強制性交罪、不同意性交罪と刑法改正が重ねられてきた。だが今も司法の場では同意をめぐって判断がわかれるケースがある。

 大阪高裁は昨年12月、女性に集団で性的暴行を加えたとして強制性交罪に問われた男子大学生2人に対して一審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡した。

 男子大学生2人は2022年3月、別の元大学生の自宅で女性に対し、動画を撮影し、脅迫などをしながら性交や口腔性交の性的暴行を加えたとして起訴された。性交などがあったことに争いはなく、強制性交罪の成立要件である暴行や脅迫があったかや、同意の有無が争点になった。

 一審の大津地裁は「『嫌だ』などと言っても性行為をさせられ、『調教されてないな』など侮蔑的発言が繰り返された。被害者と被告の関係性からしても真に同意していたとはおよそ考え難い」と判断。「直接的な身体的打撃や苛烈な脅迫を加えていないものの、年齢や体格で勝る学生らが、女性の意思を無視し複数人で暴行や脅迫を加えて繰り返し性的な行為に及んでおり、女性の人格を踏みにじり、性的自己決定権を害する卑劣な行為」として、それぞれ懲役5年と懲役2年6カ月の実刑判決を下した。

 一方、大阪高裁は、女性が被害申告したのは「性被害の処罰を求めることより動画の拡散防止にあったことは明らか」と指摘。

 最初の口腔性交について、一連の性行為に同意していたかどうかに関わる重要な場面だと指摘。その記憶がないというのは「覚えていないという虚偽の供述をしている可能性を否定できない」などとして、無罪を言い渡した。検察側は最高裁に上告している。

 性的な同意をめぐっては、過去にも判断がわかれた例がある。

 富山市のホテルで20年、女性に性的暴行を加えてけがを負わせたとして強制性交致傷罪に問われた被告の裁判で、22年5月の富山地裁判決は、被害者が事件後に友人に送った「ワンナイトしてしまった」などのメッセージを「自分の意思でした性的行為を後から自分を責めているように読むのが自然」と判断。性的行為に同意した可能性があるとして無罪とした。

 名古屋高裁金沢支部は23年7月、メッセージを「自分を責める感情は性被害者には自然なもの」と評価。女性がけがを負った事実などから、同意していたとは認めがたいとして一審判決を破棄した。高裁の有罪判決は最高裁で確定した。

 被害者が性交に同意していなかったと認められても、無罪になる例もある。

 那覇地裁は24年6月、知人に性的暴行を加えてけがをさせたとして強制性交等致傷罪に問われた男性に、無罪を言い渡した。被害者が性行為に同意していなかったことは認めたものの、男性が同意がないことを認識していたと認めるには「合理的疑いが残る」と判断した。那覇地検は控訴している。

 那覇地裁では同年11月にも、酒に酔った知人に性的暴行を加え、けがを負わせたとして強制性交致傷などの罪に問われた男性に無罪を言い渡した。6月の判決同様、被告側に相手が同意していたと誤って信じる「同意誤信」があったと判断した。

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この記事を書いた人
伊木緑
東京社会部
専門・関心分野
ジェンダー、メディア、スポーツ
大貫聡子
くらし報道部
専門・関心分野
ジェンダーと司法、韓国、マイノリティー
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    仲岡しゅん
    (弁護士)
    2025年3月8日17時9分 投稿
    【視点】

    この「同意誤信」で無罪になるという裁判所の理屈は、一般の人々からすれば極めて理解しがたいように思われる。 「同意誤信」というのは平たく言うと、被害者の側が性的な行為に同意していなかったとしても、被告人の側で同意があったものと「誤信」していれ

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