記者会見するハンガリー警察の報道官ら=2月、ブダペスト(同警察提供・共同)
東欧ハンガリーに住む日本人女性(43)への殺人容疑でアイルランド人の元夫が逮捕された。大使館にドメスティックバイオレンス(DV)被害を訴えていた女性は日本への帰国に向け、子どものパスポート発給を希望したが、共同親権の存在に阻まれた。離婚後共同親権の導入が決まった日本でも起こり得る問題だと専門家は警鐘を鳴らす。
「大使館は切迫度の判断を誤った」。2月28日の衆院予算委員会分科会。立憲民主党の鈴木庸介氏は「女性はDV被害を何度も伝えた」「元夫に首を絞められた」などの知人の証言を紹介した上で、在ハンガリー日本大使館の対応を批判した。外務省は「DVの具体的な相談はなかった。適切に対応した」(岩本桂一領事局長)としている。
岩屋毅外相や女性の知人の話を総合すると、事件までの経緯はこうだ。
2022年6月、女性は大使館に夫との関係を相談し、DVを受けているなら警察に連絡するよう助言された。23年に離婚後、子ども2人との帰国を計画。子どものパスポートがなかったため大使館に対応を求めたが、発給には共同親権者である元夫の同意が必要だと説明された。知人は「怖くて話し合いができる状況ではなかった」と振り返る。
女性は24年8月と同11月に元夫から殺害予告のような脅迫を受けたと警察に相談したが、取り合ってもらえなかったという。今年1月、火災があったアパートの部屋から女性の遺体が見つかり、元夫が逮捕された。対応に誤りがあったとして、現地警察は担当した警察官の処分を決めた。
外務省関係者によると、国境を越えて不法に連れ去られた子どもの取り扱いを定めた「ハーグ条約」に、パスポート発給に両親の同意が必要だとの規定はない。しかし、子どもを連れて国外へ逃げたいとの相談には「誘拐罪に問われたり裁判沙汰になったりというリスクがあることを丁寧に説明している」と言う。
弁護士らでつくる支援団体「ちょっと待って共同親権ネットワーク」は、共同親権はDV被害者の選択肢や行動を制限する恐れがあると指摘。ハンガリーでの事件を受け、DVに精通した職員を在外公館に配置することなどを外務省に求めた。
海外での離婚案件に詳しい石井真紀子弁護士は、パスポート発給に及び腰だった大使館の対応を「現地の法に触れる可能性があるので慎重になったのだと思うが、あまりにも危機感が足りない。もっと柔軟に対応すべきだった」と批判する。日本の改正民法には「急迫の事情」があれば親権の単独行使ができるとの規定はあるものの「命に関わる状況なのに『急迫ではない』と判断される恐れがある。不利益が生じないような運用が欠かせない」と強調した。