ポケットモンスター in オラリオ


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作:ニャース
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12 神々、戦慄する


すみません、また長くなりそうなので分割します。

次で長かった会合も終わりです。


 

 神々はベルのやらかしにドン引きしていた。

 

 いや、神々だけではない。冒険者もギルド長も、促したザルドでさえもドン引きしていた。

 

 ドン引きしていないのはアルフィアのみで、それでも眉を顰めている。

 ただしその理由は、先ほどから絶えず聞こえてくる叫び声のせいであったが。

 

「キビキビー!!」

 

 『信者』が珍妙な踊りをしながら絶叫していた。

 拳を握り腕を曲げた状態で前に突き出し、肩と腕を絶えず上下させている。

 

「キビキビー!!」

 

 一定の間隔で謎の奇声を上げていて、シュールではあるがどこか空恐ろしい光景を繰り広げ続けていた。

 

「キビキビー!!」

 

 ベルが繰り出した二体のポケモンのうちの一体――桃のようなポケモンであるモモワロウがいきなり射出した餅を口に入れられた途端、『信者』はこのような奇行に走り出した。

 

「キビキビー!!」

 

 いったいどういう理屈でこんなことになってしまったのかはわからない。

 異界の未知にただ恐怖することしかできない。

 

「キビキビー!!」

「モモワーイ!」

 

 桃のような外皮を割って中から飛び出したモモワロウの本体が、無様な『信者』を見て無邪気に笑っている。

 悪意を感じられない笑顔だからこそ恐ろしく感じた。

 

 しかし、恐怖はそれだけで終わらない。

 

「――ウツロイド、取り憑いて」

 

 あんな痴態を見てもやけに冷静なままのベルが、もう一体のクラゲのようなポケモンに指示を出す。

 

 ウツロイドはまるで喜んでいるかのように触手を大きく揺らすと、『信者』の頭からすっぽりと覆いかぶさった。

 

 その瞬間、『信者』の身体が大きく痙攣する。

 

「KI、キBIKIビィィィィiiiiiiiiiiーーーー!!」

 

 それでも『信者』はキビキビダンスをやめることはなく、ウツロイドに取り憑かれたまま絶叫し、痙攣しながら踊り狂う。

 

「…………ひぃ!」

 

 誰かの悲鳴が漏れたが、それは誰のものであっただろうか。

 

 二体の暴挙を黙って見つめるベルに、思わずリューが肩に手を掛け制止する。

 

「ク、クラネルさん。確かに彼女は悪だ。し、しかし、これは……あまりにも惨過ぎる」

「……確かに、そう見えるかもしれません。僕だってやりたくはありません。でも、情報を引き出すのに確実性を求めるのなら、これが一番なんです」

 

 そういい切ったベルは、リューの手をとって安心させるように微笑んだ。

 

「安心して下さい。見た目は酷いですが、健康に支障はありません。ウツロイドもモモワロウも小さい頃からの長い付き合いです。後遺症が全く残らない洗脳もお手の物ですよ」

「それなら安心…………できませんよ!?」

 

 リューが大きな声で非難すると、ベルは何を勘違いしたのか見当違いの言い訳を始める。

 

「い、いえ。本当に大丈夫なんですよ? モモワロウの『くさりもち』だけだと洗脳できてもキビキビ踊り始めたり、変な片言しか話せなくて不便なんですけど、ウツロイドの注入する神経毒と組み合わせると、普段と変わりない行動を取ることができるんですよ。毒と毒で相性がいいんだと思います。ほら――」

 

 ベルが指を差す方を見ると、ウツロイドが『信者』から離れていくところであった。

 

 『信者』はその途端、先ほどの奇行が嘘であったかのように大人しくなり、はた目から見れば正常な状態でその場に立っていた。

 

「では、右手を上げてください」

 

 ベルがそう命じると、『信者』はいわれた通りに右手を上げた。

 

「次にどうやってギルドに潜入したか。また、何をしてきてか教えて下さい」

「…………ヴァレッタ様に命じられ、闇派閥(イヴィルス)と全く関係ない一般人を装ってギルドに入り込みました。その後、なにか重要な情報を得るまで疑われぬようギルドの業務を続け、今回初めて行動に移しました」

「やっぱりヴァレッタの策だったか。しかし、こうも容易く情報を抜き出せるとは……便利なものだね」

 

 従順な奴隷のようにベルに従う『信者』に、フィンが先ほどまでの暴挙を見ておりながら手の平を返したように感心する。

 しかしリヴェリアは有用性は理解しながらも、嫌悪が勝るのかフィンに苦言を入れた。

 

「だがフィン、これではあまりにも品が――」

「品なんてもの、犬にでも食わせればいい。考えてもみろ、リヴェリア。闇派閥(イヴィルス)の『信者』が民衆に紛れ込んで気づけるか? 不可能とまではいわないが全てを見極めるのは至難の業だ。僕たちが見逃すたびに、人々の命が容易く失われる。でも、これがあれば拾える命が各段に増える」

 

 清濁併せ吞む勇者(ブレイバー)がリヴェリアの言葉を両断し、続けてベルに問いかける。

 

「ベル、『くさりもち』を食べさせた後ウツロイドの毒を注入したが、あらかじめ餅にその毒を入れていても同じことは可能か?」

「はい、できます。ウツロイドがいなくても同じことができる餅を用意できます。食べさせた後、命令すれば今まで通りの生活や行動を取らせて情報収集させることだってできます」

「……いいね。なら、適当な闇派閥(イヴィルス)に食わせて餅を持たせれば病魔の如く広げられる」

 

 フィンの口角が上がる。まるで悪どい悪戯を思いついた子供のような笑顔だった。

 

 元が毒である以上、高レベルの対異常を持つ幹部級には効きが悪いだろうし、敵も馬鹿ではないのでいずれ気づき対策を取られるだろう。

 

 だが、その頃にはもう遅い。

 誰が洗脳されたスパイなのかわからないまま、疑心暗鬼に動くしかなくなる。

 

「敵も散々草を忍ばせていたんだ。意趣返ししたって罰は当たらないさ」

「ええんかーフィン? そんな勇者っぽくないことしても?」

 

 ロキがからかうように、細い目を更に細めて道化のように笑う。

 そんな我が主神に対し、フィンは肩を竦めておどけてみた。

 

「厭う者も出るだろう。でも、オラリオを散々恐怖のどん底に落としてきた闇派閥(イヴィルス)に同情するような者なんて極少数だろうさ。これも身から出た錆だね」

「……小癪な小人族(パルゥム)に同調するのも癪だが、有効過ぎる手段だ。そこの無様な『信者』はいずれ忍ばせる毒として活用するとしよう」

 

 ヘディンもその有用性を認め、フィンに異を唱えることなく利用することを提示した。

 

 ……確かに、悪に対して容赦はするべきではないとリューは考えている。

 しかし、このやり方は果たして『正義』であるのか?

 

 思わずベルの裾を摘まみ、リューはもの言いたげに上目遣いで見つめる。

 

「見て、アーディ! リオンがあんなあざとい真似をしてるわ!」

「すごーい! いつの間にあんなこと覚えたんだろうねー?」

 

 友人二人が妙な勘違いをして囃し立ててきた。

 リューは真っ赤になって裾を放すと、ごほんと咳払いしてベルに尋ねる。

 

「ク、クラネルさん……。そ、その、もっと穏当な手段はないのでしょうか? 今まで見せてもらったポケモン達の出鱈目さならできる気がするのですが……」

 

 しどろもどろながらもリューのもっともな疑問に、ベルも真剣な表情で答えた。

 

「エスパーポケモンに心を読ませたり、催眠を掛けて洗脳するという、もう少しだけ穏当な手段もあるにはあります。でも、向こうの世界の悪の組織がそれに対抗する装置を作り出して、有効ではなくなる場面もあってから、確実性のあるこちらの手段を取るようになりました」

「だったら先に、そのエスパーポケモンで試してみれば良かったのでは? 有効ならばあんな餅に頼らずとも――」

 

 リューの当然の意見にベルが首を振って否定する。

 

「効かなかった場合、洗脳された振りをする可能性があります。昔、それで騙されて、危うく密かに修復された最終兵器で向こうの世界が滅びかけました」

「ほ、滅び……!?」

「……かつて最終兵器を破壊したカルムさん達の協力や、改心していたフラダリさんの密告がなかったら本当に世界は滅んでいたと思います」

 

 絶句するリューを前にして、ベルは苦い過去を思い出して顔を強張らせた。

 

 あの時の経験があるから、ベルは善性を持ちながらもいざという時に躊躇いを持たなくなった。

 

 守るもののためならば、時に邪道も進んで見せる。

 血は繋がってはいないが、向こうの叔父や姉の気質をベルは確かに受け継いでいた。

 

「だからすみません、リューさん。これだけは譲れません」

「…………いえ。こちらこそ、貴方の気持ちを考えずにすみませんでした」

 

 世界が滅びかけた例を挙げられれば、リューも謝り返すことしかできなかった。

 

「……まあ、仮にエスパーポケモンを使おうとも、こっちの洗脳餅より効率は落ちるな。見た目は凄いインパクトだったけど、洗脳以外に害はないんだ。気にするな、とまではいわないが飲み込んでいこうぜ」

「リオン、民のために最善を尽くすことだけを今は考えましょう」

「……そうですね。わかりました、今は葛藤を飲み込みます」

 

 ヘルメスとアスフィにも窘められ、リューもどうにか納得してみせた。

 

 曲がったことや正義への妥協が一切できないはずの正義の妖精に、アストレアとアリーゼが驚く。

 リオン、貴女成長したのねと、アリーゼの目にも涙が出ていた。

 

 ――こうして一件落着の雰囲気になりかけた瞬間、【静寂】の二つ名を持つはずの女が空気をぶち壊しにかかった。

 

「ヘルメスの副団長は良いことをいったな。『最善を尽くす』。そう、我々は最善を尽くさねばならない。例え何をしてでもな」

 

 いっている言葉に正当性はある。暗黒期を終わらせるために冒険者たちは最善を尽くすべきである。

 ……その発言者が傍若無人のヘラの眷属でなければだが。

 

「……なにをするつもりだ」

 

 警戒心を露わにしたリヴェリアが、アルフィアに険の籠った声で訊ねる。

 

「すぐに済む話だ。――ベル、用意しろ」

「……あ、あのー。お母さん、本気でやるつもりなの?」

 

 先ほどまで信者の自尊心を完膚なきまでに破壊したベルが冷汗を流しながら、大好きな母の言葉に素直に従わずに躊躇いを見せる。

 

 たったこれだけで周囲の者たちは、アルフィアがとんでもないことをやろうとしていることを察した。しかし、最強の冒険者をとめられる者などいない。

 

「迷うか、ベル。ならば一から状況を整理するとしよう。この会合の三つの目的は先ほど話したな」

「う、うん。闇派閥(イヴィルス)を打倒すること。皆さんを強くすること。ポケモン達を受け入れてもらうことだよね」

「ならば何故、この五つのファミリアを集めたかわかるか」

「確かポケモン達を受け入れてもらうのに『発言力があるから』だっけ?」

「そうだ」

 

 ベルの言葉に頷きながらさりげなく頭を撫でる。褒められて少しだけベルは嬉しそうな顔をした。

 

「私とロキで冒険者達に。ガネーシャとアストレアでオラリオの民衆達に。ヘルメスで外部の者達に。確かに発言力があるわ。ベルとポケモン達を受け入れさせることを考えると、最適のファミリアといえるわね」

「おいおい、あまり過大評価をしないでくれませんかね。せいぜい俺たち弱小ファミリアだと、オラリオ外での活動時に噂話をするくらいしかできないぜ」

「なーにいっとんねん。ただの噂話で終わらせる気ぃないくせに」

 

 神々の補足にアルフィアが嗤った。言質を取ったといわんばかりに。

 

「そうだ。お前たちには影響力がある。だからこそ、最善のためにやれねばならないことがある」

 

 アルフィアがベルの背を軽く押して促す。例え可愛い我が子でも、安全を考えれば妥協はさせられない。

 

 ベルは迷い動けなかった。

 

 母のやりたいことはわかる。意義も理解できる。

 でも、それでも本当にやってしまってもいいのか?

 

(…………いや、躊躇したら犠牲になる人が増えるかもしれない。これもまた、飲み込まなきゃいけないことなんだ)

 

 しばらくの間黙考を続けていたが、ベルは意を決して彼のポケモン達に命じた。

 

「…………モモワロウ。『くさりもち』を五つだして。ウツロイド、その『くさりもち』に神経毒を注入」

「モモモモモ!」

「べのめのーん」

 

 モモワロウが指示に従い、楽しそうに『くさりもち』を五つばらまく。その全てにウツロイドが触手を伸ばし、毒を注入した。

 

「…………何故、突然洗脳餅を作ったの? それも五つ……まさか!?」

 

 アルフィアが何をしたいのか察したアストレアが顔を真っ青にする。他の神々も気づいたのか、各々物凄い表情をしていた。

 

「どうした皆! まるで今から処刑されるような顔をして! 暗黒期だからこそ笑顔を保たねば、民が不安に思うぞ!」 

 

 唯一ガネーシャだけが気づいていないようで、暢気に見当違いの言葉を上げている。

 普段ならうざいだのうるさいだのツッコみが入るところであるが、今はそれどころではない。

 

 この最悪の予想だけは外れてくれと祈る神々たち。だが、下界に降り立った時点で彼ら彼女らは天から見放されていたのだ。

 

 今、審判の時が訪れる。

 

 アルフィアがウツロイドの毒入り『くさりもち』をその手に掴み、神々に差し出して端的に告げた。

 

「食え」

 

 有無もいわさぬ一言だった。

 




次回、フレイヤ様やアストレア様のキビキビダンス……?
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