静寂のアルフィア…彼女はかつて、三大クエストの一つ、リヴァイアサンを討伐した実績を持つ冒険者。
レベル7の器に収まらない才能を有していたらしいが、不治の病もまたスキルとして発現しており、それさえなければより上の存在になっていたらしい。
そんな彼女が今、ベルの目の前にいるのだが、その手にはにこにこと笑う赤子がいた。
「きゃっ、きゃっ、きゃはっ」
「…ええっと、つまりこの子は貴女が産んだわけではなく、その妹の子供で…」
「ああ、部屋に籠ってばかりではいけないということで、たまには外に出て…この教会でも見せてやってと頼まれて、連れてきた」
あやすようにして揺らせば、笑い声をあげる赤子。
ただ、彼に関してベルは直感で悟る。
(…間違いなく、過去の…赤ちゃんだった時の僕…か)
『ほぅ、愚兎の生まれがこうとは…いや、予想はできていたことだがな』
(マジですか、マスター)
『当たり前だ。シル様とのデート前の改造時に、貴様に関しての素性を先に調べ上げていた。その中で、可能性として予測はしていたことだ』
ヘディン…鬼畜金髪エルフ師匠曰く、そもそもどこの馬の骨ともわからない相手な時点で想うところがあったようで、結構前から調べていたらしい。
その中で、容姿の特徴から予想していたようだが…お爺ちゃんとの生活のほうが多く、両親に関しては覚えていない身からすれば驚くことだろう。
「…そのうえで、ここであやしていたところに貴様が来たわけだが…大方、こちらの予想だがこの子の未来の姿の者か?」
「…」
アルフィアは才能に恵まれており、その不治の病さえなければよりその力を発揮して高みへ上り詰めていたという可能性の話はあったらしい。
そして、その才能の中で叡智に関する部分もあったようで…姿を見ただけで予測がついてしまったようだ。
これは正直に話すべきか否か。
突然「貴女のその子供の未来の姿です」と言われて、信じられるだろうか。
『ばっさり、ざっくりと魔法でぶっ飛ばされるのが関の山だ。そうだな、もしも私であれば、その場で頭のおかしいものとして消し飛ばすが…』
「…ええ、それでも答えなければいけないですね。間違いないです。その子の未来…僕は、ベル・クラネルです」
「ほぉ…。隠さずに正直にか。メーテリアの子供とは言え、すぐに白状するとはな」
「あの、でも信じられるのですか?貴女のその赤子の未来が、目の前に現れるということを」
「ああ、何も考え無しの神々ではあるまいし…前に、ギルドの豚がその手のマジックアイテムを作ろうとした話を聞いたことがあってな。今はまだないが…未来にあるのならば、おかしくはないだろう」
洞察力が優れているというか、少ない情報で良くもここまで導きだせたというべきか。
とにもかくにも正体がばれたのであれば、隠す意味もあるまい。
「それで、未来のお前がここに来たのは修行のためか」
「はい。未来にはない、ファミリアの両陣営に喧嘩を売って身で味わって来いと」
「はぁ、私がいうのもなんだが、その指示を出してきたエルフの師匠とやらは鬼畜だな…いや、ここの情報があるということは、この時代にもいる奴か」
『私の名前は出すなよ、愚兎。下手すればそこからさらに、カオスなことになるからな』
(は、はい)
ベル自身が遭遇しあったのはまだ良いが、この時代には過去にも現在にも同じ人物が存在している。
ここで迂闊に結びつけるような情報を漏らせば、どうなるか分かったものではない。
「しかし、未来の息子がこうなるとは…ああ、その紅い目はあの男を思い浮かばせるから、抉り出したくはあるが…」
「ひぃっ!!」
冗談でもなんでもなく、本気を感じさせる殺気。
自分の父親が一体何をしたのかと言いたくなる。
「妹を孕ませたあの男…やはり後で、ゼウスともどもヘラにチクるか」
思いっきり言い訳できないことを、しでかしていた。
『…ヘラの眷属に手を出したか。愚兎、これに関してはお前の父親のほうが一枚上手の愚かさだな』
ヘディンの物凄く呆れた声に、何も言えなくなるベル。
「…しかし、未来から来た息子と言うのも奇跡のような物か…ふむ、妹に会っていくか?」
「え…えっと、妹と言うと…僕のお母さんにですか」
「ああ、そうだ」
まさかの提案に、驚かされるベル。
自分の母親に…記憶としてはほとんどない相手を見る機会がやってきたのだ。
「ああ、その目玉で見る最後の景色と思え。終わったら、抉り出し新しい目玉を付けて置くぞ」
「さらっとかなりえぐいことをいってませんかね!?」
ずりずりと引きずられつつ、メーテリア…母の元へ、ベルは連れていかれる。
道中、過去のオラリオのあちこちで爆発が上がり、悲鳴や怒声に罵声、主にゼウスのやらかしやヘラの眷属たちのヤンデレ具合などが聞こえてくるが、改めて過去の世界なのだと思い知らされていく。
「って、あれは…フィンさんにオッタルさん…」
『ああ、あの頃は巻き添えに遭うことが多かったな。猪の場合は…大方、あの様子であればゼウスの眷属にでも挑み、あの小人はおそらくヘラの眷属に狙われたか』
現在であれば強者のはずの冒険者たちも、過去のココであればまだまだひよっこ扱い。
どれほどゼウスやヘラのファミリアがヤバかったのか、理解させられるだろう。
そうこうしている間にも、ついにたどり着いたヘラファミリアの拠点。
主神のヘラは今、ゼウスを煮込み料理にするための材料を買うために出払っているらしいが、奥の一室にメーテリアが…アルフィアの妹にして、ベルの母親がいるらしい。
「…あの妹の残り少ない寿命。きっと、未来を迎えられないだろう。だからこそ、ありえたかもしれない未来の一つの…お前の姿を見せたくなったのだ」
「…なるほど」
ぼそっとつぶやいた、アルフィアの言葉。
未来にはいない、メーテリアの姿。
だからこそ今、もしも見ることが出来たら…それをかなえようとしているのだろう。
『…過去へ飛ぶマジックアイテムだが、それはあくまでも過去のことであり、ここで未来が変わっても我々のいる未来とは違う世界になる。それも、わかっているようだ』
どうやらこの世界は確かに過去のオラリオだが、過去は過去として独立しており…ここに介入した今、現在のオラリオとは違う姿の未来へ進む可能性があるようだ。
そうなれば当然、ここにいる人たちも変わるのであり…僕自身、今のベル・クラネルはいない世界になる。
それでも、もしもの可能性で未来が見たいのであれば…これはこれでまたありなのだろう。
ベル自身、初めて会う生きた母親に内心緊張するのであった…
「言っておくが、目玉のほうは後で予約を入れておく」
「まだ考えていたんですか!?」