東電旧経営陣の無罪確定へ 最高裁、原発事故で上告棄却
2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣2人について、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は6日までに、検察官役の指定弁護士側の上告を棄却する決定をした。いずれも無罪とした一、二審判決が確定する。
事故発生から14年、強制起訴から9年を経て、当時の経営幹部に対する刑事責任追及は終結する。原発事故の法的責任を問う手続きは残る民事訴訟が焦点となる。東電の株主が起こした株主代表訴訟では22年に東京地裁が旧経営陣に13兆円超の支払いを命じ、東京高裁で審理が続いている。
無罪が確定するのは東電の武黒一郎元副社長(78)と武藤栄元副社長(74)。ともに強制起訴された勝俣恒久元会長は24年10月に84歳で死去し、同11月に第2小法廷が裁判を打ち切る公訴棄却の決定をした。
一連の公判では旧経営陣が①東日本大震災による巨大津波の襲来を予測できたか(予見可能性)②予測を踏まえて対策すれば事故を防げたか(結果回避可能性)――が争われた。
予見可能性の判断は、政府の地震調査研究推進本部が02年に公表した地震予測「長期評価」の信頼性がポイントとなった。
東電は08年、長期評価に基づいて原発を襲う可能性のある津波高を最大15.7メートルと試算した。武黒氏や武藤氏もそれを認識していたが、同小法廷は長期評価は積極的な裏付けが示されておらず、原子力安全に関わる行政機関なども全面的には取り入れていなかったと指摘。「巨大津波襲来の現実的な可能性を認識させる性質を備えた情報とは認められない」と信頼性を否定した。
結果回避可能性については、原発を止める以外の手段では事故を防げなかったが、当時の状況では困難だったとの一、二審を是認した。2人を無罪とした二審判決に「論理則、経験則に照らして不合理な点があるとは言えない」と結論付けた。
決定は5日付で、裁判官3人全員一致の結論。検察官出身の三浦守裁判官は審理に加わらなかった。検察官時代に事件処理に関わったためとみられる。
旧経営陣3人は事故後に告訴・告発を受け、13年に東京地検が不起訴処分とした。その後、検察審査会による2度の「起訴相当」の議決を経て、16年に指定弁護士が強制起訴した。
19年9月の一審・東京地裁判決と23年1月の二審・東京高裁判決は、いずれも禁錮5年の求刑に対して無罪を言い渡した。
民事訴訟では、東電の株主が3人を含む旧経営陣を訴えた株主代表訴訟で22年7月、東京地裁が「長期評価は相応の科学的信頼性を有する」との見解を示した。浸水対策を施せば重大事態を避けられる可能性があったとして勝俣氏ら4人に総額13兆3210億円を東電に支払うよう命令。双方が控訴し、25年6月に東京高裁が判決を言い渡す。
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