「無知な受験生を囲い込む、悪魔のような制度」自治医大の修学金貸与制度巡り卒業生の医師が提訴
「実は非常に大きな法的問題がある」
A氏が大学に在籍した期間は7年で、退職から1か月後、修学金2660万円と損害金1106万円の計3766万円を一括で返済するよう、大学側から請求されている。 代理人の伊藤弁護士は「一見すると、返すのは当然だと思われるかもしれないが、実は非常に大きな法的問題がある」と指摘。 指定された病院での勤務をやめた場合、修学金を直ちに一括返還しなければならないとする契約の定め自体について、次の理由から無効であると主張する。 「この問題の論点は3つあります。 まず1つ目は、病院を一方的に指定し、そこでの勤務を強制することは、居住・移転の自由(憲法22条1項)に違反するのではないかということです。 次に、労働基準法14条1項では、医師の場合、正社員以外は原則として、5年を超える期間拘束してはならないと定められています。ところが、A氏の場合は10年以上拘束されることが要求されました。 そして、最も重要なのは3つ目の論点です。 労働基準法16条では『使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない』と定められています。 つまり『退職する場合にはお金を払え』といった規定は禁じられており、今回のケースも同様ではないかと考えています」(伊藤弁護士)
「損害が生じることはないのに、お金を請求している」
また、損害金の問題についても以下のように違法であるとした。 「本件の制度では、損害金として年10%もの利息を支払わなければならないと定めており、われわれは消費者契約法に違反すると訴えています。 消費者契約法には、損害賠償の予定あるいは違約金について2つ定めがあります。9条1号では、平均的な損害を超える部分については無効と定めています。 自治医大の運営は都道府県の交付金により成り立っていますが、A氏が指定された病院での勤務をやめたところで、交付金がなくなることはありません。 つまり、損害が生じることはないのにお金を請求しているという点で、同法に違反するのではないでしょうか。 また、同法10条では『消費者の利益を一方的に害する条項は無効である』としています。 この点でも、民法では遅延損害金の法定利率を年3%と定めているのに対し(民法404条2項)、それを超える年10%の利息は、一方的に消費者の利益を害しているといえます」(伊藤弁護士)