「女性は理工系科目が苦手だ、というデータなどは存在しないのです」
さいたま市内にある芝浦工業大の大宮キャンパス。一昨年から副学長の職務をこなすシステム理工学部教授の磐田朋子さんはこう語る。同校で初の女性副学長は、人当たりも物腰も柔らかい。
工学部で学ぶ女性は2割未満
日本では大学、とりわけ理工系はいまだに男性社会という現実がある。文部科学省の調査(2021年)によると、四年制大学の工学部で学ぶ女性は2割未満にとどまる。経済協力開発機構(OECD)加盟国中でも工学系の女性比率は最下位で、「工学は男性」という思い込みが女子生徒の進路決定にも影響していることをうかがわせる。
磐田さんは東京大工学部の出身。当時籍を置いていた地球システム工学科で、女性は磐田さん1人だけだったという。
「同学年に女子がもう一人いれば、心が安らいだかもしれない」
男女平等はいうまでもなく、優れた才能を成長戦略に結びつけるためにも、理工系の女性比率の底上げは、国を挙げた課題となっている。
奨学金や寮、休憩スペースを整備
芝浦工大は18年、出願者を女性に限る「女子枠」を創設した。女子学生向けの奨学金や寮、休憩スペースも整備した。女子トイレにナプキンを配置するなど、安心して学べる環境を作っている。女子学生、卒業生、教職員らが情報交換などを行う「Shiba―joプラチナネットワーク」を設け、支え合う仕組みもできている。
大切にするのは多様性だ。独立独歩を好む女子学生もいる。
「些細(ささい)なことでも相談できる体制をつくりながら、支援は適度な距離感で求める人に届けたい」
こうした取り組みも奏功し、14年に13・8%だった同大の女子学生の割合(学部)は24年に21・8%まで上昇した。27年までに30%以上とすることを目標に掲げる。女子学生の割合が増えるにつれ、男子学生の側も「女性の視点からみるとどうか」と考えるようになってきたという。
大学院進学という選択
課題もある。大学院の女性比率が横ばいであることだ。理工系では、大学院で専門性を深めることが就職でも重要となる。ただ、「結婚したら仕事は辞めるんだから」と親にいわれ、進学を断念する女子学生もいる。
大学院進学という選択は女性のライフプランに影響を与える。就職や結婚、出産が先延ばしになる可能性もあるからだ。磐田さんもそうした「現実」を踏まえ、どのような改革を行うのが正解なのか、試行錯誤する日々だという。
女性比率が一定数に達すれば、おのずから女性が理工系を目指すサイクルが動き始めるはずだ。
「最終目標は50%」。磐田副学長の口調は穏やかで、力強かった。(堀川玲)