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印鑑が5万円!? 3店舗巡って知った、ハンコ業界の闇

「印鑑って5万円もするの!?」

11月某日、会社設立のために印鑑を探していた。

ネットで調べると5千円前後のものが多数出てくるのは知っていた。しかし、商品知識がないため、どれが良いのか分からない。

しかし、実際に実店舗に訪れてみると、提示される価格は5万円。一番安くて貧相なものでも2万円だった。

なぜ印鑑はこんなに高いのか。そして、どれを買えばいいのか。

そんな疑問を解消するべく私ははんこ屋を回ることにした。

1. 寂れた商店街の個人店

午後4時、カフェで一息ついた後、まず足を運んだのは五反田駅近くの店舗だ。古いビルにある、何の営業努力も感じられない年季の入ったショーケース。まさに寂れた商店街を代表するかのような風貌だ。

入店すると、30代くらいのやる気のなさそうな若い店員が「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。

私は「会社の印鑑(法人印)が欲しいんです」と要件を伝えた。

店員はカタログをめくりながら、木製のものが2万円、黒水牛製のものが4万円と提示した。

私はびっくりした。ネットで事前に調べた際は5000円くらいだ。どうしてこんなに高いんだろう?

私がそんな疑問を投げかけると、若い店員は言い放った。

「ネットの方が安いのであれば、そちらで買えばいいじゃないですか」

私はこれを聞いて不思議に思った。普通、客からこのような質問をされたら、自社のアピールポイントを話すはずだ。私は印鑑についての知識がない。だからこそ率直に聞いたのだ。

「いえ、通販サイトで検索したら出てくるものと比べて、何か優れていることがあるのか、ということを聞いています。」 

店員は答えた。

「当店ではそのサイトで売られている商品のことを知らないためわかりかねます」

あまりにも淡白で冷たい対応だ。あくまで私は客だ。営業をしに来たわけではない。この店員は私とコミュニケーションを取る気がないように見えた。

私は家電量販店の店員の対応を思い出した。家電量販店で値段の交渉をする際、ネットの価格と比較して安くするように言うと、ネットとは対抗できないと言われる。

ここで仮説が生まれた。

ーー ネットも実店舗も、商品の質は同じなのでは?

2. 有名チェーン店

その仮説を確かめるため、次に訪れたのは300店舗以上を展開する有名なはんこ屋チェーン。

「いらっしゃいませ」

40代くらいの女性店員に丁寧に声をかけられた。名札には初心者マークが貼ってある。

「会社設立をすることになりまして、会社の印鑑を探しています。」

「それはそれはおめでとうございます。」

会社設立なんて登記すれば誰でもできる。事務的に進めていた私にとっておめでたいことなのかは分からなかったけど、私は黙って話を聞いた。 

その店舗でも同様に、まずは中価格帯の4万円のものを提示された。私はIT関係なので、役所提出以外にはほとんど使わないだろう。使えればなんでもいいと話すと、2万円くらいの印鑑をおすすめされた。

先ほどの店舗と同様に聞いてみる。

「ネットでは5000円くらいでたくさん出てくるんですが、どうしてここではこの値段なんですか?」

店員は、そんなに安いのかと驚いたような表情をしていた。

店員は隣にいた店長に睨まれると、「この値段でやらしていただいています」、みたいな感じの答えをした。

一応作り方を聞いてみると、パーティションで区切られた裏側で彫刻刀を用いて作っているようだ。 

「会社の印鑑については知り合いにもう一度聞いてみます。ところで、個人の印鑑も作りたいと思っているのですがありますか?」

話が平行線で埒が明かないので、個人の印鑑の話をしてみることにした。

店員はいくつかの印鑑を持ってきた。しかし、それらの印鑑はすべて1万円以上だった。 私はこれを見ておかしいと思い、聞いてみる。

「私は10歳くらいの時に、銀行の印鑑を2000円くらいで作ってもらった覚えがあります。なんでこんなに高いんですか?」

私はそのことを店員に話すと、店員は、当店ではこの価格になっている、という話をしてきた。  

店員は、普通だという対応をしてきた。また、その店員は入社して間もないためわかりかねるとのことだ。そこに店主が話に割り込んで、その店員に話しかけた。 

「他店舗の話はしなくていいですよ。」

やっぱりおかしいと思った。普通、店舗は他店舗と比べてどう優れているかを強調するものだ。

私はこの2店舗を見て感じたのは、お客さんが入っているようには見えないことだ。私がネットの価格のことを話すと、店員はわざとらしくしらばっくれる。つまり、あんまり話したくないということ。

明確に話せない理由があるのではないか。私はそう考えて、別の店舗に行くことにした。

3. 住宅街にある家族経営の店

その後私は電車で帰宅する前に、住宅街にある別のはんこ屋に行った。

その店舗が個人店で、現金のみを受け付けると書いてあることを鑑みて、今回はネット価格のことは話さず、検討はしているけれど手持ちの現金はないという立ち位置にした。

私はドアを押して店舗に入ると、ベルが鳴った。この店舗は商店街の真ん中にあるのに、事務所は事務用品で散乱しており、店内は暗く、古いレジがショーケースの上に鎮座していた。とても儲かっているようには見えない。

そんなことを考えていたら、70代くらいの女性店員が裏から出てきた。
「会社の印鑑が欲しいんですが、ありますか?」

その女性店員は、すぐに店主に変わった。おそらくその女性店員は店主の奥さんなのだろう。

私は会社を設立する旨を話し、印鑑が必要なことを話すと、店主は色々なことを教えてくれた。

印鑑の品質と値段は材質で変わること。木製、黒水牛、象牙など、材質によって値段が変わる。そのはんこの材料は一個単位で卸業者から買っているためようだ。

ここでは木製の印鑑は1万5千円。銀行印は1500円からあると言われた。おそらく、実店舗としては他店舗と比べたら随分良心的なのだろう。

帰り際に名刺を見せてもらった。ここでは名刺も作っていると言っていたので話を伺った。そこでサンプルとして見せてもらったものは、地元商店街の名刺だった。おそらくこのはんこ屋は、地元商店街がリピート客になっていて、そこからの定期的な受注により生計を立てているのだろう。

4. 印鑑業界の闇とその背景

この3店舗を巡る中で浮かび上がったのは、印鑑業界が抱える「需要の減少」と「低採算性」の問題だ。

かつては個人の銀行印や実印が必要とされ、多くの人々に利用されていたはんこ。しかし、現代では電子決済や100均で簡単に手に入る印鑑が普及し、需要自体が激減。

そのため、実店舗は生計を立てるため、わずかな顧客に対して高価格で販売せざるを得ず、結果として「実店舗では異常に高い」という現象が起きているのだろう。

仕入れは卸から行われ、店主が手作業で文字を彫るという工程もあるものの、その工程自体はどこも同じ。差別化のしようがなく、実店舗もネットも売っているものは同じ。

印鑑は、一見すると伝統と職人技が光る分野のように思える。しかし、現実は需要の低下と低採算性から来る、ネットを使えない層に対する「高額販売」というビジネスモデルに依存していた。

知的好奇心を満たした私はそのように日記に記すと、楽天で3,950円の黒水牛製の印鑑を購入した。


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