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【23歳】 講演でヨーロッパに呼ばれた話

「大学の授業で講演をしないか?」

2024年11月26日、私のもとに一通のメッセージが届いた。

メッセージをよく見てみると、なんと12月3日にハンガリー・ジェール大学に来てほしいとのこと。

相手には既に上司と話がついているらしく、本気度がうかがえた。

そういえば、以前学会で会ったときに「本を書き終えたら呼ぶよ」と言われたのを思い出す。

そのときはまだ本の執筆途中だったので「機会があればぜひ」と流していた。11月の中旬に無事に本を書き終えたことを伝えたところ、本当にオファーをくれた。しかも、飛行機代を出してくれ、滞在用のアパートも貸してくれるという。

この好条件はめったにない。しかも私のために色々手配してくれている。その厚意を無駄にするのも申し訳ない。それに、ヨーロッパで観光もしてみたかった。

12月のヨーロッパはクリスマスシーズン。街全体がライトアップされ、各地でクリスマスマーケットがやっている。観光するには一番いい時期だと聞いていた。

出発は1週間後。予定はどうしよう…?

とはいえ、出発まではたった1週間。私のカレンダーには相当な数の予定が詰まっていた。たとえば12月4日には本の契約日もあるから出版社に行かないといけない。会社の設立手続きも途中だ。

私は悩んだ。本を書き終わってすぐのこの時期に日本を2週間以上も離れていいのか。しかも年末間近のこのシーズンだ。

しかし、よくよく確認すると契約日以外の予定は比較的融通が利きそうだった。未来は1週間しか考えないのが功を奏した。10分ほど悩んだ末、私は思い切って行くことを決めた。

指導教員の伊藤先生にそのことを伝えると、「オンラインでやったらどうだ」とか、「観光が目的じゃないのか」などとからかわれた。

もう卒業しているので特に許可を取る必要はないけれど、一部の講演や論文執筆は伊藤先生といっしょに行っている部分があるため伝えた。

しかし、ワインを買ってくることを約束し、さらには「燃え尽き症候群でどのみち仕事は進まないだろうから行っても変わらない」と言うと、最終的には「先生の知り合いに挨拶してきてね」と、笑いながら承諾してくれた。

燃え尽き症候群で疲弊した私

実際、私は7ヶ月以上かけた本の執筆の疲れでぼろぼろになっていた。書き直しも二度経験し、そのたびに小説的な文章の書き方を学びながら進めたため、実質的に200日連勤。執筆が終わったときには燃え尽き症候群のようになっており、心底羽を伸ばしたかった。

詳しくはこちらを参照↓

そこで、私は12月5日からの一連の予定をキャンセルするか延期してもらい、公演日は12月6日に変更してもらうことで、単身ヨーロッパへ飛ぶ段取りを整えた。

ただし、一部どうしても外せない仕事はオンライン対応に切り替え、周囲には「どうせなら楽しんでおいで」と快く送り出してもらった。

後日、私はとある銘柄のトカイワイン(ラベルに大きく「5」の数字が入った甘口のもの)をお礼に送ることになるのだが、それはまた別の話だ。

必要最低限の荷物を詰めた機内持ち込みサイズのスーツケースと、パスポートとクレジットカードさえあれば何とかなる。いざとなれば現地で買えばいい――そんな軽い気持ちで準備を進めた。

ただし、講演のプレゼンだけは手を抜かなかった。ヨーロッパで実績を作りたいという強い思いから、実に50時間ほどかけて念入りに作り上げた。

というのも、学会でいくつか賞を受けてはいたものの、当時の私はまだ学士卒の23歳。博士号を持っているわけでもない。

だから、指導教員の伊藤先生のように海外を飛び回るような機会が簡単に巡ってこない。

今は本がベストセラーになって状況が随分良くなったけれど、当時の私にはそうそう簡単には機会は訪れなかった。

日本でももっと講演の仕事をしたいし、欧州で研究や開発に携わるチャンスが増えたら、と考えると、これほどの好機を逃す手はない。

「ここでがんばって講演を成功させ、そのあとは2週間くらい、思いっきり観光を楽しもう!」

そんな計画に心が躍った。

飛行機に乗った"猫"

こうして、12月4日の深夜便に乗り込み、フランクフルト国際空港を経由してウィーン国際空港へと向かった。機内では幸運にも隣の席が空いており、2席分を使って猫のように丸くなりながらしっかり睡眠を確保できた。

おかげでフランクフルトでの乗り継ぎもスムーズにこなし、ウィーンへ到着した後は、アパートに入ってからしばらくは寝て過ごしつつ、目が冴えたら_プレゼンの最終調整をするという日々を4日、5日と繰り返した。

結局、授業当日まではほとんど寝るか作業するかの二択だったけれど、そこまでの集中力を発揮できたのは「ここに私の未来をかけるんだ」という覚悟があったからだと思う。

発表当日

12月6日の朝8時、私は目を覚ましてハンガリーのジェール大学へと向かった。大学に着いたのは8時半。そこからお昼の12時まで、私にとって初めてのヨーロッパでの講演がスタートした。

テーマは「ChatGPTを用いて成果物を作る方法〜怠惰な学生でも高品質な仕事をするために〜」。

私のことを自虐的に「怠惰な学生」と表現しているが、これは聴衆にも「自分たちも同じかもしれない」と親近感を覚えてもらえたら、という狙いがあった。

そして、この表現は今の私と比較してもあながち間違いではない。私は好きな仕事しか本気で打ち込めないから。

まず30分ほど講義を行い、その後はプログラミング実習へ。

私自身が常々感じているのは「ChatGPTに任せてサボるのは自由だが、成果に責任を持て」ということだ。ただ漫然と回答をコピペするのではなく、自分で理解し、検証し、必要に応じて修正していく。技術的な知識がなければ、生成AIを使うにしても本当に欲しい答えは得られないし、そもそも内容の正しさを確かめることさえできない。

こうした私の姿勢と指導が功を奏したのか、学生はとても凝ったゲームをつくってくれ、呼んでくれた研究者の方やその上司にも「学生が真面目に取り組んでいて驚いた」と好評をいただいた。

私としても、プログラミングやレポート作成の手間を省きたいという動機から逆説的に興味が湧き、結果として理解や学習が深まるという流れを提案できたことが、大きな手応えとなった。終わってみれば大成功。

「また来てね」「一緒に研究をしよう」とまで言ってもらえた。

片付いた、遊ぼう!

講演の後は、ブダペスト、ウィーン、そしてコペンハーゲンといった都市を巡り、ヨーロッパ観光をたっぷり楽しんだ。私は2週間ほど滞在し、その間は仕事から完全に離れてリラックスするように心がけた。

もちろん最低限のやるべきことはオンラインで対応したけれど、それでも1日2時間程度に抑えられたので、実質的には休暇だ。

現地の大学や研究施設を再び訪ねる機会もあり、そのたびに「よくそんなに長く休めるね」と驚かれはしたけれど、事情を話すと「それなら仕方ない」と納得してくれ、さらに各地の観光スポットを教えてくれたりもした。

この2週間ほどの滞在で心身ともに解放された私は、帰国するときにはすっかり燃え尽き症候群から抜け出していた。実際、周りの人からも「元気になったね」と言われたので、リフレッシュできたのだろうと思う。よっぽど疲れ果てていたんだなぁ…。

振り返ってみて

こうして振り返ると、まるで遊びに行ってばかりのようにも見えるけれど、私としては「成功させたい勝負どころ」でしっかりと努力したからこその成果だと考えている。前述したとおり、講演準備には50時間近くかけたし、講演そのものも高く評価された。

遊ぶと決めたら仕事は徹底的に切り上げる、働くと決めたら思い切り集中するというある意味メリハリがあっていいのかもしれない。

そもそも私のアイデンティティは、どちらかというと「仕事のために生きる」のではなく「遊ぶために仕事をする」。今回はまさにその考えを地で行った形だと思う。

帰国後は、講演・インタビュー依頼、ソフトウェア開発、研究活動、本の宣伝などに忙殺される日々に戻った。

それでも、あの2週間のヨーロッパ滞在を思い出すと、不思議とやる気が湧いてくる。「また行きたいな」「次はどんな新しい挑戦が待っているんだろう」。そんな思いが胸に広がると、自然と足が前に進む。

今は多岐にわたる仕事を抱えながらも、自分のアイデンティティに忠実に動いている。

そんなふうに、私の「ハンガリー講演とヨーロッパの旅」は終わりを迎えた。本当に行っていいのかと当時は悩んだけれど、今となっては本当に行ってよかったと心から思う。

執筆後の燃え尽き症候群から私を救ってくれたのは、新しいチャンスと異国の刺激、そして何より「遊びたい」「新しい世界を見たい」と願う私の気持ちだったのだろう。

急な予定の変更にも笑って送り出してくれた、私の周りの方々にもとても感謝している。

またいつの日か、ヨーロッパへ講演に行き、観光も満喫したい。次はどんな出会いと学びがあるのか、今から待ち遠しくてたまらない。


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