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同期が"大人"になってしまった

4月1日、私が新入社員として就職した日のことを、今でもはっきりと覚えている。

前日深夜までDiscordで「明日から会社か……行きたくないなあ」と酒を片手に友人たちに愚痴をこぼしていた私だったけれど、実際に出社してみると会議室の雰囲気は大学のサークルとほとんど変わらなかった。

入社式を終えたあとのオリエンテーションでは、久々に会う同世代の人たちとの雑談が意外と楽しくて、緊張している私を和ませてくれたのを思い出す。

同期の顔にはどこか学生の名残があって、皆「まだ社会人なんてピンとこないよね」という空気を共有していた。仕事よりも「週末に何しようか」「旅行に行きたいね」といった話題のほうが盛り上がり、私も「なんだ、社会人って案外ゆるいのかも!」と妙に安心したりもした。

しかし、それも束の間。3ヶ月ほど経つと、周囲の様子が少しずつ変わり始めた。

最初は「週末何しようか」「旅行に行きたいな」と話していた同期たちが、「社会人としてOOをした方がいい」、「NISAや保険はどれにしよう」、「早く仕事を覚えるために頑張らないと」と、“社会人としての常識”を説くようになっていく。そして半年も経つ頃には、ほとんどがどこか“立派な社会人”になりつつあったように見えた。

組織に順応し、ルールを守り、効率的に仕事をこなす……世間が言う「大人として当然」の姿が、そこにはあった。

私は、その変化をただ眺めながら、うまく言葉にできない違和感を覚えていた。

もちろん、組織の一員として求められる行動はあるし、社会的観点からすれば同期たちのほうが“立派”に見えるのだろう。

けれど、あまりにも急激に、そして自然に自我が薄れていくようなその姿に、どこか寂しさのようなものを感じずにはいられなかった。

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1. 出張で感じた違和感

私は仕事の関係上、学会や講演などで出張をする機会が多い。

もっとも「会社に行かされる出張」ではなく、基本的には個人的な依頼や学会等の関係で行っていたので、日程の自由は比較的ききやすい。

そういった場面では、私はいつも「このまま帰るのはもったいない」と思い、理由を付けては滞在を延長し、観光をすることにしている。

たとえば、以前ハンガリーに行ったときも、講演の仕事を終えたらブダペスト、ウィーン、コペンハーゲンと、2週間ほどそのまま現地を巡っていた。

こんな旅先でのちょっとした自由が、私にとっては何よりの楽しみだ。観光がしたくて講演の仕事を貰っている側面もあるし、実際こういった思い出は私の大切な財産だ。

実際、学生の友人はそういう話題にとても興味を持ってくれる。

「いいなあ、どこに行ったの?」とか「せっかく行くなら観光しなきゃもったいないよね」と、私の体験を面白がってくれる。

ところが、会社の同期や、同年代の友人、年上の社会人の知人などにこのことを話すと、全く違う反応が返ってくる。

「ハンガリーで講演があったから、ついでにしばらく旅行してきたんだよね」と話すと、「え、仕事が終わったなら、すぐ帰ってこないと」とか、「日本を長期間離れちゃ駄目だよ」、「社会人なら、仕事だけ済ませて戻るのが普通じゃない?」という反応が返ってくるようになった。

もちろん、私の行動そのものを全否定するわけではない。それでも「社会人だからね」という言葉が、まるで“当たり前の正解”を押しつけるようで、私にはどこか居心地が悪かった。

2. 背伸びした会話

大学を卒業して3ヶ月も経つと、、同世代の会話が「OOという資格を今取ろうとしている」「どこの保険に加入した?」「NISAで資産運用始めた?」といった、いかにも“社会人らしい”話題へと変化していった。

まだ就職して数ヶ月しか経っていないとはいえ、彼らがそういった意識を持つことは決して悪いことではないだろう。むしろ、組織の中でスムーズにキャリアを築いていくには大切なことかもしれない。

ただ、私には「みんな、学生の頃に持っていたはずの自由な発想や好奇心はどうしたんだろう?」という疑問が拭えなかった。数ヶ月前までは、週末の予定や旅行先、あるいは好きな趣味の話で盛り上がっていたはずなのに、今は誰もそんな話をしなくなった。

まるで「社会人になる」というのは、自分の興味関心を“子どもの遊び”として捨て去り、“正しい大人”の行動原理を最優先にすることだと信じ込んでいるかのようだった。

同期の中には「義務だから仕方ない」「社会人としての責任だから」と言いつつも、どこか無理をしているように見える人もいた。

それでもやりきれているならいいのかもしれない。けれど私には、それがまるで“ロボット”のようで気味が悪くもあったし、本人たちが本当に満足しているのか疑問だった。

3.  変化する友人関係

こうした価値観のズレから、私は次第に同世代の友人と距離を置くようになっていった。

別にケンカをしたわけでも、はっきりと否定し合ったわけでもない。単純に、話がかみ合わなくなっただけだ。

週末の過ごし方ひとつとっても、「仕事の疲れを癒やすために家でゆっくりするか、自己啓発のために勉強するしかないよね」となり、全くおもしろくない。

その一方で、私は仕事で出張や講演などをこなす過程で、気の合う友人や知人に出会う機会が増えた。学会やハッカソン、講演などで知り合った人たちとは色々なところで会う。私にとってはいつの間にか“自分の居場所”が増えた気がしている。

学生の感覚をまだ失っていない友人も含め、そういった人々は未だに「どこへ行ったの?」「何してきたの?」と私の話に興味を持ってくれる。

おわりに

社会人になったら“こうあるべき”、組織のルールに従って効率的に働くのが“当たり前”だという同調圧力は、確かに現代社会では避けづらい。

彼ら・彼女らがすべて悪いわけではないし、むしろ立派に責任ある大人として振る舞っているのだと思う。

ただ、半年前までは「社会人って何だろうね」「早く終わらないかな」と冗談を言い合っていた同期たちが、急に真顔で“社会人の常識”を説き始めるのを見ると、人間の成長というより、どこかロボットがアップデートされたように思えてしまう。

もちろん、将来設計をきちんと考えたり、資産運用や保険のことを見直したりするのは大切なことだと思う。

しかし、「社会人になったから仕方ない」という言葉だけで、自分の好奇心や個性を抑え込んでしまうのは、少しもったいない気がしてならない。仕事に真面目に向き合うだけが“大人”ではないし、遊び心をもって新しい環境を楽しむやり方だって、社会の中で生きる選択肢の一つだ。

私は会社を設立した今でも、まだまだ大学生の頃の自由さを捨てきれないし、捨てるつもりもない。自分が「面白い」と思ったことに飛びつき、好きなときに旅へ出かけ、そこで得られる経験を糧にして生きている。

それは世間が言う“立派な大人”の姿とはちょっと違うかもしれないけれど、こんな生き方でも案外なんとかやっていけるのだ。

これからも私は、真っ当に社会人になるというより、自分の好きなものを追いかける、自由さとフットワークの軽さを大事にしたいと思っている。


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