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 さいなら・Ⅲ  [作文]

いつものように朝遅く目覚めたあっしは、ゆうべは 唯一無二の呑み仲間である蟹田氏に パソコンの調子を診てもらい、氏の正体が何物であるか ますます翻弄されつつも、すれ切れた畳に丸くなり 高いびきをかく氏を横に あっしも眠りについたことを思い出しやした。
あっしが氏を何物であるかを探れば、氏は またいつもの如く ヒラリと交わすと解っていながらも 追求せずにはおれないものがありやした。
中身の解らぬ匣は 開けずにはおれない------人間というものは そういうものなのかも知れやせん。

氏が丸まっていびきをかいていた場所には、あっしが掛けた毛布が きちんと畳まれておりやした。
-------「蟹田さん?」
便所でやしょうか?
しかし、我がすり切れた四畳半一間は 隅々まで しんと静まりかえってやした。
すぐそこのコンビニにでも行っているのでやしょうか?

画面はまっくろでやしたが、氏が切ってから二人共眠った筈のパソコンの電源が ОNになってやした。
キーボードのF5を押しやした。
あっしのブログの 今日十二月十六日公開記事「短歌『絶望』」が立ち現われやした。
記事の下方の ナイス欄とコメント欄を表示しやした。
みなさんからの 幾つものナイスマーク あたたかいコメント・・・さいなら3い.jpg
その中に-----
「さいなら by 蟹田」
・・・・???
あっしは ごしごしと瞼をこすりやした。
-----えっ?! 蟹田さん、さいなら って・・・・?!
さいなら って どういう意味でやすか?
そう言えば、ゆうべ 「わいの役目は終わりや」って言ってやしたね。
役目が終わったって どういうことでやすか?
さいなら って 永久の別れのさいならでやすか? 
来年も再来年も一緒に呑みたいでやす! さいならなんて嫌でやす!!
コメントが書き込まれた時刻を見ると、まだ ほんの二十分ほど前でやす。
あっしは、顔も洗わず髪も整えず ねずみ色のゴムぞうりをつっかけ すり切れた四畳半を飛び出しやした。
今なら 氏はまだ 西荻窪駅で電車を待っているかも知れやせん。

中華料理屋や安売り店がガラガラとシャッターを上げる まぶしい西荻商店街を駆け抜けやした。
蟹田さん! あなたはやっぱり あっしに勝るとも劣らぬアナログ人間だったなんていうのは嘘だったんでやすね!
あっしより後にパソコンを始めたなんてのも嘘だったんでやすね!
だって よくよく考えると、「ソネクジ」の一言で、インターネットをやっていて プロバイダーはソネットを利用しているなんて、アナログ人間に察することのできる筈はありやせんものね。
米屋の前、スズメの群れが飛び立ちやした。
「カイザーのド素人めが」って言ってやしたね。さいなら3り.jpg
あなたはパソコンのプロなのでやしょう?
カイザーって、「いきさつ」で あっしに中古のノート型パソコンをくれた 山高帽に白塗りカイザーひげの のっぽの男でやすよね。 ゆうべの画面にも現れた。
あの男とは知り合いだったのでやすね!
それに、その前の晩に あっしがころがり落ちて騒動に巻き込まれた店-----あんなにめちゃくちゃになった店内の動画を観ても ちっとも驚かないなんて。 
もしかして-------
肉屋のコロッケを揚げる音が 一瞬にして過ぎやした。
もしかして 蟹田さん、あなたは ほんとは IT関係で成功して 新宿で幾つもの飲食店を経営する実業家なんじゃないでやすか?
あの よれよれの黒いTシャツやトレーナーに ボサボサの白髪頭からは いささかとっぴな臆測だと思いやしたが、しかし そう考えると 何もかもつじつまが合うのでやした。
あっしがいつも呑んでいる新宿東口のあの界隈には 氏の経営する飲食店が点在し、すると あっしが偶然ころがり落ちた巨大な水槽のある座敷の店も 蟹田氏の店だったとしても そう不思議なことではなく、カイザーも 氏の経営する 芝居を演る飲食店の従業員である-----と。
カイザーは、あっしが水槽の店で失くしたあっし愛用のゴムぞうりをあずかっていた。
のみならず、「ぼんぼちぼちぼち」というあっしのニックネームも 最初っから知っていた。
あなたは 変わり者でひねくれ者で一筋縄ではゆかないに決まっているあっしに、こんな作戦でもって ブログデビューに導いてくれた。
これで、何もかもつじつまが合うのでやす。
否、あっしが 無理矢理 つじつまを合わせようとしているだけに過ぎないのかも知れやせん。
山らしきものの一部を見ると そこにあるのは山である と思いたい、山である筈だ-----人間というものは、そう思考せずにはおれないものなのかも知れやせん。
駅前アーケードのピンクの象さんの下を駆けやした。
蟹田さん! まだホームにいてくださいでやす!!

西荻窪の駅舎に着きやした。さいなら3ほ.jpg
改札を通ろうと------ あっしは 余りにも動転していたために 財布もスイカカードも持って出なかったことに気づきやした。
中央線上りホームの見える場所は・・・・
あっ! あの場所からなら!!
駅北側の交差点に出やした。
上りホームにパラパラと人影が見えやす。 電車は行ったばかりではないようでやす。
ホームを真正面に向き立ちやした。
「蟹田さーーーーん 蟹田さぁーーーーーーーん」
あっしは 両手を口の脇にそえ、全身でもって ありったけの声を飛ばしやした。
北口商店街の人達や通行人になぞ どう思われてもいいと思いやした。
「蟹田さぁぁーーーーーーーーーん! 蟹田さぁぁぁーーーーーーーーーーーーん!!」
これっきりなんて嫌でやす! 来年も再来年もその次の年も お互いに毒づき合いながら呑みやしょうでやす!!
「蟹田さぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!・・・・・・かっ・・・・・」
駄目だと思いやした。
氏は もうすでに、中央線上り電車に揺られて行ってしまったのでやしょう。
がっくりと 両膝に掌を置きやした。
あっしは裸足であることに気づきやした。
全身で駆けてきた途中、愛用のゴムぞうりは どこかにすっとんでしまったようでやした。
師走のアスファルトが あっしの足裏を ひた と冷してやした。

「おぅ ぼんぼちぃ、来てくれたんか」
あっしが顔をあげると------
ホームの上、蟹田氏が微笑んでやした。
その微笑みには、優しさと 寂しさと あっしを包み込むような何か大きなものが溢れてやした。
「蟹田さんっ! さいならって あっしともう一緒に呑まないってことでやすか? わいの役目は終わりやって どういう意味でやすか?! なんで さいならしなきゃならないんでやすか?!!」
氏のぶしょうヒゲに囲まれた口元が 寂しく笑いやした。
「蟹田さんっっ!! 蟹田さんっっっ!!!」
氏は、焦点の合わないようなまなこで あっしを見下ろすばかりでやした。
-----「蟹田さん! あなたは 一体 誰なんでやすか??!!」
一旦 足元に視線を落とした氏のまなこが 力強く テラ と光り、まっすぐに あっしに注がれやした。
氏は、一つ 大きく深呼吸しやした。
「わいのソネットブログのニックネームはな・・・」さいなら3と.jpg
氏の前を 特別快速がゴーーーーッと通り過ぎてゆきやした。
再び姿が見えた時、すでに言葉を終えた氏は 苦笑してやした。
「わいのブログマークはな・・・」
あっしの前を 2tトラックが永ちゃんの歌を響かせながらジャガジャガ過ぎてゆきやした。
すでに言い終えた氏は、足元を見ながら 首を左右に振って笑ってやした。
再び 氏のまなこがテラと光り、あっしにより強く注がれやした。
「わいが誰かっちゅうとな、・・・・わいはな」
氏は ホームの屋根を見て 大きく呼吸をしやした。
「わいは・・・」
また 上りの中央線がすべり込みやした。
が、今度の電車は 停車しやした。
車扉の大きな窓に 氏の姿が現れやした。
と、その脇には、山高帽に白塗りのカイザーひげの男が立ってやす。
乙姫様のように美しいママさんと 名古屋章似の板長 若い板さん達も、並んで こちらを見下ろしてやす。
車窓からは、黒子二人が 互いに 押し合いへし合いしながら 上半身を乗り出し、棒の先に付いたカゴから 紙吹雪をユサユサまいてやす。
蟹田氏の口が パクパクと動きやした。
「・・・・えっ?」
そうしたところで聞こえる筈もないのに、あっしは 耳の後ろに 掌を やや丸めて沿わせやした。
電車がすべり出しやした。
氏は かすかに寂しく微笑んだまま、まっすぐ前を向いておりやした。
「・・・・蟹田さん・・・・蟹田さん・・・・」
カラのホームに 紙吹雪だけが舞い踊りやした。
あっしの視界に映るものは------ホームも 信号機も パン屋サンジェルマンも タクシーも 横断歩道も------何もかもが 水底にあるように うにょうにょに歪みやした。
あっしの足の甲に うにょうにょの三角の紙吹雪が一枚 舞い落ちやした。

あっしはいつから蟹田氏と呑み交してしたのか------ブログを始めた去年の九月よりは前であったことは明らかでやすが------それがいつからだったのか 思い出せやせん。
カラの椅子にボワッとその存在が浮かびあがり 動き出すように、氏は いつの間にやら あっしの横で ビールの泡を口角にくっつけて 揺れていたのでやした。
あっしの臆測は、荒唐無稽で トンチンカンで まるきし見当はずれかも知れやせん。
単なる偶然を 必然と思い込みたいだけかも知れやせん。
氏を あっしの人生に於ける水先案内人と信じたいだけかも知れやせん。
しかし------
さいなら3ぬ.jpgあっしは ブログという手段にたどり着き、この一年余の間 とどこおりなく つつがなく更新を続け、己れの何がなんでも吐き出したいものを吐き出し終わり、そして これからは 余裕の気持ちでもって続けてゆけるという幸せを掴めたのは まごうことなき事実でやす。

その日の夜、飲み屋「どん底」の扉を押してみやした。
が、氏の姿は 薄暗いカウンターの一番奥に 見えやせんでやした。
次の日もその次の日も、ぐい呑みを手に 待ってみやした。
しかし やっぱり、よれよれのトレーナーにボサボサの白髪頭は、現れやせんでやした。
あっしのブログのナイス&コメント欄に 蟹田氏は毎日のように入力してると言ってやしたが、相変わらず それがどれなのか 解りやせんでやした。
けれど ソネットブログは、同ブロガーの多くのみなさんが「重い重い」と書かれている時も、あっしのは それほどでもなくなってやした。

蟹田氏は 目前に居るのにそこに居ないような 存在自体が虚構のような 不思議な男でやした。
いえ、虚構のような ではなく あっしが居ると思いこんでいただけの 虚構だったのかも知れやせん。
ブログの世界 インターネットの世界といったものも、あっしらが頭の中で必死に創り上げているだけの 虚構なのかも知れやせん。
否、あっしという人間そのものも、あっしが自分は実在していると思い込んでいるだけの 虚なのかも知れやせん。
しかし、だとしても、あっしは ブログを書き続けないわけにはおれないのでやす。
虚なるあっしの 虚なる 虚しい作業だとしても、ブログを書くことで あっしは 初めて呼吸(いき)づくことができたのでやす。
たとい、それすらも、虚なる呼吸であったとしても。

さいなら3を.jpg


                        -------完-------



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 生  [短歌]


人波.jpg



          人波は 顔 声 持たぬ エキストラ ラストは如何に 人生映画




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 さいなら・Ⅱ  [作文]

蟹田氏とあっしは、終電よりひとつだけ前の 中央線下り電車に 揺られておりやした。
あっしのデスクトップパソコンが 買ってまだ半年にしては重すぎるようなので 蟹田氏に診てもらうために。
さいなら2あ.jpg
車窓に映る あっしと並んで吊り皮を掴む氏を ちらと見やした。
氏の小さな黒いまなこは、何か思いつめたように ただ真正面を凝視しておりやした。
「どん底」でのただならぬうち沈みようといい、パソコン初心者の筈なのに 突然 あっしのパソコンを診る と言い出すところといい、元々 謎に満ちていたこの男は、一旦は解明できたかに見えても やっぱり相変わらず あっしにとってのパソコンの中身のように 謎だらけなのでやした。
その 尋常ならぬ無言の緊張に、あっしは、何も話しかけることができやせんでやした。

パソコンを始めて一年ちょっとのあっしよりも後に始めたのに違いない あっしに勝るとも劣らないデジタル初心者の筈の氏が パソコンの調子を診るなど できるのでやしょうか?
-----あっしの頭蓋に 夏 ノート型パソコンに踊っていた 氏の魔法のような指使いが 再び よぎりやした。
デジタル初心者だという事と あの指使いは どう つじつまを合わせればいいのでやしょうか?
人一倍負けん気の強い氏のことなので、あっしにおいてけぼりを喰らうのがよほど嫌で 命がけで 毎日 キーボードを叩き続けていたのでやしょうか?
-----それとも もしや、あっしに勝るとも劣らないアナログ人間だったなんていうのは・・・・?
だとしたら 何の為に・・・・?
さいなら2う.jpg
あっしんちのある西荻窪駅に着きやした。
駅からあっしのアパートへの路、氏は あっしの一歩後を 重たい無機質の塊のように あっしと まるで同じ速度で 影のようについてきやした。
無機質の塊は あっしを圧迫し、あっしは ますます声すらだせなくなり、擦り切れた畳の四畳半一間のアパートへ ただただ 歩を進めるしかありやせんでやした。
いつものあったか商店街が 海底に並ぶ鉛のように 冷たく 口をつぐんでやした。

部屋の鍵を開け 畳すれすれまで足した蛍光灯のヒモを引っ張りやした。
氏は ずかと上り、パソコンの前にあぐらをかき、電源を入れやした。
ブログが重いのは ソネット プロバイダーの問題の筈なのに、それを軽くするなど 可能なのでやしょうか?
蟹田氏の両手の指が あの夏の日と同じに パラパラと魔法のように踊りやした。
瞬時に 数字や記号のびっしりと並ぶ あっしが見たこともないような画面が 現われやした。
氏は やはり、あっしより後にパソコンに触れたデジタル初心者などというのは 嘘だったに違いありやせん。
毛むくじゃらの指が踊り、別の数字や記号のられつが現われやした。
一体 何の為に そんな嘘をつく必要があったのでやしょうか?
再び 魔法の指が、数字と記号を 立ち現わせやした。
あっしは 茶を入れようとしていたことも忘れ、蟹田氏の脇に正座をして 魔法の指と 画面と 氏の横顔に 見入りやした。
氏は、氏自身もデジタルの一部になったように 淡々と 無表情に 画面に向いてやした。
隣りの部屋の住人が帰ってきたらしく ガチャリと鍵の開く音がしやした。
「ぼんぼち、お前 前のパソコンから これに替えた時、自分で中身の引っ越し作業やったんか?」
魔法の指を踊らせながら 突然、ぶしょうヒゲに囲まれた 氏の口が動きやした。
「えっ?・・・・・いや、あっし一人じゃ とても出来やせんよ。 散歩仲間に・・・・過去記事『薄暮より白暮』に登場した 中央線沿線の友達にやってもらったんでやす」
「前に入ってたモン、丸丸移したやろ」
「へい・・・・だって、プログを書くのに必要なこと以外は 入ってないでやすから」
「ふっ・・・それは、どやろな」
魔法の指が、また パラと舞いやした。
すると------
白塗りにカイザーひげの山高帽の男の顔が 画面いっぱいに映し出されやした。
「いきさつ」でみなさんにも打ち明けた 新宿西口で 中古のノート型パソコンを あっしが正直者だからとくれた 奇妙なのっぽの男でやす。
キャメラ目線で 大仰に口を動かしてやす。
白塗りのカイザーひげが いっぱいの紙吹雪に 見えなくなりやした。
キャメラが右にパンし、長い棒のついたカゴから 紙吹雪をゆさゆさする黒子が、そして 今度は左にパンし、やはり ゆさゆさの 別の黒子を捉えやした。
「いきさつ」で、白塗りカイザーのシモベのようにかしずいていた 「三角」と「四角」と呼ばれていた 黒子二人でやす。
チラ と手前に写る 頭やテーブルの上の物から、どうも 飲食店の一部にしつらえられた舞台のようでやす。
魔法の指が またまた パラ と舞いやした。
粉粉になったガラスの上、あちこちに 魚がぴちぴち跳ねてやした。
小上がりの座敷席、ぽっかりとシシの口のように穴の開いた巨大な水槽、立ち尽くす乙姫様のような美女と 名古屋章似の板長 若い板前達・・・・
まごうことなく あっしが「いきさつ」の日に転がり落ちた店内でやした。
さいなら2え.jpgそして再び パラと魔法が舞いやした。
よれよれの黒いトレーナーに ボサボサの白髪頭のずんぐりした後ろ姿が 画面いっぱいに出現しやした。
「あっ!!!」
白髪頭が振り向こうと・・・
あっしは息を飲み、そのまま呼吸ができなくなりやした。
「ふふっ・・・カイザーのド素人めが・・・」
-----えっ?! カイザー?・・・というと、あの白塗りにカイザーひげの男は 蟹田氏の知り合い???
蟹田氏は苦笑し、また魔法をちらしやした。
一本の 横に伸びる棒グラフみたいなのが、満ちては消え 満ちては消え もっかい満ちては消えやした。
今度は 新宿の様々な場所が、それはもう 数え切れないほど次から次へと 出現しやした。
花園神社 三丁目の交差点 思い出横丁 大久保へと抜ける小路・・・・
棒グラフが、満ちては消え 満ちては消えを これもまた 数え切れないほど 繰り返しやした。

さいなら2お.jpg「ふぅぅっ・・・」
氏は、あぐらの膝に両手首をだらりと置き、枯れたヒマワリのようにうなだれやした。
「これで だいぶん 軽ぅなったわ。 ま、プロバイダーそのもんか停止してもうた時は しゃあないけどな。 ぼんぼちに 前のパソコンくれたモンが 動画消したつもりで なーーーんも消えとらんかったんや。 それが重ぅなってた原因や」
ポソリと あぐらの足の間に 声を落としやした。
そして、ごろりと丸くなり 目をつむりやした。
「お前、おととい公開したブログまでで 己れの何がなんでも吐露したかったモン ぜーーーーんぶ吐きだしたやろ」
かすかに寂しく口元が笑ったかと思うや、ガーガー高いびきをかき始めやした。

その通りでやした。
あっしは おとといの十二月十三日公開の「山田孝之氏・探し続けていたリアリズム演技」という記事まででもって、己れの どうしても 吐露せずにはおれなかった 言わば 内的な膿のしぼり出しの如き作業を 終えることができたのでやした。
どの流派にも所属することのない 無手勝流の短歌をこさえ、表現の何たるかの持論を説き、己れの精神を大きく救い上げてくれた五人の表現者へのオマージュを綴ることで、あっしは、あっしがそれまで手段が解らず たどり着きたくてもたどり着けなかった所へ 身を置くことが叶ったのでやす。
そして、これからは 余裕のうちに 少ぅしのんびりとした気持ちで ブログを続けてゆこうと 考えていたのでやす。

まったく いつだって、蟹田氏からは 何もかもお見通しなのに あっしときたら 氏を何ひとつ解っていない、どころか 舞台でライトが強く当たれば当たるほど 客席から舞台上は実に詳らかに観察できるのに 舞台上の者からは客席は皆目見えなくなるといった 一方通行状態なのでやした。
ここまできたら 氏をアッパレと仰ぐ気持ちよりも、なんだか己れがピエロのようで 哀しみの海に 一人 水没してゆきそうでやした。

「蟹田さん、風邪 引きやすよ。 あっしのふとんで寝てくださいでやす」
魔法の謎の物体を 揺らしやした。
が、いっそうガーガーは高鳴りやした。
あっしは 謎に毛布を掛け、自分はいつものせんべいぶとんにすべり込み、長く垂らした蛍光灯のヒモに 手を伸ばしやした。
ふいに ガーガーが止まりやした。
「・・・わいの役目は・・・これで 終わりや・・・」
-----「えっ!? 蟹田さんっ! どういうことでやすか! それ、どういう意味でやすか?!」
すぐに よりいっそうのガーガーが、擦り切れた四畳半いっぱいに 再び 響きやした。
「蟹田さん!? 蟹田さんっ!!」
ガーガーは 四畳半の隅々にまで反響し続けやした。
-----ずんぐりと盛りあがった謎を見つめ、あっしは 灯りを落とすしかありやせんでやした。

さいなら2い.jpg

      -------「さいなら・Ⅲ」は、一つ短歌を挟んで12月31日の公開でやす------

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 イルミネーション  [短歌]


いるみねーしょん.jpg



              むしろ歩は遅くなりつつ 光年の星を集めて都市十二月



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 さいなら・Ⅰ  [作文]

さいなら2.jpg

あっしの唯一無二の呑み仲間である蟹田氏とあっしは、また いつの間にやら 新宿東口の飲み屋「どん底」で、舟を漕ぐように揺れながら 他愛もない賭けに 興ずるようになっておりやした。

「ぼんぼちぃ、お前、『toyoさん』は 何の仕事されとる人か 知っとるか?」
「馬鹿にしないでくださいでやす! シロアリ駆除屋さんでやす!!」
「『ナカムラさん』のマーク 解るか?」
「コラージュ好きのあっしでやすよ~ん! 目から涙がグラスに落ちてる 白っぽい感じのでやすよ!!・・・・じゃあ、蟹田さんっ! 楓○さんのマークは解りやすか?」
「朱色のラッカンやがな。 あん人、西の人やから わいの勝ちや! このラッキョウは わいのもんやっ!」
シャクシャク・・・
「あっ・・・何でやすか、その理屈はっ!」
・・・・と まぁ、こんな感じで、ソネットブロガーのみなさんについて どれほど知っているかを、以前は どちらがアナログ人間であるかを競っていたかと同じに やり合うようになっていたのでやした。

しかし 蟹田氏に、自身はどんなブログをやっていて どんなマークに設定しているかを聞くと
「ボクは、実は『akiponさん』なんダヨ。 ぼんぼちを喜ばそうって思って こっそり ぼんぼちんちの近所の写真 撮ってるんダヨ」
だとか
「ワタシは『よいこさん』どすえ~。 女性のふりして おリョウリ紹介しとりますどすえ~」
などと、トレース用紙くらいに ぺらっぺらに薄っぺらの 向うが透けて視える真実味のない口調で さも愉快そうにニタニタと 笑みを浮かべるのでやした。
さいなら4.jpgその度にあっしは、下唇を噛み 氏をギロりと睨みつけてやるのでやすが、心の最も深い部分では 決して嫌ではないものがありやした。
あっしにとって 蟹田氏は、常に 追う存在であり かなわぬ存在であり、そして こう思うのは 変かも知れやせんが、あっしは氏という存在に 軽々と笑われていたいのでやす。
で やすから、己れの影が逃げるが如くに ひらりと交わされるのも、それは あっしにとって 氏の理想像を裏切らない どころか より強固なものにする 強烈な要因なのでやした。
人間というものは、こういうおかしなものかも知れやせん。

十二月十五日。
前回から少し間はあったものの、その日も はっきりと約束した訳ではなくも、薄暗いカウンターの一番奥に 今日もいるに違いない蟹田氏の隣を目指し、「どん底」の 焦茶色の古い木の扉を開けやした。
氏は、いつもの隅っこの、バンジョーを抱えて白い歯をむき出して笑う黒んぼの人形の横に、いつもの よれよれの黒いトレーナーに いつもの ちょっと猫背の姿勢で ずんぐりと ビールグラスを片手に 肘をついてやした。

「今日も重かったでやすね~」
ネズミ色のゴムぞうりを忍び足に近づけ、すいと 氏の脇に立ちやした。
「ソネットブログは」。
---- 蟹田氏は、少ぅしだけ 顔を こちらに向けやした。
小さな黒いまなこには、いつもの テラ とした光がありやせん。
----- ははぁん、随分 早い時間から飲ってて もうすっかり出来上がってるんでやすな。
ぷぷっと 口の内側に笑いを含んだあっしは、これは勝てるチャンスと 氏の前のカゴのポップコーンを ガバと掴みやした。
「『matchaさん』は、今 なんて歌を練習されてるでやしょーか!」
カウンターに腰をもたせ 氏の顔を正面に見、ひとつぶ 口に放りやした。
「・・・あ、あぁ・・・」
氏は、焦点の合わないまなこで 一瞬 あっしを見上げ、そして ずるずると 枯れた向日葵さいなら3.jpgの如く 頭を落としやした。
「蟹田さん?」
手の中のポップコーンが 急に 虚ろな 手持無沙汰なものと化しやした。
「・・・蟹田・・さん・・・・」
一度 手にしたポップコーンは カゴに戻す訳にもゆかず、やや逡巡した後 カウンターの上に 静かに掌を広げやした。
あっしは 音を立てないように 氏の隣の椅子を引き、注文を取りに来た店員に なるたけ小声で 「いつもの」 と 身体をねじりやした。

「・・・縁起熊手だけは ふんぱつしたけどなぁ、来年もなぁ・・・」
「・・・ダメよぉ、アタシは一図なんだからぁ・・・」
「・・・いえいえ、こちらこそ お世話になりまして・・・」
周りの酔客の声が いくつもいくつも通り過ぎてゆく中、己れのビールグラスのみに向かう蟹田氏を ちら ちら と 見ながら、あっしもまた 己れのぐい呑みを往復させやした。
この往復運動を止めたら 氏とあっしの間の空気は、ピストルを打ちこまれた写真のように パリン!とひび割れて落下してしまいそうでやした。

どこかの席から 三本〆めが聞こえてきやした。
----- 「ぼんぼち・・・」
「えっ・・・」
ボサボサの白髪まじりの頭の氏の向うで 黒んぼの白い歯が 三日月のように浮かんでやした。 
「ぼんぼち、お前 ソネットブログ 重い重い言うとるけど、お前のパソコン この春に買うたばっかの 最新式のhpやろ。 話 聞いとると ちいと重すぎるがな。 わいが診たったる」
氏は、ビールグラスにぼんやりと視線を落としたまま ぼそりと 独白のようにつぶやきやした。
「・・・えっ」
あっしの頭蓋には、「みなさん・3」でお伝えした あの夏の終わりの 吉祥寺スターバックスコーヒー公園口店での ノート型パソコンに踊っていた 氏の魔法のような指使いが パラパラと流れやした。
あっしより後に----- つまり、パソコンにふれて一年も経っていない筈の 蟹田氏の指使いが・・・・

さいなら1.jpg

      ------「さいなら・2」は、一つ短歌を挟んで 12月25日に公開でやす------ 
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 絶望  [短歌]


ぜつぼう.jpg



            馬券投げ 色亡き街に迷ふ人 銀幕の血に身じろぎもせず



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 山田孝之氏・探し続けていたリアリズム演技  [感想文]

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私は十代の頃より 美術を生業として生きてきました。
今現在は 指導するのみの立場となり、余暇を 映画・演劇にまつわる講座の受講、それらの作品の鑑賞、散文や短歌創りといった 言葉の創造の愉しみにあてています。

ですから 美術以外は あくまで 単なる素人の趣味の世界から越境しないものなのではありますが、表現の世界は 手段とそこに必要とされる技術は違っても 共通するものは大きいので、「何をどう感じていいのかさっぱり解らない」 と 掌を肩の両側で天に向けたくなることは まず ないように思います。
逆に、「自分は、この分野では こういう表現方法 こういう表現者しか好きになれない」 というのが非常に強くあり、それゆえ 自分の求める表現者が、探しても探してもなかなか見つからない という 精神の飢餓におかれてしまうのでした。

演技に対しても 例外ではありません。
「この役者さんは巧いなぁ」とか「この役者さんは この役に合っているなぁ」などとは思っても、そこに 自分の嗜好に寸分たがわずピタリとはまる 「自分にとって特別だ」と思える役者さんは、この 決して短くはない人生の中 どれほど 映画や舞台を観続けても 存在しませんでした。

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と、二年ほど前に 何の気なしにテレビを点けたら、不良の高校生がこれでもか!というくらいに次から次へと登場する映画を映っていました。 
私は、一人の高校生役の役者さんの演技に 身動きが出来なくなりました。
台詞といい 動きといい 表情といい・・・寸分たがわず自分の嗜好にピタリの演技だったからです。
まるで顔も知らない役者さんでした。
山田孝之さんという名だと知りました。
すぐに 別の監督による 不良学生とは真逆の ヲタク青年を演じられている作品を観ました。
そこにいるのは、不良学生とは細胞の一つ一つからして まるで別の人物でした。
やはり 間違いなく、「この人は 自分が長年探し続けてきた 寸分たがわずピタリの役者さんだ」 と 魂の奥底からうなりました。

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思い返すと、私の中には 中学一年の頃には すでに 「こういう演技でなければ 自分の嗜好に合わない」 というのが 明確に固まっていました。
まだスタニスラフスキーのスの字も知らなかった頃なので、当時は このように 上手く言葉にして説明することは出来ませんでしたが、それは 以下の通りです。

私は 私の信ずるところの「真のリアリズム演技」でなければ 好きにはなれません。
無論、作品によって 役柄によって そうでない演技のほうが面白く リアリズムでおしすすめてしまったら ちぐはぐで おかしくなる場合も幾多ありますが、ここでは 「リアリズム演技が相応しい場に於いて」 ということを前提に述べます。

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まず 逆説的に言うと、発散型の演技や ナルシスティックな演技や ステレオタイプの演技や 押しつけがましい演技や 外側から創っていく演技や やりすぎの演技は どうも苦手です。
否定はしませんが、作品全体のバランスから突出してしまって、無理やり 砂をこちらの口の中に一杯押しこまれ 「ほぅら! 砂って美味しいでしょう!!」 と 満面の笑顔で覗きこまれるような不快さに 耐えられなくなってしまうのです。

又 、時々 リアリズム演技を 単に 地で ただただ現実っぽく演ればいいと思っている人がいますが、作品というものの何たるか、それぞれの登場人物は どんな生まれ育ちをしてきたのかを 真正面から考えたら、そんな短絡的な答えなど 出る筈はありません。

作品というものは、劇映画でも舞台でも、メタシアターやアンチテアトルといった特殊なケースを除いては それぞれ ある一つのテーマに向かって突き進むものであり、そして 役者さんの演技というのは それを担う 大きな一要素であると思います。

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絵画に例えると、「私は こんなにつやつやと真っ赤なリンゴの美しさに感動しました」 ということを言はむとする時、単に視た通りに描いては 鑑賞者には リンゴの何が言いたいのか 伝わりません。
リンゴをいかにも本物のリンゴのように描きつつも、表皮の赤みを強調したり バックを 赤さを際立たせる補色にしたり 最も効果的に照りが出る位置から光をあてたり・・・といった技術が必要になります。

役者さんの存在というのは 「画布におかれた絵の具の如きもの」 だと思います。
映画・舞台といった 一編の画布の上に それぞれ さまざまな役割りを背負ってテーマに向かう 「意思ある絵の具」 だと思います。
ですから、演ずる人物を、俯瞰しつつも 内側から 着ぐるみを動かすように操る といった 技術と感性を踏まえた人、それこそが 真のリアリズム演技の役者さんだと思います。

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私は これまでの人生の中で、過去に 四人の 「自分の嗜好にピタリの 自分にとって特別な表現者」を発見し、その作品に浸る度に 少しづつ 精神の飢餓から救われてきました。
短歌・映画・演劇と 多方面で活躍した 寺山修司氏。
映像界の 松本俊夫氏 塚本晋也氏。
小説家の 車谷長吉氏。
そして、五人目の表現者は まぎれもなく 役者 山田孝之氏です。

私は今、「この役者さんの出演作品は すべて観たい」 と 思えるほどに 贔屓の役者さんが存在し、その出演作品が 現在 次々と公開されている状況は 何という幸せなことだろう と 感慨の海に浸っています。

私の精神の飢餓感は、もうだいぶ 薄れてきました。
自分にとって特別な表現者を探し求める旅は、これで終わりにしてよいと思っています。
山田氏が、私にとって 最後の「特別な表現者」であるように思います。

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 大事件  [短歌]



          ラップより らっきょうの汁 漏れ出して らっきょう界に庫内ひれ伏し




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 もっとも古い記憶  [福岡時代]

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庭から玄関扉に向かって ゆらゆらと進みゆく 粒子の粗く かつ 彩度もにぶった 音のない 数秒間の映像-----

これが、私の中の もっとも古い記憶です。

父に抱きかかえられ 今日から住むのだという 福岡の 通称「ハウス」と呼ばれていた 米兵家族が使っていた 木造平屋の住宅に 着いた日のことです。
私は 三歳でした。

それから 白いペンキで塗られた 低い木の柵の内側のハウスの世界で 私は 記憶を重ねてゆきました。

庭のまんなかの 大きな株の雪柳をたたいて 小雪吹雪にまみれてみたり
コンクリートのテラスの ざらざらの質感と冷たさを 足の裏で知ったり
蛙の声に 雑草に分け入り 白柵ぎりぎりまで長靴を潜入させてみたり
枯葉の匂いの中 ひしゃげたうずらの卵のような 何かのさなぎに驚いて 尻もちをついてみたり
勝手口脇に下がる南天の実を 粉っぽいだけなのに 赤いという理由で 幾粒も食んでみたり・・・・・

今も残る 東京でいうと福生のような 基地のある町の ハウスの脇を通りがかると
私の前には かならず あの頃の映像が 廻りはじめます。
そして 最後の数秒間は あの 粒子の粗く 彩度も低い 無音の 玄関扉です。

私は そのたびに とても小さな 単純な塊へと 縮んでゆくのです。

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 忘郷(ばうきゃう)  [短歌]


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            暮れ紛れ ポテトチップをほほばりて 炭坑節を鼻唄ふ背な




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