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みなさん・4 [作文]
「このデカいシウマイ、ごっつい美味いなぁ・・・・おぅ!兄ちゃん!! これ、もう一皿くれや!!!」
丸椅子の上、片方の足をあぐらをかくように乗せた蟹田氏は、身体をそらせて 金髪の店員に 声を飛ばしやした。
そして、客席は和室をぶち抜いたみたいな変わった造りやなぁとか 若いモンもぎょうさん来とるなぁとか 二階も入れたら何百人くらい入れるんかいなとか 壁に並ぶ色紙のサインを指し あれは誰れそれやとか、とにかく この 吉祥寺公園口 焼き鳥屋「いせや」が えらく気に入ったようでやした。
あっしは、近くに住んでいるというだけなのに なんだか あっし自身のことを誉められたような気持ちになり、「ね! いいでやしょう!!」と、氏のグラスに ビールを足しやした。
蟹田氏が 何故今日 吉祥寺に来ていたかは 聞きやせんでやした。
あっしは、氏が何をしている男かも知らない中に、仕事がらみでこちらに来る用事があったのかも知れないな とも思いやしたが、おそらくそうではなく、あっしに逢いたいが為に たまたま この街に来た風を装ったのだと思いやした。 そうに違いないと思いやした。
もし 聞いてみたところで、「ぼんぼちに逢いとうなって」なぞとは 口が裂けても言う筈はないのでやす。
二皿目のシウマイを 揃えた箸でブスリと刺し、その大きさを感心するように眺めまわしながら 氏は、「そう言えば-----」 いかにも 軽く、今朝の天気の話しでもするように つぶやきやした。
「そう言えば、空に兵隊の兵いう人は 何て読めばいいんかいな。 ソラヘイさんかいな、クウヘイさんかいな」
あまりの驚きに、あっしの口の中にあった 七味を真っ赤にまぶした鶏皮が 瞬時に味を失いやした。
『空兵さん』----- それは、ソネットブログ内で あっしがよくコメントのやり取りを交わしているブロガーのお一人に他ならないのでやした。
あっしの知る限り、『空兵さん』という名前は それ以外 どこにも無いのでやした。
あっしは 以前「それから・後編」で みなさんにお話ししたように ついうっかり「ソネくじ」という一語をポロリと発してしまった為に、蟹田氏に インターネットを始めたこと プロバイダーは ソネットを利用していることを 知られてしまったのでやす。
否、知られたからといって 何一つとして後ろめたいことをしている訳ではなし、堂々としていればいいんでやすが、それまで 大洋に浮かぶ小島に進化を止めた生きる化石さながらの ケータイの かけると受けるどまりの アナログ人間だったあっしらでやす。
ネットの世界に足を踏み入れることは、「いち抜け」、もっと言うと「裏切り」という自責の念を覚えずにはおれないものがありやした。
しかし 蟹田氏は、---- あの「それから・後編」の夜の時点では愕然としたものがあったのかも知れやせんが---- その後、氏も 実際パソコンを購入し ソネットブログに接し、デジタルの世界も そう捨てたもんじゃないと 認識したのに相違ないのでやした。
蟹田氏は、あっしの驚きなど まるで気が付かない といった様子で シウマイを カラシの上に チョンチョンと弾ませながら しらしらっと続けやした。
「『漣花さん』は、すらっと読めたで。 漣に花やな。 粋やな。 女性らしいニックネームやがな。 トレードマークのピンクのチューリップからして女性らしいがな」
カラシ側の半分をほおばり
「・・・ボー・・・ベー・・・あぁ、 『b.b.mk2 さん』、あのネームは どんな意味があるんやろなぁ・・・あん人 気になるんや・・・わい、あの辺に住んどったことあんねん。 あと・・・『 hatumi30331 さん』とこの近くにもや」
残りの半分を ポン!と口に収め
「『未来さん』は詩人やなぁ~」
皿のパセリも 手づかみで茎までムシャムシャとやり、こちらに ニヤリ と笑みをよこしやした。
氏は、こんな形で デシタルの世界でも あっしと肩を並べられたぞ!ということを アプローチしているのでやした。
あっしの中で、驚きは 微笑ましい気持ちへと 丸味をおびやした。
さっきの身をそがれた魚は、今朝 閲覧した『kurakichさん』の記事「魚のさばき方」であったと気付きやした。
「『リンさんさん』のショートストォリィはオモロいがな・・・・『tacit_tacetさん』の写真は 個性的やなぁ・・・・『つなみさん』は、バレエ 熱心に勉強しとるなぁ・・・・『 rari さん』のウーパールーパー かぁいらしいな。『 ulyssenardin36000 さん』の猫もや。 ・・・ようけ動物 観察しとるな『えれあさん』は。 『akiponさん』と『NОNОNオヤジさん』は ここいらに住んどるらしいな。『hayama55 さん』は・・・『もりけんさん』は・・・『風船かずらさん』は『ぽん吉さん』は『МIKEさん』は『sigさん』は『よいこさん』は・・・・・」
氏は、次から次へと ソネットブロガーのみなさんのニックネームと どんな記事を書かれているかを 事細かに挙げ、あっしは「えっと・・・それは、どんなマークのかたでやしょうか?」 と聞くことしばしばでやした。
肩を並べるどころか その詳しさは 完全にあっしを追い抜いており、今度は 「ちょっとくやしいぞ、面白くないぞ」という感情が、ビールの泡の如く ブクブクと沸いてきたのでやした。
加えて 氏は、何故だか あっしのブログについてだけは しらっと何一つとて触れない というのも 実に 愉快ではありやせんでやした。
あっしは、以前から氏に呼ばれている「ぼんぼち」という愛称そのままを使っているので 一目りょう然の筈なのに。
便所に立ちやした。
席に戻る途中、風が吹き込む場所で 足を止めやした。
ざわざわとした話声の中に カナカナゼミの声が混じってやした。
網戸もなく 大きく解放された窓は、まるで 舞台上で群像劇の酔客を演ずる役者達のむこうに放たれた 般出入の扉さながらでやした。
店内とは異質の やわらかな白い光が 井の頭公園の青々とした木々の間から差し 揺らいでやした。
よれよれの黒いTシャツの蟹田氏の背中を ぼんやりと眺めやした。
氏は、丸椅子の上に 両方の足をあぐらにしておりやした。
歌でも口づさんでいるのか、ボサボサの白髪頭が かすかに左右に揺れてやす。
ふいに、氏の顔が こちらを向き、そして ぶしょうヒゲに囲まれた口角が ニンマリと上がりやした。
「ぼんぼちぃ! お前とは 久しぶりでも何でもないんやで!! わいともブログ上で 毎日のように コメントやり取りしとるがな!!!」
あまりに飛ばした声に、群像劇の役者達は静まり返り そろって その方を向きやした。
・・・・・カナカナカナカナカナカナカナカナ・・・・・・・
------「みなさん」おしまいでやす------


丸椅子の上、片方の足をあぐらをかくように乗せた蟹田氏は、身体をそらせて 金髪の店員に 声を飛ばしやした。
そして、客席は和室をぶち抜いたみたいな変わった造りやなぁとか 若いモンもぎょうさん来とるなぁとか 二階も入れたら何百人くらい入れるんかいなとか 壁に並ぶ色紙のサインを指し あれは誰れそれやとか、とにかく この 吉祥寺公園口 焼き鳥屋「いせや」が えらく気に入ったようでやした。
あっしは、近くに住んでいるというだけなのに なんだか あっし自身のことを誉められたような気持ちになり、「ね! いいでやしょう!!」と、氏のグラスに ビールを足しやした。
蟹田氏が 何故今日 吉祥寺に来ていたかは 聞きやせんでやした。
あっしは、氏が何をしている男かも知らない中に、仕事がらみでこちらに来る用事があったのかも知れないな とも思いやしたが、おそらくそうではなく、あっしに逢いたいが為に たまたま この街に来た風を装ったのだと思いやした。 そうに違いないと思いやした。
もし 聞いてみたところで、「ぼんぼちに逢いとうなって」なぞとは 口が裂けても言う筈はないのでやす。
二皿目のシウマイを 揃えた箸でブスリと刺し、その大きさを感心するように眺めまわしながら 氏は、「そう言えば-----」 いかにも 軽く、今朝の天気の話しでもするように つぶやきやした。
「そう言えば、空に兵隊の兵いう人は 何て読めばいいんかいな。 ソラヘイさんかいな、クウヘイさんかいな」
あまりの驚きに、あっしの口の中にあった 七味を真っ赤にまぶした鶏皮が 瞬時に味を失いやした。
『空兵さん』----- それは、ソネットブログ内で あっしがよくコメントのやり取りを交わしているブロガーのお一人に他ならないのでやした。
あっしの知る限り、『空兵さん』という名前は それ以外 どこにも無いのでやした。
あっしは 以前「それから・後編」で みなさんにお話ししたように ついうっかり「ソネくじ」という一語をポロリと発してしまった為に、蟹田氏に インターネットを始めたこと プロバイダーは ソネットを利用していることを 知られてしまったのでやす。
否、知られたからといって 何一つとして後ろめたいことをしている訳ではなし、堂々としていればいいんでやすが、それまで 大洋に浮かぶ小島に進化を止めた生きる化石さながらの ケータイの かけると受けるどまりの アナログ人間だったあっしらでやす。
ネットの世界に足を踏み入れることは、「いち抜け」、もっと言うと「裏切り」という自責の念を覚えずにはおれないものがありやした。
しかし 蟹田氏は、---- あの「それから・後編」の夜の時点では愕然としたものがあったのかも知れやせんが---- その後、氏も 実際パソコンを購入し ソネットブログに接し、デジタルの世界も そう捨てたもんじゃないと 認識したのに相違ないのでやした。
蟹田氏は、あっしの驚きなど まるで気が付かない といった様子で シウマイを カラシの上に チョンチョンと弾ませながら しらしらっと続けやした。
「『漣花さん』は、すらっと読めたで。 漣に花やな。 粋やな。 女性らしいニックネームやがな。 トレードマークのピンクのチューリップからして女性らしいがな」
カラシ側の半分をほおばり
「・・・ボー・・・ベー・・・あぁ、 『b.b.mk2 さん』、あのネームは どんな意味があるんやろなぁ・・・あん人 気になるんや・・・わい、あの辺に住んどったことあんねん。 あと・・・『 hatumi30331 さん』とこの近くにもや」
残りの半分を ポン!と口に収め
「『未来さん』は詩人やなぁ~」
皿のパセリも 手づかみで茎までムシャムシャとやり、こちらに ニヤリ と笑みをよこしやした。
氏は、こんな形で デシタルの世界でも あっしと肩を並べられたぞ!ということを アプローチしているのでやした。
あっしの中で、驚きは 微笑ましい気持ちへと 丸味をおびやした。
さっきの身をそがれた魚は、今朝 閲覧した『kurakichさん』の記事「魚のさばき方」であったと気付きやした。
氏は、次から次へと ソネットブロガーのみなさんのニックネームと どんな記事を書かれているかを 事細かに挙げ、あっしは「えっと・・・それは、どんなマークのかたでやしょうか?」 と聞くことしばしばでやした。
肩を並べるどころか その詳しさは 完全にあっしを追い抜いており、今度は 「ちょっとくやしいぞ、面白くないぞ」という感情が、ビールの泡の如く ブクブクと沸いてきたのでやした。
加えて 氏は、何故だか あっしのブログについてだけは しらっと何一つとて触れない というのも 実に 愉快ではありやせんでやした。
あっしは、以前から氏に呼ばれている「ぼんぼち」という愛称そのままを使っているので 一目りょう然の筈なのに。
便所に立ちやした。
席に戻る途中、風が吹き込む場所で 足を止めやした。
ざわざわとした話声の中に カナカナゼミの声が混じってやした。
網戸もなく 大きく解放された窓は、まるで 舞台上で群像劇の酔客を演ずる役者達のむこうに放たれた 般出入の扉さながらでやした。
店内とは異質の やわらかな白い光が 井の頭公園の青々とした木々の間から差し 揺らいでやした。
よれよれの黒いTシャツの蟹田氏の背中を ぼんやりと眺めやした。
氏は、丸椅子の上に 両方の足をあぐらにしておりやした。
歌でも口づさんでいるのか、ボサボサの白髪頭が かすかに左右に揺れてやす。
ふいに、氏の顔が こちらを向き、そして ぶしょうヒゲに囲まれた口角が ニンマリと上がりやした。
「ぼんぼちぃ! お前とは 久しぶりでも何でもないんやで!! わいともブログ上で 毎日のように コメントやり取りしとるがな!!!」
あまりに飛ばした声に、群像劇の役者達は静まり返り そろって その方を向きやした。
・・・・・カナカナカナカナカナカナカナカナ・・・・・・・
------「みなさん」おしまいでやす------
みなさん・3 [作文]
スターバックス・吉祥寺公園口店 テラス席で あっしを待つ蟹田氏の前には、銀色の長方形が置かれ その中央には かじりかけのリンゴのマークが さかしまに付いてやした。
そして 氏は、両の手と視線を その長方形の内側に集中させ、いかにも「ごきげん!」といった様子で リズミカルに ボサボサの半ば白髪の頭を かすかに左右に振ってやした。
-----あんなにデジタルの世界を嫌っていたのに?!
あっしは、あ然とすると同時に、自分は今 これ程ブログに夢中になっているにも関わらず、何か 蟹田氏に裏切られたような感情が こみ上げてきやした。
人間というものは、己れのことは棚に上げる 理不尽なものでやす。
そして、「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状が、でかでかと まるでポスター大に拡大コピーをしたように あっしの頭蓋に覆いかぶさりやした。
あっしは、井の頭公園へと下る路を挟んで 茫然と立ちつくしやした。
・・・・・ミンミンミンミンミンミンミンミンミン・・・・・
蟹田氏が、ふいに 顔をあげやした。
「おぅ!ぼんぼちぃ!! お前は間違いなく来る 思うとったわ!!!」
その自信に満ちた上機嫌な言葉に、あっしは 反発を覚えながらも、くやしいかな 気持ちの底の部分では 嬉しさも感じてやした。
不安と 恐怖と 裏切られ感と 反発心と 嬉しさの入り混じった歩を踏みしめながら 氏に近づきやした。
氏と テラステーブルのノート型パソコンを交互に見ながら、おずおずと 氏の横に立ちやした。
「たまたま 井の頭公園を散歩してたんでやす」
こう言ってやりやしたが、思わず すっとんきょうな 高い声になってしまいやした。
パソコンの画面の中には、身をそがれた魚が まん丸の 黒くて大きな目玉を 光らせてやした。
どこかで観たことのある画像だな・・・と思い 覗き込もうとすると
「あかーーーーーん!」
蟹田氏は 大仰に肘を張って 両手で画面をおおいやした。
しかし、肘の下に目をむいた魚は丸見えで、まるで 学校にプラモデルを持ってきて こちらが見ようとすると 見ちゃダメだ と言いながら その実 見せたくてうずうずしている子供そのものでやした。
あまりの馬鹿馬鹿しいポーズに、あっしは呆れてしまいやした。
呆れは、それまでの ごったな感情を ヘリウムでふくらんだ風船のように あっしの内から フワ と浮遊させやした。
「ちいとだけ待ってぇな」
氏は、指先をパラパラとキーボードに踊らせやした。
-----えっ!?
その指使いは、あっしよりも遥かに、どころか まるで魔法のように 軽く 慣れたものでやした。
あっしより後にパソコンを始めたのには違いないのに、あっしと逢わなかった何カ月かの間に どれだけキーボードに向かっていたのでやしょう?
パタム!
銀色の長方形を閉じると、黒いヨレヨレのズボンの尻ポケットから 利休ねずの風呂敷を取り出しやした。
一面に 大小のひょうたんが 小粋に染め抜かれておりやした。
見るや、銀の長方形を 風呂敷でキュキュッと包み、脇にかかえ
「文明と文化の・・・・融合や!」
ポンッ!と叩きやした。
-----あっ! 「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状の意味って・・・・
あっしの内から 浮遊しかけていた 幾つものヘリウム風船は、いっせいに空高く上昇しやした。
不安と 恐怖と 裏切られ感と 反発心は、みるみる真夏の空に点となり、そして 完全に姿を消しやした。
「蟹田さん、隣 いい店があるんでやすよ、『いせや』っていう焼き鳥屋でやす」
「おぅ! そろそろ わいも、辛っいモン ほしゅうなってたとこや! 三杯目は、流石に舌に ひつこいさかい」
蟹田氏は、透明な器の底に残ったクリィムを ズ・ズ・ズーーーーッ!!と干しやした。
-----「みなさん・4」は、一つ短歌を挟んで8月27日の公開でやす------


そして 氏は、両の手と視線を その長方形の内側に集中させ、いかにも「ごきげん!」といった様子で リズミカルに ボサボサの半ば白髪の頭を かすかに左右に振ってやした。
あっしは、あ然とすると同時に、自分は今 これ程ブログに夢中になっているにも関わらず、何か 蟹田氏に裏切られたような感情が こみ上げてきやした。
人間というものは、己れのことは棚に上げる 理不尽なものでやす。
そして、「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状が、でかでかと まるでポスター大に拡大コピーをしたように あっしの頭蓋に覆いかぶさりやした。
あっしは、井の頭公園へと下る路を挟んで 茫然と立ちつくしやした。
・・・・・ミンミンミンミンミンミンミンミンミン・・・・・
蟹田氏が、ふいに 顔をあげやした。
「おぅ!ぼんぼちぃ!! お前は間違いなく来る 思うとったわ!!!」
その自信に満ちた上機嫌な言葉に、あっしは 反発を覚えながらも、くやしいかな 気持ちの底の部分では 嬉しさも感じてやした。
不安と 恐怖と 裏切られ感と 反発心と 嬉しさの入り混じった歩を踏みしめながら 氏に近づきやした。
氏と テラステーブルのノート型パソコンを交互に見ながら、おずおずと 氏の横に立ちやした。
「たまたま 井の頭公園を散歩してたんでやす」
こう言ってやりやしたが、思わず すっとんきょうな 高い声になってしまいやした。
パソコンの画面の中には、身をそがれた魚が まん丸の 黒くて大きな目玉を 光らせてやした。
どこかで観たことのある画像だな・・・と思い 覗き込もうとすると
「あかーーーーーん!」
蟹田氏は 大仰に肘を張って 両手で画面をおおいやした。
しかし、肘の下に目をむいた魚は丸見えで、まるで 学校にプラモデルを持ってきて こちらが見ようとすると 見ちゃダメだ と言いながら その実 見せたくてうずうずしている子供そのものでやした。
あまりの馬鹿馬鹿しいポーズに、あっしは呆れてしまいやした。
呆れは、それまでの ごったな感情を ヘリウムでふくらんだ風船のように あっしの内から フワ と浮遊させやした。
氏は、指先をパラパラとキーボードに踊らせやした。
-----えっ!?
その指使いは、あっしよりも遥かに、どころか まるで魔法のように 軽く 慣れたものでやした。
あっしより後にパソコンを始めたのには違いないのに、あっしと逢わなかった何カ月かの間に どれだけキーボードに向かっていたのでやしょう?
パタム!
銀色の長方形を閉じると、黒いヨレヨレのズボンの尻ポケットから 利休ねずの風呂敷を取り出しやした。
一面に 大小のひょうたんが 小粋に染め抜かれておりやした。
見るや、銀の長方形を 風呂敷でキュキュッと包み、脇にかかえ
「文明と文化の・・・・融合や!」
ポンッ!と叩きやした。
-----あっ! 「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状の意味って・・・・
あっしの内から 浮遊しかけていた 幾つものヘリウム風船は、いっせいに空高く上昇しやした。
不安と 恐怖と 裏切られ感と 反発心は、みるみる真夏の空に点となり、そして 完全に姿を消しやした。
「蟹田さん、隣 いい店があるんでやすよ、『いせや』っていう焼き鳥屋でやす」
「おぅ! そろそろ わいも、辛っいモン ほしゅうなってたとこや! 三杯目は、流石に舌に ひつこいさかい」
蟹田氏は、透明な器の底に残ったクリィムを ズ・ズ・ズーーーーッ!!と干しやした。
-----「みなさん・4」は、一つ短歌を挟んで8月27日の公開でやす------
タグ:吉祥寺
みなさん・2 [作文]
あっしは、慣れた井の頭通りを ジワジワと陽にあぶられながら 西へと歩いておりやした。
蟹田氏に逢うことを 逡巡しなかったわけではありやせん。
あの 小さな黒いまなこで テラ と睨まれると、その向こうにある感情を読み取ることができずに、あっしは いつも その場に身動きがとれなくなってしまうのでやした。
しかし、半年以上ぶりに聞いた氏の声に 単純に 理屈抜きに 「逢いたいなぁ」という気持ちがほっこりと沸き上がったのも また事実でやした。
関西人特有の「スターバックス」の ことさら高い「バ」の音が、妙に耳に心地よく 余韻を引いてやした。
それと、何よりも 氏のよこしてきた言葉の謎のとぐろを どうどう廻りに辿るのには、もう ほとほと疲れてしまっていたのでやした。
ののしるなり 今日でお別れと嘲笑うなり 好きにしてくれやす!と唇を噛み、暑さのためだか 精神による油汗だか 自分でも解らない塩辛い水をしたたらせながら、両の掌の内にも また より濃い塩水をにじませながら 歩を速めやした。
吉祥寺駅手前の ピザ屋のある角を 左に折れやした。
この脇道は、スターバックス公園口店まで行くには 駅前の丸井の脇を通るより 人通りが少ないぶん 楽なのでやす。
紅白ストライプのまことちゃんハウスを左手に仰ぎ、立派な一軒家の並ぶ路を 右に曲がりやした。
正面に見えてきた 焼き鳥屋「いせや」は、いつものように まだ十二分に陽が高いこの時刻から もうもうと 煙を吐き出してやした。
その右隣りには 深いグリーンのパラソルが、これも いつもと同じく 都会に生まれ育った大人の女性の如く 決して過美ではない小粋さで すっ すっ と立ってやした。
リボンやカラフルな首輪でめかしこんだ ゴールデンリトリバー チワワ ミニチュアダックスフンドらと 洒落たいでたちの それらの飼い主達・・・・
その中央に-----
なんと まぁ、これ程 カフェというものが不似合いな人間も 他にいないのではないでやしょうか?
そこだけ まるきし違う時空を張り付けたかの如く、あっしを待つ よれよれの黒いTシャツに 半ば白髪のボサボサ頭 ぶしょうヒゲの蟹田氏は おりやした。
そして、テラステーブルの上、氏の前には、カフェよりも 遥かに遥かに 氏に不釣り合いなものが 置かれていたのでやす------
------「みなさん・3」は、一つ短歌を挟んで 8月21日の公開でやす------
みなさん・1 [作文]
「97の55・・・まぁ、大丈夫でしょう。 血圧以外の数値は すべて正常です、肝臓も腎臓も」
定期健診の結果にほっとしたあっしは、ネズミ色のゴムぞうりの足どりも軽やかに 病院斜向かいの100円ローソンで、早々に 今夜の一人乱痴気の材----エビスビール二本 ミミガー少量パック カクテキ とんがりコーン・マヨネーズ味を求めやした。
・・・ミンミンミンミンミンミン・・・・・
アパート脇の青柿の木が、あっしの異常無しを 勢よく祝ってくれやした。
外階段を上るとき、つい 手の先のレジ袋がはしゃいで 手すりをカーーーン!と 響かせてしまいやした。
人間というものは、頭の片隅に もやもやと引っかかるものがある時も 目前の安堵に 手放しでうかれてしまうものでやす。
あっしは、エビスビールの無事を確認しつつ 袋を肘にかけ、擦り切れた畳の四畳半一間の部屋の鍵を 開けやした。
-----ちゃぶ台の湯飲みの横 雑誌の切れ端をコラージュして まるで 紙でこさえた小さなオブ
ジェのように見える あっし愛用のケータイが 点滅してやした。
今日のように 近所の病院に行って ほどなく戻るだけの時には、ケータイは持って出ないのでやす。
紙のオブジェを開くと-----
着信 「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」
そして、三件目の後には 伝言が入っているようでやした。
肘のレジ袋が、ズルリと 鈍く畳に落ちやした。
あっしに勝るとも劣らないほどのアナログ人間 蟹田氏は、あっしがパソコンの世界に足を踏み入れたと知ったからなのか、唐突に 「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状を よこしてきたのでやした。
その謎は、あっしを取り巻き あっしの周りをぐるぐると廻り 日が経つごとにどんどん加速し、その中心点に立ち往生するあっしは、めまいを覚え 顔をおおい しゃがみこんでしまったのでやした。
そして、一旦はどうでもいいと思えたものの----文明だの 文化だの、蟹田氏の存在そのものも----しかし、人間であることをやめない限り、頭の片隅で 常にぐるぐると巻く とぐろを辿る行為を止めるなど 結局は不可能なのでやした。
紙のオブジェの中に どんな言葉が預けられているのか 恐怖でやした。
罵声を浴びせられるのか 絶縁を言い渡されるのか・・・・。
謎の年賀状は、やっぱり 擦り切れた畳の上に 立てかけておりやした。
ここまで幽かに聞こえていた青柿の祝い声が、ミンミンミンジィィィーーーーと 終止符を打ちやした。
-----おそるおそる再生ボタンに親指をやりやした。
「ただ今 一件の・・・・・一件目、今日の 午後・・・・・ピー・・・ンミンミンミンミンミンミンミン・・・おう!ぼんぼちぃ!! 今な、わい ごっついクリィム乗ったん飲んどるんや・・・ミンミンミン・・・えらい シャレた・・・ミンミン・・・ええなぁ ここ・・・カフェいうんか・・・ンミンミ・・・ス、スタービ・・・ミンミ・・・スターベ・・・ンミ・・・あぁ、スターバックスや! 吉祥寺に来とるんや! 丸井の脇をシュッと曲がった坂ンとこや!! 来いや!!!」
------「みなさん・2」は、ひとつ短歌を挟んで 8月15日の公開でやす------


定期健診の結果にほっとしたあっしは、ネズミ色のゴムぞうりの足どりも軽やかに 病院斜向かいの100円ローソンで、早々に 今夜の一人乱痴気の材----エビスビール二本 ミミガー少量パック カクテキ とんがりコーン・マヨネーズ味を求めやした。
・・・ミンミンミンミンミンミン・・・・・
アパート脇の青柿の木が、あっしの異常無しを 勢よく祝ってくれやした。
外階段を上るとき、つい 手の先のレジ袋がはしゃいで 手すりをカーーーン!と 響かせてしまいやした。
人間というものは、頭の片隅に もやもやと引っかかるものがある時も 目前の安堵に 手放しでうかれてしまうものでやす。
あっしは、エビスビールの無事を確認しつつ 袋を肘にかけ、擦り切れた畳の四畳半一間の部屋の鍵を 開けやした。
-----ちゃぶ台の湯飲みの横 雑誌の切れ端をコラージュして まるで 紙でこさえた小さなオブ
今日のように 近所の病院に行って ほどなく戻るだけの時には、ケータイは持って出ないのでやす。
紙のオブジェを開くと-----
着信 「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」「あっしの唯一無二の吞友・蟹田さん」
そして、三件目の後には 伝言が入っているようでやした。
肘のレジ袋が、ズルリと 鈍く畳に落ちやした。
あっしに勝るとも劣らないほどのアナログ人間 蟹田氏は、あっしがパソコンの世界に足を踏み入れたと知ったからなのか、唐突に 「文明・文化」とだけ書かれた謎の年賀状を よこしてきたのでやした。
その謎は、あっしを取り巻き あっしの周りをぐるぐると廻り 日が経つごとにどんどん加速し、その中心点に立ち往生するあっしは、めまいを覚え 顔をおおい しゃがみこんでしまったのでやした。
そして、一旦はどうでもいいと思えたものの----文明だの 文化だの、蟹田氏の存在そのものも----しかし、人間であることをやめない限り、頭の片隅で 常にぐるぐると巻く とぐろを辿る行為を止めるなど 結局は不可能なのでやした。
紙のオブジェの中に どんな言葉が預けられているのか 恐怖でやした。
罵声を浴びせられるのか 絶縁を言い渡されるのか・・・・。
謎の年賀状は、やっぱり 擦り切れた畳の上に 立てかけておりやした。
ここまで幽かに聞こえていた青柿の祝い声が、ミンミンミンジィィィーーーーと 終止符を打ちやした。
-----おそるおそる再生ボタンに親指をやりやした。
「ただ今 一件の・・・・・一件目、今日の 午後・・・・・ピー・・・ンミンミンミンミンミンミンミン・・・おう!ぼんぼちぃ!! 今な、わい ごっついクリィム乗ったん飲んどるんや・・・ミンミンミン・・・えらい シャレた・・・ミンミン・・・ええなぁ ここ・・・カフェいうんか・・・ンミンミ・・・ス、スタービ・・・ミンミ・・・スターベ・・・ンミ・・・あぁ、スターバックスや! 吉祥寺に来とるんや! 丸井の脇をシュッと曲がった坂ンとこや!! 来いや!!!」
------「みなさん・2」は、ひとつ短歌を挟んで 8月15日の公開でやす------
びしょ濡れの鳩 [詩・詞]
鳩がいた
びしょ濡れの 白い鳩がいた
美しいと感じた
自分が それまでの人生で観た どんなようすの鳩よりも 美しいと感じた
瞬間 自分の 脳天から足の裏へ 一本の光のすじが 差しつらぬくのを感じた
それほどに びしょ濡れの白い鳩は 美しかった
白鳩は 自分が一歩 近づくだけで その濡れた羽を 不器用にばたつかせながら 逃げ去ってしまうに違いないと 思われた
それが よけいに 自分に 美しいと思わせた
自分は びしょ濡れの白い鳩を 美しいと思わずにおれない自分の罪深さを 恥じた
しかし びしょ濡れの白い鳩こそが 自分を呼吸(いき)づかせる存在であることは 変えられないのだった
タグ:鳩