不味いことになった。
リリルカ・アーデは不幸な少女だった。
産まれた時からソーマファミリアに所属し、両親は無謀な冒険で死んで天涯孤独。
金にがめついファミリアの冒険者達に囲まれ、冒険者としての才能が無い自分を助けてくれる者は居なかった。
逃げて隠れても、無理やり連れ戻された。
匿ってくれた優しい人達は、巻き込まれて私を憎んだ。
頑張ってお金を稼いでも、同じファミリアの冒険者達に奪い取られた。
退団には膨大なお金が要る。でも私に普通の方法でそこまで稼ぐことなんて不可能だ。何年…下手したら何十年とかかる。
だから、盗むことにした。
卑しい行為でも、それしか無かった。
サポーターとして働き、時には囮にして報酬も払わない冒険者
少しぐらい良いじゃないか。私より沢山持っているくせに、私から奪っていくような奴らから、少しぐらい貰ったって!
変身魔法という、足がつかなくなる魔法を手に入れてから、効率はグンと上がった。1度魔法自体がバレてしまう時もあったが、不幸中の幸いか、お人好しで新米冒険者、しかも腕がある人間と組むことが出来た。
まだ恩恵を受けて1ヶ月だと言うのに、7層まで足を伸ばせるような才能の持ち主。しかし人懐っこそうな表情を浮かべ、警戒心など欠けらも無さそうな少年。
だからこそ、業物だろうあのナイフを盗むなんて、簡単だと思っていた。
「えっと、どうかした?」
腕を掴まれた。ナイフへと手を伸ばした瞬間、まるで後ろに目が着いているかのように、壁に埋まったキラーアントの魔石を回収しながら、即座に反応したのだ。
「い…いえ、砂が…ついてたので」
「そう?ありがとう。でも、黙って背後に付かれるとビックリしちゃうから、気を付けてね?」
「す、すみません…あ、リリは荷物を少し整理します!多分ここらではしばらくモンスターは出てこないと思うので!」
バックパックを壁に隠れるように、リリはしゃがみ込んだ。
怖かった。モンスターと戦う時、囲まれても背後を取られても冷静に対処していく姿は、熟練の冒険者を思わせる戦いぶりだった。
そして、腕を掴まれた時、戦っている時の目…敵を倒す時に向ける目をこちらに向けてきた。まるで首にナイフを向けられている様だった。なんだアレは…通りすがりを助けるお人好しは…人畜無害そうな雰囲気は何処へ行った!?
「リリ?整理終わった?」
「ッ…はいっ!大丈夫ですベル様!」
「じゃあそろそろ地上に戻ろっか。結構狩ったし…」
「え、ええ!ベル様の動き、まるで熟練の冒険者のようでした!武器も業物なのでしょうけど、それを活かせるベル様の技量に驚かされましたよ、リリは!」
まだ恐ろしさが残っているからか、つい大声でオーバーに褒めてしまう。言われたベルは、なんとも言えないような表情で言葉を発した。
「そう?ありがとう。でも、まだまだだよ…武器も神様からの贈り物で、自分で稼いで買った訳じゃないし、技も力も…兄さん見たいになれるように、まだまだ修行中」
「お兄さんがいらっしゃるのですか?」
「うん。僕がオラリオに来たのは最近なんだけど、兄さんはずっと前から冒険者をやっているんだ、ロキ・ファミリアで。小さい頃から修行は付けてもらってたんだ」
「ロ、ロキ・ファミリア…」
第1級冒険者が複数人所属する、オラリオトップの探索系ファミリア。思った以上に大物の身内なのかもしれない。嫌な汗が背筋を伝う。
「お、お兄さんのお名前はなんて言うんですか?そういえば、ベル様の家名を聞いていませんでした…」
「…兄さんの名前は、レイ。僕のフルネームは、ベル・クラネルだよ」
背筋を伝う汗ごと背中が凍り付くような感覚に襲われる。
レイ・クラネル。オラリオ最強の冒険者とも言われる男。
不味い不味い不味い!!
とんでもない人間の身内に手を出してしま…いや、まだ手は出ていない。ナイフの件も未遂に過ぎないし、下手なことをしなければまだ大丈夫な筈だ。出来れば、関わるのは今日限りにしたい!
だが、今日の成果を見るに恐らく手に入る金額はかなりの物。ベル様の性格からもそれなりに分け前は貰える…筈。それなのに、こちらから契約を誘っておいて、今から逃げるような真似をすれば疑いが生じる!
話を聞くに兄弟仲は悪くないようだし、身内に近付いた不審なサポーターの話が第1級冒険者の耳に入るのはシャレにならない!
しばらくは大人しくベル様のサポーターに徹するしかない…チョロそうな標的を見つけたと思ったのになんでこんなことに…。
必死に息を整える。ベル様が少し心配そうに顔を覗き込んで来るのを見て、動揺を見せまいと直ぐにニコリと笑顔で返す。
表情だけは取り繕ったまま、リリはベルの後ろに着いて行った。
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地上に戻ったら、ギルドの換金所でベルを見かけた。後ろにはリリルカ・アーデが着いている。あれ、もう初日はもう終わったのか?確かダンジョンを出て別れた後、ギルドでナイフが無いことに気付いたみたいな感じだったと思うんだが…ナイフも持っているようだし…いや、でもまだアイズが地上に戻ってもいないしな…どうなってるんだ?
「クラネル氏、少々よろしいでしょうか?」
後ろから声をかけられたと思えば、そこにはエイナが居た。
エイナは俺の元担当で、Lvが低い時は割と世話になった。
「エイナ、どうかしたか?」
「ええと…ここでは何ですし、上の応対室まで来て頂けますか?…ベル君の事なんです」
「構わない」
そうしてレイはエイナと一緒に応対室まで移動した。