「お兄さん、お兄さん。白い髪のお兄さん」
その身体よりも大きなバックパックを背負った少女が、フードと前髪の隙間から目を覗かせてこちらを見上げている。
「あれ、君は…昨日の?」
「初めましてお兄さん。突然ですが、サポーターを探していたりしませんか?」
小柄な少女はそう言ってニコリと笑っている。
ベルはその少女の姿に見覚えがあった。昨日、冒険者に襲われていたパルゥムの少女。顔までは見えていなかったが、フードからはみ出している栗髪と、少しボロいローブ。初めましてと言われてベルは困惑した。
「急で混乱してるんですか?簡単ですよ、冒険者様のお手伝いをしておこぼれを貰おうと売り込みを…」
「そ、そうじゃなくて、昨日…」
「……?お兄さん、リリと会ったことがありますか?お兄さん、珍しい髪色ですので、リリの方が覚えてないことはないと思うのですが…」
首を可愛らしく傾げる少女。ベルもどういうことかと釣られるように首を傾げ、従来で何をやっているんだと周囲から視線が刺さり、ベルは直ぐに会話を進めた。
「えっと…まあいっか。それで、サポーターか…出来れば欲しい、かな?」
「本当ですか!なら、リリを連れて行って下さい!お兄さん」
無邪気にはしゃぐ少女に前髪が揺れ、奥に隠れていた丸く大きな目があらわになった。少女の目線は、ベルの腰に向かっていた。
「…?」
ベルは何かと思い腰に目を向けようとすると、リリと名乗る少女は自己紹介を始めたので視線を戻した。
「あ、リリの名前はリリルカ・アーデと言います!お兄さんの名前を教えてください!」
それが、英雄の弟たるベルと、いずれ救われる少女、リリルカ・アーデの出逢いであった。
__________________________________________________________________
「…暇だな」
リヴェラの街を出て、アイズ達と別れた後。中層で軽く狩りをしていた。
昆虫モンスターを軽く蹴散らし、魔石やドロップアイテムを回収していく。
ここらは、モンスターの数が増えれば第二級冒険者でも苦戦するほど手強い。耐性がなければ毒で死に、早いインターバルで生み出され、数の暴力で押し潰してくる昆虫モンスターに、単独で高い戦闘力を持つモンスターもいる大樹の迷宮。しかし、Lv7からすれば大した敵では無い。
ここは視界も悪く構造も複雑で、ちょくちょくモンスターが見えないところで溢れ、急に正規ルートに流れては騒ぎになったりしている。
…だからこそ、
「そう言えば、そろそろリリルカ・アーデが来るのか」
最初はベルを騙そうと動き、仲間になった後も因縁から厄介事を呼び込む彼女は、ベルに試練を運ぶ重要なピースであり、英雄に救われるヒロインの1人。
だがひとつ不安がある。ベルの訓練では恩恵に依らない身体能力、基礎的な攻撃から防御、回避といった技、相手の動きを見切る方法など様々な訓練を施した。
ミノタウロスに襲われた時に、どうにか対処するんじゃないかと少し期待があったが、流石にポテンシャルがLv2相手だとどうしようもなかったようだった。
…逃げ足は早くなってたかもな。
そのためベルは原作よりも技や駆け引きの能力が高い筈だ。シルバーバックとの戦いを見た限り、ステイタスに大差は無さそうだが、動きのキレはしっかりあった。しばらく会っていない間にも訓練を怠らなかったようで何よりだ。
まあ、その甲斐もあって、ベルのスペックは中々に上がっているんだが…兄心が働いたせいか、オラリオにおける詐欺師や盗人への警戒心や対策を教えていて…要は、リリルカ・アーデが親睦を深める前に盗みがバレてしまわないかの不安が…。
「…まあ、リリルカ・アーデの盗みの技術に期待だな…こんなところでガバ
が…っと、ここか」
レイが辿り着いたのはなんてことないダンジョンの壁。辺りの植物からツタが伸びていたり、コケが生えていたりするが、他の場所とそう変わりは無い。
しかし、レイが魔法による音で感知する周囲の情報は、壁の向こうに広い空間があることを感知した。
少し強めに押し込むと少々柔らかい感触だった。ここで間違いなさそうだとその部分を剣で切り裂き、向こう側の空間に入っていった。
「来たぞ、
薄暗い空間に声が響くと、魔石灯や特殊な植物などから空間が明るく照らされる。
そこには、様々な種のモンスターが共に共生していた。
「お久シぶりデス、同じナヲ持つ友ヨ」
「レイっち!よく来たな!」
「キュー!!」
金の髪と青い目と美しい見目をした、同じ名を持つ
同胞らの中でも一際高い戦闘力を持つ、
愛らしい白い毛と赤い目を持つ、どことなくベルに似たレディな
彼女らは、モンスターでありながら人間と同等の思考能力を持ち、感情を持つ異端のモンスター、
彼女らは歓迎ムードでこちらに近付いてくる。
「応、久しぶり。ここのところ忙しくてな…元気だったか?」
「ふんっ…貴様なんぞ、来ても来なくてもどちらでもいいわ」
こちらに近付かず、警戒するように遠巻きに睨み付けてくるグループのリーダー格、
「おいグロス!せっかく俺っち達に協力してくれてるレイっちになんて言い草だよ!」
「黙れ。所詮人間に、オレ達と相容れんものだ。強さに調子づき、戯れで手を貸しているだけに過ぎんだろう」
「お、お前なぁ…!」
「よせ、別にどう思われてようと構わない。俺は、俺の目的の為に動いてるだけだからな」
「…レイっち」
「…そういうところが、得体が知れんと言うのだ」
俺の目的は、要はベルと
…だが、俺にベルが異端の英雄となるのを止める気は無い。ベルと結んだ絆が、ベルの命を救ったり、オラリオの破壊を阻止する重要なピースともなる。彼らの抜けた分を俺だけで対処するのも限界がある。そして、仮に俺の知らない時に
「…クラネルさン」
「レイ、どうした?」
「…イえ、その…」
彼女は俺が最初に出会った
彼女がこの群れに所属する前に、他のモンスターに襲われていた所を俺が助け、暫くダンジョン内で保護していた。未開拓領域を見つけるのは、俺の魔法を使えば簡単だった。その後、ウラノスの接触があり、彼女をこの群れに所属させて別れることとなった。
また、彼女に名を教えた時、彼女はその名を気に入り、自分も同じ名前を持っていいかと聞いてきた。俺は構わないと答えると、彼女は嬉々としてその名を使うようになった。何の因果か、彼女も俺と同じ音を使った攻撃と感知が出来るしな。
「ああ、
俺はレイの前で腕を広げた。
レイは顔を少し赤くしながらこちらに抱きついてきた。
柔らかく暖かい羽が身体を包み、こちらも腕を背中に回す。
「ンっ…ありガとウ、ございマス」
「好きだよなぁ、ハグ」
彼女には、抱きしめることのできない翼の代わりに愛する人に抱きしめてもらう事という夢があった。俺によく懐いた彼女は、度々俺にハグをねだってくるのだ。
「ひゅう、お熱いねぇ、レイ達は!」
「リド!」
リドが揶揄うように囃し立てると、レイは怒りながら抱擁を解き、リドに詰めて行った。
…俺は、一時彼女らが居なければベルのリスクが減るのではと考えていた時期があったのを思い出し、自己嫌悪の感情に包まれた。