「
アイズが【エアリアル】を発動し、風が吹き荒れ、剣と全身に纏わる。
レフィーヤの魔法を片腕で防ぎ、Lv5すら圧倒する膂力に、アイズは対人戦では使うまいとしていた己の魔法の発動に踏み切った。
「なっ」
上段からの攻撃で潰されかけていたアイズが、爆発的に上がった速度と風の力によって敵の攻勢を押し返す。
唐突なパワーアップに面を食らったのか、一部溶けた肉の仮面から覗いていた左眼から驚愕の意が現れる。
風の纏った斬撃が、防御すら貫く。
吹き荒れる風と斬撃の衝撃が、相手の身体を凄まじい勢いで飛ばし、その余波で肉の仮面が裂けて飛ぶ。
石畳に脚を埋め、ガガガガガッ!と削りながら大きく下がり、ようやく停止したところで、血のように赤い髪が垂れてゆっくりと顔を上げる。
ボロボロになった包帯を千切り、あらわになる女の美貌。
その表情は驚愕で包まれている。
「そうか…貴様がアリアか!」
その言葉に今度はアイズの顔が驚愕に染る。
何故その名前を…と動揺しているところに、畳み掛けるように事態は動く。
『ーーァァァァァァアアアアアッ!!』
突如、地面に転がっていた宝玉が…眠っていた胎児が叫喚を上げる。
しまった、と焦って動いた赤髪の女よりも早く、胎児が宝玉の膜を飛び出す。
赤髪の女が従えていた瀕死の食人花のモンスターへ接触した瞬間、同化…否、寄生した。
瀕死であった筈の肉体が膨れ上がり、肉が蜂起し、おぞましい姿へと変貌を遂げる。
「チッ」
暴れ狂いながら街の方へ向かっていった蛸の様な化け物を見て、舌打ちをした赤髪の女。
しかし直ぐに切り替え、アイズに長剣を向ける。
「…まあいい。アリア、貴様を…ッ!?」
その瞬間、不可視の衝撃波が赤髪の女を襲い、そのまま水晶に叩き付けられた。
「…お前が
白みがかった銀の髪の剣士が、そこに立っていた。
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レイはアイズが成長するキッカケの一つであるこのイベントをギリギリまで待っていた。
明確な条件としてはアリアと呼ばれることと、強さに対する更なる渇望と考え、戦闘に参加するのはレヴィスと自分の戦闘力の確認の為だ。
「ウッ…貴様ッ…何者っ、だ」
水晶にめり込んだ状態から立ち上がり、赤髪の女、レヴィスが身体を無理矢理立たせる。
「こっちの台詞だ、あのモンスターを従えて、妙な暗躍をしてるお前こそ何者だ?」
あくまでも知らない態度は貫く。何かを知ってる思われ、その上で黙っていると思われたら、身内からの信頼も崩れるからだ。
「……死ねっ!」
涼しい顔で様子を見ていれば、レヴィスは地面を蹴って上段から長剣を振り下ろした。
瞬時に剣を抜き、受け止める。
ギリギリと金属の擦れる音が聞こえ、レイは余裕の表情でレヴィスの攻撃を弾き返す。
そのまま追撃に斬撃を繰り出し、レヴィスはギリギリで長剣を滑り込ませるが、斬撃の威力に負けて吹っ飛ばされる。
それを追って直ぐに間合いを詰め、一閃。
レヴィスの長剣を両断し、腹部に手傷を負わせた。
「…ヅァッ……Lv…7、か…!」
腹部を抑え、殺意をむき出しにして睨み付けるレヴィス。
一方でレイは、こんなものかと血の着いた剣を眺めながら思っていた。
「…」
先程まで自分を圧倒していた相手を更に圧倒する光景を、アイズは目を剥いて眺めていた。
「アイズ、この程度の相手に苦戦するな。全力で掛かれば十分に勝てる相手だった…違うか?」
レイのその言葉に、アイズは驚いた表情でしどろもどろになっていた。
「…はぁはぁ……貴様ッ!」
この程度、と言われレヴィスは激昂する。
ダメージは少なくないのか、肩で息をしながら着いた膝を必死に上げる。
「向こうのモンスターはフィン達が対処する。俺らはこいつの捕縛だ」
「…うん」
アイズはレイと共に剣を構える。
レヴィスは激情を抑えたのか、殺意に満ちた目をしながらも息を落ち着かせていた。
「…ふん。流石に、分が悪い、か」
そう判断するや否や、折れた長剣を捨てて森の方へ逃げ出した。
「…!」「逃がすか」
アイズは直ぐに加速して追い、レイは腕をレヴィスに向けて構える。
暗い森の中に逃げ込まれたら、追うのは難しい。
アイズはそう考え、レイの射線を避けつつ最高速で駆けた。
「“
レイの放った音塊がレヴィスを襲う。
しかし、レヴィス避けるでもなく、少し跳躍した上で振り向き、腕を交差させて防御しながら音塊を受けた。
「グッ…ぉぉおおお!!」
レヴィスはその衝撃を利用し、敢えて踏ん張りの無い空中で受けることで吹き飛ばされ、距離を取ったのだ。
しまったと思うのも束の間、遠くから着水音が聞こえ、レヴィスは暗闇の中完全に姿を消した。
「……まあ、本気で捕まえる気は無かったが」
アイズやレフィーヤ達が近くに居ないせいか、そんな言葉が口から零れる。
追おうと思えば、魔法を使って音を集めて場所を特定できる。
確かに、ここで捕まえれば今後の脅威は劇的に減るが、俺は都市の人間や身内が犠牲になるとわかっていても、それを試練と捉えて戦いの種は摘まない。それが、養母への誓いに最も繋がるからだ。
「きっと、俺の本心を知れば、全員俺に失望するんだろうな…」
それでも、俺は誓いを果たすのだ。
そんな思いを乗せた言葉は、18階層の森の暗闇の静寂に溶けていった。