音の方向を向くと、槍を持った
「…アレン、何の用だ。」
「黙れ、馴れ馴れしく名前を呼ぶな」
アレンは槍の穂先を向け、威嚇する様に睨みつけてくる。
レイは面倒くさそうに溜め息を吐き、やれやれと言った様子で頭を搔いた。
「つれないな。
「俺はテメェとお喋りしに来たんじゃねぇ。構えろ」
聞く耳持たずといった様子で槍を構え直すアレンに、レイは剣に手を伸ばすことも無く関心のなさを表情で表す。
「…何か、今すぐ抗争になりうるキッカケでもあったか?」
「……元々敵対派閥同士だ。時と場合を考える必要なんざねぇ!」
会話を中断し、アレンは飛びかかってくる。
先程まで立っていた屋根の瓦は弾け飛び、真上に一瞬で移動したアレンは槍を振り下ろす。
「…軽い」
刃が到達する前に槍の柄を掴んで攻撃を中断させ、そのまま建物の壁に叩き付ける様にアレンごと投げる。
アレンは壁に張り付くように着地し、そのまま壁を蹴って加速して接近してくる。
まるで旋風が如く振るわれる槍撃を数発受け流し、隙とも言えないほどの一瞬を突いて腹に蹴りを入れる。
数M後方に下がらされたアレンが、腹を抑えて膝を着く。
「…そよ風か?」
「ッ…!テメェも、その台詞を…!」
「言っちゃ悪いが、役者不足だ。オッタルを連れてこなけりゃ勝負にもならんぞ、速さは認めるけどな」
「殺す」
「…時間稼ぎか?邪魔させないように」
「…ッ」
アレンは一瞬、図星だと表情に出してしまう。
「別に邪魔する気は無い、見届けるだけだ。お前も殺し合えとまでは言われてないだろ?」
「…チッ!」
______________________________________________________________________
アレンを押し通り、ベルとシルバーバックの決戦の場所を発見する。
ヘスティアに能力値更新を受け、ヘスティアナイフを授かると、ベルは果敢にシルバーバックに立ち向かった。
まだこの都市に来て半年、にもかかわらず詰め寄り刃を振るう速度、攻撃を受け止める力、受け流す器用。能力で言えばレベル1中堅相当であるシルバーバックに対して、見劣りしていない。
「うぉぉおおおおっ!」
やがて魔石を穿つ一撃を受け、シルバーバックは灰と化した。
無事スキルは発現している様で何よりだ。
ベルの能力値等に多少のズレがあっても、そこまで問題は無いが憧憬対象が変に変わってたりすると俺が成長をサポートするにしても面倒だ。
「…スキル発現も、しっかりアイズが切っ掛けになってるな。俺に憧憬向けられたらベルの成長イベントが大幅に減る…俺はアイズほど自由には動けないし」
ダイダロス通りの住人達の歓声の中、気絶したベルは女神に抱きかかえられる。
俺が登場してベルを運んでやってもいいが…生憎用が出来てしまった。
美神へのな。
__________________________________________________________________
「何のつもりだ、フレイヤ」
バベルの上層。
遥か上からベルの闘いを見守っていた美神の居場所に、レイは殴り込んだ。
「…あら、レイ。何のつもりとは、どういう意味かしら?」
「人に足止め食らわせといて惚けんな」
此方が相応に怒っていると感じたのか、フレイヤの横に仕えていたオッタルが前に出て、俺と睨み合う。
「オッタル…俺は、ライバルとしても割とお前の事が気に入ってるんだ。変に揉めたくない」
「…俺も、武人として、貴様は認めている。だが、我らが女神に害意を向けんとするならば…ここで雌雄を決するのも辞さんぞ」
「お前の、女神最優先な所は嫌いだよ俺は」
周囲の空気が重くなるほどの重厚な戦意のぶつかり合い。
そんな一色触発な空気にも、フレイヤは微笑んでいた。
「オッタル、大丈夫よ。下がってなさい」
「…しかし、レイ相手ですと、いざと言う時、確実に守りきれません…」
「オッタル?」
「…仰せのままに」
オッタルは根負けして再びフレイヤの後方に下がる。
笑みを絶やさずに此方を魅了するオーラを出すフレイヤに、レイは不快感を隠しもしない。
「ふふっ…やっぱり貴方には魅了が効かない…神の権能を破るなんて、どうやってるのかしら…?」
「…俺には果たさないといけない誓いがある。それが果たされるまでは、俺の意思は揺るがない」
「そう…もし、誓いが果たされたなら、私の物になってくれるのかしら?」
「…本題だ。俺は弟に試練は与えど、助ける気は更々無かった。見守るだけのつもりだったんだ」
「やっぱり兄弟だったの…弟…苗字も同じだし、見た目も少し似ているものね。だからこそ、私の悪戯を咎めに来たのだと思ったとだけど…」
「お前の戯れ如きアイツは退ける。俺は戦闘の基礎と訓練法ぐらいしか教えてないが、それでもアイツの強さを知ってる」
「…ふ、ふふふっ…アハハハハッ!そう!なら、貴方のことは気にしなくても良いのね?」
「何なら、試練を与えると考えるなら手伝うことも考える。お前の悪戯はアイツを強くする」
「……意外、なのかしらね?」
フレイヤは心底楽しそうな表情を浮かべ、此方の顔をじっと見る。
「…度が過ぎなければ、だけどな。何もかも済んだら、お前のものになってやっても良い」
フレイヤはキョトンとした目を一瞬し、再び大笑いを始めた。
「アハハハッ!良いわ、そう言うなら、何かする時は一声かけることにするわ。それにしても、酷いお兄さん」
「年中男誑かしてる奴に言われたくない。アイツには強くなってもらわないと困るんだ。まあ、暫くは見守ってろ。町娘に変装でもしてな」
レイは不満そうな顔をして、フレイヤとオッタルの見送る中バベルの窓から飛び降りた。