くそっ!くそっ!くそっ!!
僕は何をしてたんだ!
ダンジョンの第6層で、ベル・クラネルは
決して
英雄の都市、何時も背中を見続けていた兄、そして美しい女剣士への憧憬。
それらの全てを嘲笑うかのような、弱さと情けなさと言う現実。
殆ど着けていない装備に、質が良いとは言えない短剣、傷付き、消耗していく身体。何一つ力に変わらない条件の中、彼を動かしていたのは自分への怒り。
兄に稽古をつけてもらいながら、村を出ることを不安がり、祖父が死ぬまで何もしなかった自分。あの時、襲い来る猛牛に立ち向かうことすらしなかった自分。
ゴブリンやコボルト達の首を狙って何度も短剣を振るう。
近くにいた最後のコボルトが灰に変わった時、後方から
「キキっ…ギッ」
ウォーシャドウ。この階層では最強のポテンシャルを持つ新米殺しとも言われる
3…4…そんな相手が群れを成して現れた。
装備も無く、ポーションも無い状況下で、勝てる訳が無い。
「うああぁぁっ!!」
しかし、ベルは吼えた。
この程度、乗り越えなくては兄の背を追い掛ける資格などない。
アイズ・ヴァレンシュタインに憧れる資格などない!
かくしてどこか情けなかった1人の少年は消え、強くなる為に覚悟を持った1人の冒険者が生まれた。
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「神様…僕、強くなりたいです」
日が登り始めた時、ベルはボロボロの姿で主神に支えられていた。
ヘスティアは気絶したベルを運ぼうと抱えると、ゆっくりと歩き始めた。
「神ヘスティア」
そんなヘスティアを呼び止める声。
ヘスティアにはその声に聞き覚えがあった。
「き、キミは!」
そこにはレイと名乗る白髪の冒険者が居た。
彼は、思い入れのある場所なのだと時折廃教会に尋ねてきては、何かに祈りを捧げていた。
祈る以外は何もしないと言い、嘘も無かったし滞在費と言ってその日の食費を払っていくので個神的にはありがたい子であった。最近はさっぱり来なくなってしまったが…。
「そ、そうだ!ポーションを持ってないかい!?ベル君はボクの
「…ああ、飲ませるといい」
緑の液体の入った小さな瓶を手渡され、ヘスティアは直ぐに封を空けてベルの口に流し込んだ。
所々の切り傷や、痣が即座に引いていき、ヘスティアはギョッとする。
「あ、ありがとう!でもこれ…高価なポーションだったんじゃあ…」
「ハイポーションだ。…1万ヴァリスって所だな」
「うっ、分けてくれたのはすごくありがたいんだけど…お金が…」
「構わない。あの教会を掃除してくれてるしな…それに」
「うん?」
「そいつ…ベルは、俺の弟だ」
「…え、ええっ!?確かに、ベル君にはお兄さんが居るとは聞いてたけど…君がかい!?」
「ああ。ロキ・ファミリアに所属してる。何かあれば尋ねてくれ」
「う…!ロキかぁ…」
「とにかく、教会まで運ぼう」
レイ君はそう言って、ベル君を手馴れた様子で背負う。
その時に見せた、ヤレヤレと言った優しい顔には、何処かベル君に似ていた。兄という言葉に少し実感が湧く。
「…今後とも、愚弟を支えてやってくれ」
「もちろん!ベル君は最初で唯一のボクの眷属だからね!」