遠征で苦労した分、その鬱憤を晴らすようにロキ・ファミリアの面々、特にラウル達の男連中は特に騒いでいた。
「うおーっ、ガレスー!?うちと飲み比べて勝負やー!」
「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい!」
「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやァッ!」
「じっ、自分もやるっス!?」
「俺もぉぉ!」「俺もだ!!」「私もっ!」「ヒック。あ、じゃあ、僕も」
…ロキはそんなこと関係なしに騒がしかったが。
「…居たな、ベル」
ちらりとカウンター側の席を見ると、シルと喋っているベルの姿が見える。そろそろ、ベートのトマト野郎発言が始まるころかな。
ベルの奴、ダンジョンではアイズに見蕩れてたのもあってか俺の存在にも気付かなかったらしい。
…そもそも、あいつ俺がロキ・ファミリアに所属してるの知ってんのか?原作でも都市最大派閥のことをよく知らなかった。半月もいるのだから俺の名前ぐらいなら聞いててもいいと思うが…そしたら尋ねてくるよな。
入団希望で追い返された時も、俺の名前を出せば通して貰えたはず…いや、性格的にそんなことするかは微妙か。
「レイさん、お久しぶりです」
静かにチビチビと酒を飲んでいると、リューが話しかけてくる。
養母さんを贄とした1人…しかし、恨みなど欠片も無いし、向こうも俺と養母さんの関係は知らないので普通に接している。
「ああ、今回の遠征は長引いた。厄介な敵も多かったし、総合的には赤字だな」
「少し耳にしました。凶悪な防具を破壊する能力があったと」
「多分、次回の遠征では武器を多めに持参するか…でも高い質の武器は金が掛かるからな。根本的な解決にはならない…どうするかはフィン達の首脳陣に任せるさ」
「なるほど…そういえば、聞きたいことがあったのですが…」
「何だ?…それにしても、今日はシルが絡んでこないな。いい日だ」
「…苦手なのは知っていますが、彼女も悪い人では無い。嫌わないであげて欲しい。それと、聞きたいことと言うのはシルが今日来ない理由に起因しているのですが…」
「なあ、レイ!お前も笑えただろ?あのトマト野郎はよ!」
「…あ?」
「ミノタウロスに襲われて、ピーピー情けない声上げて逃げ回って、情けねえにも程があるよな!」
気付いていると悟られない程度に、ベルの方へと目を向ける。
ここに居ることへの驚愕と、醜態を思い出した羞恥の混ざったような表情を浮かべ、今にも泣きそうな雰囲気だ。
『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ』
「ベルさん!?」
その一言がトドメとなり、ベルは店の外へと駆け出した。
「…レイさん、今の彼はやはり…」
「愚弟だ。今は情けなくて、弱っちいな…飯代は俺から立て替えとく」
「わかりました、ミア母さんに伝えます」
「はぁ…」
村に帰る度にたっぷりしごいてやってたが、それでもミノタウロスに勝てる程の強さにはなろう筈もない。多少の基礎と訓練法を授けた位じゃ、影響は少なかったようだ。まともに立ち向かえる程度には鍛えてやったつもりだったんだんだがな。
「ベート」
「あ?」
「少し黙っとけ、“響け
ベートに放った音塊は、強い魔力を発しながら音速で飛び、ベートを店の外に吹き飛ばした。
「すまんミア母さん!何も壊してないし、煩いの黙らせただけだから許してくれ!」
「…まあ、良いだろう。それ以上やるならぶっ飛ばすけどね」
「助かる」
「…は?ちょちょ!レイ、なんやっとんやいきなり!酒の席やん、シャレやん!」
「んー…」
「ぐっ…が、何しやがる!」
起き上がって直ぐに怒鳴り込んでくるベートに軽く舌打ちをする。
「…相変わらず似ているな。……いや、レイ。確かに聞くに耐えない暴言であったが、魔法はやりすぎだ。どうした?」
「そもリヴェリアが言ったように、根本の原因は俺たちだ。こちらの不手際で死にかけた者の話を酒の肴として出すのは不快だ。そしてそれを聞いてゲラゲラ笑ってるのもな」
ロキ含めて笑っていた者たちから表情が消える。
幹部が自分たちの行動で怒っているというのは、なかなかに恐ろしいだろう。
「そして…言わなかった俺も何だが、そのトマト野郎は俺の弟だ」
瞬間、ロキ・ファミリアの面々から完全に表情が消え失せた。
笑っていた者たちは、幹部の肉親を侮辱してしまった事実に顔が蒼白する。
「いっちゃ悪いが、確かに未熟な愚弟ではある。でも期待してる奴でもあるんでな…ベート、お前の信条には共感するものもあるからこれ以上責めない。ただ、悪酔いし過ぎたな…俺も少し酔ってたな、お互い流せ」
「…チッ!」
ベートは不貞腐れたように席に戻る。先程まで賑わっていた宴は見る影もない。
「レイ、君に弟がいるとは知らなかったね」
空気を変えようとフィンが会話を切り出す。
「ああ。時折、住んでる村に会いに行ってた」
「なるほど、君がよく休暇を取ってオラリオを出るにはそんな理由が。」
「…すまんな、酒の席の空気を悪くして」
「いや、非はベートにある。君が気にする事はない…今日はこの辺でお開きにしようか」
そんなフィンの言葉で、宴はお開きとなった。
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「…やっちまったな」
夜風を受けながら、後悔の念が心を襲う。
原作通りだったんだから、わざわざキレて問題にする必要はなかった。
「…あの不快感は、弟を愛す兄としてのものだったんだろうな」
原作を知る俺ではなく、養母さんを愛したように家族を愛する“レイ・クラネル”としての感情。制御しきれなかったのは俺の未熟だ。
「ふぅ…」
夜も更けてきた。そろそろホームに戻るか…今ベルはダンジョンか、様子を見に…いや、邪魔しちゃいけないな。スキルが目覚める大事なきっかけだし、心を成長させるイベントでもある。
「…レイ」
後方から話しかけてきたのはアイズ。
どうやら、話しかけるタイミングを図り損ねていたようで、気配はさっきから感じていた。帰ろうとするのを見て決心が着いたんだろう。
「あの、子…弟だったん、だね」
「ああ。可愛い愚弟だよ」
「あの子は…レイみたいに、強くなる?」
「さてな…でも、俺はかなり期待してる。本音を言えば、ロキ・ファミリアの誰よりも」
主人公であるから、そして才能の権化みたいな俺の兄弟でもあるから、そして…
「…そ、う。」
「…まあ、何だ。何か困ってたら助けてやって欲しい…こういうの、兄バカって言うのかね?」
「そんなこと、は…家族、なんでしょ?」
「ああ、最後のな…いや、俺はお前達も家族だと思ってるけどな」
「!…うん」
「…帰るか、冷えてきた」
「うん…!」
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「それにしても、びっくりしたのう…ああいうのを兄バカって言うんかね」
「まあ、正当な怒りだ。ベートも知らなかったとはいえ口が過ぎた」
「まあまあ、ベートの口の悪さは今に始まったことでは無いさ。そこが彼の強さでもある。僕としては度が過ぎなければ咎める気は無いよ。…それよりも」
「うむ、ますます似てきた、だろう?」
「ああ、性別も違うし、顔つきも似てはいない。髪の色が少し近い程度だし、そっくりとは言えないが…あの魔法を使う姿は似ている」
「加えて、彼の持つスキル…あの日、18階層で彼は何を彼女と約束したのか…彼女との関係も、約束の内容も、一切答えてくれないからね」
「弟と言う少年から何か聞き出してみるか?よもやあの女が産んだとは思わんが…ひょっとしたら遠縁か何かかもしれん」
「…私は辞めた方が良いと思う。下手に踏み込めばレイの不興を買うぞ?」
「んー…そうだね。無理に聞き出すことも無い。レイが何を約束していたとしても、あの段階で彼女が都市に害なすことを頼んだとも思えない」
「そうじゃな、虎の尾か判断も出来んものを踏む必要は無い」
「…それにしても、やはり何処かに面影がある。彼女に…アルフィアに」