『死ぬのか、伯母さん』
燃え盛る18階層。
楽園と呼ばれた迷宮の安全地帯。
太陽が如く輝いていた
『…伯母と言ったら、殴ると言ったが?』
『…拳を握る握力も、魔法をを放つ
これは、本来の彼女の終幕に抗い、無理矢理作った時間。
『最後に義息への言葉も無しか?薄情な人だ』
『…私はただの悪になった。それだけだ』
『何でもいい。闇派閥が何人殺そうが、都市に何をしようが別にどうでもよかった。あんたが英雄への贄になることも、悲しさはあっても肯定する。でも、徹底して俺との会話を避けてたせいで、こんな状況でしか話せないことだけが不満だ』
『…そうか。お前は、そうだった、な…病弱で、心優しいメーテリアから、産まれたとは思えん強靭さと図太さを持った…』
『母さんは俺を15で産んだ。ろくでなしらしい父と結ばれてたことを考えると、意外とやんちゃだったんじゃないか?』
『………孕んだ時は、戦慄だったさ……それにしても、オラリオに居るとは思わなかった。会った時は心底驚いたが…決意はもう済んでいた。心は揺れたが、方針はブレなかった…グッ…ハァハァ…』
『限界、か……2年間、養母を名乗って一緒に暮らしたと思ったら、急に姿くらませてその後は放置して、今度はオラリオを滅ぼそうと現れる…色んな恨み言も吐きたいが…遺言、それだけを聞くために、地上での防衛指令を無視してここまで来た。俺と養母さんの関係はバレてない…最後の望みを聞きたい』
ロキ・ファミリアの一員としては、決してしてはならない行動。
だが、俺はこの養母を、2年の月日を家族として過ごしたこの人の望みを、恩返しとして命を賭けてでも聞きたかったのだ。
『俺は、その望みを生涯をかけて叶えてみせる。養母さんの言った最後の英雄になって、黒竜だって討伐してみせる…だから、俺に願ってくれ…』
ああ、情けない。大それた、英雄にだってなってみせるなどと言っているのに、きっと俺の顔は泣きそうになっているのだろう。
『…私は、お前には何も望む気は…いや、一つ…あったな』
『何だ?』
『ベル。お前の弟だ。田舎の村でゼウスの爺と2人で暮らしている…。お前と違って、親の記憶も無い、母の温もりも知らん子だ。…会えば、決意が鈍ると思った。だから、1度も会わなかった。お前が、家族として一緒にいてやれ……』
『ベ…ル…。弟………分かった』
『…あぁ。最後の英雄になんてならなくて良い……私たちの贄が、黒竜を討つことに繋がることを祈る…お前達が戦わなくても良い世界になれば良いが…』
養母の眼が虚ろになっていく。
握った腕から感じる脈が減っていく。
……この手から、養母さんの命が消えていく。
『…こんな、言葉は…柄では無いが……これで最期だ。…愛してたぞ、レイ』
最後に、残った力絞り出して、養母さんは俺の手を振り払った。
『さよなら、養母さん』
炎の中へと沈む養母さんの姿を見送ると、穴の上から龍の雄叫びと爆発音が響く。
母さんが贄となった
『…俺もだ』
養母さんを贄としたのは、俺も同じだ。
『ウァァァァァッ!』
俺は穴から飛び出すと、禍々しい龍へと突っ込んでいく。
『なっ、レイ!?』
『なーんで、あの子が居るのかしらね!?』
深緑の髪のハイエルフと赤髪の女剣士の叫び声が聞こえる。
でも、関係ない。
俺は…
俺は……
俺は………!
『養母さんの欲した、最後の英雄に!』
例え、望まれていなくとも…養母さんを贄としたのならば、俺がなるべきなのだ。
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「兄さん!兄さん!」
自分より一回り小さい白髪の弟は、真っ赤な目をこちらに向けて、ニコニコと近付いてくる。
「…何だ?」
「綺麗な石を見つけたんだ!兄さんにあげる!」
「…そうか、ありがとう」
年齢にしては少し幼い弟は、村に近い年齢の子供が居ないからか、常に俺にベッタリだ。
ベルをオラリオに連れていくことも考えたが、下手に原作を崩すとどうなるか分からないし、スキルが発現しなくなる可能性もある。なにより養母さんは出来ればベルには冒険者になって欲しくはなかったのだろうと思い、無理に連れていくのは辞め、定期的に会うことに留めている。
そして、養母さんの話も、生みの親の話もしていない。これは今後話す気もない。
原作でも知らなかったし、知る必要のないことだ。
…しかし、祖父と呼ばれるゼウスが英雄譚をよく読み聞かせているせいか、英雄に強く憧れている。オラリオに連れていくことも、本人が望むならその限りでは無いが…。
「僕も、いつか兄さんみたいに冒険者になって、びしょーじょハーレムを作るんだ!」
あの祖父を名乗るジジイは幼子には悪影響な気がしてならない。
ベルの頭を撫でながら、これからのことを考える。
記憶に目覚めたからと言って、別段人格が変わった訳でもない。
目標は強くなって、養母さんの求めた最後の英雄になることだけだ。
黒竜討伐には、きっと主人公であるベルの力も必要だ。ほどほどに鍛えることにしよう。
「そうか、ベル。じゃあ強くならなきゃな…鍛えてやる」
「え?」
「走り込み、素振り、実戦形式…俺が帰ってくる時は直接鍛えてやる!ほら、行くぞ、まずは走り込みからだ!」
「え、えええっ!?」
ベルの首根っこを掴み、山の方へと俺は走り出した…。