作:まロい
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「『彼』は草の獣。私の友人であり、この世界でいえば……治癒を司る精霊みたいな者だよ『静寂』」
抱っこをせがむ草の獣さんを前にして、無表情の仮面が剥がれ何とも言えないような顔をしているアルフィアに声をかける。
たしか、この世界の精霊は神々が下界に降りてくる前に
であるなら、
「この場所に私が来たのも彼が私を案内したからだ。先にも言ったが、彼はこと『治癒』に特化していてね、傷を癒し疲労を回復させるだけでなく……
俺の言葉にぴくりと思わず反応してしまったという様子のアルフィア。
アルフィアとザルドはそれぞれ不治の病とベヒーモスの毒で余命幾ばくもないからこそ、最期にオラリオの後進達の壁になろうってエレボスの企みに参加しているはずだから、その前提が覆るかもしれない可能性には反応を示さずにはいられなかったのだろう。
「よければ触れて、抱き上げて欲しい『静寂』。彼には悪意などなく、純粋に病を得てしまった者を救いたくて貴女の前にいるのだから」
もしかしたら、ムキチが爺との約束を果たせなかったことが今回の草の獣さんの行動に関係しているかも知れないけど、草の獣さん達の行動基準はわからんからなぁ。
おいしい、びょうき、あっちにいるって食欲から来る行動だったりしたらどうしよ。
『だっこする?』
アルフィアの前で立ち上がり短い腕を2本前に差し出す草の獣さん。
顔を少し傾けてる辺りがすごく可愛いんだけど、そのあざとい感じを誰から教わったんだ?
アルフィアは一度こちらに顔を向けた後、草の獣さんに顔を向け…………。
『さやま』
ずっと茫然自失していたポンコツエルフ先輩を放置し、アルフィアとエレボスに別れを告げ教会から出てふらふらしていると頭の上を陣取っている草の獣さんから声が聞こえた。
邪魔になったら教会から放り出すとアルフィアが言っていたので、ポンコツエルフ先輩はそれまでは無事だろう。
あの教会はたしかアルフィアの妹が大事にしていた場所だったはずなので、そんな場所を血に染めることはしないって部分では信頼できる。
エレボスも妙に『正義』に固執していたし、神ってのは堕ちた後に再起するような話が大好きだからあれ以上の手出しはしないと思うし。
どういう経緯なのか知らんが、
仮に襲われてもポンコツエルフもLv.3だったはずなので、
落ち込んでようがお腹が空いたらホームまで帰って、そこで団長とかに励まされるでしょ。
『さやま?』
「『
簡単に受入れはしないと思ったが、それでも草の獣さんの治療を拒むとは思ってはいなかった。
草の獣さんの治療を断ったアルフィアの表情を思い出す。
諦めているだけではない。まるで、自分は救われてはいけないと拒絶し、刻んで戒めているかのような顔を。
『さやま?』
バベル、いやノアから世界の敵になると宣誓した彼女を思い出す。
刻まれた命を祈り結び、生き伸びることが出来ただけの少女を抱え、世界に全てを取り戻すため敵対すると叫んだ姉と呼べるかも知れない人。
大切な人を喪うことのない世界を、それを望むことは間違いではないと叫んだあの人の顔によく似ていた。
罪も罰もその総てを抱え、自分のやっていることを理解し、その上で覚悟を決めてしまった人の顔に。
『さやま!』
頭をてしてしと叩かれる。
「すまない、考え事をしていた。どうかしたのかね?」
さっきから呼ばれていたような気がするが、考え事をしていて気が付かなかった。
草の獣さんはするりと頭の上から降りると、立ち上がりこちらを真っ直ぐに見つめてくる。
その様子見て俺は腰を落とし、草の獣さんに目線を合わせる。
『さやま、やりたいようにやろう?』
それは………………。
『さやまは、やりたいようにやってるよ?』
………………あぁ。そう、だったね。
言うべきことは言ったと、草の獣さんは俺をよじ登り再び頭の上に戻ってくる。
大きく息を吐く。全く、目が覚めるとはこういうことか。
ほんっっっっっとに草の獣さんは凄いですわ。
「………………私は『
「救いを望まぬ者をぶん殴って、ふん縛って、そのまま振り回しながら救った挙句にドヤ顔する自分勝手な連中に憧れ、追い続けた愚か者だ」
草の獣さんは何も言わずに俺の言葉を聞いている、聞いてくれている。
「彼らには事情も、信条も、覚悟もあるだろう」
「だが、そんな物は私の……
ふと立ち止まり、空を見上げる。
夕暮れに染まりつつある空、大人しかった
「クソ爺も、親父も。そして、兄貴も……どうだったのだろうね?」
神の一斉送還からの恩恵を失った眷属と民衆の虐殺、その結果の冒険者や生き残った民衆の混乱と絶望。
それを、俺がある程度とはいえ回復させてしまった。
「あの日、兄貴が人狼に立ち向かい、新庄の姓の者と出会い……概念戦争を、全竜交渉を知り」
「
それは、
貯め込んだ戦力を動かし、都市に破壊と殺戮を振りまいた。しかし、都市は沈まず希望にしがみつかれた今の状況など
なら、再び動く。
神を欺き、冒険者を嘲笑し、民衆を絶望へ落とすために。
そして、その中で彼女らは終焉を覆すための壁として後進達に立ちはだかるために。
「兄貴がどうして決められたのかはわからない。わからない、が」
いまのこの状況は気に入らんし、認めるわけにはいかん。
そうだ、それだけは確かだ。
「手伝ってくれるかね?この世界でたった一人の、愚かで未熟な悪役を?」
『てすためんと!』
すぐさま返された草の獣さんの言葉に、嬉しくなる。
あぁ……本当に、ありがたい。
「ありがとう、この世界でも俺を助けてくれて」
『ちーむればいあさん!さやまもちーむればいあさん!!』
ここで全竜交渉部隊の名前を出してくるとは、草の獣さんはずるいなぁ。
『だから。いっしょにがんばろ?』
「
「
「これより、交渉を開始しよう」
「交渉する相手は意固地になった馬鹿に、意地を張った馬鹿に、頑固者の馬鹿」
「つまりは、いつも通りに馬鹿共が相手だね」
「獏と共に交渉相手の過去を、情報を知る時間はなく」
「行き当たりばったりの出たとこ勝負となる」
「交渉すると考えると下策も下策」
「この
「兄貴を補佐して、兄貴のテンションを上げてくれる新庄先輩」
「交渉への道を切り開いてくれる風見先輩、切り開かれた道を広げてくれる出雲先輩」
「道を確保し続けてくれる竜司先輩に美影先輩、どんな場所にいても駆けつけて援護をくれる原川先輩にヒオちゃん」
「大城の爺様、大樹先生、
「此処に、この世界には、俺達以外の全竜交渉部隊の皆はいない」
「だから、俺のやり方で、やれることを、やれるだけやろう」
「それじゃあ、がんばろっか?」
『てすためんと!!』