作:まロい
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「2nd-Gの概念核、十拳だ。今や私の名前の力の通り……命を刻む」
あぁ、これは夢だ。
ほんの数日前の出来事なのに、もう随分と前に起きたように感じてしまう。
実の兄と、実の姉とも言える2人が世界と己の為に何度も、何度もぶつかり合う。
交差する剣戟、交差する言葉、交差する意志。
俺は知っていた。
此処が分岐点だと。
欠落を重ねた穴だらけの記憶に残るわずかな残骸が、此処まで俺を呼んだ気がしたから。
だから、俺は
此処で兄は大切な人を喪いかけ、此処で彼女は大切な人を喪う。
喪失は拒絶を呼び、拒絶は悔恨を叫ぶ。
返して!!、と感情が暴れる。
「死は最悪の選択だぞっ!戸田・命刻っっっ!!」
止める、救う、変えてみせる。
そう想い、願い、祈った。
何度目かの後悔を増やさないように。
決意し、努力し、準備をした。
届かせると、間に合わせると覚悟をした。
それなのに…………。
兄貴。
死は最悪の選択、ね。
全くもってその通りだし、俺もそう思うよ。
でもさ……それでも、俺は選ぶしかなかったんだ。
「……知らない天井だ」
言えるタイミングがあるなら一度は言わなきゃいけない気になるよね、この台詞って。
もう異世界転生者・異世界転移者・憑依者にとってはノルマだよノルマ。
しっかし、マジで知らない天井なんですが…何処よ此処??
部屋の中は掃除がきちんとしてあるし、微かに消毒液みたいな匂いもするから病院とかか?
部屋の窓から外を見るがどうやら夕方っぽい。
さて、どうした物かとうんうん頭を捻っているとドアがノックされ銀髪の美少女が入って来た。
俺が起きていたことに少し驚いた様子を見せてはいたが、すぐに表情を戻しぺこりと頭を下げる。
歳は俺より少し下くらいかな?ぱっと見表情があんまり顔に出ないタイプに見えるけど、すげぇ可愛い。
「起きられていたのですね」
声も可愛らしいですね、ちょっと甘える感じで「ですと〇いもーど」とか言ってくれません?
銀髪の美少女さんはアミッド・テアサナーレと名乗り、此処はディアンケヒトファミリアが経営する治療院だとかで、俺は明け方くらいにアストレアファミリアの人達に運ばれてきたらしい。
アミッドちゃんも
診断の結果としては大きな怪我はなく、細かい擦り傷とか斬り傷は結構あったけど治療してくれたとのこと。
あと、夕方までぐっすりと寝てたのは疲労通り越して過労だったのと、軽い栄養失調が原因だとか言われた。
過労と栄養失調とか心当たりしかなかったが、アミッドちゃん(テアサナーレさんって呼んだら名前呼びでいいって言われた)に傷の治療のお礼を言う。
「……ちゃん付けは止めて欲しいのですが」
断る、可愛い年下の女の子にはちゃん付けしたい年頃なのだよ。
バイタルを測られたり、問診みたいのを軽い雑談を挟みながらやってもらう。
この娘、年齢の割に手慣れてんな?この世界だと年齢関係なく働けるなら働く感じになるのか……
「きちんと食事と休息を取れば問題はなさそうです」
そっか、ありがとうアミッドちゃん。
「…………やっぱり、ちゃん付けは恥ずかしいので辞めて欲しいのですが」
ごめん、嫌です。
あ、そんな無表情ながらも微妙に不満そうな顔しないで、そんな顔しても可愛いだけだぞ。
アミッドちゃんのおいしゃさんごっこ診察が終わり、着替えを渡されたので着替えて部屋でのんびりしていると、再度アミッドちゃんが部屋に来た。
アミッドちゃんから、ついて来て欲しいと言われたのでほぃほぃついて行く。
ディアンケヒトファミリアの治療院から出た所で何やら見た事があるような気がする和風っぽい服装した美人のお姉さんと合流、俺とアミッドちゃんを護衛してくれるらしい。
何処で見たのかなぁと思ったらこの美人さん、名前はうろ覚えだけどアストレアさんの眷属の一人だわ。
そのまましばらく雑談しながら三人で歩いていると都市中央に建てられた馬鹿みたいに高い塔、バベルの近くにある広場まで来た。
広場には幾つも天幕が張られており、多くの人々が慌ただしく動き回っている。
そんな人々を横目に俺たちはその中でもひと際大きい天幕へと案内され、そこには………。
「こんばんは『
なんか、疲れた顔したショタ爺が出迎えてくれた件。
「ああ、呼び出してしまいすまないねイノリ。今日は今のところ
さいですか。
しかし、それってフィンさんがやることなん?
まぁ、ロキファミリアってオラリオ二大派閥の片割れだし、フィンさん自身も指揮能力は高そうだし、カリスマもあるんだろうけどさぁ。
都市オラリオ全体の危機なんだがら、いちファミリアの団長じゃなくて……例えばギルドの偉い人がやるとかじゃダメなん?
一応、対外的にはこの都市をまとめているのはギルドになるってアミッドちゃんに聞いたんだけど。
「…………まぁ、それについては色々あってね」
あ、察し。
なんでも、いまのギルド長は仕事は出来るが金に汚く豚のような体形をしたエルフで冒険者や民衆からの支持があまり無いという。
そんな話を聞いて「こういう非常時に前に出られない、人をまとめられない組織の長に存在価値あるの?」と返した俺は悪くないと思う。
いや、マジで非常事態にこそ組織の長は率先して色々やらなきゃならんのに、仕事は出来ても平時にしか役に立たない人物がよりにもよって都市をまとめるべきギルドの長をやってんのはヤバいやろ。
ついでに言えば、二大派閥のもう片方であるフレイヤファミリアの団長は脳筋戦闘力特化らしく、最前線に配置して敵を殲滅させて味方の士気を上げる役目をするなら最適らしい。
そりゃ、フィンさんがこんだけ疲れた顔するハメになるわ。
「それで『
あれ?更に疲れたような顔でタメ息吐かれたんだけど?
「本来なら、今朝の皆が揃っていた時にイノリの魔法やスキルについて聞きたかったのだけど、
あー、それはごめん。
ん?魔法?スキル??
「私に魔法とスキルが発現した、と?エルフのような
「イノリの場合、それどころの話じゃなかったのだけどね……」
疲れた顔を通り越してげっそりした顔された、解せぬ。
俺のステイタス一体どんな事になってんのさ。
「私のステイタスは『
げっそりした顔のまま首を横に振られた。
「僕も知ってはいるが、もう少ししたら神アストレアが来ることになっているから、主神である神アストレアから聞いて欲しい」
「それで、出来ればステイタスを教えてもらった後に魔法を此処で使ってみてくれないかい?リヴェリアも来る予定だから魔法の使い方についても教えられるし、何かあっても対処出来るから」
リヴェリアさんって誰よ?と思ったら、今朝紹介された中にいたエルフの美人さんらしい。
「どんな魔法が発現したのかは知らないが、わざわざ私の魔法を此処で披露せねばならない理由でもあるのかね?」
「あぁ、それはだね………」
………マジですか??
魔法が発現しているってだけでも割と驚きなのに、治癒魔法っぽいのもあるとか、何でそんなのが発現してんだよ。
たしかに、いまのオラリオの状況を考えると治癒魔法が使えるならさっさと使えるようになっておいて欲しいのはわかるけど。
まぁ、初回だけステイタス開示するって言っちゃったから別にいいけどさ。
あと、フィンさんの言葉を聞いてから俺の隣にいるアミッドちゃんの雰囲気が恐いんだけど?
治癒魔法が発現したならディアンケヒトファミリアで働かないかって?いや、俺一応アストレアファミリア所属になるんだけ………アストレアさんにはアミッドちゃんから話は通すから大丈夫って?うん、とりあえず落ち着こうかアミッドちゃん。
忙しそうに指示出しをしているフィンさんを眺め、必死の話し合いにより雰囲気が戻ったアミッドちゃんや護衛をしてくれていた和風っぽい美人のゴジョウノ・輝夜さん(名前教えてもらった)と話ながら時間を潰していると、続々と天幕に人が集まって来た。
アストレアさんなど何人かに挨拶をしたりしていると、フィンさんから呼ばれリヴェリアさんを紹介され……簡単ではあるが魔法の勉強をしてくれた。
美人なエルフさんによる個人レッスン、最高でしたわ。
それで、此処に来れる人は大体集まったしフィンさんも指示出しに一息ついたとの事で、俺の魔法の発表会が始まるらしい。
「いささか、見学者が多くないかね?」
アストレアさんは別にしても神がヘルメスさんにフレイヤさん。
あとは、今朝よりは減ったがそれぞれの眷属の人たちにロキファミリア、ガネーシャファミリアから数人がいるっぽい。
「それだけイノリのステイタスは軽視出来ないってことなのよ」
マジで俺のステイタスどうなってんのアストレアさん。
「これが、貴方のステイタスを書き写した物よ」
アストレアさんから羊皮紙を受け取り目を通していく。
ツッコミたい部分は多々あるというか、ツッコミ所しかないというか。
「レベルが4となっているが、書き間違え……ではないのか」
言葉の途中で苦笑いされながら首を横に振られた。
アストレアさんたち神からしても
何だよLv.4に魔法とスキルが3つずつって、まるで意味がわからんぞ。
聞いてた話とまるで違うんだけど?
「私たち神にとってもとびっきりの未知なのよ、貴方の存在は」
アストレアさん、それフォローになってないです。
それにしても、このスキル……。
【
【
【
ちょっと、嬉しいな。
色々やらかしたし、迷惑もかけた。
まぁ、それ以上の迷惑をかけられたんだけどさ。
それでも。
そんなUCATでの、
「ふむ。では、やってみるとしよう」
アストレアさんから貰った羊皮紙に書いてある魔法の名前と詠唱を改めて見るが、この魔法ってやっぱりアレだよね?
【コッペリア・キュベレイ】ね、苦い記憶を思い出させてくれるとは、切なくなるね。
あの人が人形である事は知っていた。
それでも、惹かれてしまった自分がいた。
叶わぬと捨てたはずの感情がステイタスとして出て来てしまった辺り、俺は中々に女々しい奴だったらしい。
ほんと、もう会えないってのにさぁ。
気持ちを切り替える為にゆっくり深呼吸を行う。
しっかし……まぁ。
いきなり魔法を使ってみろとは、無理難題をおっしゃるなぁ。
リヴェリアさんやアミッドちゃんから身体の中にある魔力を感じてうんぬんとか説明されたけど、そんなん知らんわ。
こんなことになるならブレンヒルト先輩ともっと話をしておくべきだったか?
いや、あの人は小鳥と黒猫連れたデカい鎌持った魔女ではあったけど、使ってたの魔力じゃなくて概念だったからまた違うか。
んー、
仮になんか起きても『【
羊皮紙に書き写された詠唱を記憶していく。
そういえば、今更だけど何で言語や文字が理解できてるんだ?
明らかに俺が知ってる言語や文字とは違う気がするんだけど……意思疎通用の概念を使った覚えはないんだけど。
意思疎通が出来ないよりはマシなんだけどさ、取っ掛かりすら思い付かないなら放置するしかないか。
さて、集中してと。
「
とりあえず感じるままに詠唱式を唱えてみるが、ぱっと見何かが起きたようには感じない。
やり方が違うのか……いや、これは。
「………歪んでるの?」
ギャラリーの誰かの声が聞こえた、確かに俺の前に僅かではあるが景色が歪んで見える箇所がある。
「ふむ」
足元に落ちていた小石を拾い歪みに向かって軽く投げる。
歪みを通り抜けた途端、小石は加速し結構いい音を立てて天幕へぶち当たった。
「なるほど、重力レンズか……また懐かしいね」
て……天幕貫通しなくて良かったぁ。
重力加速レールガンとか、流石に予測してないぞ。
そもそも、アレって自動人形さんたちが手を繋ぎ合って重力レンズを形成してたはずやろ?何で1人で重力レンズが形成出来てんだよ!?
あー、マジで焦った。
その後、簡単にではあるが試行錯誤をしてみた感じだと……どうやら3rd-Gの自動人形さんたちがやっていたのと大体似たような事が出来るっぽい。
使い慣れてないからか、それとも自動人形さんたちほど演算能力が高くないからかはわからないが、記憶にある彼女たちほど自由自在とはいかない。
というか、色々と出来る範囲が広過ぎて応用がめっちゃ効くせいで使いこなせる気がしないぞこの魔法。
追加詠唱に関しては、一時的な能力強化っぽい。
重力レンズで試したら追加詠唱後に重力レンズの歪みが強くなってたから、また人に当たらなそうな場所で試してみよう。
「さて、次は2つ目の魔法か」
アストレアさんが消費した
美味いのか不味いのか判断に困る味やな。
魔法を何回も使って怠かった身体がポーションを飲んで大分楽になったから、さっきまでの怠い感じが精神力を消費してた状態なのか。
さて、羊皮紙を確認して再度詠唱を確かめる。
…………詠唱文が長ぇ。
覚えられなくはないけど、これ羊皮紙見ながら唱えたらダメかな?
リヴェリアさんが答えを返してくれた、ダメらしい。
詠唱文はただ読めばいいって物ではなく、きちんと自分の魔力を操作しながら唱える事が大事だとか何とか。
貴方たち、その大事な事を魔力のマの字もわからん初心者にやらせてる自覚あります?
まぁ、言っても仕方ないからやってみるだけなんですけどね。
何度か読み直して詠唱文を記憶していく。
………おっけ、覚えた。
『
「【フィトー・クティノス】」
唱え終わるとゴソっと身体から何かが失われた感覚があり、ぽんっという軽い音と共に、俺の前には両手で抱えられるくらいの大きさをした
俺が知っている彼等の中では少し小さめのサイズの個体だけど、間違いなく彼等と同じに見える。
草の獣。
かつての4th-Gの住人であり、兄貴が4th-Gとの
いや、ヒオちゃんがまた何かテンパって言葉が足りなかっただけだと思ったけどさ。
ヒオちゃんとこに宅配された草の獣が『さやま、ひお、えっちになりたいって』って嬉しそうに話してくれたから、これはヤベェと思って原川先輩にコンドウサンを箱でプレゼントしたのに怒られたのは今でも割と納得いってない。
そんな草の獣さんは周りをキョロキョロと眺めている、サイズが中型犬くらいだからか飼い主を探す犬みたいでかわいい。
『ここどこ?』
草の獣が喋った事に周囲がざわつき出す。
まぁ、草の獣の姿ってパッと見た感じだとモンスターにしか見えないもんなぁ。
そんな存在が喋るとか、皆驚くよね………ん?
『しらないばしょ』
え?喋った??
待って、【フィトー・クティノス】って造形魔法でしょ?
確かに自力行動とか書いてあったけど、喋れるの??
『さやま?………さやま!!』
さやまって、はぁ!?
うっそだろ、草の獣さん……もしかしなくても意識というか意思があるの??