作:まロい
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「脆き者よ、汝の名は『正義』なり」
「滅べ、オラリオ……我等こそが『絶対悪』!!」
その日、正義は壊れ去った。
燃え崩れる都市オラリオに絶対悪を宣誓した邪神。
大地の王を屠ったゼウスファミリアの眷属である『暴食』。
大海の王を砕いたヘラファミリアの眷属である『静寂』。
かつての英雄は、悪へとその身を堕とした。
誉れと栄誉は嘆きと慟哭へ、称賛されし偉業は忌避すべき殺戮へ。
過去、歓喜と栄光を持って迎えられた場所を血で穢し、命を犯していく。
立ちはだかった美神の使徒たる都市最強の猪人、道化の眷属であるハイエルフの姫君とドワーフの戦士は『暴食』と『静寂』に容易く蹴散らされた。
悪逆を是とする
多くの神が天へ還され、残された眷属達は恩恵を失い擦り潰された。
小人族の勇者の知謀は邪神の計略に届かず、秩序は混沌に砕かれた。
力なき民衆は帰るべき家を焼かれ、友を、隣人を、家族を失いながら逃げ惑う。
悪の嘲笑が響く度に、救いの懇願が消える度に、炎に炙られた鉄錆の匂いが濃くなっていく。
英雄が生まれる街、バベルと名のついた巨大な塔を持ち、世界の中心とも呼ばれる都市オラリオに破壊と慟哭だけが広がっていく。
後の世で、『死の7日間』と呼ばれる正義と悪との大抗争は、正義が敗北し悪が勝利するという絶望から始まった。
…………………はずだった。
ここに、
この日、この瞬間は悪が勝利に酔うことが出来ていたであろう。
「『絶対悪』だと……あほくさ」
何が絶対悪だ。ドヤ顔で自己申告したけど、お前の権能は悪じゃなくて地下世界の闇そのものやろうが。
絶対悪を名乗りたいならアンリマユ連れてこいよ。悪神だと最近はそっちのが有名だぞ??
つか、『暴食』やら『静寂』やらエレボスがはしゃいでるってことは………ここってもしかしなくても『ダンまち』世界ですよね。
オラリオやらバベルやらの何とかファミリアやら聞こえてたからもしかしたらとは思ったけどさ。
しかも、よりにもよって暗黒期ってどういうことなの?
濃すぎる面子に囲まれた濃すぎる人生のせいで、前世のラノベやらアニメやらソシャゲの内容なんて穴だらけでしか覚えてないけどさ。
もう少し、こう……主人公の白兎が初恋拗らせる時期でもよかったのではないですかねぇ。
というか、異世界に転移するならするで、もう少し平和な世界がよかったんだが?もしくは親父みたいに過去に転移するとかなかったんかねぇ??
まぁ、死ぬつもりだったから死んでないだけマシって言われたらそれまでなんだけどさぁ……。
せっかく割とハードモードだった2度目の人生を走り抜いて……最期の最期に迷惑かけまくった兄貴に恩返し出来たと思ったらコレとか意味不明ですわよ。
「兄貴、落ち込んでなきゃいいけど」
最近はかなり大丈夫になってきてたのに、俺が狭心症の原因として増えたりしてたら嫌なんだけど。
一応、最期に色々話しは出来たし……彼女?彼氏??もいるからそのうち立ち直ってくれることを信じるしかないか。
さて、切り替え切り替えっと。
「しっかし……やりたくねぇなぁ」
こういうのは兄貴のが得意だったんだがなぁ、何せ幾つもの世界と交渉した変態だし。
あの変態なら「あのドヤ顔を見たまえ新庄君!!流石は実妹と子作りした神だ!経験が違うね!!実妹と子作りして3人の子供の父親になった経験から来る自信に満ち溢れたドヤ顔だね!!!」とか言い……言わんか。
間違いなく、俺には思いつかんようなもっと酷いことを言うわ。
まぁ、こんなことになってる理由とか実情を知ったら表面上なんでも無いように装いつつ内心は怒り狂いそうな気はする。
変態ではあるが、あの兄はこういうのを嫌う。
世界の為に仲間と共に積み上げてきた栄光を自ら踏み躙り、貶め、辱める。
未来を諦め、未来に絶望し、それでも未来に期待してヤケになった馬鹿者共。
馬鹿が馬鹿だから馬鹿をやって、死ぬ。
暗黒期、アストレア・レコードとか呼ばれてた話がそんな内容だったのは何となく覚えている。
もしかしたら違ってるかも知れないが、まぁ知らん。
そんな結末を、
「はぁ……………やるか」
残ってる劣化概念が封印されてる賢石は使えて数回。
しかも、世界が違うからか何か使用に違和感がある。
状況は割と絶望的、俺を味方する奴はいないかもしれない。
それでも、俺はそんな結末を認めるつもりはない。
この世界に来たばかりの部外者だが、そんなもん知ったことか。
こちとら世界を何個か滅ぼしたクソ爺と親父、世界を救い束ねた変態の兄を身内に持つ男だぞ。
気に入らないから介入する、理由なんぞそれで十分だ。
せめてもう少し準備期間があればと思わなくもないが、なんとかするしかないので……なんとかしよう。
「覚悟しろ英雄。覚悟しろ絶対悪。俺は兄貴ほど変態でもなければ突き抜けてもいないが………半端者とはいえ、俺も悪役の
よしっと、手を叩いて気合いを入れ準備を始める。
それはそれとして……。
「さっき助けたこの娘、何となく連れて来ちゃったけど……どうしよ?」
後ろを振り返るとすやすやと寝てるというか、気絶してたからそのまま起こさずに連れて来ちゃった同い年くらいの女の子がいる。
もしかしなくてもさっさと返さないとヤバいかな?連れ去ってる途中で仲間っぽい人達の絶叫が聞こえてきたりしてたから、この娘って死んだと思われてたりする?
どうしたもんかなーほんとうに。
というかですね、情報集めるのに疲れたから休憩するのに使ってた建物がテロリストの潜伏場所だったとか俺の運はどうなってるん?
なんかうるせぇなと思って覗いたら、三下みたいな台詞を叫ぶ奴と……何か嫌な感じのする子供がこの娘にひょこひょこ近づいてたから咄嗟にお持ち帰りしちゃったよ。
まぁ、この娘に近づいてた子供が結構な威力で自爆したから嫌な感じは間違ってなかったけど。
あんな小さい子供に爆弾抱えさせるとか、命も奪えて、仮に生き残っても心にトラウマを植え付けられる最強のやり方ですねテロリスト。くそだな。
さすがテロリスト、やることが汚い。
「まぁ、いっか。ほっといても危ないし、とりあえず起きるまで連れてくか」
しっかし、可愛いなぁこの娘。
命を救ったんだしフラグとか立ってないかな?誘拐犯と誤解されるフラグは立ってそうだけど。
はぁ……かわいくて胸が大きくて性格がまとも(超重要)な彼女が欲しい。
まロければさらにヨシッ!!
・ーーーーーーーーことばはこころにひびく
「諸君」
声が響く。
「…………………諸君」
絶望に沈むオラリオに。
「……………………………………諸君」
如何なる魔法を使ったのか、その声はオラリオ全域に響き渡っていく。
「あぁ、誰だお前と思うだろうが、自己紹介はいまはしない。無意味だろうからね」
若い、男の声。
「さて、聞こうか。諸君、敗北の味は如何だったかな?」
声変りを終えたばかりの少年のような声は。
「美しかった街並みが崩され、燃やされた」
「隣人を、友を、家族を失い」
「昨日までの当たり前の日々はもう来なくなった」
オラリオに生きる者達に響き。
「2人のかつての英雄は悪に堕ち」
「絶対悪は諸君を嘲笑い、ドヤ顔かまして帰って行ったが」
「負け犬になった諸君は、如何お過ごしかな?」
絶望に染まるオラリオを、盛大に煽った。
「ふむ。罵声の一つも聞こえてこないとは、これは重症だね」
「まぁいい」
「あえて言おう。諸君、顔を上げ私の声を聞きたまえ」
道化の神の眷属である小人族の勇者はオラリオ中に響く声を聞き思った。
こいつは一体何なんだと。
「おや?無駄に叫ぶ元気が出てきたのかね?」
自分たちはさっきまで絶望に沈んでいたはずだ。
絶対悪を名乗る神に、悪に堕ちたかつての最強派閥の眷属に、
冒険者たちの士気は最低まで落ちたはずだ、民衆は不甲斐ないファミリアや冒険者に失望したはずだ。
この声が聞こえてくるまで痛みに呻き、すすり泣く声ばかりが聞こえていたのに。
なのに、なのになんだこれは……。
「元気なのは結構なことだ。例え、それが空元気であってもね」
何故、自分は彼の言葉に憤りを、悔しさを感じている?
いや、自分だけではない。
「しかし、これだけ無秩序に叫ばれても意味がわからないな」
都市の各地から聞こえてくる叫び。
制御できない感情が自分から、都市に住まう者達から気づけばこぼれている。
「ふむ、諸君に返答の仕方を教えよう」
都市最強を担う猪人は痛む傷を無理やり押さえつけ、身体を起こす。
『暴食』に敗れ、見逃され、気づけば此処に運ばれていた。
かつて何度も挑み、何度も負け、今回も勝てなかった。
敬愛し盲信する最愛の女神の為に自分はあの頃よりも強くなった。
挑戦者だった自分は、いまでは都市最強という挑戦される存在だったはずだ。
それなのに、無様にも敗北した。
敗北し、殺す価値すらないと打ち捨てられた。
悔しい!!
悔しいっ!!!
悔しいっっっ!!!!!!
狂おしいほどに、奥歯が折れそうになるほど歯を噛みしめる。
最愛たる女神の顔に敗北という泥を塗った己の不甲斐なさが、情けなさが、都市最強という肩書に甘えていた己に対する怒りが。
流れ落ちそうな感情が、溢れこぼれそうな感情が己を駆け巡っていく。
「ここは全知全能を捨て、人と共に生きたいと神が下りた世界」
歳の若い、少年のような声が響く中で美の女神の眷属は立ち上がる。
己自身に、そして崇拝する女神に最強を取り戻す誓いを刻みこんだ。
「なら…………
正義の女神は自身の眷属である少女たちと都市に響く少年のような声を聞く。
無傷な者などおらず、皆どこかかしこに傷こそ負っていたが、命に関わるような深い傷を負った眷属がいなかったことは、こんな状況では幸いであるのだろう。
そんな少女たちは先程まで沈んだ表情をしていた。
正義を掲げ、民衆を助け、悪を挫く活動をしていた自分たちに襲い掛かった絶対悪という狂気。
自分達の目の前で失われていく命。
遺された者達から向けられた感情。
「神との契約や誓約を意味する言葉だ。私は承諾や肯定をする時に使っていたよ」
それらは少女達が掲げた正義に翳りをもたらし、悩みと苦しみを与えたはずだ。
それなのに、少女達は顔を上げた。
信じて掲げて来た正義が否定されて怖かったはずなのに、民衆から向けられた視線に悩み苦しかったはずなのに、少女達はその感情を飲み込み顔を上げたのだ。
「神と共に生きてきた諸君にはぴったりだろう?」
ならば、少女達の主神である自分が情けない顔をしてられない。
正義と天秤を司る女神として、眷属である少女達を、愛すべき下界の子供達を導こう。
「さて、もう一度だけ言おう」
「顔を上げたまえ諸君」
「過去の英雄は諸君に失望したらしい。なら、諸君は過去の英雄にこう返すといい『馬鹿め』と」
「勝手に期待して、勝手に失望したのだ。馬鹿にするぐらいがちょうどいい」
「そして、馬鹿めと返したらなら笑い、立ち上がりたまえ」
「立ち上がったかね?なら次に諸君が最初にやるべきことを示そう」
「いいか諸君、やるべきことは簡単だ、『
「失望したという馬鹿共に!絶対悪を名乗る神に!破壊を楽しむ愚か者共に!!」
「諸君の存在を叩きこんでやれ!!」
「腹の底から声を上げ!心のままに叫ぶといい!!」
「望みは失われていないと!紡いできたもの!繋いでいくものは此処にあると!!」
「自分たちが受け継ぎ、積み上げてきたものは簡単には壊されたりしないと!!」
「自分たちは背負い!その重みのままに前に進んでいくと!!」
「自分たちの存在は安くはないと、懇切丁寧に教えてやるといい!!!」
「返事は、どうした?」
「諸君、返事はどうした!!!!」
「「「「「
道化の神の勇者が、ハイエルフの姫が、ドワーフの戦士が声を上げる。
美の女神の戦士達が慣れない様子で声を出し、猪人は感情のままに拳を振り上げた。
正義の女神の少女達は顔を合わせ、拳を掲げ、高らかに叫ぶ。
群衆の神が雄々しく吠え、伝令の神が笑いながら声を発した。
神が、人が、オラリオ中から声が響く。
涙の混じった声を。
痛みを堪えた声を。
悔しさを滲ませた声を。
失望や絶望の総てを覆すために声を張り上げる。
我、此処に誓約せり。
嗚呼、我ら此処に神に、人に誓おう。
再戦を、再起を、反撃を、復讐を、復興を、涙を拭い此処に誓おう。
失望に堕ちぬと、絶望に染まらぬと、我らの矜持を見せると誓おう。
神と人を結ぶ言葉が絶望を塗り替え、都市オラリオに誓約の言葉が響き轟いた。
「では諸君、誓いを果たしに行こうではないかっ!!」
これは、英雄の物語ではない
では、正義の物語なのかと問われれば否であり
悪の物語かと問われれば、それもまた否である
ここではない彼方の地で
それは遥かなる未来か
はたまた遠き過去か
異物を加えた正と負の矛盾の果て
10を束ねた12にして11の世界の群れ
最高にして最低の世界からの一方通行な旅路
終わるはずであった年代記の続き
狂いの先のはじまりのクロニクル
そう、これは
悪役の姓を持つ、未熟な担い手である少年の物語である