その日のことは、今でもよく覚えている。
その血筋故か何処にも馴染めず、幼き頃に家族を亡くしてから彷徨い続け、いつしか適当な山奥の辺鄙な田舎で農業を営んでいた少年時代。
俺が10歳くらいになった頃だ――――――後に義弟となる白兎の様な赤子と、それを抱いた老人と出会ったのは。
元々が一人暮らし。
行く当ても無さそうだった老人と赤子を家へと迎え入れ、いつしか一緒に住むこととなった。
赤子はスクスクと育っていき、老人の事も義理の祖父の様なものと感じ始めてたある日・・・・・・今度は後に父と母と呼べる人達が現れた。
正確には、弟に会いに来たらしい『静謐の魔女』と、『暴喰の武人』。
顔を遠目で見るだけのつもりだったが、その姿を目にした瞬間、いても立ってもいられなくなったとか。
そして魔女と武人もまた、共にこの家で暮らすことになる。
俺達に血の繋がりはない。
・・・・・・いや、性格には弟は魔女とは伯母の関係に当たるのだが、些細な事だ。
血の繋がりはなくとも、俺達は確かに家族だった。
世界は未だ終末へと向かっているような世界だが、それでも平穏な時を生きていたといえるだろう。
だが、それも永遠には続かず、変化が訪れる。
ある男が家に訪ねてきた。
闇の中で暮らす住人のような男神だった。
祖父と父母を交えて何かを話した後に、
「すまない」
悲しそうに詫びる父母に、
「謝るなよ」
男は残念そうに・・・だがどこか安堵したように家を去っていった。
俺はこの男神とは別段言葉は交わさなかったが、この時だろう。
強いて言えば、切っ掛けになったのは。
――――――俺が『英雄』になろうと、旅立つことを決めたのは。
◆◆◆
「・・・・・・そうか。やはり行くか」
それから1年程過ぎた頃、早朝に荷物を適当に纏めた俺を、祖父は仕方がないといった風に肩を竦めた。
「元々ここはお主の家じゃというのに、家主が旅立つとはのう」
「もう家族同然なんだから、アンタらの家でもあるだろーが。何の遠慮だよ」
それに二度と帰ってこないつもりな訳でもないのだ。
いくら世界が物騒とはいっても、今生の別れのつもりはない。
「それに、俺みたいな存在がいる事に意味があるのなら・・・きっとこういう事なんだと思うからな」
「・・・・・・お主の血筋か」
初めて俺と出会って、この祖父が目を見開いて驚いた様子だったのは今でも覚えている。
ある種、奇跡的な血筋だと。
そしてそれは、おとぎ話の様に・・・それこそ英雄なんてモノには向いているといえる。
「・・・・・・父さんと母さんは?」
「寝取るよ。今日はちと体調が芳しくなくての」
「・・・・・・そっか」
昨日の内に挨拶は済ませた。
それにこの1年で必要な教えは可能な限り叩き込まれたはずだ。
であれば、言葉は不要だろう。
「ま・・・良さげな薬でも見つけたら送るよ」
「そうしてやれ・・・・・・それよりも、ベルには会っていかんのか?」
「まだ寝てんだろ。それにまた昨日みたいにグズり出されてもな」
――――――『英雄』になる
そう誓いを立てた俺と弟のベルだが、俺は一足先に英雄になるために旅立つのだ。
昨日それを話したらちょっと泣かれた。
てっきり一緒に旅立つものと思ってたらしい。
とはいえ、仕方ないだろう。
「まだアイツ5歳・・・いや4歳だろ。流石に連れてはいけねーし、アイツが旅立てる歳まで待ってたら俺がオッサンだわ」
「そこまでは歳いっとらんじゃろ・・・・・・まぁ、若いかと言われればギリギリ領域が見えてくるくらいの若さじゃが」
ちなみに俺の年齢は14歳で、今年で15歳だ。
ベルとは10歳差である。
もしあいつが俺と同じ年で旅立つのなら、俺の年齢は25歳くらい。
若いっちゃ若いが、オッサンへのカウントダウンが見えてくる年齢だろう。
流石にそこまでは待てねーわ。
「んじゃ、行ってくるぜ」
あんまり長々と話してると旅立つのが億劫になってくる。
漢は黙って行くもんだ。
「・・・・・・風邪、ひくなよ」
「止めてくれる? 泣きそうになっから」
相も変わらずアホなやり取りをして、俺は故郷と言ってもいい山を旅立った。
父さんから選別に貰った大剣を背に、目的地を設定せずに歩いていく。
最終目的地は英雄の都であるオラリオだが、旅とは寄り道をするもの。
精々道草を楽しんでいくさ。
俺の名はアルトリウス・カリバーン。
これはそんな英雄を目指す俺の物語だ。