東京 羽村市に住む長野結彩ちゃん(5)は、3歳の時に神経の組織にできるがん「神経芽腫」と診断され、2年にわたって入退院を繰り返し、抗がん剤や放射線などによる治療を受けました。
小児がん 退院後に直面する課題 子どもたちをどう支えるか
国内では年間2000人以上が新たに小児がんと診断されていますが、医療の進歩とともに生存率が向上し、退院後の子どもの生活を支える地域での支援のあり方が課題となっています。
2月15日は、小児がんへの理解や家族への支援などを呼びかける「国際小児がんデー」。
子どもたちを支えるために考えなければならないことは。
退院後もほとんど自宅で生活
現在は治療を終え自宅で生活していますが、病気の影響で視力のほとんどを失いました。
このため、3歳まで利用していた保育所には通えなくなり、今は週に1回ほど自宅から電車で盲学校に通う以外はほとんど自宅で過ごしています。
家族以外の人と関わりながら自由に遊べる機会を
結彩ちゃんの両親は、家族以外の人と関わりながら自由に遊べる機会を作ってあげたいと、東京 昭島市のNPO法人を利用しています。
団体では、小児がんなどの重い病気の子どもたちが地域で安心して過ごせる環境を提供しようと、3年前からビルやクリニックの部屋を借りて作業療法士や看護師などの資格を持ったスタッフが子どもの遊びなどを支援する取り組みを行っています。
結彩ちゃんは月に1回ほど団体の支援を受け、「体を動かして遊びたい」という希望を叶えるために用意されたトランポリンや音が鳴るよう工夫された手作りのボーリングのおもちゃなどでスタッフに見守られながら楽しんでいます。
母親の遥さん
「ずっと家にいるので、成長の面でも遊んでもらえる人が多い方がいいかなと利用を申し込みました。毎日楽しみにしていて、娘もすごく喜んでいます」
学校に通えない子どもの学習支援も課題
「小児がん」は15歳未満で発症するさまざまながんの総称で、国内では年間およそ2000人から2500人の子どもが新たに小児がんと診断されています。医療の進歩とともに生存率は8割を超えるようになる中、治療を終えて自宅に戻る子どもが増えています。
退院したものの外出が難しい子どもに自宅以外の場所での体験の機会の提供や、自宅での療養が続き学校には通えない子どもへの学習支援など、地域の中で退院後の子どもたちをどう支えるかが課題にあがっています。
先ほどの団体では東京都の委託を受けて、長期間の入院などで学校に行くことができなかった子どもへの学習支援も行っています。
週に1度、オンラインで学習支援を受けている中学1年生の高田はなさんです。
はなさんは3歳で急性リンパ性白血病と診断され治療を受けましたが、6歳と8歳の時に再発し、治療のほか、新型コロナの影響もあり小学4年生ごろまでほとんど学校に通うことができませんでした。
いまは学校に通えるようになりましたが、学習の遅れを取り戻したいと、この団体による学習支援を利用しています。
この日は、桁の多いかけ算の問題の解き方を教わっていました。
高田はなさん
「学校でみんなは難しいことをやっているのに、自分はまだそれが出来なくて悔しくなります。1つでも出来ることが増えると自信につながるので、自分が今できないことをもっと頑張って勉強したい」
NPO「“出来る”に変えられる取り組みを」
「NPO法人東京こどもホスピスプロジェクト」 佐藤良絵代表理事
「いったん治療を終えて病院から自宅に帰ると、どこからも支援が受けられず制度からもれてしまう子どもがたくさんいるので、そういった子どもたちを支援したい。病気だから諦めたとか、病気だからできないというのを『出来る』に変えられる取り組みを進めていきたい」
支援広がりつつある一方で課題も
こども家庭庁によりますと、小児がんなどの重い病気の子どもたちを退院後に地域で支援するこうした取り組みは広がりつつあるということです。
しかし、地域によっては取り組み自体が不足していることや、取り組みがあったとしても関係者同士のつながりが十分でなく支援が届いていないケースがあるなど、ばらつきがあることが課題だとしています。
また、どの地域にどのような支援を必要とする子どもがいるのか行政が正確に把握できていないのが現状で、こうした現状を改善しようと、こども家庭庁は、自治体が地域の医療機関や学校などと連携して小児がんなどの重い病気の子どもの現状の把握や支援のあり方を検討したり、地域で子どもを支援したりするための費用を補助し、支援体制を強化するとしています。
専門家「社会の課題として共有を」
専門家も小児がんの子どもを地域で支援していくことの必要性や、国や自治体、地域の関係機関などに求められる役割を指摘しています。
国立成育医療研究センター緩和ケア科 余谷暢之診療部長
「長い治療が終わったあと元の生活に戻っていく子どもも増えているが、子どもたちは体力的な問題や学力の問題などさまざまな課題を抱えている可能性がある。社会に出たあとに子どもたちが直面する課題は病院ではフォローできない部分もあり、社会の側にも認識してもらったうえで一緒に支援のあり方を考えていくことが重要だ」
「この課題を社会の中の課題として共有してもらうためにも、きちんと実態を把握し、子どもから発信されるメッセージを大人がすくい上げて支援の体制を作っていくことが非常に大事になる。民間の団体だから出来ることもあるだろうし、行政だからできることもあると思うので、それぞれの得意なことを協働しながらやっていくことで包括的な支援につなげてほしい」