「……はっ?!」
目を覚ましたラテックスは体を起こし、辺りを見渡した。
「フレイヤ神は?!
「少し落ち着きたまえ。ここは私達の家だよ」
ラテックスの隣でりんごを剥いていたアポロンが、ラテックスに声をかける。
「
「……フレイヤ神は、どうなった?」
「ヘスティアが『街娘』の一人くらいは見逃すって言ってたよ。ズルいよなぁ、私が
「まぁそれは人徳……神徳の差ってやつじゃねぇの。りんご食わせてくれ」
カパッと口を開けたラテックスに、アポロンが甲斐甲斐しくりんごを運ぶ。
「美味い」と顎を動かすラテックスを見て、アポロンは静かに笑みを浮かべる。
「……そういえば疑問だったんだが。結局、君がフレイヤの『魅了』に対抗できた理由はなんなんだ? 君が
「一応、心当たりはあるんだけどな」
ゴムゴムの実に、人に覇気を与える力はない。
覇気とはあの世界の人間が持つ力であって、ゴムゴムの実の力ではない筈だ。
そもそも、覇王色など柄じゃない。
それなのに、ラテックスは覇気が使える。
そもそも悪魔の実とは、誰かが望んだ人の進化の可能性だ。
だったら、たくさんの人に希望を与えてきたヒーローの力は、多くの人にあって欲しいと望まれるのではないか。
「ヒトヒトの実、モデル“ルフィ”。……そりゃ魅了も通じないよな」
「ふむ、君が言う、前世の記憶の情報か」
一通り話した後、アポロンは腰を上げた。
「興味深い話だが、後にしよう。今は祭りの最中だ。君もくるだろう? 私はベルきゅんとスキンシップしてくるから」
「おいおい、戦いが終わった後の戦士には優しくしてやれよな?」
「分かっているさ。君の助言通り、ベルきゅんに心の底から『アポロンお兄ちゃん』と呼んでもらうためにはこのアポロン、幾らでも紳士になろう。ただし、スキンシップの最中に私の手がうっかりベルきゅんに触れてしまうかもしれないがね!」
「待っててね、ベルきゅうううううん!!」と叫んで飛び出していくアポロンを呆れた目で見ながら、ラテックスもベッドから降りる。
ラテックスも、ベルと『街娘』の笑顔が見たかったからだ。
女神の軛から解き放たれた少女は、どんな笑みを浮かべるのだろうか。
道化の本分は戦いじゃない。祭りの時だ。
今度こそ、あの『街娘』を泣くほど笑わせてやろう。
ラテックスはアポロンの背中を追いながら夜のオラリオへと駆け出した。
「今日も芸をするんですか?」
「ああ。俺はまだ貴方の笑顔を見ていない」
そして道化は、『街娘』と対峙する。
オッタルに挑んだ時より鋭い決意を胸にして。
「モノマネ行きます。……エイナさぁあああああああああぁあん!! アイズさんの情報を教えてくださぁあぁああああああぁあぃ!!!!」
ベル・クラネルの黒歴史を鋭く抉る、ラテックス渾身のモノマネが決まった。
ベルを常に見つめてきた、フレイヤにのみ伝わるモノマネだった。
一秒。
二秒。
三秒。
静寂がその場を支配し、
「………くすっ」
『街娘』の笑い声が、静寂を切り裂いた。
「あははははは! あは、あはははは!!」
声をあげて笑うシルを見て、ラテックスもまた笑う。
「ラテックスさんって、ほんとに、おかしな人!!」
道化の本懐を遂げたラテックスは、笑いながら空を仰いだ。
「———ああ。道化やってて良かったなぁ」
ようやく一を笑わせる道化に成れたのだと、ラテックスは腰を屈めて座り込む。
『
『街娘』には、彼女を見張る
彼女の心が暗闇に沈む日は、永遠に訪れないだろう。