宇野ゆうかの備忘録

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アサシンクリード・シャドウズ「神社の祭壇破壊」について〜それが何を意味するのか理解してこそ、適切に冒涜できる

何かと炎上しているアサシンクリード・シャドウズ(Assassin's Creed Shadows)が、また炎上していた。プレイヤーが神社の神鏡が置かれている祭壇を攻撃すると、祭壇を破壊できるようになっているのだ。実在する神社の名前を無断で使用していたため、その神社が制作会社のUBIsoftに対して「適切な対応」をすることになったという。

 


www.youtube.com

発端となった動画はこれのようだ。発売前のβ版をプレイする機会を得た西洋のYoutuberが、ただゲーム内で何ができるのかを試しているだけのように見える。おそらく彼は、神社にある「それ」が何を意味するものなのか、知らなかっただろう。

動画では「Itatehyozu Shrine」と表示されており、これが姫路の射楯兵主神社だということがわかる。

 

産経新聞の見出しは”仏ゲームソフト「弥助」神社の内部破壊する映像が物議 実在の神社側「しかるべき対応」”となっているが、少々誤解を招くおそれのある表現だなぁと思う。プレイヤーはたまたま弥助を使っていたのであって、もう一人の日本人主人公である「奈緒江」も、同じことができるだろうからだ。「仏ゲームソフト、プレイヤーが神社の祭壇を破壊できるシステムが物議 実在の神社側『しかるべき対応』」のほうが、良かったのではないだろうか。

まぁ、日本のゲーム会社が日本人主人公で同じことをやったとしても、神社側からお叱りを受けそうという感じはするが。

www.sankei.com

 

今までのアサシンクリードは、破壊したらアイテムを獲得できるものくらいしか破壊できなかったが、今作ではかなり色々なものをリアルに破壊できるシステムにしたようだ。UBIsoftは、その新システムを売りにしている。

おそらく、神鏡が置いてある神社の祭壇を(無意味に)破壊できる設定にしたのも、この新システムの一貫だろうと推測する。

(@アサシンクリード
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このことについて、アサシンクリードのコミュニティでは論争が巻き起こった。ある日本人がX(Twitter)で発した言葉が大炎上したのだ。

(Shohei Kondo (@shoheikondo)

目を覚ませ、ユービーアイソフトの「擁護者」よ、我々の声を聞きなさい!実際の宗教施設を破壊するアサシン クリード ゲームとは一体何なのか?日本文化は消費されるが、尊重されない。ここに完璧な例がある。)

これに対して、彼を批判する人の多くは、「弥助の問題だろ」と解釈し(要するに、黒人差別だという意味)、これを「fake outrage(作られた憎悪)」だと言っている。どうやら、多くの西洋人が、これが彼の動画で、彼があえて弥助でプレイして祭壇を破壊したと、勘違いしたようだ。

 

この件についてUBIsoftを擁護する西洋人たちは、「祭壇は破壊できるけど、鏡は落ちただけで破壊されていない」とか、「神社で祈ることで敬意を払うことができる」などと言っている。日本の神と神社の概念を知らない人々が、神社において何が意味のある行為で何が意味のない行為なのかを独自に考案している光景は、正直、見ていて奇妙だと感じた。

また、寺や神社で暴れまわり、物を破壊することが批判されているのだと思ったのか、「Rise of the Ronin」などの日本製のゲームの映像を出して、「ほら、日本のゲームも同じことをやっている」と言いたげな西洋人もいるが、その映像を見ると、壺や燭台や屏風などが破壊されているだけで、仏像などは破壊できないようになっているということがわかるだけだった。

アサシン クリード ニュース ⛩️
@_L3vi3
さらに、Shadows で神殿を完了するには、指定された場所で神殿を称えるために祈る必要があります。

なぜこれが公開されず、神殿が破壊される様子がわかるクリップだけが公開されているのでしょうか?

嘘ではなく真実を広めてください! ❌
#AssassinsCreedShadows)

日本人の感覚からすると、「いやぁ、神社の御神霊があるところを攻撃して、祭壇破壊してるのに、『祈って神殿を称える』とは、どういう意味なの……?」と思うのだが……祭壇を破壊したら神殿を完了(クリア)できないようにすれば良いんじゃないかな?

 

また、この件についてUBIsoftを擁護する人たちは、過去のアサシンクリードシリーズでも、宗教を冒涜する行為があったと主張する。例えば、「アサシンクリード2」では、教皇を殴ることができたとか、「ヴァルハラ」では、ヴァイキングの主人公になって、キリスト教の教会を襲って略奪したとか…

 

私がこれらの「論争」を見て気づいたことは、創作活動において、宗教的な物は、それがその宗教において何を意味するのかを、作者がよく理解しているからこそ、適切に称賛することもできるし、適切に冒涜することもできるということだ。

(ここから先、過去作のネタバレあり)「アサシンクリード2」に登場する、主人公が殴れる教皇ロドリゴ・ボルジア(アレクサンデル6世)は、実際の歴史上でも、あまり評判のよろしくない人物だ。彼はこのゲームにおけるボス戦の相手であり、綿密な演出がなされている。

ヴァイキングの主人公になって、キリスト教の教会を襲って略奪する行為も、それが実際に歴史上起こっていた出来事だ。ゲームにおいては、教会を襲うと報酬が手に入るが、プレイヤーは襲いかかってくるキリスト教徒のNPCと戦わなければならない。

また、ゲームの進行上、巨大な十字架を倒す場面もあるが、主人公は(冗談で)「アーメン」と言っている。これもまた、作者が、キリスト教において十字架を倒す行為が何を意味するのかを理解していなければ、出てこない演出だ。

(リベズ・ウルフ 🐺
@LibezWolf
アサシン クリード シャドウズ』の監督に対する批判、中国のエロネア建築、日本における黒人関連のニュース、一時的な破壊行為、現在に至るまでの情報を含むACブラザーフッドのビデオ)

 

一方、日本が舞台の「シャドウズ」における神社の祭壇破壊は、非常に不可解だ。奈緒江も弥助も、神社の祭壇を破壊する動機がない。弥助は、信長に命令されない限り、そんなことはしないだろう。なのに、その辺のオブジェクトと同じように、無意味に破壊することができる。

そして、映像を見る限りでは、神社において非常に重要なものを攻撃しているのに、その後何も起きていないように見えるのだ。私の記憶が正しければ、古代ギリシャを舞台にした「オデッセイ」では、プレイヤーが聖域で望ましくない行動をすれば、ペナルティが発生した。主人公はお尋ね者になり、賞金稼ぎから付け狙われることになった。巨大なゼウス像の股間部分に登った時でさえ、主人公は「ここは登るべきじゃなさそうだ」と呟いていた。

 

神社に祀られている神は、大抵、その地域一帯の守り神のような役割を持っているわけで、神社の御神体がある場所を攻撃したり、祭壇を破壊しようものなら、その地域一帯の人々を敵に回してしまいかねない行為である。*1

織田信長のような強力な軍隊を持っている人なら、比叡山を焼いて地元住民の恨みを買ったとしても、軍事力で彼らを黙らせることができるかもしれないが、奈緒江や弥助がそれをやって得なことは、何一つないだろう。そして、もちろん、織田信長比叡山を焼き討ちしたのは、彼にとってそうする必要があったからだし、歴史上の事実だ。

 

アサシンクリード・シャドウズ」における神社での祭壇破壊行為は、まるで、UBIsoftが、それが神社において何を意味するのかを、全く理解していなかったかのような印象を受ける。一般的な外国人が、それについて知らないのは不思議ではないが、UBIsoftが知らなかったとすれば、それは彼らの不作為であることを示しているだろう。

とりわけ、アッバース朝バグダッドを舞台にした「ミラージュ」において、UBIsoftイスラム教の表現に神経を注いでいたことを考えると、「シャドウズ」における神社の扱いは、随分と杜撰に感じられる。*2

あるいは、彼らは、弥助のキャラクターを、「日本の宗教について全く無知な外国人」として設定したのだろうか?だとすれば、奈緒江は弥助とは違う行動をとるのだろうか?

 

今までのアサシンクリードシリーズのゲームシステムから考えると、神社の祭壇を破壊不可能に設定して、プレイヤーが神社の祭壇の前に来ると「これは破壊できないな」「ここには神がいる」などと呟くか、あるいは、神社の神域に入った時点で「神聖な物を破壊してはならない」と警告が表示され、もしそれを破ったら、ペナルティが発生するシステムにしておくのが、良いのではないかと思う。

ペナルティは……戦国時代の日本には、寺や神社には武装した僧兵や神人がいた。ゲーム内で、仏像や祭壇を攻撃・破壊すると、彼らが襲いかかってくる。あるいは、何かしらの神罰が下る……というのはどうだろうか?

 

まぁ、要するに、理解した上でやってる表現と、理解しないでやってしまった表現を、一緒にしたらあかんよ、ということだね。両者は、創作としてのレベルが全く違うから。

 

さて、本来、こういう問題は、日本人側が「間違えてるよー」と言えば、制作側が「ごめん、修正するわー」で済む問題である。

とりわけ、このアサシンクリードというゲームシリーズは、「歴史観光」的な側面を売りにしており、その国その時代の歴史や文化が学べるというのが、歴史好きのファン層に受けているゲームなのだ。よって、プレイヤーが、日本の神社にある「あれ」が何なのかを学べるゲームシステムになっているほうが、本来のアサシンクリードとしては楽しめるはずである。

 

ところが、どうも、西洋方面では、これで済まない話になってしまっている。

私は、最初、「外国人は、神社の鏡の意味を知らないから、あんなことを言うのだろう」と思って、彼らに説明を試みた。しかし、一向に話が通じない。

わかってきたことは、この日本の神社の祭壇の一件は、既に西洋人にとって人種の問題になってしまっているということだった。「人種差別的な白人」は、UBIsoftを批判する要素があればあるほど喜ぶ。それに対抗する側の西洋人は、UBIsoftを擁護し、UBIsoftは日本人に対して失礼なことなど全くしていないということにしたがる。そして、この件は日本人に失礼なのではないかと考えている「人種差別的な白人」ではない者も、後者から容易に「人種差別的な白人」認定されてしまう。

つまり、日本人は、まさにこの問題の当事者であるにも関わらず、西洋の人種問題に巻き込まれて、「透明化」させられてるというわけなのだ。「保守白人VSリベラル白人」の対立の中で、肝心の日本人の声が無視される構造が、既に出来上がってしまっている。……一見すると「白人VS黒人」の対立に見えるが、実際には、保守白人は東アジア人を味方につけたがり、リベラル白人は黒人を味方につけたがる構造の中で、結局、東アジア人と黒人は、両陣営からそれぞれ駒扱いされているという構造なのだろう。

ああ、これが西洋社会で言うところの「アジア人の不可視化」というやつなんだなぁ、と思った次第である。

 

まぁ、それでも、実在の神社の名前を無許可で使った件に関しては、別問題だが。*3これについては、UBIsoftは、アメリカのフェアユースの考え方が、世界共通の考え方だと勘違いしたのではないだろうか?

 

ちなみに、東大寺は弥助が来日する十数年前の1567年に松永久秀三好三人衆の戦いによって主要堂塔が焼失しており、ゲームの舞台となった時代にはまだ、再建されていない。

『アサシンクリードシャドウズ』神社の内部破壊する映像が物議 実在の神社側「しかるべき対応」 | JAPAN Forward

アサシンクリードシリーズでは、その時代には存在しなかった建造物でも、「かっこいいから」という理由で存在していることがよくある。今作の「シャドウズ」では、江戸時代中期に再建された、現代の東大寺が登場するようだ。

私個人の考えとしては、戦国時代に大仏殿と回廊が焼失して、首のない大仏だけがそこにある状態の東大寺を再現し、プレイヤーがそこに行った時に「なんて悲惨な光景なんだ…」などと言わせたほうが、宗教を象徴するものの破壊によって、戦の悲惨さというメッセージ性を込めることができたのではないかと思う。何世代にも渡って人の手で守られてきた貴重な文化財が、戦争や内戦によって一瞬で失われてしまうのは、今も昔も変わらない。

 

[追記:2025年3月5日]

―時系列―

1月の終わり、Skathaという海外Youtuberが、発端となった動画を公開する。*4

2月1日、X(Twitter)で、この記事内でも取り上げたShohei Kondo (@shoheikondo)という日本人の発言が炎上する。*5これを「fake outrage(作られた憎悪)」と言う西洋人が出てくる。

2月12日、X(Twitter)で、Grummz(@Grummz)が「The Itate Hyozu Jinja shrine in Japan has filed a formal request to Ubisoft, asking them to remove the entire religious site from Assassin's Creed Shadows.(日本の板立兵主神社は、Ubisoft に正式な要請を提出し、Assassin's Creed Shadows から宗教施設全体を削除するよう求めました。)」と発言。*6これは現在のところ、事実かどうか確認できていない。

2月20日産経新聞が紙面で取り上げる。紙面には「同神社の担当者に、事前にUBIから使用に関する連絡があったかを尋ねたところ、「なかった。もしあればお断りしていた」と不快感を示した。「しかるべき対応」の詳細についてはノーコメントとしたが、ゲームからの削除を求めている可能性がある。SNSで対応に乗り出したという噂が出ている神社本庁の担当者はこれを否定した。」と記載されている。*7

2月末、Youtubeで、射楯兵主神社宮司が地元議員のインタビューに答える。*8