岸田文雄氏のなりすまし ネット広告9割「運用型」 スマニュー「防げなかった」

岸田文雄前首相の写真を無断使用したソーラーパネル設置会社「ECODA」が入居する雑居ビル。郵便受けには同社の他に2つの社名がシールで貼られてあった=3月1日、東京都渋谷区(白岩賢太撮影)
岸田文雄前首相の写真を無断使用したソーラーパネル設置会社「ECODA」が入居する雑居ビル。郵便受けには同社の他に2つの社名がシールで貼られてあった=3月1日、東京都渋谷区(白岩賢太撮影)

「0円ソーラー」と呼ばれる太陽光パネル設置会社のネット広告に、岸田文雄前首相の写真が無断使用されていたことが明らかになった。著名人の知名度を悪用した「なりすまし広告」は近年後を絶たず、漫然と広告を放置した運営側にも厳しい目が向けられる。ただ、運営側からは「防ぎようがない」との声も聞かれ、専門家は根本的な解決には法規制が必要と指摘する。

東京・渋谷の道玄坂にある雑居ビル。飲食店などが入るこのビルの5階に岸田氏の写真を無断で使用した太陽光パネル設置会社がある。入居者の出入口外にある郵便受けには「ECODA(エコダ)」の会社名がシールで貼られ、他にも2つの社名が並ぶ。同じビルの飲食店従業員は「何の会社なんですか?」と詳しくは知らない様子だった。

問題の広告を掲載したニュースアプリ大手、スマートニュース(東京)によれば、2月上旬からアプリ内に広告を掲載したが、広告審査チームが同14日に自社の審査基準に違反していることを確認。28日に問題の広告掲載を完全停止した。

広報担当者は「広告が入稿された時点で違反を検知できなかった」とした上で、「アプリ利用者や消費者の事実誤認を招くだけでなく、なりすましの対象となった人物の社会的評価をも下げる重大な事案と認識している」と説明。広告主や代理店各社に強い懸念を伝え、適切な対応を求めたという。

ネット広告は、広告主が新聞広告などと同じように特定メディアの枠を購入する「予約型」と1回の表示ごとにリアルタイムで入札を行う「運用型」の2つに大別される。電通によれば、ネット広告全体の87・4%(令和5年)を運用型が占めた。

スマートニュースも運用型を採用し、独自のアルゴリズムと人間の目で違法広告をチェックする審査体制を講じていたが、今回は防げなかった。都内のあるネット広告会社は「今や3兆円超の市場は右肩上がり。膨大な数の広告をつぶさに審査するのは限界がある」と話す。

スマートニュースに掲載された岸田文雄前首相の「なりすまし広告」
スマートニュースに掲載された岸田文雄前首相の「なりすまし広告」

一方、経済産業省の調査では、運用型広告の掲載先を「完全に把握できる」と答えた企業は2割にとどまった。総務省は広告流通のリスクへの意識改革が偽情報や違法アップロードコンテンツ対策につながるとして、有識者会議を立ち上げ、月内にも広告主向けの指針を初めて策定する。

ネット広告の業界団体「日本アフィリエイト協議会」(東京)の笠井北斗代表理事は「なりすまし広告は一義的には広告主が法的責任を負う。運用型広告を縛る法律が日本になく、今後も消費者被害は増えるだろう」と指摘し、「広告プラットフォームに対しても違法広告を排除するよう義務付ける法規制が必要だ」としている。(白岩賢太)

「写真の使用許可していない」岸田氏事務所

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