中国への車両技術の供与でカンパニー制の弊害がモロに出たといわれている。車両カンパニーは自分の部署の受注を何よりも優先して、契約書で特許のガード(保護)を怠り、新幹線技術をみすみす中国に盗まれてしまった。
取締役会はカンパニーのプレジデント(代表)で構成される。かつて川崎重工には社長・会長を務めた大庭浩氏(03年に78歳で死去)というワンマン
経営者がおり、トップダウンで事を決めていたが、現在はカンパニーのプレジデントたちの合議制だ。カンパニーのトップの多数決で決まる。社長がトップダウンで事を進めることは封じられている。
三井造船との統合の動きを、カンパニーの役員たちは「取締役会を軽視した」と糾弾し、多数決で
合併推進派の社長を解任したのだ。
車両部門のトップを昇格させようとした脳天気ぶり
経営陣(ボード)の一員になっても、その意識は出身
母体の利益の代弁者にすぎない。
新幹線台
車の亀裂問題でも、それが如実に現れた。16年6
月社長に就任した金花芳則氏は車両カンパニーの出身だ。
今年1月、
ニューヨーク市交通局は最大で1612両の新型車両を川崎重工に発注することを決めた。川崎重工は1982年以来、2200両超を納入。すでにニューヨーク市営
地下鉄の車両の3分の1を川崎重工製が占めている。
受注総額は約4000億円で、同社にとって過去最大規模となる。その功績で、小笠原誠常務取締役車両カンパニープレジデントが4月1日付で代表取締役専務に昇格することになった。この時点で、亀裂が生じた新幹線の台車が自社製で、台車の板枠が薄かったこともわかっていた。鉄道車両出身の金花社長なら、これがどれほど重大な意味を持つかわかっていたはずだ。ニューヨーク地下鉄の快挙に舞い上がって亀裂問題を無視して昇格させることにした。
さすがに、この人事は2月28日、台車亀裂の不正の発表と同時に撤回された。金花社長は月額報酬50%、小笠原常務は同30%を返上。いずれも期間は3月から3カ月だ。
鉄道向けが中
心である川崎重工の車両事業は、18年3月期の売上高が1450億円、営業利益が30億円の見通しだったが3月30日、下方修正した。
JR東海との取引は少ないが、他の鉄道会社で川崎重工製の台車が忌避されるようになれば、打撃は大きいはずだ。
新幹線台車の亀裂問題で、川崎重工のガバナンスが機能していないことが浮き彫りになった。まるで、「あれは車両カンパニーの不始末。他のカンパニーは我関せず」といった態度だった。危機感が乏しいことは、これまでとまったく変わっていない。
(文=編集部)
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