不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。
● 導入編「沖縄における不動産相続の現状」 ●
初回は導入編。沖縄県内での不動産相続の現状を解説し、弁護士と司法書士からのコメントも紹介します。(文・ともり まゆみ)
もめない相続のために
不動産専門ファイナンシャルプランナーのともりまゆみです。
今回から、不動産相続の専門家として、これまで実際にご相談にいらっしゃったお客さまの失敗事例をもとに、もめない不動産相続のポイントについてお伝えしていきます。身近な親族や友人、知人から耳にしたことのあるような、相続に関する話題が中心となる予定です。ご自身の事情に照らし合わせて参考にしていただければと思います。
1回目は沖縄の不動産相続の現状についてお伝えします。
「税対策が必要な人」は少数
「不動産の相続対策」という言葉を聞くと、相続「税」対策を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし相続税対策が必要な相続は、実際には多くありません。
沖縄国税事務所が出した統計データによると、2019年に相続税が課税された相続の割合は全体の死亡者数の6.5%です。つまり多くの方にとって相続「税」対策はあまり必要ではないのです。
ではなぜ「不動産の相続対策」が必要なのか。
それは沖縄の相続における二つの特徴が影響しています。
沖縄県内の死亡者数全体における相続税課税状況(2019年)
2019年人口動態統計(2020年9月17日厚生労働省発表)と沖縄国税事務所2019年直接税(相続税統計)から算出
沖縄ならではの二つの特徴
まず一つ目は、先祖崇拝に伴うトートーメーなどの承継ルールが根強いこと。 県内ではトートーメーの承継にともない、家や財産も長男がすべて継ぐことを良しとする慣習がまだまだ根強く残っています。
親や長男がそれを当然だと思っていても、他の弟姉妹はどうでしょう。民法上では長男以外の子も同等に財産を相続する権利があります。そのため、いざ相続が発生した際、その権利を主張する可能性は十分にあります。
二つ目は相続財産の中で不動産の割合が多いこと。ざっくり言うと、不動産資産の割に現金資産が少ないという傾向があります。
現金なら兄弟姉妹の人数に応じて分けやすいのですが、不動産の場合は家や土地を切り分けることは現実的ではありません。共有名義にすることで将来的にさらなるもめごとに発展する可能性も高くなります。
財産が少なくてももめる
「うちはそんなに財産がないからもめないよー」という方。実はそんなことはありません。
2020年のデータによると、家庭裁判所で扱われた遺産分割事件のうち、不動産を含めた遺産総額が5千万円以下であるものが全体の4分の3以上となっています。そのうち1千万円以下が35%であることから、私たちの身近な場面で、もめる相続が展開されていることが分かります。
だからこそ不動産の相続対策が必要なのです。
遺産価額別 遺産分割事件件数の割合(2020年)
5000万円以下が全体の4分の3以上、1000万円以下が全体の3割を超える。不動産資産を含めた金額ということもあり、相続で争うのは多額の財産を持っている家族だけとは限らないことが分かる。
多様な役割と専門家
相続の際、誰にどう相談していいのか分からず、にわか知識で言われるがまま不要な対策を行って、その結果争いのタネが増えてしまったというケースも見受けられます。
不動産相続の現場では、調停などもめ事の解決は弁護士、不動産の名義変更は司法書士、税の計算は税理士、遺言書作成のサポートは行政書士など、分業されている場合がほとんどです。また相続の内容によっては、横断的に複数の士業への依頼が必要となるケースも多くあります。
それぞれの役割を把握して自分で調整できる人はいいのですが、難しい人は、各士業の先生とチームを組んでサポートするコンサルタントなどに相談を。
相続でもめる相手は親族です。私たちのウヤファーフジ(ご先祖さま)は子孫同士がもめるために財産を遺したわけではありません。ウヤファーフジの意をくむためにも、また私たちの子孫の幸せのためにも、本連載でもめない相続について知っていただき、ご家族で話し合うきっかけになればと思います。
不動産相続に関わる専門家
専門家の力を活用して、もめない相続にしよう
弁護士の久保以明さんに聞く、 沖縄の相続問題の傾向
法的知識で相続トラブルを解決
久保以明(もちあき)さん(弁護士法人琉球法律事務所 所長弁護士)
沖縄で相続問題といえば不動産の分割問題と言っていいほどです。沖縄では経済的価値の高い相続財産は不動産がメインで、預貯金のような金融資産が少ないことが多い。このことが深刻な相続問題を引き起こします。
なぜなら、不動産は預貯金のように簡単に分けられないからです。結局、先祖代々の土地建物を売却してお金で分配しなければ問題が解決しないことも多い。この問題は相続が始まってからでは手遅れとなります。自分自身が先祖から引き継いだ大切な財産を、再び子孫に引き継ぐことを望むのなら、生前にきちんと対策を立てることが必須です。
そこで、数年前から沖縄初の相続専用サイトを立ち上げて、相続問題に注力。数多くの相続トラブルの解決や、生前対策のお手伝いをさせていただいています。
相談者のお話をよく聞いた上で、相続に関する法律的な知識からどう解決するのがよいか、結論の方向性を説明。相談者に安心してもらいつつ、共に解決に向けて進めていきます。
相続をめぐる法律は複雑で難解です。
相続が発生した際は、相続に強い法律家等に一度相談されることを強くお勧めします。
司法書士の日高憲一さんに聞く、相続問題における司法書士の役割
要望に応じて法律書面を整理
日高憲一さん(レスター司法書士法人 代表司法書士)
親の財産相続を、家族同士で争う「争族」としないため、重要なのが事前対策です。相続はとても複雑で他人に話しにくい内容です。ただ、超高齢社会となった今、司法書士として一番多い相談です。成年後見人、遺言、信託から遺産分割協議に至るまで専門的かつ幅広く対応しています。
例えば、先日、公証人役場にて家族信託と遺言書の作成について手続きをしました。相談の窓口になった相続コンサルタントからの紹介で、コンサルタントが家族の要望事項をとりまとめてくれていました。その要望事項をもとに、司法書士として公証人役場で「家族信託契約書の作成」と「登記手続き」と「公正証書遺言の作成」を行いました。家族の要望に応じて法律書面をしっかり整理する。それが司法書士の仕事です。
実際の「争族」の現場では、故人の歴史から始まり、仏壇の承継、財産の分配というような話し合いになります。人ごとだと気にならなくとも、自分の家族間のこととなれば話しは違うようです。
解決策は、多種多様な方法が存在しますが、まず第三者で専門的な知識がある人に相談することが最短かつ効率的な方法でしょう。
[執筆者プロフィル]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
(株)エレファントライフ
https://www.elephant-life.info/
電話=098・988・8247
2019年人口動態統計(2020年9月17日厚生労働省発表)と沖縄国税事務所2019年直接税(相続税統計)から算出">
5000万円以下が全体の4分の3以上、1000万円以下が全体の3割を超える。不動産資産を含めた金額ということもあり、相続で争うのは多額の財産を持っている家族だけとは限らないことが分かる。">
「まさか弟に裏切られるとは」 遺産分割協議書に要注意! 相続人は署名・押印前に確認を【失敗から学ぶ おきなわ不動産相続(2)】
不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。
● 遺産の分け方を決める「遺産分割協議書」 ●
家族が亡くなり相続が発生すると、複数の書類手続きが発生します。かなり煩雑なので家族で手分けして行う方もいらっしゃいますが、内容を確認せず任せっきりにしてしまうことで起こるトラブルがあります。(文・ともり まゆみ)
概要・経緯
相談者(長男)の父が亡くなり、実家は長男が引き継ぎ、そのほかにある複数の不動産は、長男・長女・次男で平等に分けることに。手続きは次男がするということで、母・長男・長女は内容をよく確認しないまま遺産分割協議書に署名・押印した。
どうなった?
遺産分割協議書をよく確認してみると、資産価値のある不動産は次男へ、農地など使用用途が限られるものは長男や長女にという内容になっていた。しかし、署名・押印済みなので、撤回はできない。
どうすべきだった?
・相続時の書類は誰か一人に任せっきりにせず、相続人同士で内容と情報を共有する
・相続発生前に遺産を分ける内容が決っている場合は、遺言書の作成を行う
・内容が複雑で理解が難しい場合は、専門家の力を借りる
言われるがまま署名・押印
相談者である長男は、父が亡くなったことで家業とともに実家も引き継ぐことになりました。父が所有する複数の不動産について、実家の土地建物は長男、その他はきょうだい3人で平等に分けるという話になっていました。手続きは次男がやってくれるとのことで、母と長男長女は言われるがままいくつかの書類に署名・押印をしました。
それから半年が過ぎて落ち着いた頃、書類を改めて確認すると、法定相続人全員の署名・押印が済んだ遺産分割協議書の内容に不審な点があり、私の所に相談に来ました。
不平等な資産分割でも撤回できず
「この書類はどういう内容ですか? 変更することはできますか?」と話す長男さんから、私は署名・押印済みの遺産分割協議書の写しを受け取り、内容を確認しました。
不動産は賃貸物件や月決め駐車場などの収益物件、農地や公衆用道路など多岐にわたっていました。
しかし、遺産分割協議書には資産価値のある収益物件は次男へ、その他の農地など使用用途が限られる不動産は長男や長女へという、事前の取り決めとは異なる不平等な内容になっていました。
その場で登記情報を取得し確認すると、すでに遺産分割協議書の内容通りに所有権移転登記(名義変更)がされていました。そのことを告げると長男さんは「まさか弟に裏切られるとは」と泣き崩れました。
遺産分割協議書に署名・押印すると、その内容に同意したとみなされます。この遺産分割協議書をもとに預貯金や不動産の名義変更が行われますが、その後に勘違い等を理由に名義変更の撤回は原則できません。
やり直しかなわず次男と疎遠に
しかし次男さんの同意があれば、遺産分割協議のやり直しとともに不動産の名義変更を行うことは可能です。いちるの望みをかけご家族での話し合いを勧めましたが、それはかなわなかったようで、次男家族は実家での法事にも参加しなくなりました。
署名・押印の前に内容を確認しておけば、このような状況は避けられたはず。ご自身で理解が難しい場合は専門家の力を借りてください。このひと手間が家族の縁を守ることにつながります。
用語説明 「遺産分割協議書」
遺言書のない相続の場合、相続人同士で遺産の分け方を取り決める必要があります。その内容をまとめたものを「遺産分割協議書」といい、相続人の全員の自筆による署名と実印による押印が必要になります。
この遺産分割協議書をもとに法務局で不動産の名義変更を行い、預貯金など他の遺産も分け合います。
[執筆者プロフィル]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
(株)エレファントライフ
https://www.elephant-life.info/
電話=098・988・8247
なぜ? 「住み慣れた家で暮らしたい」願い叶わず 遺言書で設定しておくべきだった権利とは【失敗から学ぶ おきなわ不動産相続(3)】
不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。
● 自分が亡くなった後、配偶者が自宅に住み続ける権利「配偶者居住権」 ●
自分が亡くなった後も、配偶者には住み慣れた住まいで穏やかに暮らしてほしいと希望する人は多い。ですが、遺言書で準備していても、相続のルールを知らなければ、かなわないことがあります。(文・ともり まゆみ)
連載(1) 沖縄の相続で多いのは現金?不動産? 対策しないと「争続」に
連載(2) 「まさか弟に裏切られるとは」 遺産分割協議書に要注意! 相続人は署名・押印前に確認を
概要・経緯
相談者は夫と息子の3人家族。財産は自宅の土地建物がほとんどで、わずかな貯蓄と年金で生活していた。浪費家の息子は経済的に不安定で、現在は疎遠状態。夫は妻の生活を守るために自宅土地は妻に相続させ、妻が亡くなった後は息子が相続し自由にしたらいいと考え、その旨の遺言書を作成していた。
どうなった?
相続発生後、息子が「自分にも財産をもらう権利がある」と全財産の4分の1を現金で請求(遺留分侵害請求)。預貯金ではこれを準備することができず、また自宅土地建物を共有名義にしてもこれまでの素行から何をされるか分からないという恐怖もあったため、相談者は自宅の土地建物を売却せざるを得ない状況となった。
どうすべきだった?
・自分が希望する相続を息子も含めて伝える
・話すことが難しければ、誤解を与えないよう遺言書へ付記事項として思いを記す
・トラブルが想定される相続人がいる場合、事前に専門家に相談し対策を講じる
妻の暮らし守るために遺言書作ったが…
「住み慣れた家があれば暮らしていけるだろう」。相談者の夫は、自分亡き後の相談者の生活を案じていました。息子は金銭トラブルが続いており、尻拭いをしたこともあってあまり信頼できない状況。金銭的な余裕がない中で相談者の今後を守るためにと、遺言書を書くことを決意しました。
法定相続人も2人と少なく、相続する財産も特定しやすいことから、専門家に頼らず関連書籍を見ながら自分で作成。夫婦ともにこれで大丈夫! と安心していました。
しかし、いざ相続が発生すると、息子から相談者に「遺留分侵害請求」が届きました。
息子にも遺産相続の権利が
夫の法定相続人は妻と息子の2人。民法で定められた法定相続割合は、それぞれ2分の1ずつとなります。遺産の分け方を遺言書で指定した場合でも、法定相続人には少なくとも法定相続割合の半分(今回なら2分の1の半分なので4分の1)をもらう権利があります。
つまり全遺産を妻に相続させる旨の遺言書があっても、息子には4分の1の財産をもらう権利があり、妻はそれに応じなければいけません。これを遺留分といい、遺留分を請求することを遺留分侵害請求といいます。
息子は「権利をないがしろにされた」と勘違いし請求したとのこと。相談者である妻が亡くなったら自宅の土地建物は息子に譲ると伝えても納得してもらえませんでした。
遺言書の作成 専門家に相談を
夫の「妻が生きている間は自宅土地に住まわせ、妻亡き後は息子に相続させる」という意向を実現するには、遺言書で「配偶者居住権」を設定しておくべきでした。息子に自宅土地建物の所有権を相続し、妻には配偶者居住権を設定する旨を遺言書に記すことで、妻は自宅に住み続ける権利を持つことができます。
所有権は息子にあるので、母である相談者の相続が発生した後は息子が自由に活用することができます。
遺言書は書けば良いというものではありません。希望通りの相続を実現するには、相続に関するルールを踏まえて内容を決めていく必要があります。家族の未来を守るためにも、遺言書の作成は専門家に一度ご相談ください。
用語説明 「配偶者居住権」
被相続人が所有していた自宅に配偶者が住み続けることができる権利のこと。遺言書での指定や法定相続人同士での話し合い(遺産分割協議)等で決めることができる。配偶者は自宅の所有権を持たないことから、その他の財産をより多く取得することができる。二次相続対策にも有効。
[執筆者プロフィル]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
(株)エレファントライフ
https://www.elephant-life.info/
電話=098・988・8247