地上から遥か遠い地下にある薄暗い大空洞で黒髪の少年と一体の
それは傍から見れば神話の1ページに出てくるような熾烈を極めた戦いである。
両者が拳を振るうだけで空間に悲鳴を上げさせ、蹴るだけでオリハルコン並みの強度を持つ地面を割る。
そんな人智を超えた戦いを繰り広げている少年の名はアラン・クレイム、見た目こそ少年だが精霊の力により、不老となっているので実の年齢は彼自身もよく分かっていない、だが少なくともこのダンジョンで過ごし始めて3000年以上は経っているので3000歳ぐらいかなと思っている。
そんな少年は実は異世界から転生者である。少年はこの世界に来た当初こそは『これ異世界転生や!』と年甲斐もなく興奮した。しかし、そんな興奮は年を重ねていくことで次第に霧散していった。少年の日常は、朝起きて朝食を食べ、畑仕事をして昼ご飯を食べ、また畑仕事をして夜ご飯を食べて寝る。そんな本来であればつまらない毎日だった。だが、少年はそれだけで良かった。前世の少年の両親は所謂放任主義という奴で少年は両親から愛情を一切与えられずに育ってきた。だが、今世は両親から愛情を貰うことが出来た。だからこそ平凡ながらも幸せだった。だがそんな幸せの日常も長くは続かなかった。少年が14歳になる誕生日の日に事件は起こった。少年が住んでいた町がモンスターに襲撃に遭い滅んだ。彼の両親も彼を逃がすために亡くなった。町の住人で最終的に生き残ったのは少年だけだった。
少年は憎んだモンスターをそしてなにより自分自身を。実は去年からモンスターが人間の生活圏を脅かしているという噂は街の人から聞いていた。それを聞いた彼は心の中には自分たちは大丈夫という根拠のない自信があった。
もしその話を聞いた時から鍛えていれば両親ぐらいは救うことが出来たかもしれない。
もしその話を聞いた時に両親に避難しようと言っていれば両親が死ぬことはなかったかもしれない。だが、あの時こうしていれば、とか、いくら後悔しようがもう後の祭である。
後悔したところで意味はないことは分かっているがそれでも後悔せずにはいられない。いっそのこと死のうかとも考えたが両親が最後に残した言葉のせいで死ぬことが出来ない。
両親が残した言葉は
『生きて』
それだけである、その言葉が少年の生きる原動力であり呪いでもある。
だが今の実力ではこの残酷な世界を生き残ることは出来ない。だからこそ少年は旅に出た、その旅の最中で少年は体を鍛えそして技を磨いた。そして、旅の道中で数多の精霊という存在に出会い、使役した。
ある時には人をまたある時には国すら救った。
少年がそんなことをしていると人々は彼を称え、こう呼んだ【英雄】と。
3000年経った今はどうか知らないが3000年前には少年の英雄譚があった。
少年の英雄譚の題名は【精霊の王ヴァルサルア】、何故このような名になったかというと、少年がいろんな国を救っていた頃に少年は本名を名乗らず偽名を名乗っていたのである。勘のいい人なら気づいているかもしれないがその偽名というのがヴァルサリアである。精霊の王と呼ばれておるのは、通常使役できる精霊の数は一体と決まっているがアランの場合はその限りではないため、アランは複数の精霊を使役していたからである。
そんなことを話しているうちに少年とモンスターの戦いは終焉を迎えようとしていた。
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「っふ!」
アランはモンスターの攻撃を刀で受け流すようにいなしモンスターの体制が一瞬だけ揺らいだところに反撃でモンスターの片腕を切り落とす。
モンスターが痛みで悶えながらも残った右腕で攻撃を仕掛けるが、それをアランは大きく後ろに飛ぶことで回避する。
「【
回避際で精霊魔法を放つ。
その魔法を喰らったモンスターは悲痛の声を上げながら魔石だけを残し、灰へと姿を変えた。
「よし、今日はこのぐらいでいいかな【ストレージ】」
そういいながらモンスターの魔石を【ストレージ】に収納する。
【ストレージ】空間の精霊魔法。異空間に無生物であれば収納できる。ちなみに上限はない。
「それより俺何年ぐらいダンジョンにいた?
まぁ軽く3000年くらいか?
ずっとダンジョンに潜っていたからわかんねぇな」
いまアランの中では二つ選択肢が出ている。
一つはこれまでと同じくダンジョンに籠りモンスターを狩り続けるか。
そしてもう一つは地上に出るために上を目指すか。
アランにとっては正直どっちでもいい、だが今は3000年もダンジョンの中にいたので地上が今どんな風になっているのか分からないので見てみたいという気持ちの方が僅かながら勝っている。
「よし決めた、地上に行くか!」
こうして3000年もの間ダンジョンで過ごしてきた英雄は地上を出ることを決意した。
地上が今荒れていることを知らずに。
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ダンジョン50階層
深層で二つ目の
アランの拠点は二階建ての30坪の4LDKで風呂トイレ別というそれなり大きい家である。
家や家具などは全て、創造の精霊魔法【万物創造】で創った。
もちろんそんな一軒家が建っていればどこかにある
「さて、どうするか」
そんな家の中で今アランは洗面所の鏡と睨み合いをしている。
その理由は自分の身なりである。
今の彼は髭などのムダ毛はないが、髪が足元まで届きそうなほど長い。
「最後に切ったのはいつだったかな」
アランの髪の長さは、決してアランの髪が伸びるのが早いのではなく、彼が長い間も切らずに放置しているからである。
しかし、ダンジョンの深い階層で生活していると誰にも会わないので身だしなみを整える必要性がないため、仕方がないだろう。
「まぁ、ここでは適当に切って地上に出てから美容院などに行けばいいか【万物創造】」
そういいながら【万物創造】でハサミを創り、腰ぐらいの高さに合わせて適当に切る。
切った髪は火の精霊魔法を使い適当に燃やす。※洗面所の床は燃えない素材を使っているので大丈夫。
「さて、服をどうするか」
後は服だが現代日本の服装で地上に出た場合、100%周囲から浮いてしまう。
3000年前に地上にいた頃の周囲の服装を思い出す。
その中で前世と似た馴染みのある服装を思い出した。
その服装は和服である。
前世では数回ぐらいしか着た覚えがないが。まぁ、それ以外に思いつかないし、なぜか着付けのやり方はばっちり憶えている。
それに使っている武器の種類も刀である。
「和服にするか【万物創造】」
【万物創造】を使い黒色の着物と青色の羽織、黒色の長襦袢、黒と青の男〆、青色の羽織紐を創り憶えていた通りに着付けをする。
「こんな感じかな」
30分くらい掛かったが一通り着付けを終了した。
今世のアランの容姿は黒髪碧眼の美少年であるため結構様になっている。
「さて次は持ち物だな」
身だしなみが終わったら次は持っていく持ち物の整理である。
【ストレージ】は上限がないため全て持っていくことが出来るが、後々整理するのが面倒になるため今のうちに要らない物は置いていかなければならない。
とは言っても大事なものは一つの部屋に纏めているためその部屋の物を持っていけば良いだけである。
その部屋はコレクションルームでアランが今世で入手した大切な物を飾っている部屋である。
「さて持っていくか」
壊れないように一つ一つ丁寧に【ストレージ】に収納していく。
収納していく中には純度がバカ高い魔石や超希少なモンスター素材、3000年以上前にエルフの国を救った時に貰った最上級の魔導書や魔杖などもある。
それらを過去の余韻に浸りながら収納しているといつの間にか残ったのは最後の一つとなる。
残った最後の一つは、一本の刀である。
その刀の名は精霊剣【ヴァルサリア】、アランが最初の精霊を使役した時に入手した刀。
この刀の最大の特徴は刀の能力である。しかもその能力は二つある。
一つは精霊の力を倍増し精霊魔法の威力を上げてくれる。
そしてもう一つは持ち主の精霊力の回復を早めてくれる。
英雄【ヴァルサリア】の名も実はこの刀の名を参考にした。まぁ、一字一句同じだが。
「まぁ今は【不知火】があるからいいか【ストレージ】」
そういいアランは【ヴァルサリア】を【ストレージ】に収納する。
そして先ほど彼の発言の中に出てきた【不知火】とは彼が現在腰差している刀のことである。
【不知火】は彼が3000年間使い続けてきた第二の相棒である。(もちろん第一の相棒は【ヴァルサリア】)
【不知火】には永久の精霊魔法【永久不変】を付与しているため刃こぼれすることがないため3000年間使い続けても問題ない。しかもその切れ味は第一等級武装並みである。
「よし、こんなところか」
身だしなみも整え、持っていく物も全て【ストレージ】に収納した。
これで準備は完璧だろう。
そう考えたアランは家の外に出る。
「よし、じゃあ行くか!」
こうして3000年間ダンジョンで生活をしていたアランは、地上へと足を進めた。
ちなみにアランは空間の精霊魔法【空間移動】が使えるため一瞬で地上に出ることが出来るのだが、久しぶりに地上へ出る興奮のせいでそのことが頭から綺麗さっぱり消えている。