「…………は?」
不知火は今自分に起きた出来事が理解不能な出来事に素っ頓狂な声を上げる事しかできない。
だが、仕方がないことだろう。不知火からしたら、ユグドラシルがサービス終了して、気付いたら知らない平野に一人佇んでいたのだから。
「……どうなってんの?」
このまま固まっていても状況の改善にはならないと判断した不知火は、自分の身に起きたことを冷静に考え始めた。
「……ユグドラシルのアバターのままということは、何らかのトラブルでサ終が失敗したのか?」
今の自分の姿が『
「にしてはグラフィックとか綺麗すぎるし、それに何より匂いがする」
VRゲームではありえないリアルすぎるグラフィックや現在のVR技術では再現は不可能である嗅覚が存在している。
以上のことを考えるとここは、ゲームの世界ではないだろう。
「ならば夢…いやないな」
一瞬夢かと思ったが、それもないだろう。
不知火は先ほどまでユグドラシルをプレイしていたのだ、そこからサービス終了と同時に眠りに落ちるという特技を不知火は持っていない。
「夢でもゲームでもないとなると………まさかな」
現実的に考えて一番ありえないが、今の状況を考えるとこれが一番可能性としては高いだろう。
「ゲームのアバターで異世界転移したってことか?」
『
「まじかよ……これからどうしよう」
普通のプレイヤーであれば今の状況なら、魔法もしくはスキルで使役モンスターを召喚し周囲の安全確認を取ることが定石なのだが、生憎不知火は普通のプレイヤーではない。
〈
〈
二つの魔法を発動させた不知火は透明になり浮き上がる。
「魔法はちゃんと発動するか、ならスキルとかも大丈夫そうだな」
魔法が使える事を確認すると不知火は周囲一帯が確認できる高度まで上昇する。
「さて探索でも行きますかね」
そう言うと不知火は超スピード(720km/h)で飛ぶ。
周囲を見渡しながら飛び続けること数分。
「……ん?あれは村か?」
少し遠いが村らしき物を発見した。
だがその村の様子が少しばかりおかしい事に気づいた不知火は、視力強化の魔法を使い、村の様子を確認する。
「……あれは!」
村の様子を確認した不知火は眉を顰める。
その理由は、ユグドラシルでは見たことがないモンスター達が、村の住人らしき人達を、其処彼処で襲っているからだ。
「でも意外だな、もっと動揺すると思ったんだけど」
普通の人間であれば、人が化け物に喰われるところを見るなど、トラウマもんだが。
「まぁ、今はそんなことどうでもいいか」
今不知火がすべきことは村人たちを助けに行くのか、それとも見捨てるのか、どちらか選ぶことだ。
そこで不知火は仮に助けに行った場合のメリットデメリットを考える。
その結果。
「……助けた方がいいか」
助けた場合、この世界のモンスターの強さもある程度知れるし、助けた村人からこの世界について教えてもらう事が出来るかもしれない。
それになにより——
「ここで見殺しにするのは夢見が悪いしな………よしっ!」
助けると決めた不知火は、恐らくオークらしきモンスターに殺されそうになっている、灰色の髪を持つ少女が目に入った。
「ヤバっ!〈
灰色髪の少女の危機的状況に焦った様子で不知火は転移魔法を使った。
Side:灰色髪の少女
私は不幸だ。生まれてすぐに両親を病気で失い、誰に頼ることも出来ず生きてきた。
何度も死にたいと思ったがそれでも死ねない理由があった。
それは私に残された最後の肉親である妹の存在だ。
妹は生まれながらに重い病気を患っており、一人で生きていくことが出来ない。
そのため私が助けてやらねば生きていけないだろう。最初はそれでもいいと思った、肉親だろうが所詮は血が繋がっただけの他人だ、他人が死んでもそれは私には関係ない。
でもダメだった、私は妹を置いて死ぬことが出来なかった。
妹の底知れぬ優しさに触れてしまった私は守りたいと思ってしまったんだ。
だから私は死ぬのかもしれない。
今日私たちが住んでいた村がモンスターどもの襲撃を受けた。
私は走れない妹を背負ってモンスターどもから逃げた。
だが、所詮私は10歳にすらなっていない小娘だ、そんな小娘がモンスターから逃げられる訳がない。
逃げられないと思った私は、その場で止まり、困惑している妹を地面に下ろし、近づいてくるモンスターに向かい合った。
「……私が時間を稼ぐ、その間に逃げろ」
「お、お姉ちゃん!?…ダメだよ!!」
妹の言葉を無視して私はモンスターの姿を確認する。
緑色の肌を持った豚頭人身の姿をしたモンスター。
昔旅人をしている者に聞いたことがあるモンスターと特徴が一致する。
そのモンスター名前はオーク、『
モンスターの正体を知った私は、その迫力と殺気に気圧され、倒れそうになるが、気合で耐える。
そして私はモンスターの意識が妹の方に向かない様に声を上げる。
「お前の相手は私だ、来い!」
「……■■■■■■■■■!」
オークが雄叫びを上げながら私が想定していたスピードの倍以上のスピードを出しながら、一瞬で私との距離を詰めてきた。
(…ヤバいっ!)
「…■■■■■■■■!」
気付いた時には私とオークとの間に距離はなく、オークはその太い腕を私に振り落としてきた。
これは死ぬと思った私は、咄嗟に目を瞑る。
(私はどうなってもいい、だから神よ、どうか妹だけは助けてくれ)
私は意味がない事だと分かっていたとしても、そう神に祈ることしかできない。
そして私はオークに殴られて無惨に死ぬ
はずだった。
「■■■■■■■■っ!」
「………えっ」
いつまで経っても殴られる衝撃が来ない、それどころかオークの驚愕した声と妹の驚いた声が聞こえてくる。
何が起こているのか知る為に私は目を開けた。
そこにはさっきまでは居なかった少年が
「——〈
少年が囁くようにそう言うとモンスターが凄まじい衝撃波により十数メドル先にある家に轟音を立てながら衝突した。
突然のことに呆然としている私に気づかず少年は話しかけてくる。
「もう大丈夫だ、後は僕が君たちを守るよ」
「………………」
そう少年に言われた私は、彼から感じられる
これが後に長い付き合いになる私——アルフィアと、後に名前を知ることになる彼——不知火の出会いだ。