「——さぁ、喜劇を始めよう!」ドンドットット♪


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作:烏何故なくの
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二話 書きたいところから始まるので17巻編から始まります



 ギア5を操るに相応しいオリ主、やっぱ髙羽かなという気持ち


 

 『ひれ伏しなさい』

 

 「ん……?」

 

 女神祭三日目のことだった。

 メインストリートで道化として子供達に手品を見せていたラテックスは、突如としてオラリオ中に響いたフレイヤの声を困惑しながら聞いていた。

 

 「突然なんだってんだよ……。大丈夫かぁ? なんだか泣きそうな声だったが……」

 

 ラテックスは人の感情に聡い。

 人、神問わず、何を思っているかがなんとなくわかるのだ。

 感覚としては声が聞こえるのに近い。

 それがいつか漫画で見かけた、見聞色の覇気と呼ばれる力に近しいことは自覚していた。

 

 女神の声が聞こえた瞬間、手品に見入っていた子供達の視界に不穏な色が宿ったのを見て、ラテックスは状況がかなり悪いことを直感的に悟った。

 

 「……ま、誰が相手であれ道化のやることは決まってんな。悪いなガキども、手品はまた今度だ」

 

 いつもみたいに、おどけるだけだ。

 ラテックスはそう呟くと、道具を纏めて歩き出した。

 

 

◼️◼️

 

 

 

 (オラリオは私の手に堕ちた……。後の懸念点は、ヘスティアとウラノス、それとあの子を強く想っていた子……)

 

 『戦いの野(フォールクヴァング)』でフレイヤは1人思案に耽っていた。

 

 ベルを堕とす策はすでに揃った。

 あとはあの子が目覚めるのを待つだけだ。

 女神の箱庭に欠陥はない。

 あとはじっくりじっくり丁寧に、詰ませるだけ……。

 すでに勝ちは決まっているようなものだ。

 

 そうフレイヤが思考を進めた所で、

 

 「聞こえるかぁああああぁあぁああ!!! 【フレイヤ・ファミリア】!!! 【アポロン・ファミリア】の【迅雷怒濤(ハヌマーン)】がきたぞ!!! フレイヤ神を出せ!!!」 

 

 雷のような大声が、『戦いの野(フォールクヴァング)』に響き渡った。

 

 女神の箱庭では、誰も彼もが女神の奴隷だ。

 誰かに頼ったところで自分の立場を危うくするだけ。

 故に、ラテックスが選んだのは、正面突破だった。

 

 殺到する【フレイヤ・ファミリア】の団員にも臆さず、ラテックスは腕を噛み、空気(パワー)を全身に巡らせた。

 

 「ギア4! 『弾む男(バウンドマン)』!!」

 

 上半身が異様に膨張し、その肉体が赤黒く染まる。

 荒々しいその姿は、極東の仁王像を連想させる。

 ラテックスを見て、フレイヤは僅かに目を丸くさせた。

 ギア4はラテックスの奥の手だ。

 一度発動した後は強制的に活動不能になる上、10分は『スキル』が使えなくなるのはダンジョン探索において致命的だ。

 故に、【アポロン・ファミリア】の団員ですら存在を知らない者が殆どだった。

 

 「ゴムゴムのォ〜、閃燕銃(イグアスピストル)!!」

 

 樽のように圧縮された腕部から放たれた、閃燕のように研ぎ澄まされた拳が、平団員達を吹き飛ばしていく。

 ラテックスと同格であるLv.4ですら、抵抗も叶わず吹き飛ばされていく。 

 ギア4を発動したラテックスには、第一級冒険者に匹敵するほどのパワーがあった。

 

 だが、逆に言えばそれまでだ。

 最強派閥に挑むには、あまりに脆い。

 

 「ゴムゴ、うがぁっ!!?」

 「雑魚が」

 

 拳を構えたラテックスの肩を銀の槍が貫いた。

 ゴムタイヤのように硬く、弾性を兼ね備えたギア4の肉体はLv.5の攻撃すら跳ね返す。

 それを軽々と、【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】は貫いた。

 

 「ぐ、この……!!」

 

 標本のように地面に体を縫い付けられながら、ラテックスは拳を握る。

 

 「愚かな」

 「一人とはな」

 「血迷ったか」

 「この『箱庭』では頼る仲間もいないだろうが」

 

 獲物を油断なく構えながら、小人達はラテックスを包囲する。

 

 「女神の箱庭を壊そうと足掻くか。ならば争うのは必然。無辜の民の血を我が剣に吸わせる覚悟はとうにできている」

 

 黒の妖精は呟きながら、ラテックスの首元に剣を当てる。

 

 「……」

 

 白の妖精は見定めるように、ラテックスの包囲網に加わった。

 

 「くそ! どけ! 俺にはしなくちゃいけないことがあるんだ!!」

 「ほう。我が主の首を取りに来たか。相応の代償は払ってもらうぞ」

 

 ヘグニは首に当てた魔剣に力を込め、ラテックスの首から血が垂れる。

 ラテックスは死の恐れなど何一つないように、毅然として声を上げた。

 

 「違う! 俺はふざけに来たんだ!!」

 「……? ふざけているのか?」

 「そうだ! 俺はふざけに来たんだ!!」

 「何言ってやがる……」

 

 ヘグニの剣が困惑により止まる。

 要領を得ない会話に苛立ちを覚え始めていたアレンは、銀槍を構えラテックスにトドメを刺そうとする。

 

 「待って、アレン」

 

 振りかぶられた槍は、しかし女王の一声にて止められた。

 フレイヤが降りてきたのだ。

 

 「……私の『魅了』から、どうやって抜け出したのかしら」

 「俺にもよくわからん」

 「()()()()()

 「きかん」

 「……はぁ」

 

 ラテックスの言葉に嘘はないようで、フレイヤはため息をつく。

 完璧だったはずの箱庭に、看過できない綻びがあったのだ。

 女神の憂う顔を見てラテックスは語りかける。

 

 「俺のことは牢屋にでもなんでも繋いでもらって構わない。フレイヤ神のやる事に口を出すつもりはない」

 「……だったら。なんで無謀にも私の城に乗り込んできたの?」

 

 フレイヤの言葉を聞き、ラテックスは唇を上げる。

 体を起こし、ギア4を解除し、フレイヤの前で慇懃に腰を曲げた。

 

 「貴方を笑わせにきました。貴方が笑えるようになれば、この『箱庭』はもう必要なくなるでしょう?」

 

 沈黙が周囲を包み込んだ。

 フレイヤは僅かに瞼を動かし、ラテックスに挑発的な視線を投げた。

 

 「……ふぅん? 子供のくせに、知ったようなことを言うのね」

 「人間観察が道化のスタートラインなもので」

 

 フレイヤの視線に当てられながら、生殺与奪を握られながら、ラテックスは一切動じない。

 

 「……いいわ。何が出来るか知らないけど、見せてみなさい」

 「貴方の慈悲に、万の感謝を」

 

 ラテックスはフレイヤの前に進み出て、肺を空気で満たす。

 一瞬のうちに、ラテックスの顔が『戦士』のものから『道化』に切り替わる。

 

 「モノマネいきます。風邪引いた時のガネーシャ神。げっほゲホゲホゲホ、俺が、ゲホ、ガネーシャゲホゲホオロロロ……

 

 一秒が経った。

 二秒が経った。

 三秒が経った。

 

 ヘディンが、動いた。

 

 「愚物が! 女神の前で汚物など見せるな!!」

 「ギャーッッッッ!!!」

 

 長剣(ロンパイヤ)による鋭利な一撃が、ラテックスの胴体に突っ込まれた。

 周りの空気は死んでいた。いわゆる、大スベリである。

 

 「あ、明日も……明日もやらせてください……。ガクッ」

 

 ラテックスは最後にそう言い残し、意識を手放した。

 

 

 

◼️◼️

 

 

 

 英雄になりたかった。

 

 不味い果実を偶然齧り、特別な海賊王(ヒーロー)の力を得た時から、その思いは男の中で燻っていた。

 

 英雄になりたかった。

 

 世界は絶望に覆われていて、まさに英雄の力が必要とされていた。

 でも自分はどこまで行っても凡人で。希望なんて、世界を巡ってもどこにも見当たらなくて。

 

 そんな中、見つけたのだ。

 

 「私は今より『英雄達の船』となろう!!」

 

 ああ、これだ。そう思った。

 万を救う英雄にはなれなくても、一を笑わせる道化にならなれるのではないか。

 

 その思いはずっと、男の中に——ラテックスの中で、聖火のように燃えている。

 

 

 

◼️◼️

 

 

 

 「アミッドの出汁、アミ汁」

 

 「ドクターフィッシュのモノマネやります。ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」

 

 「さあさあご覧あれ! カップの中のボールが……ジャーン!! 口の中から!!」

 

 「ズンチャカチャカチャカズンチャン♪ ズンチャカチャカチャカズンチャン♪」

 

 ラテックスが『戦いの野(フォールクヴァング)』に乗り込んでから三日が既に経過していた。

 

 ラテックスは日中はベル・クラネルと接触しないように地下に監禁され、夜中にフレイヤの前で芸をすることになっていた。

 

 フレイヤはラテックスの芸を、ピクリとも微笑まないのに毎日決まった時間に鑑賞する。

 ラテックスを力ずくで排除しないのは、魅了を乗り越えた者に対する敬意か、はたまたフレイヤの最後の矜持か。

 

 「クソ……今日も一本取れなかった」

 「……道化の囀りは女王には届かぬ。太陽に伸ばした手は蕩け堕ちるが必命。それ以上の強欲は冥府の扉を開くぞ。道化を演じるのも限度があるだろう」

 

 フレイヤの反応の悪さをぼやくラテックスに話しかけるのは、ラテックスを地下牢まで運んでいく役割を押し付けられたヘグニだった。

 

 『フレイヤ様を笑わせるなど無理ですよ。あんな冷めた目で見られたらオレなら死んでしまいます。どうしてそんなことができるんですか?』と自分の想像で背筋を震わせながらしゃべるヘグニを見て、ラテックスは不思議そうに首を傾げた。

 

 「いや、だってさ。泣いてる人がいたら笑わせてあげたくなるだろ」

 「……何? 誰が泣いていると……」

 「フレイヤ様だよ。泣いてるだろ?」

 

 告げられた言葉に、内心気づいていた事実を突きつけられ、ヘグニの肩が揺れる。

 

 「だいたいさ、フレイヤ様のことが好きだったら剣振るよりやることがあるだろ。そりゃ対等な男女の関係ってわけじゃないんだから難しいかもしんないけどさ……」

 「……」

 

 告げられた言葉に鋭利に胸を抉られ、言葉に詰まるヘグニ。

 ラテックスはヘグニのことなど気に止めず、地下牢へと戻ろうとする。

 

 「……ま、待てっ」

 「ん? どした?」

 「……道化なら、道化の貴様になら……あの方の涙を、止められるとでも言うのか?」

 

 ラテックスは少し考えた後、

 

 「さぁ。やれることやるだけだし。……ま、お前の協力があれば、もっと成功率の高い作戦はあるけどな?」

 

 そう言って、無邪気に笑った。

 

 

 

◼️◼️

 

 

 

 「さぁさぁお立ち会い。道化の演奏会場へようこそ!」

 

 フレイヤの寝室で、ラテックスはヴァイオリンを片手に微笑んだ。

 相対するのはフレイヤ、そしてフレイヤの護衛の数名の強靭な勇士(エインヘリヤル)、そしてヘディン。

 

 「えー、それでは弾き語り行きます。……それは王の話。血塗られた剣の行先は何処。彼の者の真意は何?」

 

 朗々とした歌声は、ラテックスが弾き語りに慣れていることを感じさせた。

 

 (……吟遊詩人のマネか。確かに、前のような大喜利よりかは女神の好みに沿っているか)

 

 ——それでも、女神を笑わせる腕前には至らない。

 ヘディンは内心でそう断言した。

 

 ヘディンはラテックスに対する評価を未だ決めかねていた。

 魅了の効かない、この『箱庭』を打ち崩すに足る可能性。

 しかしそれは女神を救うこととは別だ。場合によっては、女神から遠ざける必要がある。

 ラテックスが能を有する者かというのもヘディンには疑問だった。【フレイヤ・ファミリア】を武力で叩き潰す事は不可能だ。だからと言って、道化として女神の心を慰める? そんなことが可能なのか?

 想像もしなかった可能性を提示したラテックスを、ヘディンは冷静に観察する。

 

 演奏は続く。

 

 (下手……というわけではないが、本職には劣る)

 

 酒場の演奏としては及第点だが、この場には足らない。

 ヘディンがそう思った瞬間だった。

 

 フレイヤの口角が、僅かに上がった。

 

 「………!!」

 

 驚愕に目を開くヘディンの前で、フレイヤはラテックスに語りかける。

 

 「……この歌、ヘグニのことを歌っているのね? あの子の人生を、誰から聞いたのかしら?」

 「本人から。最初はヘグニにフレイヤ神の好きなことを聞き出そうとしたんだけど……」

 

 ラテックスは柔らかい笑みを浮かべながら、

 

 「話を聞いてるうちに思ったんだ。こんなに愛されているなら、フレイヤ神がヘグニのことを愛していないわけがないって。だから根掘り葉掘りヘグニのことを聞いて、一日かけて歌にした。どうだったかな?」

 

 フレイヤは返事をしない。

 

 「貴方の悲しみが癒えるまで、俺は芸をし続ける。ここには貴方を崇める仲間もたくさんいる。それじゃダメか?」

 「……ダメよ。私は、ベルが欲しい」

 「それでもいい。その時が来るまで、俺はおどけ続けるから」

 

 ラテックスはそう言って、ヴァイオリンを片づける。

 ヘスティアらの活躍により、オラリオが『竈』に変わる、三日前のことだった。

 

 

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