「——さぁ、喜劇を始めよう!」ドンドットット♪


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作:烏何故なくの
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三話 無効能力の使い方


 

 「偽現(ディオス)炉神の聖火殿(アエデス・ウェスタ)」 

 

 ヘスティアの『神威』が、かけられた呪縛を燃やし尽くす神炎が、オラリオ中に広がった。

 ヘルメスらの計略である。全知零能たる彼らの奮闘が、アスフィの血の滲むような努力がフレイヤの『箱庭』を突き崩したのだ。

 そしてそれは、太陽神のファミリアも例外ではない。

 

 「うそ、嘘だぁっ!!!? 私がベルきゅんのことを忘れるなんて……!!! ……おのれフレイヤぁっっっ!!」

 

 頭を抑え、アポロンが絶叫を上げる。

 

 「あの兎のことなどどうでもいいが、アポロン様の魂を汚した罪、万死に値する。許されんぞ、【フレイヤ・ファミリア】!!」

 「……っていうか、うちの副団長は何処行ったのよ。こういう時真っ先に現場に行くタイプでしょ?」

 

 ヒュアキントスが気炎を吐き、ダフネが疑問を呈する。

 普段はバラバラの彼らだが——主に団長(ヒュアキントス)副団長(ラテックス)がバラバラなのだが———今この場に於いては意志を統一していた。

 【フレイヤ・ファミリア】の打倒。

 【アポロン・ファミリア】の、派閥大戦への参加が決定した瞬間だった。

 

 

 「……その時が、きちまったか」

 

 『戦いの野(フォールクヴァング)』に集まる冒険者を屋敷から見下ろすラテックスは、ポツリと声を溢した。

 女神を笑わせるに至らなかった道化は、名残り惜しそうに屋敷の天辺を、女神の寝室を見つめる。

 

 「ま、戦争遊戯(ウォーゲーム)すんならそれはそれでいいさ。……女神がフられるチャンスは、もうここしかないよな」

 

 笑わせてあげられなかったのなら、せめて思いっきり泣かせてやるべきだ。

 道化は自らの頬を叩き、決意を固めた。

 

 

 

◼️◼️

 

 

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の舞台は『オルザの都市遺跡』。

 戦闘形式———神探し(ハイド・アンド・シーク)。それぞれの主神の胸に刺された花を、奪われたファミリアから脱落していく形式だ。

 総指揮官は【ヘスティア・ファミリア】のリリルカ・アーデ。

 彼女に率いられ、五十近くものファミリアが、軍隊のように陣形を組んで【フレイヤ・ファミリア】に迫る。

 

 対する【フレイヤ・ファミリア】は、島の西端に戦力を集中。

 まどろっこしい駆け引きを捨て去り、正面からの総力戦を選んだのだ。

 

 最初に行われたのは、魔剣の蹂躙だった。

 第一級冒険者以上の火力を誇るクロッゾの魔剣。驚くべき魔力の奔流は、強靭な勇士(エインヘリヤル)達を飲み込み、破壊し尽くした。

 

 そして、倒れ伏した勇士達をヘイズが回復させる。

 切断された腕も炭化した足も、全てがなかったことにされる。

 クロッゾの魔剣ですら、押し返せない。

 

 第一級冒険者による『真の蹂躙』が始まった。

 

 黒の妖精と鍛治師———ヘグニと椿・コルブランドが剣をぶつけ合う。

 

 「椿!」

 

 剣舞の音を聞きつけ、ヴェルフが援護に向かう。

 ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)は、人格改変魔法を使うヘグニと相性がいい。

 

 「【燃え尽きろ、外法の(わざ)!】」

 

 しかし、短文詠唱だろうと第一級冒険者は見逃さない。

 ヴェルフの魔法を厄介だと即座に認識し、アレンがヴェルフを潰しにかかる。

 銀槍がヴェルフの肉を貫く瞬間だった。

 赤黒く輝く拳が、アレンの頭目掛けて飛んできた。

 

 「チッ——」

 

 拳に看過できない破壊力があることを認め、アレンはヴェルフから離れざるを得ない。

 その一瞬で、ヴェルフの詠唱は完成する。

 

 「【ウィル・オ・ウィスプ!】」

 「がッ!!?」

 

 ヘグニが内側から爆破され、一瞬動きが止まる。

 その隙を見逃す椿ではない。

 

 「せぁあああああぁぁああぁッッ!!」

 「グッ!??」

 

 椿の一撃がわずかにヘグニを捉え、ヘグニに浅い傷を残す。

 ヘグニにとって痛かったのは、斬られたことよりも魔法が途切れたことだ。

 周囲の視線がヘグニの集中力の邪魔をする。露骨にヘグニの剣が鈍る。

 

 アレンは飛んできた拳を躱し、面倒そうに舌打ちをした。

 

 「またテメェか、道化。串刺しにしてやったのを忘れたのか?」

 「今日の俺は『スネイクマン』だ。舐めてっと怪我するぜ」 

 

 ラテックスは髪を逆立たせ、黒く染まった手足をアレンに突きつけた。

 

 「ゴムゴムのォ、」

 

 右手が樽のように縮み、圧縮され、エネルギーが充填される。

 

 「大蛇の井戸(ワーム・ウェール)!!」

 

 ラテックスは溜まったエネルギーを解放し、拳を射出した。

 神速の拳が、アレンの心臓へと迫る。

 

 (……チッ、速さはなかなかのモンだ)

 

 一人の冒険者として、何よりも速さを武器にしてきた者として。

 ラテックスの拳は、確かに評価に値するものだった。

 

 ——だが、てめえが相手にしてるのは【女神の戦車(オレ)】だぞ。

 

 アレンはラテックスへと駆け出した。

 体を僅かに傾けるだけで、あっさりと拳を回避する。

 

 「てめえの拳は、速えだけだ。技も駆け引きも足りねぇ。そこがてめえの限界だ」

 

 アレンは銀槍を構える。

 狙うは右肩だ。一撃で拳が振れない体にする。そうすればどうとでも調理できる。

 

 その筈、だった。

 

 「ガッ……??!!」

 

 アレンの後頭部に衝撃が走る。

 思わず足を止め、後ろを見た。

 

 「な……!!」

 

 伸ばした腕が、空中で何度も曲がっている。

 まるで執念深い大蛇の井戸(ワーム・ウェール)のように、ラテックスの腕はアレンを追いかけていた。

 

 「これが『スネイクマン』だ。お前がそれだけ速くても! ラムトンはお前を追っていくぞ!」

 「三下がぁ!! ほざいてんじゃねぇ———ッッ!! 懐に入り込めば同じだろうが!!」

 

 アレンは腰を屈め、飛び上がる。

 接近戦ではラテックスに勝ち目はない。これは事実だった。

 『都市最速』の足は、ラテックスと自身の間合いを一瞬で0にする。

 

 銀槍のラッシュが叩き込まれる寸前。 

 

 「放てぇ———ッッ!!」

 

 周囲の派閥連合の冒険者から放たれた魔剣の雷が、ラテックスを巻き込みながらアレンに殺到した。

 

 (馬鹿かっ?! 仲間ごと……??!)

 

 瞬間、身を引き雷の砲撃を躱すアレン。

 その足に雷の渦から飛び出た腕が絡みついた。

 

 「効かないねぇ! ゴムだから!!」

 

 そう言って笑うラテックスの姿には、一つの傷もない。

 最初から決まっていたのだ。

 派閥連合は、【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】を狩ることを目的に雷の魔剣を温存していたのだ。

 

 「こ、の三下どもがぁっ……!!」

 

 怒りで身を震わせるアレンの顔を、ラテックスの拳が殴り飛ばした。

 

 「行け!! 行け行け行け行け行ってくださいラテックス様ぁっ!!」

 

 リリの声が水晶の奥で震える。

 第一級冒険者を一人落とせれば、流れが変わる。勝利の為の活路が開けてくる。

 

 「ゴムゴムの大蛇の井戸(ワーム・ウェール)トレイン!!」

 

 無数の拳の連打が雨のようにアレンを襲う。

 右手側から迫った三つの拳を頭を下げて回避。足を狙う四つを銀槍で防御。腹に向かって打ち込まれた二つを身を引いて逸らす。

 

 ラテックスのパワーはアレンに痛手を負わせるほどではない。

 だから、勝利の鍵は雷の魔剣だ。

 第一級冒険者の長文詠唱をも上回る破壊力を有する、クロッゾの魔剣。

 

 (——だと、思ってるよなぁ!)

 

 ラテックスは心の中で呟く。

 『スネイクマン』の拳は加速すればするほどに破壊力を増す。

 完全に加速し切った『スネイクマン』の拳なら、アレンを貫ける。

 

 雷の魔剣の一斉砲撃を受け、アレンは空高く跳躍した。

 ラテックスは雷の砲撃を目眩しにし、雷か奔流の中で拳を加速させる。

 

 (ゴムゴムのぉ——)

 

 加速し切った拳は熱を帯び、炎を纏い出した。

 ラテックスは雷の中から空を見上げ、両手を使った掌底を撃ち込んだ。

 

 「双頭(ツイン)焼夷(ナパーム)!!」

 

  階層主(アンフィス・バエナ)のブレスを思わせる、爆発的な一撃だった。

 それが空中で身動きの取れないアレンの腹に向かって発射される。

 椿が、ヴェルフが、別の戦場から勝利を見守っていた命が、アイシャが、リリが、勝利の二文字を夢想する。

 

 そして、アレンは。

 

 「———馬鹿どもが」

 

 銀槍を使い、ラテックスの拳を逸らす。

 第一級冒険者の技のキレは、空中ですら何も衰えることはない。

 そして体を反転させ、天に向かって伸びる腕を足場代わりにラテックスの元へと急加速する。

 

 「何度でも言うぞ。そこがお前の限界だ」

 

 一閃。

 ラテックスの腹を抉り、銀槍の頭がラテックスの背中から突き出る。

 

 「ガッ———あぁぁぁぁあっ!?」

 

 ラテックスの口から、悲鳴が溢れた。

 次に両肩が、足が、完膚なきまでに破壊される。 

 伸びる腕の厄介さは体験済みだ。アレンに慢心はない。

 

 「うっ、撃てぇえええっ!!? 【迅雷怒濤(ハヌマーン)】を助けるんだ!!」

 

 周囲の冒険者が、ラテックスを助けようと雷の魔剣を振るう。

 しかしアレンはそれに動じず、銀槍に貫かれたラテックスを掲げた。

 

 「うっ、【迅雷怒濤(ハヌマーン)】を盾に……?!」

 「雷が防がれてッ——ぐぁああぁっ!!?」

 

 一人、また一人とアレンの脚撃に倒れ、魔剣がへし折られていく。

 

 アレンは周囲を見渡し、ヴェルフに狙いを定めた。

 椿がいまだにヘグニと渡り合えているのはヴェルフの存在ありきだ。

 

 銀槍からラテックスを振るい落とし、再びヴェルフに狙いを定め、

 

 「……使って、いいぞ」

 

 捨てた筈のボロ切れが、何かを呟くのを聞いた。

 

 その瞬間、ラテックスの背後から強い魔力が溢れ、槌のような黄金の光が立ち上った。

 

 「【ウチデノコヅチ】!」

 

 金色の光がラテックスを包む。階位上昇(レベル・ブースト)をその身に宿したラテックスは、ゆっくりと呟いた。

 

 「俺は、お前に負けた……」

 「負け犬が、今更何吠えてやがる!」

 「でも、ゴムゴムの力はお前に負けてない……!」

 

 震える体を抑え込み、ラテックスは拳を地面につける。

 

 「見せてやるよ、最高到達地点……!!」

 

 変化は一瞬だった。

 ラテックスの黒髪が純白に染まる。

 いや、髪だけではない。戦闘衣(バトル・クロス)までもが、汚れを知らない処女雪のように変わっていく。

 体から吹き出した煙を羽衣のように纏い、ラテックスは体の痛みなど感じないようにニカリと笑った。

 

 ドンドットット♪ ドンドットット♪

 

 ドラムの音色が、戦場に響き始めた。

 

 

 

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