「——さぁ、喜劇を始めよう!」ドンドットット♪


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作:烏何故なくの
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四話 カクセイ


 

 「ギア5……ですか?」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる数日前のこと。

 総指揮官であるリリに、ラテックスは自分の奥の手を語っていた。

 

 「本当はLv.6くらいまで欲しいんだけどな。階位上昇(レベル・ブースト)を使えばギリギリ発動できると思うんだ」

 「はぁ……。強いんですか?」

 「ああ。オッタルにだって勝てるぜ」

 

 その自信満々な言葉を聞いて、リリは不安と期待が入り混じったような顔をする。不安八割、期待二割だ。

 リリは【フレイヤ・ファミリア】のあらゆる情報を精査していた。

 当然、オッタルの規格外さも理解している。

 

 「ああ後階位上昇(レベル・ブースト)を使うのはギリギリまで待って欲しいんだ。ギア5が発動できたらどれだけダメージ負ってても動けるから」

 「……それを信じろって言うんですか?」

 

 胡散臭いものを見る目をするリリに、ラテックスはなおも軽薄な言葉を重ねる。

 

 「ほんとほんと。ギア5を発動できさえすれば体力も全開するし年収も上がるしオッタルも倒せるよ」

 「……そこの道化は軽薄だが、このような場で嘘はつかん。信じていいだろう」

 「え? ヒュアキントスごめん、年収上がるは流石に嘘なんだわ」

 「知っている!! それ以外の部分は本当だと言ったんだ!」

 

 ラテックスに掴みかかるヒュアキントスは置いておき、リリは頭の中で算盤を弾く。

 

 「……ま、わかりました。ラテックス様は派閥連合の中でも優秀な第二冒険者。階位上昇(レベル・ブースト)を切るに値します」

 「お、サンキュー!」 

 

 アレンを下す策を練ってくれたのもラテックスだ。

 知恵者であることは確かだが、それ以外が信用に値しないというのがリリ下したラテックスへの印象だった。

 

 「どうか、頑張ってください。ラテックス様が【猛者(おうじゃ)】を下せるのなら、それが一番いいです」

 「おうよ。俺は小人族(パルゥム)に嘘はつかねぇんだ」

 「さっきついてましたよね?」

 

 

 

◼️◼️

 

 

 

 ドンドットット♪ ドンドットット♪

 

 「……?! 何です、この音は!?」

 

 強靭な勇士(エインヘリヤル)と打ち合っていた命が疑問の声を上げる。

 各地で戦いを続ける冒険者達も、思わず音の根源を探る。

 軽快なドラムの音は、あまりにこの戦場に不釣り合いだった。

 

 気を取られた数瞬後、ドラムに音と共に爆発的な威圧感が戦場を覆った。

 

 「な、何だこりゃあぁああああっ!!?」

 「神威かっ?!」

 「いや、そんな生優しいもんじゃねぇ!!」

 

 戦っていた強靭な勇士(エインヘリヤル)達が、バタバタと倒れていく。

 ドラムの音を中心に、ドミノ倒しのような勢いでLv.3までの者が倒れていく。それは満たす煤者達(アンドフリームニル)も例外ではない。

 

 「なっ——」

 「グッッ!?」

 「意識、が……」

 

 「ヘ、ヘディン様……今の神威は……??」

 

 戦場から溢れてくる威圧感に耐えられた満たす煤者達(アンドフリームニル)は、膝をつくヘイズだけだった。

 

 「……あの道化の仕業か。少々予定は狂ったが、問題はない。殲滅を開始する。【永争せよ、不滅の雷兵】——【カウルス・ヒルド】」

 

 ヘディンは雷の弾丸を雨のように降らせ、殲滅した。——ヘイズを。生き残っていた強靭な勇士(エインヘリヤル)を。

 

 裏切りである。

 ヘディンは今この時、【フレイヤ・ファミリア】を裏切ったのだ。

 

 『えええええええええええッッッ!!!!? 待って待って待て!!!?』

 

 実況役の【ガネーシャ・ファミリア】所属、イブリ・アチャーの絶叫が止まらない。

 

 『誤射!? 【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】が誤射?! ああもうわかんないわかんないわかんないよぉおおおぉっ!!? なんか【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】も大変なことになってるし!!」

 

 「何だありゃあああああぁああああああぁああっ!!!」

 「神の力(アルカナム)??!」

 「ありえねぇだろ!!! 下界の未知にも限界にも限度があるぞ!!」

 

 オラリオから勝負を観察していた神々の絶叫が上がる。

 怒涛の展開の中、戦いを神の鏡から傍観していたオラリオの住人は確かに見た。

 

 アレンが真っ白に染まったラテックスに頭を殴られ、ゴチンッ★と頭からコミカルな音を鳴らすのを。

 

 

 

 「お、お、おおおお……??!」

 

 アレンは悶絶していた。

 先程までのパワーが乗っていない一撃ではない。

 『戦いの野(フォールクヴァング)』ですら経験したことのない、階層主に殴られたような、想像を絶する痛みだった。

 

 「あっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 真っ白なラテックスは笑っていた。

 異様に、高らかに。

 

 明らかに尋常じゃない出来事が起こっていることをアレンは実感した。

 単なるパワーアップとはまるで異なる。

 まるで大神を相手にしたかのような圧迫感がアレンを襲っていた。

 

 (——殺す)

 

 殺す気でかからなければ、勝てない。

 殺意を持って、額を破らんと銀槍を繰り出す。

 

 「よっ、ほっ、ふっ!」

 (何だっこれは……!! 未来でも見られてるみてぇに、攻撃が当たらねぇ!!)

 

 繰り出される槍を、ラテックスは全て避けた。変顔のおまけ付きで。

 アレンの額にビキビキと血管が浮きでる。明らかに舐められていた。

 

 「【金の車輪、銀の首輪】!!」

 

 もはやなりふり構わず戦車の歌を口ずさむアレンの隙を、ラテックスは見逃さなかった。

 

 「そんなに速くなりてぇなら、おれが手伝ってやるよ〜!」

 

 アレンの脚を、ラテックスが掴んで振り回す。

 それだけの行為が、爆発的な破壊を生んだ。

 

 それは、嵐だった。

 比喩抜きにして、竜巻が戦場に顕現したのだ。

 

 「うぉおおおおおぉっ!!?」

 「これは、ラテックスか……!!?」

 

 突然現れた災害に、両陣営とも莫大な被害を被っている。

 持ち主から引き剥がされた武器は哀れにも宙を舞い、倒れ伏した強靭な勇士(エインヘリヤル)達が遙か彼方へ吹き飛ばされていく。

 椿は剣舞を一旦取りやめ、武器を地面に刺して体を強風から守った。

 

 「あああああああああ゛ああああああっ!!?」

 「いっくぜ〜? 世界の果てまで、飛んでいけ〜っ!!」

 

 (カタパルト)のように、アレンが射出された。

 冗談のような速度へ天へと吹き飛ばされ、キラーン★と間抜けな効果音がつく。

 アレンが飛んだ先は、場外。

 『オルザの都市遺跡』の外を流れる湖まで、哀れな猫は吹き飛ばされたのだ。

 

 「おっっっっしゃあぁああああああッッッッ!!! 第一級冒険者、撃破ァッッッ!!! 最高ですラテックス様ぁっっ!!」

 「あっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 リリの声に、呆気に取られていた派閥連合の間に興奮が広がっていく。

 第一級冒険者の撃破。それはこの戦場に置いて何よりも重い意味を持つ。

 

 白の妖精が、小人の四つ子が、黒の妖精が目を見開くなか。ラテックスは高らかに笑い続けた。

 

 「よーし次の指示を出しますよ! 次に危険なのは——」

 「あっひゃっひゃ!!」

 「……あの? ラテックス様……?」

 「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 

 リリの頬に冷たい汗が流れ落ちる。

 水晶の先で自分と会話している人が、急に話の通じない超越存在(デウスデア)に思えてきたのだ。

 

 「あっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 道化が見るのは、北西の方角。

 何かお気に入りのおもちゃでも見つけたのかのように、道化はそこへ進軍を開始した。

 目の前にある者、全てを薙ぎ払って。

 

 

 

 「緊急事態です!! ラテックス様が、ラテックス様が()()()()です!! 北西の方角へと進軍中です!! 同じ座標にいる人は素早く逃げて!!」

 

 リリの声が、戦場に響き渡る。

 真っ白な道化だけが、いつまでも笑っていた。

 

 

 

 





 覚醒した悪魔の実には人格が乗っ取られてしまうこともあるそうですね
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