「打席楽しみ」「査定に影響」 活発化するセ・リーグの指名打者制論争 投手たちの本音は

セ・リーグの指名打者(DH)制導入をめぐる議論が活発化している。日本野球機構(NPB)の榊原定征コミッショナーが年頭の取材対応で「50何年もセとパでルールが違うのはノーマルな状態ではない」と述べ、1月の12球団監督会議でもセのDH制導入について闊達(かったつ)な意見交換があったという。では、実際にプレーする選手たちはどう思っているのか。大きな影響を受けるであろうセの投手陣に本音を聞いた。

賛否にばらつき

産経新聞では春季キャンプ期間中、セ・リーグ4球団、35人の現役投手にアンケートを実施した。その結果、セのDH制導入に「賛成」は14人(40%)、「反対」は8人(23%)、「どちらともいえない」が13人(37%)となり、意見にばらつきが見られた。

DH制を導入した場合の投手のメリットとして「投球に集中できる」「打撃や走塁による故障のリスク軽減」といった点が挙げられる。賛成派もこの意見が多数を占めた。

DeNAの東克樹は「心拍数が投球に影響する部分はある。DHなら2アウトのタイミングで準備して、うまく投球のスイッチが入れられる」とDH制を支持。打席に立つことで「不規則なタイミングで肩を作らないといけない」「守備と捕手とのサインに加え、打者のサインも覚えないといけない」という懸念から解放されることを望む声も目立った。

また、投手への投げにくさを挙げる選手も多く、DeNAの三嶋一輝は「投手の打席は抑えて当たり前だからこそ意外と難しい。投手が打つと盛り上がるし、ナーバスになる」と吐露。ほかにも「いろんなバッターと対戦したい」という前向きなものから、「投手とはいえバントミスすれば査定に関わる。そこに神経を使わなくて済むのはいい」という切実な意見もあった。

打席に立つことで「学び」も

一方、DH制導入に反対の立場を示したのは「バッティングが好き」と話す投手陣だ。ヤクルトの山野太一は「野球は打って投げてが楽しい。得点にも絡みたい」とし、神奈川・桐光学園高時代に4番を務めたDeNAの中川颯も「もう1本、ホームランが打ちたい」とプロ通算2本目への意欲をにじませた。

「打席に立つことで学びがある」という声も多く、DH制賛成派からも「前田健太さん(タイガース)や杉内俊哉さん(元巨人)、菅野智之さん(オリオールズ)といった、一流の投手の球を打席で得るものは多かった。外から見るのと、打席に立つのじゃ全く違う」といった意見があった。

また、リリーフを主戦場とする投手からは「投手の打順で代打を出してもらうことで、自分たちは登板のチャンスが生まれる」という声も。実際、昨季のセ・リーグの先発の平均投球回数が5・74回だったのに対し、パ・リーグは5・93回とやや多かった。

導入なら「相応のスパン必要」

メリットの多い野手と異なり、投手はDH制によって対戦する打者のレベルが上がるというデメリットも抱える。賛成派とほぼ同数だったのが、「どちらともいえない」派だ。DH制導入はいずれにしても良しあしはある分、「気持ち的に五分五分」と決めきれない投手が多数いた。

興味深かったのは、ヤクルトの大西広樹が語った「長いイニングを投げられる先発がいれば、DH制のほうがいい。その時のチームの状況による」という意見だ。本拠地球場の広さや現有戦力によって、有利か不利か左右される側面もありそうだ。

また、ここ数年は前田や今永昇太(カブス)、菅野とセ出身の投手も数多く米大リーグへ渡っている。DH制がないことで「セの投手が育たない」という風潮に異議を唱える選手もいた。

大リーグは2022年にDH制に統一され、五輪やワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際大会もDH制が主流となっている。投手の打席をめぐる首脳陣の駆け引きを楽しむファンは一定数いるが、真剣に議論する段階に入っているのかもしれない。

今回、意見を示してくれたいずれの投手も、当然ながら「自分たちは決まったルールに従うだけ」との姿勢だった。DeNAの伊勢大夢は「DH制の有無によって補強の仕方も変わってくる。導入するなら、相応のスパンをもってやってほしい」と付け加えた。(川峯千尋、嶋田知加子)

会員限定記事

会員サービス詳細