<渦電流損(Eddy Current Loss)>
「渦電流損」で思い浮かぶのは・・・
トランスの仕組みに関するひとつの知識ですが,薄いコアが積層されている理由は渦電流損を減らすためです。
とはいえ,日常的に渦電流損に悩まされている人は極少数でしょう。
私の悩みはストラトのノイズ防止シールドをどうするかです。なぜか渦電流に行き当たりました。
定番の都市伝説ですが「キャビティをシールドすると静電容量が増えてハイ落ちする」と言われます。
尾ひれとしては「ハイ落ち防止のためトレブル・ブリード回路を入れる」と付いてきます。
都市伝説を信じない頭の固い中年としては「静電容量なんてそう変わらんよ」
「トレブル・ブリードはボリューム全開なら効果なしだよ」と考えているわけです。
それでも実験動画や体験談がWEBにあるわけです。
どうしましょ。
検証動画

これに関連してアノダイズド・アルミ・ピックガードがどうしても気になるのです。
キャビティに導電塗料を塗ったり,両面テープでアルミ箔を貼ってシールドするくらいならピックガードをアルミにしてやれと思うわけです。
おそらく柔らかい純アルミではなくより強度のある固いジュラルミンのようなアルミ合金を使うのでしょう。
トーン的にはキンキン,カンカンする音が予想できます。
ところが,アルミ・ピックガードは丸い音になる,そんな体験も目にします。
むむむ・・・ここら辺で頭が混乱してきます。
「全てを体験せよ」という脳内の怪電波がお財布と相談し始めました。
しかし,英語圏からの情報を入れてませんでした。調べてからでも遅くはありません。
「
Pickup Shield eddy current」とか調べてみました。
キーワード「Eddy Current」がどこから来たか思い出せませんが,LET IT BE・・・
まずヒットするのはピックアップ・カバーです。
カバーにスリットを入れることによってハイが伸びるという研究結果が出てきます。
外部リンクです。こちら。↓
Improved Pickup Cover Geometry同様の例として,ハムバッカーのカバーを取り外すとハイが伸びる。
外部リンクです。こちら。↓
なるほどかんたんギターマニュアル・ピックアップピックアップ・カバーの素材を伝導率の悪いジャーマン・シルバー(洋白)にするとハイがよく出る。
という話題もあります。
外部リンクです。こちら。↓
Epiphone ProBuckerほほう。渦電流損(Eddy Current LOSS)はトーンに影響するではないか。
ということはピックアップ周辺のシールドも影響するに違いないと。
もちろん検証している人が居ました。
外部リンクです。こちら。↓
Eddy currents due to Strat pickguard shieldingで,面白そうなので自分でもやってみます。
それが今回の話題です。前置き長い。
<測定方法>
渦電流を測定するわけではありません。トーンがどれだけロスるのかを確かめたいのです。
エキサイター・コイルを作ります。竹串とプラワッシャでボビンを作り,φ0.2のワイアを100ターン巻いてインダクタンスは実測値42.8uHでした。適当です。適当でOKです。インダクタンスは関係ないと思います。

測定条件を一定にするために4弦のポールピースの直上5.0mmの位置にコイルを置く条件とします。
ピックアップはFENDERのTEXAS SPECIALのネック側です。ケーブル負荷容量として1000pFを追加しています。
USB AudioIFのOUTPUTをエキサイター・コイルに接続し,ピックアップをINPUTに接続します。
ゲインは適当に合わせます。
WaveGenでスイープ信号を再生し,WaveSpectraでFFTして結果をエクセルに貼り付けてグラフ化しました。
エキサイターが発する磁界変化をピックアップが拾います。
出てくる特性が理論的に正しいかどうか・・・確かめるほどの知識が無いのですが・・・
様々な条件を試して「その差」わかればOKです。
<測定条件>
写真は下の方に出てきます。
条件1:No Conductor:ピックアップ周囲に導体が全く無い
条件2:Thick Plate bottom:t=1.0mmの銅板をピックアップに敷く
条件3:Thin Plate bottom:t=0.2mmのリン青銅板をピックアップに敷く
条件4:Foil aound short:ピックアップ周囲に銅箔を巻く,両端をハンダ付けしてショートする
条件5:Foil aound No short:ピックアップ周囲に銅箔を巻く,両端は絶縁,ショート無し
条件6:Guard foil:ピックガードに銅箔を張り付けた状態を模す
条件7:Guard foil w/slit:ピックガードに銅箔を張り付けた状態を模す,ループ防止スリット入り
条件8:Loop Coil top:φ1.6mmのループ・コイルをピック・アップ頭頂部に置く
条件9:Loop Coil bottom:φ1.6mmのループ・コイルをピック・アップ底部に置く
#シールド材はGNDに落とします。

条件1:No Conductor:ピックアップ周囲に導体が全く無い

条件2:Thick Plate bottom:t=1.0mmの銅板をピックアップに敷く
#シールド材はGNDに落とします。

条件3:Thin Plate bottom:t=0.2mmのリン青銅板をピックアップに敷く
#シールド材はGNDに落とします。

条件4:Foil aound short:ピックアップ周囲に銅箔を巻く,両端をハンダ付けしてショートする
#シールド材はGNDに落とします。

条件5:Foil aound No short:ピックアップ周囲に銅箔を巻く,両端は絶縁,ショート無し
#シールド材はGNDに落とします。

条件6:Guard foil:ピックガードに銅箔を張り付けた状態を模す
#シールド材はGNDに落とします。

条件7:Guard foil w/slit:ピックガードに銅箔を張り付けた状態を模す,ループ防止スリット入り
#テープを張った部分に切り込みが入っていて絶縁されています。
#シールド材はGNDに落とします。

条件8:Loop Coil top:φ1.6mmのループ・コイルをピック・アップ頭頂部に置く
#シールド材はGNDに落とします。

条件9:Loop Coil bottom:φ1.6mmのループ・コイルをピック・アップ底部に置く
#シールド材はGNDに落とします。
<測定結果>

横軸は周波数1kHz~10kHzです。
縦軸は出力電圧レベルを示し,単位はdBです。相対的な数値の差だけを見ればよいです。
全部入りはわかりにくいので分割して説明します。
<考察:ベース・プレートの影響>

・厚い(1.0mm)プレートはピークで約-3dB(-29%)低下しトーンへの影響は大きい
・1kHzでも約-2dB(-21%)低下しており,全体に出力レベル低下
・ピーク周波数がわずかに高い方向へ変化
・薄い(0.2mm)プレートはピーク部分で約-1dB(-11%)の低下にとどまり影響は小さい
以上より,プレートの厚さ(面抵抗率)で渦電流損が変化することがわかりました。
<考察:ピックアップに巻くシールドの影響>

・ピックアップ・コイルに銅箔をぐるっと巻き付けた場合
・両端をショートさせて輪(LOOP)にするとピークが約-2dB(-21%)低下
・両端を絶縁してショートしなければほとんど影響なし
・どちらも10kHz付近がほんのわずかに低下
以上より,輪(LOOP)にすると影響がありますが,輪を断ち切ればほとんどトーンへ影響しません。
また,10kHzがわずかに減少するので静電容量の影響も皆無ではありませんが,渦電流損の影響に比べて非常に小さいです。
<考察:ピックガードに貼るシールドの影響>

・ピック・ガードに銅箔を貼り付けた場合
・穴を開けただけの状態ではピークが約-2dB(-21%)低下
・穴の周囲1カ所にスリットを入れて輪(LOOP)を断ち切ると約-0.5dB(-6%)程度の低下にとどまる
・1kHz付近と10kHz付近もわずかに低下
以上より,輪(LOOP)を断ち切るようにスリットを入れるとトーンへの影響が減ります。
全体的にわずかにレベルが低下するので,渦電流損によるブレーキが広範囲にわたって発生しているのかもしれません。ピックアップが露出する部分の磁界変化のみを捉えていて周辺部の磁界変化を拾いにくいのかもしれません。
<考察:ループ・コイルの影響>

・各条件の中で影響最大,頭頂部に太いコイルを置くとピークで約-4dB(-37%)の低下,10kHz付近も約-3dB(-29%)低下
・底部に置くと同様に約-4dB(-37%)の低下,しかし10kHz付近は低下なし
・どちらも1kHz付近から低下が始まりピーク手前でも低下が大きい
以上より,ピックアップ頭頂部は渦電流損に敏感です。
また,ループ素材の抵抗値が低いほどトーンへの影響が大きくなります。
<シングル・ピックアップのシールドに発生する渦電流の影響>
まとめると,ノイズをシールドするためにピックアップ周辺に導電体を配置すると・・・
「シールド導体内部に発生する渦電流によってロスが発生してハイ落ちする」
という現象が確認できました・・・そして
「ループを断ち切ると,このハイ落ちを防止できる」
・・・ということがわかりました。
静電容量が増加してハイ落ちするという都市伝説はフェイクでしたね。
でもきっと,ツウな人達には常識なのでしょう。誰も教えてくれなかったけど・・・いや説明されても理解できなかったかもしれんが。
ピックアップ頭頂部が特に敏感でピックアップカバーの影響がとても大きいことも再現できました。PAFを再現するのに金属素材にこだわる理由がわかりました。
あと,アノダイズド・アルミ・ピックガードに交換すると大人しいトーンなるのは渦電流の影響でした。
<シールド(アルミ箔,銅箔,導電塗料)によるハイ落ち防止対策>
対策はとにかく渦電流を小さくすることです。
厚い銅板や太い銅線を使うと渦電流の影響が大きくなりました。抵抗値が低く電流が沢山流れるからです。
同じシールドでも面抵抗率の大きい素材を使うと影響が小さくなります。
つまり,シールドとしては銅箔が最も優れているように思われますが,逆に渦電流の影響は大きくなります。
薄いアルミ箔を使えば面抵抗率は大きくなり渦電流が小さくなります。
また,ピックアップをぐるっと囲むワン・ターン・ループを断ち切ることも重要な対策になります。
ピックアップにシールド材を巻く場合,両端をはんだ付けしてループを作ってはいけません。絶縁して重ね合わせるのが正解です。ピックアップの頭頂部,ポールピース周辺は敏感なのでシールドしないほうが無難です。
ピックガードに貼るシールド材はできるだけ薄いアルミ箔がよいです。厚い銅箔が最もロスが大きくなります。分厚いアノダイズド・アルミ・ピックガードは残念ながら不採用です。
そしてさらにピックアップの穴がループにならないようにシールド材にスリットを入れると効果的でしょう。
ピックガードのシールド板にスリットを入れるとハイ落ち防止できるのか?
次の記事で実際に試してみました。
さて,息切れしてきました。
フェンダー解体新書によると,ストラトのシールド材は以下のような変遷があります。(過渡期は混在あり)
1 : 54年~59年頃はコントロール部分にのみ厚め(約0.78mm)のシールド板
2 : 59年~68年頃はピックガード全体を覆う薄め(約0.3mm)のシールド板
3 : 68年~79年頃はコントロール部分のみアルミ箔
4 : 以降はピックガード全体にアルミ箔,もしくはアメスタのようにコントロール部とピックアップ周辺にアルミ箔
これをみて,54年メイプル・ネックの特徴であるカラッとした歯切れのよいトーン,60年代初期のスラブ・ローズ・ネックの太めのトーン,70年ごろのグレイ・ボビン・ピックアップと貼りメイプル指板の抜けの良いトーン。もしかして,シールドの影響もあるのでは?と思ってしまうわけです。
まとめ記事
ストラトキャスター,ビンテージ・フェンダーの50年代と60年代の音の違い(電気特性の違い)
追記:図:フェンダー・ストラトキャスターのピックガード,シールド板の変遷(1954-1979)

信じるか,信じないか,あなた次第ですwww 草生えたんでおしまい。

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