中国の監視システム、闇市場で個人情報の「密売」が横行 内部関係者が関与か
14億人を超える国民の活動を常時監視する中国の大規模な監視システムは、政府の支配を維持するために構築されてきた。同国では、顔認識カメラや人工知能(AI)、ビッグデータ分析といった最新技術が人民の日常生活に浸透しており、いかなる行動も政府の目から逃れられないと言ってよい。だが、この前代未聞の監視網に亀裂が生じている。システムの運営を担当する関係者がデータを悪用しているのだ。 暗黒世界を描くディストピア小説の筋書きのように思われるかもしれないが、中国の監視システムの内部にいる人間が、システムを悪用して利益を得る方法を見出したのだ。米IT誌ワイアードによると、膨大な個人情報の宝庫にアクセスできる特権を持つ政府職員や請負業者が、政府の監視システムから得たデータを闇市場で販売しているという。 国民のリアルタイムの位置情報や銀行口座の取引記録、パスポート(旅券)の写しといった個人情報が、メッセージアプリ「テレグラム」などを通して密売されている。こうした個人情報はわずか数百円で売られていることが多いが、包括性の高いデータは高値で取引され、売買の匿名性を確保するために暗号資産で支払われることが多い。 中国の監視体制は他国の追随を許さない。推定7億台以上のカメラが全国に設置されており、その多くが顔認識機能を備えているため、すべての公共の場が監視されていると言ってよい。メッセージアプリ「WeChat(微信)」や決済サービス「Alipay(支付宝)」など、毎日数百万人もの人々が利用する中国のモバイルアプリは政府のデータベースに直接結び付けられており、利用者の通信や取引、位置情報を追跡している。中国政府の統制の根幹を成す「社会信用システム」でさえ、国民の行動に基づいて報酬や罰則を与えるためにこうしたデータを利用しているのだ。
中国の監視体制の核心にある矛盾を浮き彫りにしている闇市場の台頭
都市部から農村部に至るまで、このシステムは人民の生活の隅々にまで及んでいる。政府は公式には、公共の安全と政治的安定に必要だからだと説明している。だが、膨大な量のデータが収集されていることから、システムにアクセスできる者にとっては魅惑的な情報源となり、いかがわしい動機が生まれることにもなる。 ■中国の監視体制の矛盾 こうした闇市場の台頭は、中国の監視体制の核心にある矛盾を浮き彫りにしている。監視システムは本来、国民に対する政府の統制力を強化するために作られたものだったが、今や作成者に背を向けられ、政府が強制するはずだった支配を弱体化させるために利用されているのだ。かつては政府の監視網を信頼していた、あるいは少なくとも受け入れていた国民も、最近では自身の個人情報が最高額の入札者に売られていることに気づき始めている。 その影響は中国国内にとどまらない。データの盗難には国境がなく、流出した情報は国際的な犯罪網に渡ることが多い。中国の監視システムから取り込まれたデータが国際的なサイバー犯罪の流れの中に入り込む事例が増えているため、中国国外の個人や組織にとっても潜在的な影響は深刻だ。 中国の監視システムの悪用は、どんなに安全そうに見えるデータであっても完全に安全なものはないという警告でもある。中国共産党は世界で最も侵入的とも言われる監視網を構築してきたが、内部関係者による悪用を防げなかったことは、システムの重大な脆弱(ぜいじゃく)性を露呈している。たとえ技術的には洗練されていても運営を人間に頼っていることが、このシステムにとって「弁慶の泣き所」となっている。 中国政府は監視能力を拡大するにつれ、データ基盤を保全しながら内部の腐敗にどう対処するかという課題を突きつけられている。実質的な改革を行わない限り、データ悪用の連鎖は続き、システムに対する国民からの信用を失うとともに、膨大な数の市民を危険にさらすことになるだろう。
Lars Daniel