映像ジャーナリストの伊藤詩織さんが、自身の元代理人弁護士らに、依頼主と弁護士のトラブルを解決するための「紛議調停」を申し立てていることが19日、分かった。元代理人弁護士らは20日に記者会見を予定し、伊藤さんが自身の性暴力被害を調査する様子を描いたドキュメンタリー映画について、取材源の秘匿などが守られていないとして「倫理的懸念」を改めて訴える。一方、伊藤さん側は紛議調停を申し立てたことで「調停外での『場外乱闘』は避けるのが弁護士として初歩的な作法」と指摘する。
「上映を妨害する意図」
伊藤さんは元TBS記者から平成27年に性暴力を受けたとして提訴し、令和4年7月に同記者が同意がないのに性的行為に及んだとする判決が確定した。一連の経緯などを収めた伊藤さんの映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」は1月23日に米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門に、日本人監督の作品として初めてノミネートされた。受賞の成否は3月2日に米国での授賞式で判明する。
この映画を巡っては昨年10月21日、伊藤さんの性暴力被害の訴訟で代理人を務めた西広陽子弁護士らが記者会見し、伊藤さんが現場となったホテルの防犯映像を「裁判以外に使用しない」という誓約の下に提供されたにも関わらず映画に使用した上、捜査の問題点を告発した捜査員の音声を加工せずに映画に盛り込んだなどと問題視した。
これに対して、伊藤さん側の弁護士らは会見の内容は伊藤さんへの名誉毀損や侮辱として、ホテルの防犯映像は「プライバシーに配慮してCGを使って制作した」などと反論した。その上で、西広弁護士らが会見で「ホテルの許可を得ていないなど依頼人(=伊藤さん)の秘密を承諾なしに公開している」と指摘し、弁護士としての義務に違反すると通知した。
昨年12月に西広弁護士は新聞社の取材で「映画が賞をとれば、無断使用のようなやり方にお墨付きを与えることになる」と訴えており、伊藤さん側は「上映を妨害する意図を認めざるを得ず、底知れぬ悪意を感じる」と抗議した。謝罪の連絡がない場合、「相応の措置を講ぜざるを得ない」とも指摘した。
弁護士懲戒請求も検討
伊藤さん側は今年2月7日、西広弁護士らが「職務上知り得た秘密を使用して種々の発信をしている」「事実関係が伊藤氏の認識と大きく異なる」「伊藤氏は苦痛に感じている」などと主張して紛議調停を申し立てた。弁護士懲戒請求を検討していることも明らかにした。
紛議調停は、弁護士が依頼者との関係に紛議が生じた場合に、所属弁護士会の調停により解決する手法で弁護士職務基本規程に定められている。
伊藤さん側は、西広弁護士らに対して紛議調停に応じることに加え、調停期日以前に調停外で伊藤さんを公に非難するのは避けること─の2点を要請した。
ただ、西広弁護士側は紛議調停で協議を求める事項や解決案を事前に提示するよう求めたが、伊藤さん側は応じず、双方の主張は平行線をたどっている。伊藤さん側は16日、改めて「今後、調停外で、公に、元依頼人(=伊藤さん)を非難することは避けること」を西広弁護士側に要請した。
「口封じではないか」
西広弁護士らが20日に映画の倫理的懸念を訴える記者会見は当初12日に予定されていたが、会場となった日本外国特派員協会が延期を決めた経緯がある。
西広弁護士の代理人の佃克彦弁護士は、産経新聞の取材に応じて「紛議調停期日の呼び出しがあればもちろんこれに応じるが、紛争解決の場を紛議調停に限る必要はない」と主張。伊藤さん側の狙いについて「調停外で一言もいわないという言質を取りたいのだろう。アカデミー賞の受賞が決まるまで黙らせたいという意図を感じざるを得ない」と語った。
佃弁護士は、紛議調停での協議事項が明かされていないことなどを挙げて伊藤さん側が紛議調停を申し立てた理由について「紛争を解決したいのではなく、口封じをしたいということではないか」と疑問視した。西広弁護士らは令和5年7月から伊藤さんに対してホテルの防犯映像を映画に使用する際にはホテル側の承諾を得てほしいと伝えていたが、聞き入れられなかったとも主張している。
伊藤さんの代理人弁護士は協議事項を事前に明かしていない理由について、「紛議調停の席で提示するのは当然だ」と主張している。(奥原慎平)