アカデミー賞逃した伊藤詩織さんの「視点」に思うこと 性暴力被害者の会代表、郡司真子氏

アカデミー賞授賞式に出席する映像ジャーナリストの伊藤詩織さん=2日、米ロサンゼルスのハリウッド(ロイター)
アカデミー賞授賞式に出席する映像ジャーナリストの伊藤詩織さん=2日、米ロサンゼルスのハリウッド(ロイター)

性暴力被害者の裁判支援を手掛ける「性暴力被害者の会」代表でジャーナリストの郡司真子氏は3日、アカデミー賞受賞を逃した伊藤詩織監督のドキュメンタリー映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」について「性被害サバイバーが女性蔑視にあらがい日本の刑法の課題を問うた作品だ。ノミネートされただけでも価値がある」と語った。他方、一部場面が使用許諾を得ていない問題に関しては「性被害者のための証言や証拠が減ってしまいかねない」と危惧し、「弱い立場の性被害者に対する視点が足りないのではないか」と批判した。

ジャーナリストで性暴力被害者の会代表の郡司真子氏(本人提供)
ジャーナリストで性暴力被害者の会代表の郡司真子氏(本人提供)

性暴力被害の証拠の扱いには細心の注意が必要

産経新聞の取材に語った。

伊藤監督は平成27年に元TBS記者にホテルで性暴力を受けたとして法廷で争い、自らが被害を調査し、追及した経緯を映画に収めた。一方、裁判以外に使わないとホテル側と誓約書を交わした防犯カメラの映像や捜査員らの証言が許可なく使用され、元代理人弁護士が会見で告発する事態に至っている。

郡司氏は「性暴力被害の証拠は極めて重要だ。裁判の行方を左右する決め手となる一方、保全が難しい」と指摘。「情報提供者との約束は反故にされてはならないはずだ。細心の注意と話し合いが必要だった」と述べ、機微に触れる証言や映像が無断使用されたことで今後同様の事件で協力者が警戒する可能性を懸念する。

郡司氏は、映画のプロデューサーや制作会社ら伊藤監督を支えた人たちの中には「組織ジャーナリストとして訓練されたプロがいたはずだ」と述べ、「(伊藤監督に対するジャーナリスト教育が不十分だった)その責任は重いのではないか」と問題視した。

伊藤監督はアカデミー賞の発表に先立つ2月20日、日本外国特派員協会で映画に関する会見に臨む予定だったが、直前になって体調不良を理由に出席を中止している。

サバイバーを消費してはならない

郡司氏は「現在の代理人弁護士やプロデューサーが代わりに会見すべきだった。『ジャンヌダルク』的な存在を営利目的で消費し、都合が悪くなれば一人で矢面に立たせるのは間違いだ。性被害のサバイバーを商品として消費しているように感じる」と疑問視した。

映画は50カ国・地域以上で公開されている一方、日本では公開されていない。

その理由について、米紙ニューヨーク・タイムズは伊藤監督を取材して「伊藤さんは性的暴行を受けたと名乗り出た女性を法制度や社会がいかに不利に見ているかに光を当てているからだと言う」と記事にしている。

郡司氏は「映画(の制作過程)に人道的、倫理的な問題が指摘されているから、日本で上映できていないのであって日本の(法や社会の)構造的な問題ではない。(伊藤監督が)海外メディアに真実を話していないから、日本社会と海外の反応の差が大きくなっている」と語った。

弱い立場の性被害者の視点も必要

郡司氏は日本の性被害者について「多くのサバイバーは裁判を起こすこともできず、泣き寝入りせざるを得ないケースが多い」と述べ、脚光を集める伊藤監督の姿勢が「標準視」されることも危惧する。

「自らの性被害と対峙し、加害者を追及するためなら全てを犠牲にするという強者の姿が、サバイバー像として定着することが心配だ。性被害者は強くあらねばならないとプレシャーを受けてしまいかねない」(奥原慎平)

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