「…まず一ついいでしょうか?アンドロメダ」
「どうぞじゃんじゃん聞いて下さい。その代わりに私の質問にも答えてもらいますからね!」
「『レベル4同盟』なるものの存在も、それに加入した記憶も無いのですが。私はいつからその一員になったのですか?」
場所は豊穣の酒場。学区とのお祭り騒ぎの後、リューとアイシャはアスフィに誘われて集まることになったのである。
全く知らない同盟の危機と言われ、リューとアイシャは珍しく顔を見合わせた。その後アイシャが「馬鹿馬鹿しいったらありゃしない」と早々に出て行ってしまったのだ。
「リオン、本気で言ってるんですか?レベル4同盟と言えば私と貴方とアイシャのトリオのことでしょう!?ヘルメス様の無茶ぶりを一緒にこなそうって約束したじゃないですか!」
裏切りは許さないと言わんばかりに死んだ目を見開く。全く身に覚えのない約束にリューはため息をついた。
「何ですかそのため息は!レベル6になったからって一抜けしたつもりですか?私たちの絆はそんなもんですか!」
「そもそもレベル6ではそのレベル4同盟とやらからは強制脱退でしょう」
「では『レベル6と4同盟』、あるいは『ヘルメス様無茶ぶり同盟』です!」
追加で酒を注文してまだまだ逃がすつもりのない友人の姿に呆れたリューは、彼女のペースに合わせてはいつ帰れるか分かったものではないと反論することにした。
「そもそも私はヘルメスファミリアの団員ではありません。貴方と【麗傑】の問題に巻き込まないでください」
「そう!まずはそこです!」
そう言ってアスフィは樽ジョッキの酒をあおった。冒険者たちも荒れた彼女の姿もは見慣れているのか気にもとめない。
「なーにちゃっかり有望なヘスティア様のファミリアに入ってんですか!?リオンならウチも大大大歓迎だったんですけど!」
「死んだ目をしながら激務をこなす貴方を見てヘルメスファミリアに入りたいと思う人などいないでしょう。そもそも貴方のファミリアはレベルを偽ってまで目立つことを避けているはずでは?私が入ればそれなりに目立ちますよ」
「最近はイベント続きで嫌でも目立っているんです!貴方が入ろうが変わりません!というか普通は死んだ目をした私を見れば手助けしたくなるはずです!正義の使徒たるアストレアファミリアの名が泣きますよ!ついでに私も泣きます!」
「なぜそこでアストレア様の名前が出てくるんですか…」
「もう一つ!さっきも言いましたけどレベル6って何ですか!?飛び級なんて聞いたことありません。私より貴方の方がよっぽど『神秘』です!」
「旅を終えたと、これは何度も言っているはずですが?」
「旅を終えたって何ですか!そんなんだから神々から陰で『旅を終えた系いつもやりすぎてしまう芸人』なんて言われてるんです!」
「……えっ?」
あまりにも衝撃的な俗称にリューは硬直する。確かにいつも言っていて口癖のようで恥ずかしい気もしていたが。
その端正で冷静な顔が、確かにうろたえた。
「アンドロメダ、今の、嘘ですよね?」
「ホントですよホント!最近ではこれに『ポンコツ』だとか『戦場告白』だとかついてる始末です!私が毎日毎日身を粉にして働いてるっていうのに何イチャイチャしてるんですかって!ヘルメスファミリアの力で都市の外で流行らせましょうか!?」
「絶対やめてください。…それにべ、ベルとはまだイチャイチャなんか…」
羞恥と恋心で妖精はその顔を耳まで真っ赤に染めた。
ちなみにアスフィはアルコールで真っ赤にしている。
「はー、なんですかその顔。真っ赤にしちゃって…。大体…ヘルメス様はぁ…もおおおおおお!」
再び酒をあおる。
本来綺麗なはずの彼女の目は日々の労働とお酒の影響でまるで市場に並んだサカナのようになっている。
我を忘れて酒に溺れる友人にリューも流石に心配した。
「酔いすぎですアンドロメダ。今日はもうお開きにした方がいいでしょう」
「はぁ~?逃げようたってそうはいかないですよ!まあアイシャには逃げられたんですけどね」
言葉とは裏腹に酔ってフラフラとなったレベル4の体はレベル6の戦士の力に敵うわけもなく。「ぐぇ~」とうめき声を上げた華奢な体を担いだリューはヘルメスファミリアのホームたる『旅人の宿』を目指した。
「お、もう終わったのかい?ご苦労さんだね」
少し歩くとアイシャが声を掛けてきた。香水を身に纏い、いつもよりも更に薄い布を身に着け、これから夜の街に出かけようといった風貌だ。その前に少し顔を出そうとしたのだろうか。
「ええ。丁度いい、彼女は貴方に返します」
「ヤだよ。これからサミラやレナと遊びに行くんだ、アンタも来るかい?」
「行くわけないでしょう。汚らわしい」
もはや挨拶のようなやり取りをした後、リューが口を開いた。
「…貴方もヘルメスファミリアなのでしょう?少しはアンドロメダを手伝ってはどうですか?」
「アタシだって言われたことはやってるよ。勿論それなりの対価は頂くけどね。アタシに振らないってことはそこの団長さんがやりたくてやってるんだろう」
冷えた夜の風邪が水色の髪を揺らした。そこの団長さんは酒と丁度いい気温でむにゃむにゃと久しぶりの睡眠に入っている。
「それこそ最初は嫌々だったかもしれないがね。だんだんやっていくうちに嫌なことでも好きになるもんさ」
「…過労で死んだ目をしても?」
「そりゃそうさ。アンタだって酒場の従業員も嫌々だっただろう?だがやっていくうちに居場所ができる。仲間ができる。自分なりのやりがいも見つかる。そうなりゃ過労だろうが関係ないさ」
気が変わったとアイシャがアスフィを受け取る。
「アンタもアタシもこのお姫様にしたら仲間の内なんだろう。仲が悪くなって組めなくなるのは嫌だろうしこれからも一緒に何かやりたい。あの坊やほどじゃないが甘えん坊なんだろうねぇ」
「…それでレベル4同盟なんてものでっちあげてまで私たちを集めたのですか。はぁ…」
「まああれだ。愚痴さえ聞いてりゃあんな有能な人間が働いてくれるんだ、これ以上安いことはないだろう?」
「そうですね。同盟は知りませんが暗黒期からの数少ない友人ですし」
なんとなく、穏やかな雰囲気になった夜の道。そこでアイシャが「あ!」っと何かに気が付いた。
「最初は嫌々と言えばだね、アッチの方も同じだろう?アタシみたいなアマゾネスは最初っから刷り込まれてるがエルフも一発ヤッちまえば虜になるさ」
一変。リューはその眉を尖らせてアイシャに迫った。
「黙りなさい。そして訂正し謝罪しろ」
「ッは!黙ってどうやって謝罪するのさ。これだから堅物エルフは。驕り高ぶって考えることすらやめちまったのかい?」
短刀を構えるエルフ。これで十分と独特の脚技を構えるアマゾネス。
迫りつつある脅威にレベル4の体は眠っているにもかかわらず敏感に反応した。
「…ここは?って何やってるんですかアンタたちは!というか下ろしなさいアイシャ!」
「いやいやここは同じ派閥同士、共同戦線といこうじゃないか。レベル4が二人ならあの堅物を倒すのも夢じゃない」
「吠えるな。アンドロメダ、まさか貴方がそちらに着くとは。…友人だろうと手加減はできません」
「っちょっと?何がなんだか分かりませんが私は無関係です!離しなさあああああああい!!そして話を聞きなさああああああああい!!」
「うるさい、アンドロメダ」
「黙りな、アスフィ」
「はああああああああああ!!!!???」
その後、通りかかったベルによってリューが回収され、事なきを得たという…。