「さあ──て、いよいよ始まります! 今回の戦争遊戯は【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】! まだ結成してから二か月と少ししか経っていない出来立てほやっほやの新興派閥が、なんと構成員百名を超える中堅派閥に吹っ掛けて決まった今回の戦争遊戯ぃ。【ヘスティア・ファミリア】は直前に構成員が二名から五名に増えましたが、誰が入ったのか、その情報はございません! 焼け石に水程度かとは思いますが時は今! 神時代! どんなことが起きるのかはわかりません! 今回の戦争遊戯はまさしく下界の未知と言えるでしょう! そして今回実況を務めさせていただくのは【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法とも呼ばれるわたくし、イブリ・アチャーでございます! 二つ名は【
「俺が! ガネーシャだあ!!」
「はい! いつもの元気な声ありがとうございますガネーシャ様! さて、ちょうど今『神の鏡』の中継が映りました! まもなく! もうまもなく! ドラの音と共に戦争遊戯が始まります!」
そんな大きな声の解説とガネーシャの声が、『神の鏡』で繋がっているバベル30階の神々が集まる部屋にまで聞こえてくる。
ヘスティアはその場所でヘファイストス、アストレア、タケミカヅチと共に、今か今かと静かにその瞬間を待っていた。
が、そこに話しかけてくる無粋な男神が一人。
「やあヘスティア。ベルきゅんとの別れの挨拶はもう済んだのかい?」
「……やあアポロン。君の方こそ、ボクのベル君に派閥を潰されて天界に送還される準備はできているのかい?」
「そんな準備は必要ないとも。なにせ私は私の眷属達を信じているのだから」
「そうかい。ボクもベル君とボクの眷属になってくれた子達を信じているとも。ただねアポロン、一つ、君に忠告をしておくよ」
「ヘスティアから私にかい? 是非聞かせてもらおうじゃないか」
「ああ言ってやるとも」
そこでヘスティアは少し間を空け、アポロンの顔を冷めた瞳で睨みつける。
ヘスティアだって、ベルほどではないが、自分達の本拠が壊されたのには怒っているのだ。
だからこれは一欠けらの慈悲と、アポロンへの恨みとして伝える。
「君が、君達が、いったい誰を激怒させてしまったのか。それをよく、覚えておくといい」
「……そうかい。耳に留めておくよ」
そう言い残し、アポロンはヘスティア達の元から去っていった。
ヘスティアが言ったことの意味をアストレアは正確に把握しているが、ヘファイストスとタケミカヅチはそうではないようで、ヘスティアに聞いてくる。
「ねえヘスティア。今の言葉、どういう意味なの?」
「俺も気になるなヘスティア。よかったら教えてくれ」
「ん? ああ、まだ君達二人には言ったことがなかったね。タケミカヅチはボクと同じでオラリオに来てからまだ日が浅いからよくは分からないと思うけど、ヘファイストスなら痛いほどわかるんじゃないかな?」
「俺がよくわからないとなると……相当昔のことが関係しているのか? ベルだってまだオラリオに来て二か月ぐらいだろうに。それも含めて言っている意味がよくわからんが」
「そうねタケミカヅチ。もったいぶってないで早く教えなさい、ヘスティア」
「そうだね。まあこれはベル君というより、主にベル君のお義母さんの方なんだけどね」
と、そう切り出してヘスティアが二柱に話そうとしたところで、なんだかひしゃげた帽子を被りやつれた様子の男神がふらっと四柱の所にやってきた。
「や、やあ、ヘスティア。ベル君に頼まれてた手紙を届けて、なんとか戦争遊戯が始まる前に帰ってこれたよ。本当に、帰ってこれてよかったよ。アポロンより先に、俺が送還されてしまうかと思ったからね」
「ヘルメスか。ボクに何か用でもあるのかい?」
げっそりとしたヘルメスの様子とそんなことまで言う始末に、ヘスティアとアストレアはヘルメスの身に何があったのか察し、今回の『攻城戦』の件は許してやろうと、目で会話をする。
そしてアストレアと顔を見合わせるヘスティアに、ヘルメスは二通の手紙を差し出した。
「これを受け取ってくれ、ヘスティア。ベル君のお義母さんからだ。もう一枚はベル君宛てだから、後で渡しておいてくれ」
「そうか。ありがとう、ヘルメス」
ヘルメスから手紙を受け取るヘスティアを余所に、アストレアがヘルメスに何があったのかを尋ねる。
「ねえヘルメス? その様子だとあの子に何かされたみたいだけど、いったい何をされたの?」
「いやあ……ベル君の忠告は受けてたんだけどね。やっぱり八つ当たりをされてしまって……」
なんだか遠い目と顔をしてはぐらかそうとするヘルメス。
そんな彼に正義の女神は彼女の司る事物を元に、ヘルメスに説明を求める。
「それで? 具体的には?」
「アハハハハハハハ」
やはり思い出すのも嫌なのか、から笑いで若干渋る様子を見せる。
しかしアストレアが冷めた目で微笑むと、笑うのを止めて答えてくれた。
「はぁ……それは見事なジャーマンスープレックスをもらったよ。上半身がまるまる地面に埋まるほどの、ね」
「そう。それなら貴方への罰は十分みたいね」
「そうだね、アストレア」
「なにやら聞き捨てならない単語が聞こえてきたけど、許しを貰えたのなら良かったよ。それじゃ、俺も君達と一緒にベル君の雄姿を見せてもらおうかな」
二柱が話している間に手紙を読み終わったヘスティアは、今度はアストレアにもそれを渡す。
アストレアが受け取ったのを見て、ヘルメスも彼女達の近くに座り、ヘスティアはその場の会話に置いてけぼりをくらってしまった神友二人に謝罪した。
「すまなかったね、ヘファイストス、タケ。君達の知らない話をしてしまって」
「い、いえ、大丈夫よヘスティア。なんだかヘルメスは大丈夫そうではないけど、それも関係しているのよね?」
「ああ、そうだよ。ヘファイストスとタケの二柱も、アストレアが読み終わったら、その手紙を読んでもいいぜ。それが一番手っ取り早い」
「そう。それじゃそうさせてもらうわ」
「承知した、ヘスティア」
それを最後に神達は『神の鏡』へと視線を向けて、黙り込む。
ヘスティアは既に始まっているベル達の戦いを見ながら、たった今読んだ手紙の内容とその『字』を思い出した。
手紙に書かれていた内容は、戦争遊戯が終わった後のアポロンの処遇について。
ベルの義母親はベルが戦争遊戯に必ず勝つと、そう信じて疑っていなかったようで、特にそれらの心配はしていないようだった。
そして彼女はそれはもうお怒りだったようで、その要求についてはヘスティアも望むところ。
なんだったら、ちょっとアポロンのことを気の毒に思うぐらいにはその要求は苛烈であった。
以前アストレアからチラッと聞いたことが本当の事だったんだと、納得してしまうくらいには。
まあその要求も印象が強いのだが、それよりもヘスティアが気になったのは、彼女の書いた『字』の方だ。
それはそれは美しく綺麗な共通語で書かれていたのだが、あまりの怒りに手が震えていたのか、その『字』はところどころ歪んでいた。
そして最後には我慢しきれなくなったのか、その手紙の最後の行には、書いたペンで開けたような、大きな穴が開いていた。
「本当に、ベル君に手を出したのが運の尽きだったね、アポロン。ご愁傷さまと、流石のボクからも言わせてもらうよ」
そんなベルはというと、やはり『神の鏡』の事を知っていたのか、今はこちらに向かってそれはもういい笑顔を見せていた。ちょっと恐いぐらいに。
──あの笑顔は……正確にはアポロンに向けて、かな?
なんてヘスティアが思い、チラとアポロンの方に目をやると、ヘスティアが「きっっしょっっ」と思うほど気持ち悪い笑みを顔に出していた。
そして先程ヘスティアが思ったことはその通りだったようで、ベルはアポロンに向けてメッセージを送って来た。
『流石の僕も、貴方の事を送還するような真似はしません。あんなことを言いましたが、それでも弁えてはいるつもりです。僕のお義母さんならわかりませんが。……それに、それをしちゃうと神様達が悲しんでしまうので。そうじゃなかったら、もしかしたらしていたかもしれませんが。……ですが、ええ、貴方にそんなことはしません。ただ、貴方の眷属にはその限りではないので。そう、ちょっと、二度と冒険者なんて出来なくなるぐらいに、再起不能にするだけですから。ええ、アポロン様。安心してご覧になっててください。貴方の眷属その全てが、僕達五人に蹂躙されていく様を、そこで震えて見ていてください。僕から貴方に言うことはそれだけです。今後二度と、貴方と話すようなことはないでしょう。謝罪も受け入れません。では』
笑顔で、まったく微塵も揺るがない満面の笑みで、そんな宣言をした己の最初の眷属。
それを聞いたヘスティアは、恐らくだろうが最初で最後の恐怖を己の眷属に覚える。
それを表には出さなかったが。
ただ、心の中でこんなことだけは誓った。
──絶対に、ベル君を本気で怒らせるようなことはしないようにしよう。
と。
◆◆◆
──それは戦争遊戯が始まる前日、馬車での移動中の会話。
「ごめんなさい、リューさん。僕の我がままを聞いてもらって」
「そんなことはありません、クラネルさん。貴方の怒りはそれほどのものなのですから。私達は貴方のサポートに徹します」
「ありがとうございます。リューさんの力があれば、それこそ簡単に【アポロン・ファミリア】には勝てるんでしょうけど……それでも、半分ぐらいは自分で直接手を下したいんです」
「それも当然でしょう。貴方の大切な場所に手を出されたのですから。アーデさん以外は城の中には攻め込みませんとも」
「はい。今頃リリは楽しそうに準備してるでしょうね」
「そうですね。やはりアーデさんとライラは似ていますし、相性もいい。今回の戦争遊戯が終わった後も、色々と教えるつもりみたいですよ、ライラは」
「何から何まですいません」
「そんなこと今更でしょう。私達全員でクラネルさんを鍛えていたのですから」
「それもそうですね。命さんもいますし、これからはもっと【ファミリア】での付き合いが深まりそうで、僕は嬉しいです」
「そうですね。クロッゾさんも【ヘスティア・ファミリア】に改宗してくれましたし、私達も彼に武器を鍛えてもらってもいいかもしれません」
「アリーゼさんや輝夜さんはともかく、リューさんは主武器が木刀じゃないですか。ヴェルフでも鍛えられるんでしょうか?」
「どうでしょうね。それは聞いてみないことにはわかりませんが、今私は副武器がありませんので、そちらを作ってもらってもいいでしょう」
「そういえば、リューさんが木刀以外を使ってるところを見たことがありませんでしたね。どんな武器がいいとかあるんですか?」
「そうですね。私もクラネルさんと似たような戦闘スタイルなので、双剣などの二刀流とかでしょうか。輝夜は対になっている小太刀を二本、副武器として持ってますし。私もそういった物でいいかもしれません」
「そうですね」
「……」
「……」
「……クラネルさん」
「なんですか、リューさん?」
「この戦争遊戯が終わった後、貴方と一緒にネーゼ達の墓参りに行きたいのですが、一緒に18階層まで同行してもらってもよろしいでしょうか?」
「……いいんですか? アリーゼさん達とも一緒に行きたがらないって聞いたのに、僕なんかが一緒に行って」
「……ええ、勿論。私から貴方にお願いしているのですから、当然です」
「わかりました。一緒に行かせてもらいます。でも……どうしてそんなことを言ってくれたんですか? リューさんの深い所まで踏みこませて貰えたようで、僕はちょっと嬉しいですけど」
「……そうですね。なんだか私は、クラネルさんと一緒ならば、大丈夫なような気がしたのです」
「曖昧な理由ですね。あんまりリューさんらしくないです。いつもの稽古だったら、もっと明確な理由を言ってくれるのに」
「確かにそうですね。しいて言うなら……ネーゼ達にも、クラネルさんのことを知って欲しいのです。私に自慢の愛弟子ができたと、そう知って欲しいのです」
「……わかりました。それで納得します」
「ええ。ありがとうございます、クラネルさん」
「お礼を言うのは戦争遊戯が終わってからですよ。まあ勝つとは思いますし、絶対に勝つとも覚悟を決めてますけど」
「それもそうですね。……まだ会場に着くまで時間もかかりますし、少しだけ寝て休みましょうか」
「そういえば怪物祭の時に、そんなことも言ってくれましたね」
「覚えていてくれたのですか」
「はい。だってリューさんから、僕の師匠から教わったことですから」
「これは師匠冥利に尽きますね。では、私は先に寝ています。クラネルさん、これも修行の一つと思って、貴方も早めに寝られるようにしてください」
「はい。おやすみなさい、リューさん」
「ええ、おやすみなさい」
◆◆◆
シュリーム古城跡地。
今回の戦争遊戯の会場。
その城の城門の前に、堂々と立つ二人の冒険者の姿があった。
「今まで使う所を見せた事はあったが、まさかあんたにそれを使ってもらう事になる日が来るとはな【疾風】」
「そうですが……以前にも言いましたが、私は他のエルフと違いそこまで恨みなどを持っていないので。私は使うことに忌避感をさほど感じませんよ、クロッゾさん」
「同じ【ファミリア】になっても、呼び方は変わらねえんだな」
「すいません。同じ【ファミリア】となってもまだ日が浅いですし、どうせ一年後に私はアストレア様の元へ帰る予定なので。二つ名がつくまでの辛抱と、そう思ってください」
「それもそうだな。じゃあ、始めるとするか」
「そうですね」
二人が構えるのは『クロッゾの魔剣』。その数三本。
リューが二本、風と雷の力を宿した魔剣を、ヴェルフが一本、炎の力を宿した魔剣を持ち、それぞれ振り抜く。
ただそれだけで城の門が破壊され、それを契機に戦争遊戯が始まった。
『なんだあれはー!! あの魔剣の威力はー!! あれは普通の魔剣ではないと思いますが解説のガネーシャ様、何かありますか!?」
『あれは!? ガネーシャか!?』
そんな実況がオラリオで始まるも、その間にも『クロッゾの魔剣』で城を攻め立てる二人。
風が、雷が、炎が、城壁を食い破り、破壊し、粉々に砕く。
まさにラキアの黄金時代の再現。
そんな光景がシュリーム古城跡地にて再現され【アポロンファミリア】は混乱の境地に陥る。
「なんだ!? 一体何が起こっている!? 報告はどうした!?」
「『クロッゾの魔剣』だ! あいつらあの伝説の武器を持ってきやがったんだ!」
走り回り、何度も『クロッゾの魔剣』と叫ぶパルゥムの少年。
その彼に言われるがままに【アポロンファミリア】の団員は、その半数近くが大慌てで城の外へと飛び出した。
瞬間、城の入口の天井が大爆発を起こした。
「「「ぐわああああああ!!」」」
「な!? 爆発!? 一体誰だあんなところに爆弾を仕込んだのは!? 裏切りでもしたのか!?」
「て、天井が落ちて城に戻れません!」
「っ、後で瓦礫を退かせばどうとでもなる! それよりも今はあの三人だ! 特に魔剣を持っている方の二人に人数をかけろ!」
後から外に出ようとした約十名ほどの団員が、落ちてきた天井に生き埋めにされる。
結局城の外に出られたのは四十名ほどの団員のみ。生き埋めにされた団員はこの戦争遊戯中は再起不能だろう。
その光景を『星屑の庭』で見ていたアリーゼが、ライラにちょっと嫌な顔をしながら問いかける。
「ねえライラ。何となく気付いてるけど、リリちゃんに何を持たせたの?」
「アタシ手製の罠と……火炎石」
渋々、それも口をへの字にしながら答えたライラ。
やっぱりと、アリーゼ、輝夜の二人も渋面を作って黙る。
その二人を見て、ライラはがりがりと頭をかいた。
「アタシだって嫌だったけどよ……あんなスキルが発現するぐらいにはトラウマになってるし。ただ、あの兎がリオンの為にあそこまで怒ってくれたってのもある。なによりアタシ達の古傷を抉ってまで挑発してきたあいつらには、アタシだって怒ってるんだ。だからそこは我慢してくれよ、団長に副団長」
「……それもそうだな」
「……そうね」
そうして三人は城の外に出てきた【アポロン・ファミリア】と戦闘を行っている三人を見る。
魔剣を持っているのはリューとヴェルフの二人だけ。
そして最後の一人の命は魔法の関係上、二人とは距離を取って戦闘を開始している。
リーダー格であろうエルフの青年がリューの姿を見て驚愕し、そして何よりも正義の眷属の彼女が『クロッゾの魔剣』を使っていることにも驚愕しているようだった。
「何故貴様のような者が『クロッゾの魔剣』を使っている【疾風】! 貴様は同胞の森を焼いたその魔剣が憎くはないのか!? 何よりも貴様のようなエルフだけは絶対に許さないと、そう思っていたのだぞ同胞!!」
喚き散らすエルフの青年。
青年が叫んだ【疾風】という単語に、バベルにいる神々は今の今まで魔剣の威力に驚きその使用者の姿を見ていなかったが、たった今それが誰なのかに気付き、口々に言い出す。
「【疾風】って、あの【疾風】のリオン!?」
「他にどの【疾風】がいるってんだよ馬鹿!」
「アストレア様が一番気にかけてる眷属を手放したってのか!?」
「アストレア様ー! リオンちゃんが改宗したのって本当!?」
「ええ、本当よ」
「うわ! マジかよ!」
「でもロリ神のところだぜ?」
「いやむしろロリ神だからだろ」
「そうだな。そればっかりはお前に同意だわ。それ以外は絶対に合わんが」
「なんてったって炉の女神だし」
「うんうん。私も今のあの子のこと、結構心配してるもん」
「炉の女神なら納得しかねえ。てかそれ以外のところの神なんざありえねえ」
「くそっ、俺もロリ巨乳の女神だったら【疾風】ちゃんを預けてもらえたのかっ!?」
「「「それはないから安心しろ」」」
「でもでもどうしてですかー!?」
「ばっかお前何があったのか知らねえの!?」
「え、何があったの?」
「酒場でアポロンのところの子が【疾風】ちゃんのこと侮辱したんだよ」
「それだけ? 確かにそういうのはあれだけど、ちょっと理由としては薄くない?」
「それだけじゃねえよ! なんてったって五年前の事件を本人の目の前で掘り返して侮辱したんだぞ!」
「うっっっわ」
「ありえねえ」
「クズすぎんだろ」
「ドン引き通り越して僕もアポロンに怒りが湧いてきたわ」
「あれは……オラリオ中の神が同情したぐらい、酷い事件だったもんな」
「……そうだな」
「なんだよレベル5が三人に第二級以上が十四人いて、生還できたのが三分の一の六人って。本当にあれは酷かった」
「それをその場で直に見ていた当事者相手に言うとか……」
「マジでありえねぇ。アポロンだってあの時にはもうオラリオにいたくせに」
「サイテーだな。外道すぎるぞアポロン。そんなことを自分の眷属に言わせるなんて」
「ないわー流石にないわー本気でないわー」
「俺達だってそんなことは絶っっっっ対にしねえもん。アストレア様とあのガネーシャに誓う」
「これだから汚太陽君はさぁ」
「マジで送還されちまえ。てかされろ」
「「「死ね、アポロン。一万年後に会いましょう」」」
「いやホントそうだわ。そりゃあの子も自分の手で送還するなんて言うわ。俺あの時あの現場で聞いてたけど、今になって納得しちゃったもん」
「そういやさっきそんなことをチラッと言ってたような気がするけど、詳細教えてくんない?」
「ん? お前アポロンの神の宴に参加してない口?」
「いやちょっとかわい子ちゃんのところに会いに行ってて」
「そういやお前、熱を上げてる娼婦の子供がいるって言ってたな」
「まあどうでもいいか。俺が教えてやるよ」
「頼んだ」
「あの髪が白い子いるだろ? ロリ神の最初の眷属の」
「いるねえ。なんなら今も暴れ回ってるわ。可愛い顔してるのに容赦がない。それで?」
「アポロンがな、宴の時にロリ神の所に最初に戦争遊戯を申し込んだんだよ。速攻で断られてたけど」
「それでそれで?」
「んで、その後にあの子がアポロンに直接こう言ったのさ。『これ以上僕の大切な人達を傷つけるような真似をするなら、僕は僕の全身全霊を以って貴方達を潰します。なんなら貴方を僕の手で直接送還します』ってな」
「か、かっけえええええ!!」
「いやマジで格好いいわ。男の俺でも惚れそうになるわそんなん言われたら。下界の子供の禁忌まで犯そうとする覚悟って相当だぞ」
「私も自分の眷属に言われてみたい。今度言わせてみようかな」
「俺は惚れた。惚れるわそんなん言われたら。あんな可愛い顔してんのにめちゃくちゃ男の子じゃん、あのロリ神の子」
「お前絶っ対手ぇ出すんじゃねえぞ。お前は俺の神友だからな。アポロンの二の舞とか御免だわ」
「うわっ、えげつねぇ。あれわざと意識残してるでしょ」
「しかも何あの罠のオンパレード」
「どっかんどっかん派手に爆発してんねぇ。相手に起動させるように誘導してるし」
「世界最速兎は裏口から手引きされて入ってたけど、いつの間にあんなの仕掛けてたんだよあのちっこい子。てかそもそもいつの間に城の中に入ってたんだよ」
「それよかやっぱり白い子でしょ。なんなのあれ? いったいどれだけの情報を頭の中で整理してあの集団を相手にしてんの? 頭の中がどうなってるのか気になるわ」
「あ、そこは……」
「「「ヒュッ」」」
「……俺蹴られてもないのにゾッとしちゃった」
「俺も」
「僕も」
「ねえ、私ああいう子供を昔見た気がするんだけど……」
「そうね私も。なんだか嫌な女神を思い出すんだけど」
「うん、そうね。ただ多分きっと気のせいでしょ気のせい」
「そうよね。気のせい気のせい」
そんな会話がバベルで繰り広げられるも、戦闘は継続している。
城の外で繰り広げられている戦闘で、ヴェルフと命はそれなりに活躍している。
修行期間中リュー直々に手ほどきを受けた命は、付け焼刃といえど移動と回避を組み合わせた並行詠唱をすることができる。
それをこの場で成功させ、重力魔法で多人数を自分を含めて行動不能に追い込んでいた。
ヴェルフの方はと言うと【ウィル・オ・ウィスプ】でリューの援護。
まだ碌に連携も取れないため、二人の距離はそこそこ離れている。
しかし後方から魔力の気配を感じ、ここの一番の戦力であるリューが魔法で狙われないように、魔力暴発を敵魔導士に強制した。
そんな二人の活躍もあるが、それでもこの戦場はリューの独壇場だ。
レベル2含めて四十名はいる敵冒険者の内、半数以上を自分一人で相手取っている。
既に魔剣は砕けているため、リューは木刀を片手に敵を引き付けるような大立ち回りを繰り広げていた。
そして命とは比較にならないほどの練度の並行詠唱を開始する。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々──】」
躊躇いもなく歌い出したリューを見て、『星屑の庭』にいる三人は揃ってジッと詠唱を続けるリューの姿を見つめる。
「……あの子、今自分から詠唱を始めたわよね?」
「そうだな団長。何か覚悟を決めたようにも見えなかった」
「そうだな団長。団長か輝夜が言わなければ使おうともしねえのに、それでも自分から使いにいったな」
「あれ、気付いてると思う?」
「それはどっちの意味でだ、団長?」
「どっちも。割合は半々って所かしら」
「そうか……どうだろうな。少なくとも、兎のことについては気付いていないだろう。本人からは、兎が弟子だからなんだかんだという言い訳を言ってきそうだが」
「もう一方の意味も多分気付いてないと思うぜ、団長。何せあのエルフはポンコツエルフなんだからよ」
「そうね。……やっぱり私、お弟子君に嫉妬しちゃう」
「私は感謝してるくらいだ。私の好敵手が少しだけ帰って来たのだからな。まあ、まだまだ時間はかかるとは思うが」
「アタシも兎には感謝してるぜ。揶揄いがいのある奴が戻ってきそうだからよ。アストレア様が言ってたように、リオンにとってもいい出会いだったってわけだ」
「……そうね」
リューの詠唱が完了し、レベル4の強力無比な魔法が解放される。
城の外、そこでの戦闘はリューの魔法が決め手となり、あっけなく終わった。
しかしリューもヴェルフも命も、城の中へ入る素振りを見せず、ましてや入口を塞いでいる瓦礫の山を退かそうともしなかった。
ヴェルフと命は揃ってベルの勝利を願う。
リューは今は単独で【アポロン・ファミリア】の半数を相手にしている愛弟子の姿を思い浮かべながら、ぽつりと一人、口の中で呟いた。
「クラネルさん、こちらは片付きました。私の愛弟子が【