後ろから、財布を盗まれた神様が話しかけてきた。トロアは今までにない寒気がした。
(実際に聞くとこんなに寒気がするのか…この神はどうにかならないかなぁ)
静かに見ていたトロアは神様から視線を外し、アリーゼたちをみた。そして、神様は話しはじめた。
「いやぁ、急に後ろからタックルされてさぁ~。びっくりしちゃったよ。」
「大丈夫ですか、神様?お怪我は?」
「平気だよ、可愛い女の子。財布を取り戻してくれて、ありがとね。俺の名前はエレン。君たちは?そっちの子はガネーシャ・ファミリアって聞こえたけど……」
「私はアリーゼ・ローヴェル!アストレア・ファミリアの団長よ!」
「……リオンと名乗らせてもらっています。アリーゼと同じく、アストレア・ファミリアです。」
「俺はトロアだ…一応、アストレア・ファミリアに居候という形で所属している…」
「アストレア・ファミリア………正義の女神の眷属………なるほど、な~るほど。まさに正義の使者だったわけだ。いいね、実にいい。この出会いは。ん?居候…居候だって!!」
エレンと名乗る神様はトロアがアストレア・ファミリアに居候しているという所に激しく反応した。それにトロアは
「何か問題でもあるか?…」
「問題ありまくりだよ!噂によるとアストレア・ファミリアは君以外、女性しかいないっていうじゃないか!!なんてうらやま……じゃなくて、けしからないんだ!!」
「羨ましいと言おうとしたな…というより、正義の使者に出会えて良いとは?」
呆れたようにため息をしてエレンに対してトロアは冷ややかな目で見た。
「なに、君たちに助けてもらって良かったっていう話さ。繰り返すけど、あぁ、見事だ。本当にお見事。何がお見事って、みんなが正義を探しているってこと。単なる勧善懲悪じゃない落としどころ…感動しちゃったよ。特にエルフの君と彼…面白いなぁ」
「……私が?」
(彼?俺のことか…最悪だ!目ぇ付けられちゃった…)
「エルフの君は、潔癖で高潔。しかし未だに確たる答えはなく。まるで雛鳥だ。正しく在りたいと願う心は誰よりも純粋なのに。こんな時代だからこそ、君がどう考え、どう染まるのか。そしてどんな答えを出すのか?…あぁ、興味がありまくりだよ。それに…そこにいる君も一体どんな答えを出してくれるのかな?」
(…悪意はない。敵意もない。見下してすらない。だが、どうしてか癪に障る。この神は、一体…)
リオンは疑問を憶え、トロアは不愉快だと言いたげな顔で顰めていた。そうすると、
「なんだかその言い方、いやらしいわ!リオン、離れて!!きっとこの神様もフヒヒとか笑い出すような変態よ!」
「その気持ち悪い視線を俺に向けるな…間違ってお前を斬りたくなる…」
「あ、やめて、本気で傷付くからやめて!俺そーいうモブ神とは違うんからぁん!それに斬る?えっ、見ただけで俺、斬られちゃうの…」
エレンは涙を流しながら訴えた。
「口では何とでも言えるだろ…」
「神様はみんなそう言いますよね!」
アーディは笑顔、トロアは真顔でエレンが言っていることに返答した。
「ぐふぅ!イイ笑顔で腹を抉るコークスクリュー・ブロー!!ボーイッシュ元気っ子だと
思ってたけど、さては天然だな!まぁ、口では何とでもいえるけどさぁ!!」
「それなら、人を値踏みするような目でリオンのことを見るな…斬るぞ…」
「え…じょ、冗談だよね?……」
ゆっくりと魔剣に手を伸ばすトロアの姿をみたエレンは冷や汗を滝のように流し始めた。
「このタイミングでどうして、武器を取ろうとするのかな?…わ、分かったから彼女に対して変な目で見ないから武器しまってくれないかなぁ?」
「言質は取ったぞ…その言葉、忘れるなよ…」
静かにエレンはトロアの睨まれながら、激しく首を縦に振った。
「……と、もうこんな時間か。もっと君たちと騒ぎたかったけど、そろそろ行かせてもらうよ。用事もあるしね。」
エレンはその場から離れようとする姿をみたリオンは尋ねた。
「……お一人で大丈夫ですか?お付きの方もいらっしゃらないようですし、せめて送迎を…」
「そこまでしてもらったら悪いよ。じゃあ―またね。」
エレンが離れてしばらく見送ったアリーゼたちは
「ギルドが神々に一柱で行動するなって言ってるのに。ま、自由神ばっかりだから、他の神様もほっつき歩いてるけど…」
「神々など、えてしてそのような存在だとは分かっていますが…捉えどころのない神だった。」
アリーゼとリオンは神様たちの行動に呆れながら話しているとアーディが二人の意見に同意し話をはじめる。
「そうだねぇ、何だかヘルメス様に似ているかも…あ、そうだ、リオン。君の里の大聖樹の枝、やっぱりオラリオに出回ってるみたい。品は押収できなかったけど、捕まえた商人たちが吐いた。」
「……!本当ですか?」
「うん。君の里に限らずだけど、闇派閥が都市の外から仕入れて捌いてるみたい。…エルフの里を荒らして。」
その話を聞いたトロアは、小さな声で独り言を言った。
「酷いな。だが、解せない…なぜ、大聖樹の枝をそんなに採取しているんだ?」
(まぁ、静寂のためだとは言えないよな…)
苦い顔をしたアリーゼは、トロアの独り言に賛同する。
「えぇ、そうね。アーディ、保管場所とかの目星はつけてるの?」
アーディは首を横に振る
「ううん。マーケットそのものを完全に撲滅するのが難しくなっちゃってる。だから、取引する品の一時的に保管する倉庫がいくつかある筈なんだけど…ごめんね、リオン。君の里の枝を取り戻せなくて。」
謝罪するアーディに対してリオンは顔を顰めて返答する。
「いえ、私は故郷との森とは縁を切った。同胞や里がどうなろうと、何も思うところはありません」
その言葉を聞いたトロアたちは、ため息をついた。
「リオン、そんな顔で言われても説得力がないぞ…」
「そうね。しっかり感傷的になってるじゃない。」
「待ってて、リオン!闇派閥を捕まえて、扱われている品も取り返して見せるから!知らない人も助けるのも大切だけど!やっぱり身近な人に笑顔になってもらいたいもんね!じゃあね、三人とも!!」
張り切ったアーディは、トロアたちに別れを告げ離れていった。
「アーディ!私は本当に気にしてはっ…行ってしまった。」
「彼女の厚意は素直に受け取っておくべきじゃないか?君のためにあんなにも張り切っているのだから…」
「そうね!誰かを笑顔にさせたいって想いは、何も間違っていないんだから!!」
「…はい。」
少し嬉しそうにリオンは返事をした。
「さ、巡回の続きよ!アーディたちと一緒に、必ず都市を平和に―」
アリーゼの言葉を遮るように近寄ってきたライラが話しかけた。
「アリーゼ」
不思議そうにライラを見つめたアリーゼは質問した。
「あら、ライラ?そっちの巡回はもう終わったの?」
「あぁ、終わった。終わって、別件だ。『きな臭ぇ動きがあるから網をはれ』だとよ。」
リオンは驚いたように聞き返す
「…!指示は誰から?」
「決まってんだろ―私、愛しの勇者からだ。」
「勇者?」
トロアが不思議そうに勇者をオウム返ししてしまった。
「あぁ、お前にはまだ話していなかったな…愛しの勇者は、ロキ・ファミリアの団長だぜ」
「二大ファミリアの一角であるロキ・ファミリアか…」
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とある場所にて
「遅かったな。どこをほっつき歩いていた?」
「全く、私たちを失望させるなよ…」
鎧を纏った大柄な体格の男性とローブに隠れた黒いドレスを隙間から揺らす女性が一人いや、一柱を責めていた。
「すまなかったな。二人とももう少しで出番が来るからもう少し、待ってくれよ?それに、面白そうな子どもがいたから時間を食ってしまった…」
一柱が薄ら笑いを浮かべながら話していた。
トロアたちが知らない裏では、静かに悪意が胎動している。