きっかけは社内研修の講師との出会い
委員会事務局(以下、事務局) 牟田委員は49歳の時に、日本で「英国MBAプログラム」によってMBAを取得されています。学位取得の背景をうかがえますか。 牟田委員 私はもともとシステムエンジニアとしてキャリアをスタートしているのですが、どちらかというとプログラミングをバリバリやるより、ビジネスの仕組みを作ったりアイデアを形にしたりということに興味がありました。 そうしたこともあって、前職のキャリアの終盤は人事や経営企画部門などでDX(デジタルトランスフォーメーション)を担当していました。そこからもっと勉強したくなって、MBA取得にチャレンジすることにしました。 事務局 なにかきっかけはあったのでしょうか。 牟田委員 きっかけは、前職で人事の業務を担当していた時、自社で開催した「リーダーシップ研修」の企画兼講師に招いた方との出会いです。その場で意気投合し、週末一緒に登山や旅行をするほど仲良くなったのですが、その彼女がMBAホルダーでした。 それまでMBAは私には関係のない学位だと思っていたのですが、ちょうど50歳に差し掛かるころ、その後も自身が望む仕事をしていくためにはなにかしら「武器」が必要だなと思うようになりました。
スキルの分かりやすい「証明」が欲しかった
事務局 「望む仕事」について、もう少しご説明いただけますか。 牟田委員 もともとの職種であるITエンジニアは、スキルが言語化されていて比較的分かりやすいわけです。プログラミング言語なら何が分かるとか、どの会社の提供するどのツールに詳しいのかとか、経歴書に書きやすいですよね。 それに比べると、私が担ってきた「経営やビジネス開発とITを結び付ける」といった業務は、「それをどのくらいできるの?」と聞かれたときに答えにくいわけです。私自身はそうした仕事が自分に合っているとも感じていたので、なんとかそれを「伝わる形」で表現したいと思っていました。 その点MBAは、「経営のことも分かるエンジニア出身者」として非常に分かりやすいタイトルですよね。 事務局 MBAの取得後、転職されていますが、MBAの勉強をされているときから転職は検討されていたのでしょうか。 牟田委員 いえ、前の会社に特に不満もなかったですし、それは全く考えていませんでした。ただせっかく取得した学位ですので、どのように評価されるのかは気になりました。それで、社外で一緒にソフトウェアの品質研究を行っている仲間からの勧めもあり、とりあえずお試し、といった感じで転職サービスに登録をしました。
52歳の自分に「こんなオファーが来るのか」
事務局 MBA取得の効果は、お感じになったでしょうか。 牟田委員 ものすごく感じました。当時すでに私は52歳で、転職市場では見向きもされないのではと懸念していましたが、こんなオファーが自分に来るのかと驚くようなお話をいくつも頂きました。 事務局 業界や職種、業務内容などは希望を絞っていましたか。 牟田委員 前職で銀行に出向していた経験もあり、金融業界で志望していました。前職では部長職も経験しましたが、ポジションよりも専門職としての仕事ができるかを重視しました。現在も肩書こそマネージャーですが、部下はおりません。業務はDX関連のものですね。 どうしても転職したいわけではなかったので、数は受けずに条件の合いそうなところだけをしっかり選びました。4社応募し、そのうち現職を含む3社で面接に進んで、全て内定をいただきました。 事務局 各社の選考で、MBAを取得していることについてやり取りはありましたか。 牟田委員 必ず聞かれましたね。もちろんスキルそのものに対する評価もありました。ですがそれより、50歳前後で部長職にも就いていた自分が「2年間学んで学位を取得した姿勢」を評価していただいた印象です。 こうした行動や努力ができる人だ、ということが、年齢などのハンディキャップを越えて「新しい仕事や環境でも前向きに取り組んでくれるだろう」という期待につながったのではないかと思います。
「自分はこうなりたくない」という思い
事務局 企業側のそうした思いはよくわかります。牟田委員ご自身は、「学ぶ姿勢」が他の同世代よりも強いといったご認識はありますか。 牟田委員 自分の評価はできませんが、30代を過ぎたころから、同世代の男性と話していて「この人は成長しないな」「口ばっかりだな」などと感じることがあったのは確かです。もう少し言うと、今ある自分のポジションに「あぐらをかいてしまったんだな」と。組織の課題などについて知ったようなことは言うけれども、自分でそれをなんとかしようとはしない。自分はそうならないようにしよう、という気持ちを持ちました。 これは仕事ができる、できないの話ではないと思います。例えば、今の職場の同僚で60歳を超えたシニアの方がいるのですが、社内の資料作りをするのに生成AIを駆使したりするんです。そうした姿勢を「すごいですね」と言ったら、「自分が新人の時は紙と鉛筆だった。それが携帯とパソコンが当たり前になり、スマホ、そしてAIと変わってきた。仕事で使うものなんて、変わるのが当たり前だ」と言うんです。 個人的な思いですが、シニアになっても仕事を任され、周囲から信頼される人というのは、こういう方なんだろうなと思います。 事務局 牟田委員が、学ぶことに前向きで居続けられる要因はなにかあるでしょうか。性格など、もって生まれたものとお感じですか。 牟田委員 もともとの特性で言うと、私は人見知りで、できれば人と関わらずに仕事をしたいほうです。一緒に仕事した人が聞くと「うそつけ」と思われるかもしれませんが、自分の中ではそうなんです。 でも若い時に、300人が関わるような大きなプロジェクトの推進を任されたことがあります。この時、「苦手とか言っていられないから、とにかく毎日100人となにかしらの形でコミュニケーションを取ろう」と決めて実行したことがあります。この時の経験が、その後の自分の姿勢を形作ったと思います。 今、もしあまり望ましくない環境にいたとして、愚痴を言っても何も変わりません。どうしても動けない理由があれば別ですが、その環境を変えたいなら行動をすればいいのだと思います。昨今リスキリングのようなことが言われますが、勉強するのも転職活動をするのも同じではないでしょうか。 確かに私は好きなことに関して勉強することは嫌いではありませんでした。そのことがMBA取得に踏み切った要因の一つにはなったかもしれません。でもそれ以上に、自分のキャリアを切り拓くのは自分自身でしかなく、そのための行動をとれたことが大きかったのではないかと思います。
委員会事務局から 50代でMBAを取得した女性というのは、日本の企業社会において極めて珍しい存在です。社内の研修で出会ったという講師の方が牟田委員のきっかけとなったように、牟田委員もその存在自体が他の方の背中を押すことと思います。学びがキャリアを開いたという方のお話は、今後も紹介していきたいと強く感じた取材でした。(ちゅん)
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写真:竹井俊晴 掲載日:2025年1月23日