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65歳から80歳までは「3%で資産運用し4%で引き出す」 60代からの資産「使い切り」法

2025/2/9 4:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

写真はイメージ=PIXTA

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日経BOOKプラス

「年金プラス月〇万円引き出す」という定額引き出しの持つ「収益率配列のリスク」を避けるためには、引き出しを「率」で考えるという戦略が必要になります。『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成して解説します。

前回の「年金プラス『毎月10万円』引き出す」はなぜ危険か」では「定額引き出し」のリスクについて紹介しましたが、80歳以降の生活のためにはしっかりと資産を残す戦略が必要になります。そのための考え方が引き出しを「率」で考えるという戦略です。ここでは「定率引き出し」という考え方を紹介します。

毎年の引出額はこれまでのように120万円といった定額で決めるのではなく、期末残高に対する一定の比率で引き出すという方法です。下記の図表では毎年の残高の4%で引き出すというルールで計算しています。この場合、AさんでもBさんでも最終的に残高が同じになっていることがわかります。

定率引き出しの持つ「資産残高の予想外の棄損リスク」を回避する力

(注)イメージを持っていただくための計算例 (出所)合同会社フィンウェル研究所

(注)イメージを持っていただくための計算例 (出所)合同会社フィンウェル研究所

もちろん、運用をしていますから残高は変動します。そのため毎年の引出額も変動します。また引き出すことで毎年残高は減っていきますから引出額が減少傾向になることも避けられません。

それでも退職後生活の前半、例えば65歳から80歳までの間であればまだ活動的で、こうした引出額の変動に対しても、生活スタイルを年ごとに合わせていくといった柔軟性は十分にある年代だと思います。それよりも大切なことは、活力が弱まる人生の最後半に計画通りの資産を残すことではないでしょうか。そのためにも「率」で考える引き出しは十分に検討すべきことだと思います。

定率引き出しだと引出額が変動する

ところで表の数値をご覧になって、15年後の残高に加えて、気になった点は引出総額の欄ではないでしょうか。

当然、「定額引き出し」では、引出総額は、年間120万円ですから15年間総額でAさんもBさんも同じ1800万円となります。しかし「定率引き出し」では、変動する期末残高に対する率で引出額を決めますから、毎年の引出額も、また15年間の引出総額もかなり違っています。

毎年の収益率のばらつきが、そのまま引出額の変動になるという形です。

それでも、繰り返しになりますが65歳から80歳までの間なら、そうした引出額の変動にも対応ができる時代ではないでしょうか。

運用と引き出しのバランスを考える

私は資産の取り崩しで重要な点は、運用と引き出しのバランスをとることだと思っています。具体的にバランスをとるという意味を天秤ばかりをイメージして考えてみます。

一般に資産運用の収益は年率3%といった形で「率」で表示することがほとんどです。これに対して引き出しはいくら必要かというのが月10万円といったように「額」で考えることが多いものです。

とすると、その「使いながら運用する」場合には、運用と引き出しの単位が違うことで比較ができず、資産が増えているのか、減っているのか、どれくらい増えているのか、どのくらい減っているのかがわかりません。

それを知るためには、運用した結果と引き出した結果を同じ単位で示せばいいわけです。例えば「額」で揃えてみます。1000万円の資産で3%の運用と年間50万円の引き出しであれば、運用収益は30万円で、引き出しが50万円なので資産は持ち出しになることがわかります。

しかし、これが5年後の場合にどうなるのかは、毎年の資産額を計算して、3%を掛けて計算することになるので簡単には算出できません。

「資産活用収益率」という考え方

これを引き出しも「率」で考えるようにすると、3%で運用して、残高の4%を引き出すとすれば、この「使いながら運用する」時代は、大まかに言って毎年1%ずつ資産が減っていくことがわかります(厳密には、年初に引き出すのか、毎月引き出すのか、年末に引き出すのかといった引き出すタイミングで若干計算が異なってきます)。

運用収益率と引き出しのバランスを取るということは、どちらも「率」でその水準を測ることになりますが、その差はそのまま資産の増減率とみることができます。すなわち、

収益率-引出率=資産の増減率=「資産活用収益率」

という等式が成り立ちます。この2つの比率の差を「資産活用収益率」として考えるとわかりやすいと思います。

できれば資産は減らしたくないと思えば、「4%で運用して、4%で引き出す」と資産は減らない計算になります。ただ、運用収益率を引き上げる分、金融商品のリスクは高まりますから、達成の可能性が低下します。逆に引出率を3%に引き下げて3%運用でも資産は減らないパターンになりますが、この場合には3%の引き出しで生活が成り立つかという問題が立ちふさがります。これが運用と引き出しのバランスをとるという意味で、そのバランスは重要な人生設計のカギでもあります。

退職後の前半は「使いながら運用する時代」

図表の山登りのグラフを見てください。この図では、山を下るフェーズでは直線コースを描いていますが、人生100年時代といわれるなかでは、この下り坂がより緩やかで、より遠くまで下っていけるようにすることが必要になります。

その時に、ここまでに紹介したなかから2つのことが重要になってきます。

1つ目は多くの退職世代が有価証券投資を行っているという事実です。私の調査によると、現在の60代はその約4割が資産運用をしています。これは有価証券を保有しながら退職を迎えており、その資産から生活に充当させる「資産収入」を取り出そうとすれば、「使いながら運用する」という姿勢が求められることになります。

しかし、寿命が尽きるまで運用を続けるということがなかなか難しい日本では、どこかの段階で運用からも完全撤退して、預金から定額で取り崩していく「使うだけの時代」を迎えざるを得ません。これが2つ目の点です。

この2つのステージを盛り込んだ登山の図が下記です。

図:退職後を2つのステージに分けて考える「資産活用」のアプローチ

この図では、退職を65歳として、そこから取り崩しのフェーズ、すなわち資産活用のフェーズに入ります。前半は「資産運用を継続しながら取り崩しを行う」ステージで、これが「使いながら運用する時代」となります。ここでは15年間を想定して80歳までと考えています。

もちろん人によって、75歳までを想定する人もいるでしょうし、85歳まで大丈夫だと考える人もいるでしょう。ただ、計画を立てるときにはできるだけ保守的な方が安心できますので、ここでは80歳としておきたいと思います。

「使うだけの時代」に向けて計画通りに資産を残す

このステージでは先ほどの通り、引き出しを「率」で考えるようにします。このステージの最も重要な視点は「使うだけの時代」に向けて、想定通りの資産を残す運用と取り崩しを行うことです。そのためには運用資産の収益率と生活のための引き出しのバランスをとることが重要となります。

その後100歳までの20年間は資産運用からも撤退した「使うだけの時代」です。ここでは、団塊世代と同じように定額で資産を取り崩すステージとなります。

80歳で残った資産を、20分の1ずつ毎年使っていくといった考え方がわかりやすいと思います。

もちろん100歳まで生きるかどうかわかりませんが、予定よりも早く人生の終焉を迎えるのであれば、その段階で相続の資産だと考えるくらいの余裕があった方がいいと思います。

『60代からの資産「使い切り」法』

現役時代に築いた資産を、どのように運用しどのように使っていけば、リタイア後の生活を長く安心に楽しむことができるか? 本書は、日本ではあまり語られなかった、安心な「取り崩し」の技術について、運用会社で投資教育を長年行ってきた著者が解説します。
野尻哲史著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
野尻哲史(のじり・さとし)

合同会社フィンウェル研究所代表。1959年生まれ。一橋大学商学部卒。82年山一証券経済研究所、同ニューヨーク事務所駐在、98年メリルリンチ証券東京支店調査部、同調査部副部長、2006年フィデリティ投信入社、07年フィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年5月、定年を機に合同会社フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方都市移住、勤労の継続などに特化した啓発活動をスタート。18年9月より金融審議会市場ワーキング・グループ委員、22年9月より同審議会顧客本位タスクフォース委員。

[日経BOOKプラス2025年2月3日付記事を再構成]

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