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悪いけど、わたしは別に本気で自分のことをアイドルだとか思っている訳ではない


ただステージに立つ以上、そこがどんなに小さくても、たとえ誰も見ていなくても、マイクを持った瞬間から、誰だって自分のことをプロだと思うべきだと、そう思っているだけだ


ドームライブで何万人もの前で歌うロックスターも、駅前でずっと誰かの歌を弾き語りし続けている彼も、教室の隅で友達とふざけてほうきを使ってエアギターを奏でる少年も


ここがステージなんだと思ったら、
その瞬間から誰だってプロなんだと思う


「AV女優のくせに勘違いしている」

そういう風に言われることもある


断言するけれど、わたしは自分のことを心の底からアイドルなんだと思っている訳ではないの


これを通して、AVそのものを注目してもらえたり、ライブをきっかけに自身のファンになってもらえるように、その為に活動している

手段であって目的ではないことを、
きちんと理解しているつもりなの


ただ、ステージに対して敬意があるだけ


どんなにステージが小さくても
誰も見ていなくても
衣装を着てマイクを持ったら
全ての人間がプロなんだ

それが例え誰かの言葉で言うところの、
「AV女優なんか」でもね


だって、どうしたら勘違いできるって言うの?

普段のわたしの仕事は真逆なのに

服を脱いで、裸になって
カメラの前でセックスをする


ほら見てって言いながら裸でM字開脚したりしてるのに、自分はアイドルなんだって、心から勘違いする訳ないのにね


「AV女優のくせに」
そんなの自分が1番わかってる

君はある?
カメラの前で裸になったことが

まるで足の付かないプールで泳ぐような気分

そんなわたしが、わたしたちが

可愛い衣装を着て
マイクを持って
オリジナル曲を歌って、踊ってる

すごいことでしょ?
まるで勘違いしてるように見えるでしょ?

でも、「まるで勘違い」しなきゃいけないんだ

だって、そうでなきゃ
本物のアイドルにステージに立つ全ての人間に、失礼だと思うから





高校生の時、地下アイドルをやってた


そこではわたしは歌が下手だからってマイクを持たされることは無かったし、グループの時は真ん中に立つことなんてなかった

衣装だって特注なんてしないから、H&MとかWEGOとかで買ったものを組み合わせてなんとかアイドルっぽくして、当たり前にオリジナル曲なんて1曲も無いから、ファン層に合わせてなんとか昭和歌謡をカバーしたり売れてる地上アイドルのヒット曲を踊ったりしてた


学校が終わってそのまま事務所に行って練習して
ライブといえば地元密着系イベントに出演したり、時々アキバの対バンに出たり

地元のホームライブではファンが来てくれるけど、東京の対バンはなかなかそうはいかなくて

Twitterで発信して
秋葉原の道端でビラを配って
来てください来てくださいって
それでも予約は3人とかザラで

対バン相手の時にはパンパンだった箱が
自分の時にはガラガラになってて

それでも笑顔でいなくちゃいけなくて

ファンの間で質の悪いライブハウスはゴミ箱って呼ばれてて、でもわたしはそのゴミ箱でライブしてる訳で

控え室は女の子でごった返して、長机の一角にカバンを置いてそこのスペースだけがわたしの「楽屋」で


失敗したらどうしようって毎回緊張で気がおかしくなりそうで、背を向けられることが辛くてかなしくて、それでもステージに立つことが辞められなかった


99人に無視されても、たった1人に「応援してる」って言われるだけで、うれしかったから

たとえ少なくても、あなたが好きだよって言ってくれるファンがいたから

本当に大げさでなく、ファンがいたから続けられたことだった

アウェイでのライブ、物販の時に「わたし、毎回ライブ前は緊張でおかしくなりそうなんだ」ってファンに打ち明けたことがある(誰も物販に並んでいないので話す時間とか普通にある)

その人は、そっかぁと言った

「僕の友達もね、バンドマンなんだけど、毎回ステージ前は緊張してトイレでゲロ吐いてるよ」
「涙目になりながら、それでも辞められないんだって言ってたなぁ」

その話を聞いて、そんな人間もいるという事実に、なんだかすごく元気づけられたことを覚えている

気がおかしくなりそうなら、気がおかしくなるまでがんばってみようかな

ゲロ吐きそうなくらい緊張するなら、ゲロ吐くまでやってみようかな

ゴミ箱の片隅で、ファンと2人きり

そのへんで買った安っちいメイド服を着てチェキを撮る

でもその話を聞く前と後で、世界の見え方が少し変わったように思えた


その後結局3年くらい続けていたけれど高校卒業を機に活動は辞めた

10円ハゲができるくらい人生で1番辛かったけど
それでもアイドルやっててよかったなって思う

だって、あの日々があったから、ステージに立つことの恐ろしさも、楽しさも、そこから見える景色の美しさも、知ることができたと思うから



だからわたしは、ステージに立つ全ての人間を尊敬している


なんだかいまは、ある意味悪い夢を見ている気分なの


レベルの高いオリジナル曲があって
可愛い特注衣装があってMVがあって
その様子が地上波で放送されて

楽屋にストローの刺さったお水が用意されていること
タワーレコードにCDを置いてもらえること
特大ポスターがあってそこにサインを書けること
自分のジャケ写があること
それを買ってくれる人がいること
好きだと言ってくれる人がいること


その人が、わたしの為に朝起きて、電車に乗って、ここまで会いに来てくれること

どれもこれも当たり前じゃない

「ゴミ箱」にいた頃からはとても想像もつかない世界

こんなに恵まれていることないって思う


 だから、今だけは、「AV女優のくせに」勘違いをしなくちゃいけないって思う

ダンスも歌も、相変わらず上手くない
でも真剣にやってる

わたしだけじゃなくて、今AVやりながら一緒にアイドルとして活動をやっているみんながそうだと思う

それがステージへの敬意の払い方だから

世界のどこかにゲロ吐きながらそこに立っている人間もいるから


ステージは聖域であるべきだと、そう思う